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2章

神代の友達(紗理奈視点)

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―紗理奈視点―

『変わっている』
それは、中学時代にうちがさんざん言われた一番嫌いな言葉だ。

合唱コンクールも、文化祭も、ただ目の前の事を一生懸命頑張りたいと思っていただけ。
そう思って取り組んでいたけどみんなからは煙たがられた。
気が付いた時には完全に孤立していた。

必死に友達を作ろうとしたが、駄目だった。友達は出来なかった。
クラスの子が皆机をくっつけて楽しそうに給食を食べる中、うちだけ1人で食べる。
とても悲しかった。

『見た目は凄く可愛いのに中身が残念。空気読めなすぎ』
『本当に周りが見えてないよね』
『ちょっと変わりすぎだよね。顔は良いから遠くで見てるくらいがちょうどいい』
裏で散々言われていたことも知ってしまい、とても傷ついた。

もうあんな思いをしたくない。
だから高校に入ったら変わるんだ!皆に合わせよう!そう思った。

最初は上手くいっていた。
「あははっ!あの神代が金髪じゃん!」
「高校デビューってやつね。いいじゃん。私のグループに入れてあげるよ」
美咲ちゃんがそう言ってくれた時は本当に嬉しかった。

美咲ちゃん達に合わせて、顔色を窺って嫌われないようにして頑張った。
何とかやっていけるかも。
そう思っていたけど、日を追う毎にどうしても合わせられない事が増えていった。

「その…やっぱりうち高校生でお酒は駄目だと思うの」
「…は?」

「うち、知らない男の人達とオールでカラオケするのはちょっと…お泊りとかも…」
「はぁ“??」

うちは美咲ちゃん達に合わせることが出来なくなっていた。
結局表面的には合わせられても自分は自分。以前よりはましにはなったけれども、自分の生真面目な性格を変える事は出来なかった。

最近では美咲ちゃんはあまり私に話しかけなくなったし、話をするときはたいてい彼女からのお願い事ばかり。うちがそれをぎこちなく受け入れるような関係になってしまった。
それでも時折は仲良くしてくれるので、ボッチでいるよりはきっとマシ。
もう1人には戻りたくない。そう思ってその関係をずるずると続けていた。

委員会活動が始まったのはちょうどその時期だ。


――――――――――――――

委員会は美化委員会を選んだ。
きれい好きだし、お花は好きだしうちにはぴったりでやりがいがあると思った。
それに仕事に没頭していれば嫌な事も忘れられる。

「1組の村井だ。よろしく」
彼の事は美咲ちゃんに以前聞いた事があって知っていた。
1組のボッチ君だ。

自分よりも人間関係の上手くいっていない人が目の前にいる。そう思ったら、辛いのはうちだけじゃないと思ってその時はつい嬉しくなってしまった。人としては最低だけど。

けれども、彼は思っている人物とは違った。

ボッチで根暗と聞いていたので、おどおどびくびくしているんだろうと思っていたけど物事ははっきり言うし、おどおどした様子も一切無い。
聞いていた話で合っていたことは、前髪が長いくらいだ。
彼はボッチではあってもしっかり自分を貫いているようだった。

うちの今の状況はボッチよりはマシだと自分に言い聞かせていたけど…彼を見ていると不思議とその考えを否定されている気になり不安に襲われた。
そのせいで、良くないとはわかりつつ彼に対しては色々と意固地な態度をとってしまう。

自分が体調不良になった時もそう。
心配してくれているのに突っぱねてしまった。
彼はきっと私の事を良く思っていないだろう。

それなのに。

彼は私の事を助けてくれた。

美咲ちゃん達に囲まれて困っているうちを助けてくれた。
意固地なうちを無理やり引っ張って保健室まで付き添ってくれた。
友達との関係を良くないとしっかりと諭してくれた。
もしボッチになっても話し相手になってくれると言ってくれた。

とても嬉しかった。
彼はうちなんかよりもずっと人としてしっかりしていて、とても優しい人だった。


そんな彼は『友達は選べ』と言っていた。
うちは少なくても美咲ちゃんとちゃんと向き合わないと前には進めないだろう。
全部はそれからだ。たぶん関係の修復は難しいだろうけど。

美咲ちゃんと今後どんな関係になるかわからない。
でも幸いにしてこんなうちでもちゃんと向き合ってくれる人を見つけた。
だから、今度こそきっと大丈夫。

うちの学校生活が変わっていく予感がした。

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