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嘉応2年(1170年)

裏天神と遊廓 地獄の訓練忍び編

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 さてさて、警邏や消防、土木作業を行える歩兵。

 狩猟も可能な弓兵。

 伝令や馬賊に対応可能な騎兵という見た目にわかりやすい治安維持や戦争時に表に立つ戦力の構築と共に進めないといけないのは、諜報、潜入探索任務、破壊活動、扇動、浸透戦術、謀術、暗殺なが可能な諜報員や色で人を篭絡できるくのいち、目立たないように溶け込みつつ情報を収集する草といった役割を担える存在です。

 そしてそういった人材は表立って手習い天神で育成することはできません。

 公に身元が割れていては意味がないですからね。

 ですのでそちらの人材は主に悲田院に身を寄せた他国からの逃亡農民や未亡人、親を亡くした孤児や売られてきた下人などの中より選抜いたし、べつの施設で育成します。

 容貌は目立たぬが身体能力に特に優れたものは潜入工作員としてのいわゆる忍びとして育て上げます。

 変装術、変声術、隠形術、忍び足、天井裏や床下などへの気配を消しての潜伏、家屋潜入のための登攀や跳躍、飛び降りるときの受け身や軽業、対象人物に対しての尾行や足跡追跡、暗器や毒を使った暗殺術、毒草や薬草などの毒や薬の知識、小弓や手裏剣といった飛び道具の使用法、仲間同士の連絡に使う暗号、情報を記憶するための暗記方法、人体の急所を狙った攻撃方法、遁術による回避逃走の方法、人物の気配を探ったりするための聞き耳や気配察知の方法、持ち物を奪うためのスリの方法、隠されたものを探し出す捜索術、地図や屋敷などの図面製作、天候の予測術、人心掌握や扇動の方法、火薬や油を使った放火による破壊活動などを仕込んでいただきます。

 勿論教官は戸隠大輔様です。

 私もある程度は仕込まれてますが私自身は隠密行動に向いているわけではないですし、そこまで手が回らないのが事実です。

 容貌が優れているものは色を用いるクノイチやタジカラとして育て上げます。

 クノイチは女という文字をタジカラは男という文字を分解したものです。

 豪族の屋敷の下男下女や女中として送りこみ、普通にそこで働きながら普段見聞きする情報を収集させたり、遊女や傀儡子、白拍子等として諸国を旅し貴族や武将などに取り入って帷幕や閨にまで入り込ませたりします。

 特に越後の城氏、上野の新田氏、下野の足利氏、甲斐の武田氏あたりは要注意ですからね。

 また、私は松本の国府近くに酒と温泉と女と宿を提供する遊廓あそびくるわを立て、そこで見目の良い男女を働かせ、琴などの楽器を扱わせたり、傀儡芝居で楽しませたりすることで、観光で信濃へやってきた貴族や豪族の相手をさせ、そこより都の様子をうかがうとともに、カネを落とさせるように致しました。

 そのために下男下女には家事全般などを遊女には会話や文で心を引き付ける手練手管や快楽を与えるための枕ごとの技法、琴や歌などの芸事を身につけさせます。

 白拍子は貴族の邸宅に招かれることもありますので、相応の礼儀作法や教養も身につけさせます。
 此方の教官は戸隠大輔様の御弟子の女性ですね。

 容貌がみすぼらしく身体能力があまりないものは乞食として街角に立たせて情報を収集させます。

「まあ、これくらいしておけばいいでしょうか」








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