転生ニートは迷宮王

三黒

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第6章

168 油断

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「――加速ヴァレーク!」 
「外しすぎだ。もっと当てる練習をしておくべきだったな」
「……うる、せえな、破空フェーヌ!」
「ははは、俺に当ててどうする。それならまずこいつを壊すべきだ、そうだろ?」 
 
 ネックレス。これが思ったより厄介だ。なんたって、下手にアヤトに当たると魔術が消える。
 土壁グラムロとかそういうのを使えれば良かったんだが、時空魔術以外に使えるのは最低限の生活魔術くらいだ。なんで遅延ディロウは攻撃扱いなんだか。
 
「魔力切れはお前の方が早い、それに距離を詰めずとも――」
 
 アヤトが剣で空間を裂いた。来る。
 
「――こういうことはできるんだぜ」 
「――起動せよイダイア!」 
 
 何もない場所から突き出される刃を加速アクサールで躱す――躱す――躱す。他の魔術を使えばもっと楽だが、魔力は可能な限り温存したい。
 流石に裂空剣と組み合わせられたら減速ディセイルを使わざるを得ないが、今のところは見てない。舐めプか、単に使えないのか……まあ後者はないだろう。警戒しておくに越したことはないな。
 
「躱してるだけじゃ何も変わらねーぞ!」
「――穿空フェルラス!」
「だから無駄だって――」 
置換レプリアス!」 
 
 倒れた柱の一部分と俺の位置を交換した。丁度アヤトの真後ろ、反応は確実にワンテンポ遅れる。
 
「裂空剣!」
「くっ――そ――穿空フェルラス!」 
 
 浅い、が確かに一太刀入れた。代わりに穿空フェルラスを膝の辺りに貰ったな。まさか当ててくるとは思わなかったが、痛みはないしかすり傷ってとこだろう。傷の様子を確認してる暇はない。
 
「――置換レプリアス」 
「――時遡ヒール
 
 置換レプリアスで元の位置に戻る。思い付きの作戦にしては上出来だ。ただ、一撃で決めないと時遡ヒールで即座に治されるらしい。厄介すぎるぞ俺。
 まだ魔力に余裕はある。加速ヴァレークをあと何回使えばいいかは分からないが、俺が作り出せる結界の持続時間なんてたかが知れてる。そう信じたい。
 
「ああ……いや、悪かった。俺はお前を甘く見すぎていたらしい。遊びは終わりだ、少しだけマジでろう。――時緩エゼイル」 
 
 まずい。
 
「――起動せよイダイア!」
「――減速ディセイル。逃げていいのか? 俺が今何を始めたか、分からないわけじゃないだろ?」 
 
 ああ当然、時空間支配なんて放置していいわけがない。それでもここに留まる方が危ない。
 階を移動するのが一番だが、そうするともう加速ヴァレークで勝負を決めることができなくなる。アヤトは俺の目的に気付いたのか? ……いいや、それなら皆の結界を全部あの不思議空間にしまうはずだ。
 
「――加速ヴァレーク!」
「――置換レプリアス」 
「っ、起動せよイダイア!」 
 
 白煙モックルを起動して右からの斬撃を躱す。とにかく時緩エゼイルの範囲が厄介すぎる。あれに触れたら終わりだ。触れなくても長引けば負ける。そもそも長期戦は不利なんだ。アヤトも言った通り、純粋な魔力勝負になったら勝ち目はない。
 
閉空ケーシア」 
「――起動せよイダイア!」 
 
 加速アクサールの魔術結晶も少なくなってきた。ここにきて閉空ケーシアとかの重い魔術を使い始めやがったのも最悪だ。
 今のは狙いが緩かったのもあって加速アクサールだけで躱せたが、毎回こう上手くもいかないだろう。まずい、まずい、早く何とかしないと。
 
破空フェーヌ――破空フェーヌ――穿空フェルラス!」
「っ、遅延ディロウ!」
 
 アヤトは休みなく魔術を連発してくる。おかげで落ち着いて作戦を練る暇もない。
 焦りのせいか呼吸も乱れてきた。体もさっきより重い気がする。だが足を止めたら死ぬ。
 
「――加速ヴァレーク!」
「またハズレだ。ほとんど当たってないがやる気あるか? ……いや、そもそも?」 
 
 アヤトは訝しむように俺を眺める。かなりフェイクも混ぜてる、まだ大丈夫……だよな。
 
「まあいい。狙いがなんであれ、お前の魔力が尽きるのが先だ」 
 
 再び斬撃を飛ばしてくる。ご丁寧に俺の背後から。だからって後ろにばかり気を取られてると、今度は前からの穿空フェルラスに貫かれて即死ってわけだ。
 
遅延ディロウ――加速ヴァレーク!」 
 
 クソ、相手に合わせて魔術を使いすぎたか。遅延ディロウ自体の魔力消費は多くないとは言え、こうも大量に使わされると厳しい。
 DPショップでマナポーションは買うことはできるだが、ショートカットの設定はしてないし戦闘中に飲めるものでもない。下手すりゃショップを見てる間に死ぬ。
 
「――加速ヴァレーク!」 
 
 未だ結界に変化はない。維持には定期的な魔力の供給が必要だったはずだ。アヤトに結界に干渉しているような様子はないし、そろそろ壊せてもいい頃合じゃないか。
 
「油断したな」
「――っ!」
 
 前後左右に空間が開いていた。ここからの減速ディセイルは無理だ。魔術のための構えを急いで解き、剣を抜こうとする――が、それもギリギリで間に合わない。
 
「ぐ、あああああ!!」

 必死で前方に転がるも傷は深い。左肩から二の腕の辺りか。切り落とされててもおかしくないレベルの痛みだ。時遡ヒールを、いやそれよりこの場から逃げるのが優先か、体が重い。動かない。
 
「やっと終わりか。お前ごときにここまで時間をかけることになるとはな。一度未来を視ているだけはある」 
 
 まずい、まずいまずいまずい! デジャヴだ、このままだと死ぬ、間違いない。どうするのが正解なんだ。何をすれば生き残れる。この状況から。
 
「……驚いたな。まだ勝つつもりでいるのか」
「――ヒー……」
圧空フルシア!」
  
 ダメだ、今ので左腕は完全に消し飛んだ。骨と肉が潰れる嫌な音が聞こえた。もう痛みを我慢するので限界だ、魔術を使えるほど集中できない。
 
「さて、チェックメイトだ。何か言い残すことがあるなら、一言くらい聞いてやろう」
 
 結局こうなるのか。まあ、俺にしてはよくやった方だろ。元々勝ち目もないみたいなもんだったしな。悔いは山ほどあるが、諦めはつく。
 ……つくわけあるか。最後まで足掻くぞ俺は、魔術がダメなら剣、剣がダメなら拳がある。なんとか立ち上がれ、文字通り最後の力だ。
 
「見苦しいぞ、お前はもう終わりだと――」 
「終わりなのは貴方です、偽者」

 聞き慣れた、凛とした声。そして驚いたような顔のアヤト。その胸から、剣が生えていた。
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