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1巻
1-3
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くすくすとバカにしたような笑いを含んでいて、私を心配したものではないことだけはわかる。
私だって来なくていいならこんなところ来たくない。
先生は優しいし、私を見てくれるけど、クラスはやっぱり息が詰まる。
はぁとため息をこぼしたい気持ちを堪えて、席に座る。机の中に、慎重に手を入れると今日は空だった。
よかった、何も入ってなくて。
机に集中していた私の肩に、ずしんと誰かの両手が置かれる。頭の真上から聞こえてきたのは、先ほどの西音さんの声だった。
「いじめじゃないよ、愛のあるいじり。ねっ、ミア、イヤじゃないもんね? 友だちだもんね、うちら」
「いじめてなんかないない。西音さんは、ミアを明るくしようとしてるだけだもんね」
西音さんの友だちも同調してケラケラと笑う。
肩の重みに耐えきれなくて、このまま崩れ落ちてしまいそうだった。
でも、そんなことはできない。これくらいまだいい。
ケガをさせられたりはしないし、筆記用具や教科書が壊されたり汚されたりもしない。
これは、いじめじゃない。
それでも、死にたいと思うには十分なくらい、このクラスにいることは苦痛だった。
先ほどの声が聞こえた先を遠く見つめても、誰が言ったのかはわからない。
男の子の声だったことだけは、わかったけど。
「まぁ本人がそう言うならいいけど」
声の主と目が合ったかと思えば、ふいっと逸らされてしまう。ここで、いじめだと私が言ったところで、助けてはくれないことを確信してしまった。
胃酸が喉の奥から迫り上がってきて、吐き気がする。
トイレに行きたいと思ったけど、西音さんの手を撥ね除けて行くのは面倒だった。
抵抗しないんじゃない、面倒なだけ。
学校での出来事はやっぱり私の気分を重くする。だから、学校が終わったら逃げるようにまた、渉くんに会いに、屋上に来てしまった。
死のうと決意してから、数日しか経っていないのに。もう、会いたくなってしまっている。
どこにも、私の居場所はない。
渉くんの隣が居場所かと言われれば、そういう感じでもない。
まだ会って数日だし。
エレベーターを降りて、扉を開ける。ひんやりとした風が屋上に吹き付けていて、私の髪の毛を巻き上げていく。
沈みかけている夕日が、目に映った。この屋上は、やけに空がキレイだ。
夕方の空は、薄紫色とオレンジ色が混ざり合っている。
屋上の家庭菜園は、夕方の時間帯は人が多い。
庭園のような木々の下では、制服を着たままの高校生が語りあっているし、エプロンをつけたままの主婦は、トートバッグからはみ出た大根を大事そうに持ち歩いている。
スーツ姿のサラリーマンも仕事終わりなのか、コーヒーを飲みながら木でできた床を踏みしめて歩いていた。
多くの人で、賑わっている。でも、誰一人、扉を開いたこちらに顔を向けることはしない。誰かと楽しそうに過ごしたり、土と向き合い緑の植物と戯れたりしていた。
渉くんの定位置である、ペントハウス横のベンチを確認した。
渉くんとばっちりと目が合って、つい、ホッとしてしまう。私に気づいて、手を上げて、微笑んでくれた。
「来たんだ」
「ダメだった?」
「ううん、嬉しい。はい、どうぞ」
この前よりもやけに大きなリュックが、置かれていた。
そのリュックが開かれたかと思うと、お尻に敷くクッションが出てきた。柴犬の形をした、茶色のクッション。それをベンチに置いて、私を手招きした。
「くるかな、と思ってリュックに入れていたんだ。袋あるからさ、持って帰りなよ」
「くれるってこと?」
「だって、このベンチ、座り心地がよくないから必要でしょ?」
まるで、この先何回も訪れると決めつけるような言葉に、つい、ふふと笑い声が出た。
心がほんのりと、温かい。
「ここにいていいよ」と言われたみたいな気がしてしまったから。
ありがたく座ってから、私もカバンから水筒を取り出す。
中学に入学したから、とおばあちゃんが贈ってくれた。誰かから、贈られた唯一の私だけのもの。冷たいものも、温かいものも入れられる優れものだ。
おばあちゃんとは、もうしばらく会っていないけど……
渉くんは、パソコンを閉じてぐーっと背伸びをする。そして、リュックをもう一度開いて、今日は市販のドーナツを取り出した。
「一緒に食べよー」
ほのぼのとした声に、つい心が緩んでしまう。
こくんと頷いて、手を伸ばしかけてやめた。
私も、渉くんに渡すものがあった。
夕方の時間は寒いだろうと予想して、あったかいお茶を持ってきた。二人で分けられるように、紙コップも一緒に。カバンから取り出して、紙コップを二つ手に持つ。
渉くんはパチパチと瞬きをする。
「あったかいお茶。緑茶だけど、大丈夫?」
「ミアさんも長居する気満々だね」
「だって、この前はあんまり渉くんの話聞けなかったし」
とぽとぽと優しい音を立てながら、緑茶を紙コップに注いでいく。
淡い緑色は、紙コップの中に波紋を広げた。
八割くらい入ったところで手渡すと、渉くんはふぅふぅっと息を吹きかける。
自分の分も用意して、水筒をベンチに置く。
こくん、と飲み干して、ほっと一息ついた。
渉くんは、空を見上げて、沈んでいく夕日を瞳に映している。私もつられて見上げると、先ほどよりも紫色が濃くなった気がした。
「朝が来て、夜が来て、当たり前のように過ごしているけど、美しいよね」
「渉くんって、小説を書いているからかもだけど、詩的だよね時々」
「そう?」
私にとっては、詩的に思える。そして、そんなところを、実はとても好ましく思っていた。
渉くんの目から見えるこの世界は、私の目に映る世界とは違うものが見えているのではないか。そう思ってしまう。
緑茶を口に含むと、外の風に一気に冷やされたようで生ぬるくなっている。それでも、冷たいものを飲むよりはいい。
渉くんがくれたティッシュに包んだドーナツを、一口齧る。
口の中の水分が奪われていく。それでも、ジャリジャリした砂糖の粒がおいしい。
今日、緑茶を持ってきたのは正解だったかもしれない。
「ミアさんは、犬が好きなの?」
「え? 好きというほどでもないかなぁ。あ、おばあちゃんの家の犬は好きだよ。それに見れば、かわいいとは思うけどね」
「そっか」
お尻に敷いているクッションの柄を思い出す。柴犬柄だ。
もしかして、私が犬を好きだと思ったから選んでくれたのだとしたら……
好きだよ、と訂正しようとして渉くんを見る。
頬が薄くオレンジ色に、染まっていた。それは、照れの感情なのか、夕日の反射なのかは判断がつかない。
あまりにも勝手な妄想だ。私のことを思って選んでくれた、だなんて。それなのに、胸の奥がかぁあっと熱くなった。
おばあちゃんと先生以外に、私に思いを向けてくれる人がここにいる。
そんなことを、信じてしまいたくなる。縋りつきたくなってしまう。
私の居場所になってくれる、とか。
「犬とかに生まれ変わりたいって言ってたから、勝手に好きなのかと……」
「でも、かわいくて小物とかは犬のもの選んだりする! すごい嬉しいよ!」
これはいつもの、取り繕ったいい子に見える言葉、じゃない。
心からの本心だった。私を思って、持ってきてくれたこと。選んでくれたこと。
それだけで、ぽかぽかと心が満たされていく。
イヤなことばっかりの日々なのに、渉くんといる時間だけは、幸せな気持ちが体に広がる。
「それなら、よかった」
「渉くんは、毎日ここにいるの?」
「うーん、大体はいるかな」
うんうんと頷きながらも、渉くんは目に空を映し続けている。
私のほうを向いてくれないのに、イヤな気持ちはない。
両親との違いはどこにあるのか、考えてみて、悲しくなってきた。
両親は、私のことをどう思っているんだろう?
自分たちが先に亡くなった時の、姉のための道具?
考えてから、しっくりきて、また死にたい気持ちが胸の中で膨らんでいく。そばにいない時くらい、考えなきゃいいのに。
「あー、帰りたくないな」
「もう少しここにいればいいよ」
私は、「二度と」の意味で言ったのに、渉くんは言葉通り受け取る。
そんな素直さが、私には心地よくて「うん」と小さく答えた。
私は渉くんのことを、まだ名前しか知らない。
でも、年齢や高校、家、家族のこととかは、知らなくていい気がした。
それよりも、考えていること、好きなこと、そっちが気になってしまう。
飲み終わりそうな紙コップを握りしめて、何を話そうか、考える。
聞きたいことはたくさんあるのに、どんな話題を選んでいいか、わからない。
「おーい」
声がして顔を上げると、先ほど土いじりをしていたサラリーマンだった。
父より、背が高いかもしれない。黒髪はツンツンととがっていて、もみあげは刈り上げられている。
新任の先生ぐらいの年齢に見えるけど、ちょっとやんちゃそうな髪型も相まって年齢は不詳だ。
そもそも、このぐらいの大人の人は、先生以外知らないから、予想がつかない。
スーツ姿に黒い長靴というチグハグな格好で、手には土のついた軍手をはめたままだ。
仕事帰りのまま、畑作業をしに来たのかもしれない。
動きにくそうなのに、と思いながら見つめていると、目の前に真っ赤な丸いはつか大根が差し出される。うねうねと伸びた根っこにも、土が絡まっている。
かわいらしい形をした六つの実はつやつやと輝き、採れたてなことを鮮明に表していた。
親指と人差し指をくっつけたくらいのサイズのはつか大根。ラディッシュとも呼ば
れる。
お店のサラダとかに入ってるものと変わりなく見える。
その人の意図がわからなくて、私は首を傾げた。
「渉くん、はつか大根いる?」
渉くん、とはっきり呼んだ。
どうやら二人は、元々顔見知りだったらしい。渉くんは小さく頷いてから、ふっと笑う。
そして、リュックからコンビニのビニール袋を取り出して、広げた。
「サイトウさん、またですか」
弾んだ声で、はつか大根を受け取っている。
そんな渉くんを見つめるサイトウさんと呼ばれた人の目は、優しい。
目尻には、深い笑い皺が刻み込まれていた。
サイトウさんは、隣に座る私をちらりと確認して顎に手を当てた。
「お嬢さんも欲しい?」
初対面の他人に、何かをもらうのは慣れてない。首をぶんぶんと、力強く横に振って断る。
「いえ、私は、大丈夫です」
「そっか、再来月の六月頃には枝豆が大量に採れる予定だから、それをあげるよ」
うんうんっと勝手に約束を取り付けて、私から目を逸らす。
当たり前のような、他人との数ヶ月後の約束に、背中がこそばゆい。
サイトウさんは、はつか大根のいいところをツラツラと渉くんに語っている。
「はつか大根はね、消化にもいいし、栄養も豊富なんだ。渉くんに食べさせようと思って植えたんだよ」
「サイトウさんには、自分の作りたいものを作ってくださいっていつも言ってるじゃないですか。もらいますけど」
「渉くんに元気になってもらいたいからね」
軍手を外してからわしゃわしゃと軽く渉くんの頭を撫でて、サイトウさんは満足そうに微笑む。
サイトウさんの目の横の皺が、ますます深くなっている。
渉くんの苗字はわからないけど、サイトウさんと呼んでいるってことは親ではないはずだ。
なのに、やりとりにはそれくらいの親密さが含まれていた。
羨ましさに似た気持ちを胸に抱えながら、二人を見つめる。
サイトウさんは満足したように私と渉くん二人に「またね」と手を振って去っていった。
「お友だち……?」
はつか大根をリュックにしまう渉くんに向けた言葉は、二人の年齢差を考えるとあまりに不釣り合いだった。
だって相手は社会人の大人で、渉くんは学校にも通っていない子供だ。それなのに、私の目には二人は友だち同士みたいに見えた。
渉くんは、戸惑うこともなく頷く。
年も違うのに? と聞きたい気持ちが、体の中で湧き上がる。言葉がうまく出ない。
「サイトウさんとは、ここに来るようになってから知り合ったんだ」
「そうなんだ」
「で、お菓子を食べてる時に目が合ったから、あげたら仲よくなってね。体が弱いことを知って、いつもああやって栄養豊富な野菜をくれんの。優しいでしょ」
渉くんの表情は、誇らしげだ。遠慮して私はいらないと言ったけど、欲しいと言えばきっとサイトウさんは優しさと一緒に分けてくれた。
野菜が欲しかったわけじゃないけど……
「友だちになれるんだね」
驚きと嫉妬から、つい言葉に出してしまって、渉くんの表情を確認する。
陰ることなく、むしろ、ピカピカと輝き出しそうな笑顔で、うんうんと首を縦に振っている。
「サイトウさんは、ここでの友だち。ミアさんと一緒」
「私と渉くん、友だちだったんだ」
「えっ、違った?」
「違うっていうか、連絡先も知らないし、年齢も苗字も知らないし、なんというか、友だちだったんだ、って感じ」
友だちっていうのは、いつも、一緒に過ごすような人のことだと思っていた。
西音さんと周りの人たちのような。
トイレにまでみんなで一緒に行って、くだらない話をする。
そして、学校から帰っても夜までずっとメッセージのやり取りをするような。
友だち……
噛み砕いてみても、しっくりとこない。だって私は、障がい者の妹だ。普通の人、じゃない。
小学生の頃から、クラスメイトに幾度となく言われてきた言葉が脳内を過っていく。
みんな、障がい者の家族だからと言って、私を普通の人扱いしてくれなかった。
西音さんも話しかけてくれるけど、それは、私というおもちゃを楽しんでいるだけ。
話しかけてくれる子や、一緒に移動教室に行ってくれる子たちも、いなかったわけじゃない。
守ってくれるような、寄り添ってくれるような友だちがいたらいいなと、空想したこともある。でも、仲よくしてくれた子たちも、自分の身に被害が及びそうになったら、私を置いてシレッと逃げていった。
渉くんに「友だち」と言われたことが、イヤな気持ちになったとかそんなことはない。
ただ、“友だち”が実感としてわからなかった。
一人で思案していると、心配そうな表情の渉くんに気づく。
慌てて手を横に振って、否定する。
「イヤとかじゃなくて、びっくりしたの。友だちって思っていいんだって」
「連絡先知りたいなら教えるよ」
渉くんはポケットからスマホを取り出して、私の前にQRコードを表示させる。
私もスマホを出して読み込むと、渉くんは「これで友だちだね」と宣言した。
笑った時に見えた歯があまりにも白くて、眩しくて、目を細めてしまう。
自分でもコントロールできないくらい、口元が緩んでいる。
心が、溶けていくのが、わかった。
渉くんは、私の居場所になっちゃった。死にたくないなって、思っちゃうな。
「うん、友だち、だね」
「じゃあ、友だち置いて死なないよね」
渉くんは、ドキッとする返答をしてきた。私の気持ちを読み取ったかのような、質問。
心臓があの日の恐怖を思い出して、ドッドッドッと速い音を奏でる。
答えられなくて、考え込んでしまう。死にたくないなとは思った。
ここにいる間はあまり考えなくなっていたけど、まだ死にたい気持ちは心を占拠している。
家や学校にいれば、限界はどんどんと近づいて、私の心を締め付けた。そして、「死にたい」が親しげな顔をして、「ほら死のうよ」と迎えにくるのだ。
だから、すぐに頷くことができなくて「えーと」「うーん」と音にならない言葉で濁そうとした。
渉くんの表情を見るのが怖くて、消えていく夕日を目で追う。紫色から濃い群青色に、移り変わっていく。
「僕はイヤだよ、友だちが死ぬの」
追い打ちをかけるような言葉に、喉が締まる。
私だって生きていたいよ。でも、ここ以外地獄ばっかりなんだ。
渉くんに目をやると、瞳が悲しそうな黒に染まっていく。
渉くんといる時間だけが、ちゃんと呼吸できる。普通の人間でいられる。だから、もしかしたらと淡い希望を抱いてしまう。
でも、家や学校に行けば、地獄は変わらず始まるから。
渉くんの悲しそうな視線から逃げるように、空を見上げる。
私だって来なくていいならこんなところ来たくない。
先生は優しいし、私を見てくれるけど、クラスはやっぱり息が詰まる。
はぁとため息をこぼしたい気持ちを堪えて、席に座る。机の中に、慎重に手を入れると今日は空だった。
よかった、何も入ってなくて。
机に集中していた私の肩に、ずしんと誰かの両手が置かれる。頭の真上から聞こえてきたのは、先ほどの西音さんの声だった。
「いじめじゃないよ、愛のあるいじり。ねっ、ミア、イヤじゃないもんね? 友だちだもんね、うちら」
「いじめてなんかないない。西音さんは、ミアを明るくしようとしてるだけだもんね」
西音さんの友だちも同調してケラケラと笑う。
肩の重みに耐えきれなくて、このまま崩れ落ちてしまいそうだった。
でも、そんなことはできない。これくらいまだいい。
ケガをさせられたりはしないし、筆記用具や教科書が壊されたり汚されたりもしない。
これは、いじめじゃない。
それでも、死にたいと思うには十分なくらい、このクラスにいることは苦痛だった。
先ほどの声が聞こえた先を遠く見つめても、誰が言ったのかはわからない。
男の子の声だったことだけは、わかったけど。
「まぁ本人がそう言うならいいけど」
声の主と目が合ったかと思えば、ふいっと逸らされてしまう。ここで、いじめだと私が言ったところで、助けてはくれないことを確信してしまった。
胃酸が喉の奥から迫り上がってきて、吐き気がする。
トイレに行きたいと思ったけど、西音さんの手を撥ね除けて行くのは面倒だった。
抵抗しないんじゃない、面倒なだけ。
学校での出来事はやっぱり私の気分を重くする。だから、学校が終わったら逃げるようにまた、渉くんに会いに、屋上に来てしまった。
死のうと決意してから、数日しか経っていないのに。もう、会いたくなってしまっている。
どこにも、私の居場所はない。
渉くんの隣が居場所かと言われれば、そういう感じでもない。
まだ会って数日だし。
エレベーターを降りて、扉を開ける。ひんやりとした風が屋上に吹き付けていて、私の髪の毛を巻き上げていく。
沈みかけている夕日が、目に映った。この屋上は、やけに空がキレイだ。
夕方の空は、薄紫色とオレンジ色が混ざり合っている。
屋上の家庭菜園は、夕方の時間帯は人が多い。
庭園のような木々の下では、制服を着たままの高校生が語りあっているし、エプロンをつけたままの主婦は、トートバッグからはみ出た大根を大事そうに持ち歩いている。
スーツ姿のサラリーマンも仕事終わりなのか、コーヒーを飲みながら木でできた床を踏みしめて歩いていた。
多くの人で、賑わっている。でも、誰一人、扉を開いたこちらに顔を向けることはしない。誰かと楽しそうに過ごしたり、土と向き合い緑の植物と戯れたりしていた。
渉くんの定位置である、ペントハウス横のベンチを確認した。
渉くんとばっちりと目が合って、つい、ホッとしてしまう。私に気づいて、手を上げて、微笑んでくれた。
「来たんだ」
「ダメだった?」
「ううん、嬉しい。はい、どうぞ」
この前よりもやけに大きなリュックが、置かれていた。
そのリュックが開かれたかと思うと、お尻に敷くクッションが出てきた。柴犬の形をした、茶色のクッション。それをベンチに置いて、私を手招きした。
「くるかな、と思ってリュックに入れていたんだ。袋あるからさ、持って帰りなよ」
「くれるってこと?」
「だって、このベンチ、座り心地がよくないから必要でしょ?」
まるで、この先何回も訪れると決めつけるような言葉に、つい、ふふと笑い声が出た。
心がほんのりと、温かい。
「ここにいていいよ」と言われたみたいな気がしてしまったから。
ありがたく座ってから、私もカバンから水筒を取り出す。
中学に入学したから、とおばあちゃんが贈ってくれた。誰かから、贈られた唯一の私だけのもの。冷たいものも、温かいものも入れられる優れものだ。
おばあちゃんとは、もうしばらく会っていないけど……
渉くんは、パソコンを閉じてぐーっと背伸びをする。そして、リュックをもう一度開いて、今日は市販のドーナツを取り出した。
「一緒に食べよー」
ほのぼのとした声に、つい心が緩んでしまう。
こくんと頷いて、手を伸ばしかけてやめた。
私も、渉くんに渡すものがあった。
夕方の時間は寒いだろうと予想して、あったかいお茶を持ってきた。二人で分けられるように、紙コップも一緒に。カバンから取り出して、紙コップを二つ手に持つ。
渉くんはパチパチと瞬きをする。
「あったかいお茶。緑茶だけど、大丈夫?」
「ミアさんも長居する気満々だね」
「だって、この前はあんまり渉くんの話聞けなかったし」
とぽとぽと優しい音を立てながら、緑茶を紙コップに注いでいく。
淡い緑色は、紙コップの中に波紋を広げた。
八割くらい入ったところで手渡すと、渉くんはふぅふぅっと息を吹きかける。
自分の分も用意して、水筒をベンチに置く。
こくん、と飲み干して、ほっと一息ついた。
渉くんは、空を見上げて、沈んでいく夕日を瞳に映している。私もつられて見上げると、先ほどよりも紫色が濃くなった気がした。
「朝が来て、夜が来て、当たり前のように過ごしているけど、美しいよね」
「渉くんって、小説を書いているからかもだけど、詩的だよね時々」
「そう?」
私にとっては、詩的に思える。そして、そんなところを、実はとても好ましく思っていた。
渉くんの目から見えるこの世界は、私の目に映る世界とは違うものが見えているのではないか。そう思ってしまう。
緑茶を口に含むと、外の風に一気に冷やされたようで生ぬるくなっている。それでも、冷たいものを飲むよりはいい。
渉くんがくれたティッシュに包んだドーナツを、一口齧る。
口の中の水分が奪われていく。それでも、ジャリジャリした砂糖の粒がおいしい。
今日、緑茶を持ってきたのは正解だったかもしれない。
「ミアさんは、犬が好きなの?」
「え? 好きというほどでもないかなぁ。あ、おばあちゃんの家の犬は好きだよ。それに見れば、かわいいとは思うけどね」
「そっか」
お尻に敷いているクッションの柄を思い出す。柴犬柄だ。
もしかして、私が犬を好きだと思ったから選んでくれたのだとしたら……
好きだよ、と訂正しようとして渉くんを見る。
頬が薄くオレンジ色に、染まっていた。それは、照れの感情なのか、夕日の反射なのかは判断がつかない。
あまりにも勝手な妄想だ。私のことを思って選んでくれた、だなんて。それなのに、胸の奥がかぁあっと熱くなった。
おばあちゃんと先生以外に、私に思いを向けてくれる人がここにいる。
そんなことを、信じてしまいたくなる。縋りつきたくなってしまう。
私の居場所になってくれる、とか。
「犬とかに生まれ変わりたいって言ってたから、勝手に好きなのかと……」
「でも、かわいくて小物とかは犬のもの選んだりする! すごい嬉しいよ!」
これはいつもの、取り繕ったいい子に見える言葉、じゃない。
心からの本心だった。私を思って、持ってきてくれたこと。選んでくれたこと。
それだけで、ぽかぽかと心が満たされていく。
イヤなことばっかりの日々なのに、渉くんといる時間だけは、幸せな気持ちが体に広がる。
「それなら、よかった」
「渉くんは、毎日ここにいるの?」
「うーん、大体はいるかな」
うんうんと頷きながらも、渉くんは目に空を映し続けている。
私のほうを向いてくれないのに、イヤな気持ちはない。
両親との違いはどこにあるのか、考えてみて、悲しくなってきた。
両親は、私のことをどう思っているんだろう?
自分たちが先に亡くなった時の、姉のための道具?
考えてから、しっくりきて、また死にたい気持ちが胸の中で膨らんでいく。そばにいない時くらい、考えなきゃいいのに。
「あー、帰りたくないな」
「もう少しここにいればいいよ」
私は、「二度と」の意味で言ったのに、渉くんは言葉通り受け取る。
そんな素直さが、私には心地よくて「うん」と小さく答えた。
私は渉くんのことを、まだ名前しか知らない。
でも、年齢や高校、家、家族のこととかは、知らなくていい気がした。
それよりも、考えていること、好きなこと、そっちが気になってしまう。
飲み終わりそうな紙コップを握りしめて、何を話そうか、考える。
聞きたいことはたくさんあるのに、どんな話題を選んでいいか、わからない。
「おーい」
声がして顔を上げると、先ほど土いじりをしていたサラリーマンだった。
父より、背が高いかもしれない。黒髪はツンツンととがっていて、もみあげは刈り上げられている。
新任の先生ぐらいの年齢に見えるけど、ちょっとやんちゃそうな髪型も相まって年齢は不詳だ。
そもそも、このぐらいの大人の人は、先生以外知らないから、予想がつかない。
スーツ姿に黒い長靴というチグハグな格好で、手には土のついた軍手をはめたままだ。
仕事帰りのまま、畑作業をしに来たのかもしれない。
動きにくそうなのに、と思いながら見つめていると、目の前に真っ赤な丸いはつか大根が差し出される。うねうねと伸びた根っこにも、土が絡まっている。
かわいらしい形をした六つの実はつやつやと輝き、採れたてなことを鮮明に表していた。
親指と人差し指をくっつけたくらいのサイズのはつか大根。ラディッシュとも呼ば
れる。
お店のサラダとかに入ってるものと変わりなく見える。
その人の意図がわからなくて、私は首を傾げた。
「渉くん、はつか大根いる?」
渉くん、とはっきり呼んだ。
どうやら二人は、元々顔見知りだったらしい。渉くんは小さく頷いてから、ふっと笑う。
そして、リュックからコンビニのビニール袋を取り出して、広げた。
「サイトウさん、またですか」
弾んだ声で、はつか大根を受け取っている。
そんな渉くんを見つめるサイトウさんと呼ばれた人の目は、優しい。
目尻には、深い笑い皺が刻み込まれていた。
サイトウさんは、隣に座る私をちらりと確認して顎に手を当てた。
「お嬢さんも欲しい?」
初対面の他人に、何かをもらうのは慣れてない。首をぶんぶんと、力強く横に振って断る。
「いえ、私は、大丈夫です」
「そっか、再来月の六月頃には枝豆が大量に採れる予定だから、それをあげるよ」
うんうんっと勝手に約束を取り付けて、私から目を逸らす。
当たり前のような、他人との数ヶ月後の約束に、背中がこそばゆい。
サイトウさんは、はつか大根のいいところをツラツラと渉くんに語っている。
「はつか大根はね、消化にもいいし、栄養も豊富なんだ。渉くんに食べさせようと思って植えたんだよ」
「サイトウさんには、自分の作りたいものを作ってくださいっていつも言ってるじゃないですか。もらいますけど」
「渉くんに元気になってもらいたいからね」
軍手を外してからわしゃわしゃと軽く渉くんの頭を撫でて、サイトウさんは満足そうに微笑む。
サイトウさんの目の横の皺が、ますます深くなっている。
渉くんの苗字はわからないけど、サイトウさんと呼んでいるってことは親ではないはずだ。
なのに、やりとりにはそれくらいの親密さが含まれていた。
羨ましさに似た気持ちを胸に抱えながら、二人を見つめる。
サイトウさんは満足したように私と渉くん二人に「またね」と手を振って去っていった。
「お友だち……?」
はつか大根をリュックにしまう渉くんに向けた言葉は、二人の年齢差を考えるとあまりに不釣り合いだった。
だって相手は社会人の大人で、渉くんは学校にも通っていない子供だ。それなのに、私の目には二人は友だち同士みたいに見えた。
渉くんは、戸惑うこともなく頷く。
年も違うのに? と聞きたい気持ちが、体の中で湧き上がる。言葉がうまく出ない。
「サイトウさんとは、ここに来るようになってから知り合ったんだ」
「そうなんだ」
「で、お菓子を食べてる時に目が合ったから、あげたら仲よくなってね。体が弱いことを知って、いつもああやって栄養豊富な野菜をくれんの。優しいでしょ」
渉くんの表情は、誇らしげだ。遠慮して私はいらないと言ったけど、欲しいと言えばきっとサイトウさんは優しさと一緒に分けてくれた。
野菜が欲しかったわけじゃないけど……
「友だちになれるんだね」
驚きと嫉妬から、つい言葉に出してしまって、渉くんの表情を確認する。
陰ることなく、むしろ、ピカピカと輝き出しそうな笑顔で、うんうんと首を縦に振っている。
「サイトウさんは、ここでの友だち。ミアさんと一緒」
「私と渉くん、友だちだったんだ」
「えっ、違った?」
「違うっていうか、連絡先も知らないし、年齢も苗字も知らないし、なんというか、友だちだったんだ、って感じ」
友だちっていうのは、いつも、一緒に過ごすような人のことだと思っていた。
西音さんと周りの人たちのような。
トイレにまでみんなで一緒に行って、くだらない話をする。
そして、学校から帰っても夜までずっとメッセージのやり取りをするような。
友だち……
噛み砕いてみても、しっくりとこない。だって私は、障がい者の妹だ。普通の人、じゃない。
小学生の頃から、クラスメイトに幾度となく言われてきた言葉が脳内を過っていく。
みんな、障がい者の家族だからと言って、私を普通の人扱いしてくれなかった。
西音さんも話しかけてくれるけど、それは、私というおもちゃを楽しんでいるだけ。
話しかけてくれる子や、一緒に移動教室に行ってくれる子たちも、いなかったわけじゃない。
守ってくれるような、寄り添ってくれるような友だちがいたらいいなと、空想したこともある。でも、仲よくしてくれた子たちも、自分の身に被害が及びそうになったら、私を置いてシレッと逃げていった。
渉くんに「友だち」と言われたことが、イヤな気持ちになったとかそんなことはない。
ただ、“友だち”が実感としてわからなかった。
一人で思案していると、心配そうな表情の渉くんに気づく。
慌てて手を横に振って、否定する。
「イヤとかじゃなくて、びっくりしたの。友だちって思っていいんだって」
「連絡先知りたいなら教えるよ」
渉くんはポケットからスマホを取り出して、私の前にQRコードを表示させる。
私もスマホを出して読み込むと、渉くんは「これで友だちだね」と宣言した。
笑った時に見えた歯があまりにも白くて、眩しくて、目を細めてしまう。
自分でもコントロールできないくらい、口元が緩んでいる。
心が、溶けていくのが、わかった。
渉くんは、私の居場所になっちゃった。死にたくないなって、思っちゃうな。
「うん、友だち、だね」
「じゃあ、友だち置いて死なないよね」
渉くんは、ドキッとする返答をしてきた。私の気持ちを読み取ったかのような、質問。
心臓があの日の恐怖を思い出して、ドッドッドッと速い音を奏でる。
答えられなくて、考え込んでしまう。死にたくないなとは思った。
ここにいる間はあまり考えなくなっていたけど、まだ死にたい気持ちは心を占拠している。
家や学校にいれば、限界はどんどんと近づいて、私の心を締め付けた。そして、「死にたい」が親しげな顔をして、「ほら死のうよ」と迎えにくるのだ。
だから、すぐに頷くことができなくて「えーと」「うーん」と音にならない言葉で濁そうとした。
渉くんの表情を見るのが怖くて、消えていく夕日を目で追う。紫色から濃い群青色に、移り変わっていく。
「僕はイヤだよ、友だちが死ぬの」
追い打ちをかけるような言葉に、喉が締まる。
私だって生きていたいよ。でも、ここ以外地獄ばっかりなんだ。
渉くんに目をやると、瞳が悲しそうな黒に染まっていく。
渉くんといる時間だけが、ちゃんと呼吸できる。普通の人間でいられる。だから、もしかしたらと淡い希望を抱いてしまう。
でも、家や学校に行けば、地獄は変わらず始まるから。
渉くんの悲しそうな視線から逃げるように、空を見上げる。
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連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
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