転生ニートは迷宮王

三黒

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第2章

47 影の一族

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***アヤト視点に戻ります。***



 探索者が来ない。
 
 かつてこんなに人が来なかった迷宮があっただろうか? いや、ない。
 個人経営の店なら十回は潰れてるであろう客足の少なさ。何が悪いっていうんだ。立地か? っていうかそもそも迷宮攻略がメインの世界じゃないっぽいもんな、ここ。
 幸いDPはあるから迷宮の拡張は順調だ。だけどアレだ、探索者が来ないと迷宮のアップデートもできないって話。
 
「食らえクソ野郎がああああああ!!」
「――っ!?」
 
 まーたやってるよカインの奴。生き返る度にアイラに挑んでは負けて死んでる。
 死ぬ度にレベルも少しずつ上がってるらしい。生き返るまでの時間も伸びてるしな。
 
「……多分隠蔽バルドに縮地ってとこ、かな。不意をくのは良いと思う。でも気配――殺気が漏れすぎ」
 
 アイラが懐から短剣を取り出し、カインに突き刺した。
 
「がっ……」
「槍を弾いて接近戦、確かに悪くない。でも無駄。なんの対策もしないほど、私は甘くないから」
 
『使い魔:カインが死亡しました』
 
 もうこのアナウンスにも慣れたな。アイラもかなり容赦がなくなってきてる。
 カインは三騎将から外した。そもそもあいつは――アイラの言葉を借りるなら、「指揮官には向いていない」。
 カインの部隊はレルアに代わってもらってる。ラノベ読み終わったとこだったらしいし丁度良かった。
 
『侵入者です』
 
 ……!?
 オイオイオイ来たわ神。
 茶菓子とか用意しとくか。迷宮ってリピーターありきだと最近思うんです。
 
「こんにちは」
 
 鈴の音のような幼い声。モニタを見ればそこには黒髪美少女が!
 ……え、女の子? しかも一人?
 家出少女ってやつだろうか。それとも迷子か? レルアかアイラあたりに家まで送ってもらうか……?
 折角だしお菓子だけあげよう。飴もチョコもあるぞ。あれくらいの子って甘いのとか好きそうじゃん? あ、知らない人から貰ったお菓子は食べないように言われてるかな……。
 
「あれ、聞こえていないの?」
 
 っと、返事しないとな。マイクをオンにしてと。

「テステス、本日は晴天なり――よし。やあ麗しきお嬢さん、こんな迷宮に何の用だい? 危ないから早く帰りなよ」
「聞こえてたのね、良かった。突然だけど私、帰る家をくしてしまって――」
 
 やっぱり家出少女だったか。にしてもなんでこんなとこに。
 あ、この子を人質にして探索者を呼び込めっていう神の思し召しか? でも俺そういうのは好きじゃないんだよ。   
 
「――ここに居候させてほしいのだけれど」 
  
 ……なんだって? 居候?
 まぁ落ち着けよ、落ち着け。そりゃ犯罪だ。俺が捕まる。
 素性もよく知らない男の迷宮に転がり込もうとするんじゃない。
 
「残念ながらそれは無理だ。近くの街まで送ってあげるから、今日はもう帰りたまえ」
「あら、私をただの少女と侮っているようね。こんな迷宮を攻略するのなんて造作もないわよ?」
 
 ''こんな迷宮''? ''造作もない''? 確かにまだまだ深層は空っぽだが、随分と舐められたもんだな。
 
「……んだと? そこまで言うなら見せてもらおうじゃねえか」
 
 どうせゴーストにビビってチビるくらいだろ。
 いざって時は、転移制限を限定解除して地上まで飛ばしてあげよう。ちょっと面倒だが、今から準備しておけばそこまで時間もかからない。
 んで、そのあと誰かに送ってもらえばいい。こんなゴスロリ服の子に死なれても後味悪いし。……てか戦う気ある?
 新手の自殺だったら困るな。武器も持ってないみたいだし。
 
(三騎将に連絡。訓練は一時中止、ゴーストを持ち場に付かせてくれ)
(承知しました)
 
 まだ彼女は庭を散歩しているだけだ。さっきから「ラビ」とかいう奴に話しかけている。笑顔で。
 まるで隣に誰かいるかのように。イマジナリーのフレンドか?
 
「どうした、今更怖じ気付いたか?」
「まさか。もう準備はいいのね?」
「ああ、いつでも来たまえ」
 
 少女が指を鳴らす。パチン、という音と共にモニタが真っ暗になった。
 魔術か何かにやられちまったのか? 探索者の様子が見れないなんて――
 
 いや。
 
 真っ暗になったのはモニタではなかった。庭だ。世界だ。
 少女を中心に真っ黒な――墨のようなものが広がっている。
 それは波面のように揺れていた。
 
 
 
 背筋に走る悪寒がそう告げていた。
 
「では、お邪魔します」
 
 ズルッ……と玄関に吸い込まれていった波の奔流は、その勢いを緩めることなく地上1階の床、壁、そして天井までを黒く塗りつぶしていく。
 ゴーストの生存数は一瞬にして0になった。
 
(ロード)
(ゼーヴェ! なんだこれ、何者なんだあいつは!?)
(恐らくは「影の一族」。その血筋は既に途絶えたと言われていましたが……私が出ましょうか?)
(いや、もう少し様子を見よう。あの影だけで全て攻略できるはずがない)
 
 そう。例えばミノっち。影で覆えど、あの巨体ならばいくらでも振り払える。
 既に少女は地下4階。通路全体を影で覆い尽くして罠を無効化、最短ルートだけを波に乗って進んでいる。
 魔物数は次々に0になっていく。ワイズスライムも突破された。影がどういったプロセスで魔物を殺しているのかはわからないが、波に飲み込まれた瞬間終わりってのは流石にチートだろ。
 お頭なんて可愛い方だったってことか。あいつらは一応足で歩いてたしな。
 さて、ミノっち部屋の扉――開いた瞬間になだれ込んでいく――ミノっちが飲み込まれた。ここまでは予想通りだ。
 巨大な黒い塊は微動だにしない。何故だ。何故暴れない? 振り払わない?
 ザザザ……と影が流れていく。少女もそれに乗って次の階へ進む。
 
 
 
 倒れ伏したその身体が塵になっていく。
 どういう理屈で死んだのかもわからない。……冥土の土産に教えてもらうか。
 
 ハイオークやらエルダーコボルトやらが同じように蹴散らされた少しあと、やっと黒い波の動きが鈍くなった。
 コカトリスの石化、そして分裂ゴーレムの登場だ。
 魔法陣起動に設定してあるので、影がほぼ全ゴーレムを起動した。その数およそ――100。
 
「うーん、駄目ね。止まって」
 
 神殿の中はただでさえ動きにくい。止まったところでゴーレムは全て起動済みだぞ。さぁどうする。
 
「ラビ、あの広範囲の術はあと何回撃てる?」
 
 広範囲の術? お頭の地撃覇グライス・インパクトみたいなもんか?
 
「なら余裕ね。次の階への道だけ残してやっちゃって頂戴」
 
 と、その言葉と同時にタキシード姿の男? が現れた。
 
「じゃあイくわよ――我が魔力を大地に捧ぐノィ・ヴィアン・スェニト・ラクア
 
 
 
 音が消えた。
 いや、音だけじゃなかった。全てだ。全部消えた。消滅した。

 ――なんだ、これ。反則だろ。
 地面も空も、階段とそこへの道だけを残して真っ白になっていた。
 ……これ、ゼーヴェじゃどうしようもない気がする。
 
(ゼーヴェ、勝てるか?)
(いえ……申し訳ございません)
 
 だろうな。ゼーヴェで無理ならもう一人しかいない。
 こんなに早く切り札を切ることになろうとは。万一これでダメならいよいよあの世だ。
 というかここに来る探索者、まともに探索する奴が少なすぎる。ふざけやがって。もっと罠とか楽しんでってくれ。
 
(レルア、地下17階で奴らの相手をしてくれるか?)
(わかりました。殺しますか?)
 
 あー殺す……のか? なんか違う気がするな。ってか居候とか言ってたし平和的に解決できたらそれが一番なんだが。
 
(いや、一旦話し合ってみてくれ。状況に応じて俺も出る)
(了解しました)
 
 レルアが地下17階に飛ぶ。どうなることやら。
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