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3章

やっぱりアイツはヤバかった

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噂が広がるの早すぎるだろ…。

朝広まりだした噂は放課後になると全校に広がっていた。
休憩時間には噂の俺を一目見ようとほかのクラスからわざわざ覗いてくる奴らがいるほどであった。

ムカつくことに、どいつもこいつも噂の人物が俺だとわかるとわかりやすく「え?こんな奴が?」という表情をする。

まあ、俺と先輩が不釣り合いだったという情報が流れれば噂は間違いだったということもすぐにわかるだろうからそれでいいと言えばいいのだが…。

この調子ならまた会って話をしているような現場を観られたりとか、新しい燃料を投下しない限り暫く放置しておけば噂も消えてなくなるだろう。

噂の発端が俺のクラスからなので本当なら先輩には一言迷惑をかけて申し訳ないと謝りたいところだが…連絡先を知らないので直接謝りに行く以外の手段が無い。
でも今会えば絶対噂になるので謝りにも行けない。


(まあ、先輩も今会うとまずいことくらいわかるだろう。落ち着いたら謝りに行くとしよう)
…そう考えていた。



「あの、村井君。噂の件についてなのですが…」
「…」

水城先輩…
なぜこのタイミングで来るの??

放課後になると俺のクラスの下駄箱付近で水城先輩が俺の事を待っていた。
一応は前回の件で教室に行くのは良くないと思ったようで下駄箱で待っていたようだ。
確かに教室ほどは注目を集めてはいないが、チラチラこっちを見ている奴はやはりいる。


「…先輩。今噂されているから会わないほうがいいって」

「私もそれは理解してるのですが、どうしても耳に入れておかないといけない話がありまして」
「話ですか?」
こくりとうなづく先輩。よくよく見ると顔色があまり良くない。

「飯塚君…私に告白をして来た方ですが、今回の噂にとても逆上してしまいまして。村井君にも危害が及んでしまうかもしれなかったのでお伝えしておきたかったのです」
えぇ…。

「もしかして先輩何かされたの?」
先輩は首を横に振る。
「いいえ、今のところは。ただひどく罵倒されました。教室でなかったら手を挙げられていたと思います。」
うつむきながら腕をぎゅっと握りしめて先輩は少し震えてた。
よほど怖かったようだ。

「…」
…やっぱりあの人ヤバい人じゃん。
なら尚更、俺が水城先輩と顔合わせてたらヤバいじゃん。

そう思ったときにはもう手遅れだった。

「環奈…やっぱり噂は本当だったんだな」
ヤバい先輩、飯塚が水城先輩の背後に立っていた。

恐怖のあまり水城先輩は顔が真っ青になっていた。
「環奈。俺はお前を信じてたんだぜ?さっき教室で誤解だってあれほど言ってたのに、なんでだ!?」
「い、飯塚君。噂は本当に誤解で…」

「なら、なんでこいつに会いに来るんだよ!こいつ、この間俺の邪魔をしに来た奴だろ!
タイミングが良すぎると思ってたんだ!お前ら俺の事を馬鹿にして笑ってたんだろ!?」
飯塚の眼が血走っている。呼吸も荒くどう見ても冷静じゃない。
これは説得は無理かもしれないな…。

俺は震える水城先輩を俺の背中へ下げてなんとか説得を試みる。
「その、飯塚先輩。本当に誤解なんです。俺達は本当に付き合ったりしてないです」
「てめえ、この期に及んで騙せると思ってるのか!人の女取りやがって!」

世の中に本当にこんな人物が存在するなんて…と思いつつ、なんとか場をとりなそうとまあまあと作り笑いを浮かべる俺。
「本当ですって。俺、水城先輩の連絡先も知らないんです。ほら」

そう言って俺は携帯の登録先を見せる。
これで多少は納得してもらえるだろう。

ところが奴は予想外の行動に出る。
なんと飯塚は俺の携帯を掴み、そのまま俺の携帯を地面に叩きつけてくれた。


はあ!?
嘘だろ!俺の携帯!!

「連絡先を消しただけだろうが!そんなので騙されるか!」
「いや、おま、お前ふざけんなよ!!最新版のi電話だぞ!3か月前買ったばっかりの!」
「それがどうした!」
「どうした、じゃねーよ!」

俺が何か月分のお小遣いで買ったと思ってるんだ!

「全部お前が悪いんだろうが!」
そう言い放つとあろうことか飯塚はたたきつけた俺の携帯を踏みつける。
その行為を見て水城先輩は口に両手を当てて顔を真っ青にしていた。

一方俺はというと冷静に対処しようと思っていたはずが、その身勝手な行動や発言に一気に頭に血が上ってしまう。

「あんた頭おかしいんじゃないか?だいたい、付き合っても無いのに俺の女?笑わせんな!どう見ても嫌がってるだろうが!人の迷惑も考えろ!」
「…てめぇ、もう許さねえからな!」
怒りに任せて、つい思っていることを全部言ってしまった。
飯塚はものすごい形相で俺の事を睨みつけ殴りかかってくる。
ああ…俺の馬鹿。もう言葉での説得は無理だ。

しかも後ろには水城先輩がいるので避けるわけにはいかない。
とっさに両腕を前に出して受け流す。


「きゃああ!!」
水城先輩は顔色を真っ白にしてその場にしゃがみ込む。
余計にこの場から動けなくなってしまった。

周囲にいた連中も流石にやばい事に気づいて慌て始めた。

「環奈はな!俺が一目見た時から目をつけていた俺の女なんだよ!」
「勝手な事を言うな!」
もーやだ。どうしたらそんな考えになるんだ!

「おい!そこの茶髪の女子!先生呼んできて!早く!」
野次馬の女の子は動揺していたがお願いするとすぐに職員室の方へ駆けて行った。

そう言っている間にも飯塚は力任せに殴ってくる。
殴りかかってくる拳に横から力を加えることで軌道を変えてやり、勢いそのままに飯塚に下駄箱を殴らせることに成功する。

「いってえ!」
痛がってようやく隙を見せた飯塚の懐に入る。
そのまま授業で習った大外刈りを力任せにかけてやるとうまい事技が決まる。
飯塚は受け身も取れずに地面にたたきつけられる。

「ぐっ!」

倒れ込んだところに俺は関節技を決めて完全に無力化する。
「いたい!いたい!」


はぁ、危なかった…。
以前やっていた格闘技の経験のおかげで動けて助かった…。
にしてもこいつにはしっかりとくぎを刺しておかないとかなり危ない。

「いいか、水城先輩と俺に二度と関わるな!次はこんなもんじゃすまないからな!」

俺は教師がやってくるまでの間、繰り返し俺達に関わらないよう言い続けた。
水城先輩は状況についていけないのか、へたりと座り込んだまま俺の事を見つめていた。

ああ、今回はマジで危なかった…。
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