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第2話 いや、俺はやってないよ?

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リリーは勇者が話に乗ってきたことに混乱していた。

勇者イースにとっては圧倒的に有利な状況だ。
ここでわざわざテーブルに着くというのが理解できない。

「…勇者よ。一体何を考えている?」
「…俺は魔族達と友和を結びたいと考えています。ただ誰もが平和な世界にしたい。それだけです」

それに、とイースは付け加える。
「俺、うちの国の王様達の事嫌いなんですよね。このまま帰って何の苦労もしていないあいつらに成果を渡すのは癪でしょう?」

リリーはその言葉をそのまま鵜呑みにはしない。
「…人の王はそなたらに相当な支援をしていたと聞いているが?」

勇者はそれに死んだ目をして答える。
「それは俺が役に立つとわかってからでしょう?奴らは本当に支援してほしい時には何一つ援助してくれなかったですよ。最初に王様に貰ったものってなんだかわかりますか?ヒノキの棒ですよ!馬鹿にするにも程がありますよね」

ヒノキの棒…それが本当なら酷い王様も居たものだ。
子供のおもちゃ以下の装備である。

しかし、問題なのはこれまでの勇者達の行動だ。
「…だが友和を求めるというならば…われらと本当に手を取り合うつもりというのであれば…何故多くの我が民たちを殺戮したのだ!言っていることとやっていることが全く違うではないか!」

そう。勇者たちの魔物達への殺戮の報告は大量に上がっている。
全く持って話が違うのだ。

「何故ミレーネ達を、皆を殺したのだ!」
リリーの胸中にミレーネ達との楽しかった思い出が蘇ってくる。
大切な者達を奪われた怒りは決して消えることは無い。

勇者はそんなリリーの言葉に首を振ってこたえた。
「お言葉ですが、俺自身は魔族を殺戮したことは一度もありません」

「嘘をつくな!ミレーネ達をお前が殺戮したという情報は入ってきておるのだぞ!!」
「その話は間違いです。ミレーネって四天王の一人のミレーネさんのことですよね?彼女ももちろん殺していません。お会いになりますか?」
「はへぇ?」

そういうとさっと勇者は召喚陣を展開する。
『召喚転移陣』
召喚陣が輝きを放つとそこに人影が浮かぶ。
人影は徐々にリリーの見覚えのある姿を形作っていく。
魔法陣の輝きが失われるとそこには金色の羽をもつハーピーが立っていた。
そのハーピーはゆっくりと目を開くとリリーを見てほほ笑みを浮かべる。

その姿はすでに亡くなったとされていた四天王の一角”黄金のミレーネ”その人そのものであった。

「リリー様お懐かしゅうございます」
「ミレーネ…」
「はい、リリー様。少し背が伸びましたか?大きくなりましたね」

「ミレーネ!ミレーネ!!」
リリーはミレーネのもとに駆け出すと勢いそのままにミレーネに抱き着く。

「生きてて良かっだ!もう二度と会えないかとおもっだ!!」
「あらあら、貴方様はもう魔王なのですよ?そんなにワンワン泣いてしまっては威厳も何もないじゃないですか?」
「そんな“こといっても…」
ミレーネはぐずぐずと鼻をすすっているリリーの頭を優しくなでる。

ミレーネは自身の背後でいつの間にかレイピアを突き付けていたマリエにもそういって笑顔を向ける。
「マリエも久しぶりね。リリー様の御傍付きご苦労様。貴方がいたから私は安心して遠征する事が出来たわ」

「…あなたは本物のミレーネなのですか?それに本物だとしても勇者に洗脳されている可能性も考えられます」

ミレーネはその言葉に苦笑する。
「まあ、疑われて当然ね。けれど私は本物よ。それにこの戦況では私を操るまでもないことでしょう?戦えば勇者が勝つことが目に見えているでしょうに」
「…確かにそうですね。どのみち、貴方様がそちら側についていた場合、我々に勝ち目はありません…。ここは信じましょう」

マリエはミレーネの言葉に納得をみせレイピアを収める。
場が落ち着いてきたところで再びイースが声を掛けてきた。

「どうですか。納得いただけましたか?先ほど言ったように俺自身は魔族を殺戮したことは一度もありません。救える命はこれまでも救ってきたつもりです。もちろん全てを救うことはできませんでしたが…」

赤くなった目を拭うとリリーはイースに答えた。
「わかった。お前が友和を求めるという言葉を信じよう。むろん全面的にでは無いが…」
「それで充分です。まずは俺の話を聞いていただけますか?」

リリーはイースの言葉にうなずいた。


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