56 / 88
ニートの本気
しおりを挟む
それはまったくおぞましいものだった。ねばつくような黒い糸の束。その一本一本に何かいやらしい怨念がこもっているようだった。
「うわあああああっ!」
「デリアっ!どうして!」
「いやあああああああああっ!」
「なにやってんの?逃げて!」
ミローネとラフレシアが必死で叫んでいる。ぼくはその真っ黒い糸に絡みつかれているんだ。
「あー、心配しないで。なんかすっごく気持ち悪いだけだから」
「はあ?」
「いやなんかごにょごにょして…うわっ、こいつ動くし」
ぼくの身体に巻き付いた黒い糸の束は、ぼくを絞めつけようとしているが、『大賢者の遺産』のデガリスの鎧が勝手に発動してるからまったく平気だし、糸から出されている毒もぼくには効かないようだ。
「な、なんなのあんた!」
魔女が驚いているが、いやぼくだってびっくりなんですけどね。
「よいしょ」
これも勝手に手の中に現れた『大賢者の遺産』のアーザスの剣だ。糸の束は簡単に切れた。
「はあ?あたしの毒粘糸を?ありえない!」
「おばさんの攻撃はぼくには効かないよ」
「はあ?あんたバカ?あたしの術がこれだけだと思ったの?」
「あーやっぱりほかにも?」
そうだよねー。これで終わるわけないですもんねー。
「そら、あんたたち、やっておしまい!」
どこかで聞いたセリフだ。いやそんなことを言っている場合じゃなかった。巨大な毒虫と巨大な毒蛇がうじゃうじゃあらわれた。こいつが呪法ってやつなんだな。それにしても毒が好きだな。
「みんな!一斉にかかれっ!」
ミローネとネクロが死霊騎士と魔獣騎士を大毒虫と大毒蛇に向かわせた。それは凄惨な戦いだった。魔獣騎士たちは素早い動きで攻撃を避け、死霊騎士は倒しても倒してもまた復活する。なにこれなんかすごくない?
「おのれ!な、なにをしている!たかが騎士ごときに」
魔女はさすがにブチ切れていたが、さすがに鎧の中身がおかしな連中だからかなりてこずっているようだ。
「なんか暇ねー」
「お夜食にしない?」
「お夜食お夜食ー」
「こんなときによく腹減るなー」
「しょうがないじゃない。ほら焚火するからベーコン焼いて。スープも作りましょう」
「ま、待てよ。ぼくらガスマスクつけてんだぞ。食べられないじゃないか!」
「じゃ取るか、それか見てれば?」
このポンコツ精霊、なんてこと言うんだ、まったく!いいよいいよ、ぼくだって食べたいし、見てろよ。
「あー、消毒!」
一日一回スキル、使っちゃいました。
「あら?」
みんなが驚いてる。猛毒の瘴気が消えていくんだからね。辺りから毒気も抜けて、沼もきれいな水になっていた。これならガスマスク外して食事もオッケーさ。
「いやああああああっ!」
魔女がなんか騒いでるが、まあ食事してから相手しよう。
「あ、あたしの沼が…あたしの毒が…あたしに力の源が…ゆるさない…ぜったいゆるさない!」
「なんか言ってるわよ?」
「ちょっと、スープぼくにこぼさないでよ」
「あんたの腕が当たってんじゃない」
「いやなんでそんなにくっつくんだって言ってんの、ラフレシア」
「いやリヴァちゃん膝にのせてそれ言う?」
「この子はまだ子供じゃん」
「そういうこと言ってるからあんたは鈍感だって言われるのよ」
「誰にそんなこと言われてんだ。聞いたことないぞ」
「あたしが言ってんだもん、まちがいないわ」
「おまえらうるさいっ!」
おばさん魔女が激おこだった。
「さあ、お夜食も食べたし、本気出そうかな」
「な、なんだと?きさまのような弱っちい人間が、いくら本気を出したところでこの毒の沼の魔女には勝てないよ!」
「もう毒の沼ないじゃん。名前変えないと」
「うーん、そうよね…い、いやそんなことはどうでもいいわ!みんなぶっ殺してやる!」
さあ本気を見せますか。ニートの本気ってやつを!
「じゃあミローネ、ネクロ、鎧の騎士たちで総攻撃だ!」
「あんたがやるんじゃないの?」
「さっき本気出すって言った」
「あのね、ニートの本気って、他人の本気をあてにするってことなの。ぼくが本気出したって勝てるわけないっしょ?」
「意味わからんこと言うんじゃないわよ!」
ラフレシアが今度はブチ切れたみたいだ。まあすでに毒の消えた虫や蛇にいまさら力などない。魔物騎士たちと一緒に次々と倒していく。いやー、ラフレシアってやっぱ強いわー…などと感心している場合ではない。ぼくもなんかしなくっちゃ。
「おいニャンコ、魔女の弱点てなんだっけ?」
「ニャンコではない!クロスだ!」
んなもんどっちでもいいのに。
「じゃクロスちゃん、教えて」
「ほんっともの覚え悪いな、おまえ。いいか、たいていの魔女は明るい陽の光、塩、聖水、それにマグネが弱点だ。あいつにどれが効くかはわからんがな」
「じゃあぜんぶやっちゃえばいいじゃん」
「無茶言うな。そんなもんどう用意する?どこにもそんなものはないぞ」
「それが何とかなるんだなー」
聖水と塩は何とかなる。前にポンコツ大天使が帰り際に祝福していった。荷馬車の蛇口から出るのが聖水だ。精霊ががばがば飲んでたけどね。それに塩はビスケスの袋にいっぱい溜まっている。問題は陽の光とマグネだが…、マグネには心当たりがある。
「ちょっとリヴァちゃん手伝って」
「なあに、パパ」
さすがベビーと言ってもドラゴンなんだなー。ぜんぜん怖気づいていないや。
「この鉄の棒、二つこすり合わせて」
「こう?」
えらい高速で鉄の棒がこすられていく。さすがドラゴンの力、ハンパねえ。
「どれどれ…うおっ!」
剣がひっついた。すごい強力な磁石になっている。そう、鉄をこすり合わせると磁力が生じる。マグネって、マグネットのことなんだろう。
「あとは陽の光だけど」
「おいデリアよ。いまはすでに真夜中だ。日の出までまだあるぞ?それに朝が来ると知れたら魔女は逃げてしまう。どうするのだ?」
「だから本気出すって言ったでしょ?」
「はあ?」
ぼくは真っ暗な空を仰いだ。
「うわあああああっ!」
「デリアっ!どうして!」
「いやあああああああああっ!」
「なにやってんの?逃げて!」
ミローネとラフレシアが必死で叫んでいる。ぼくはその真っ黒い糸に絡みつかれているんだ。
「あー、心配しないで。なんかすっごく気持ち悪いだけだから」
「はあ?」
「いやなんかごにょごにょして…うわっ、こいつ動くし」
ぼくの身体に巻き付いた黒い糸の束は、ぼくを絞めつけようとしているが、『大賢者の遺産』のデガリスの鎧が勝手に発動してるからまったく平気だし、糸から出されている毒もぼくには効かないようだ。
「な、なんなのあんた!」
魔女が驚いているが、いやぼくだってびっくりなんですけどね。
「よいしょ」
これも勝手に手の中に現れた『大賢者の遺産』のアーザスの剣だ。糸の束は簡単に切れた。
「はあ?あたしの毒粘糸を?ありえない!」
「おばさんの攻撃はぼくには効かないよ」
「はあ?あんたバカ?あたしの術がこれだけだと思ったの?」
「あーやっぱりほかにも?」
そうだよねー。これで終わるわけないですもんねー。
「そら、あんたたち、やっておしまい!」
どこかで聞いたセリフだ。いやそんなことを言っている場合じゃなかった。巨大な毒虫と巨大な毒蛇がうじゃうじゃあらわれた。こいつが呪法ってやつなんだな。それにしても毒が好きだな。
「みんな!一斉にかかれっ!」
ミローネとネクロが死霊騎士と魔獣騎士を大毒虫と大毒蛇に向かわせた。それは凄惨な戦いだった。魔獣騎士たちは素早い動きで攻撃を避け、死霊騎士は倒しても倒してもまた復活する。なにこれなんかすごくない?
「おのれ!な、なにをしている!たかが騎士ごときに」
魔女はさすがにブチ切れていたが、さすがに鎧の中身がおかしな連中だからかなりてこずっているようだ。
「なんか暇ねー」
「お夜食にしない?」
「お夜食お夜食ー」
「こんなときによく腹減るなー」
「しょうがないじゃない。ほら焚火するからベーコン焼いて。スープも作りましょう」
「ま、待てよ。ぼくらガスマスクつけてんだぞ。食べられないじゃないか!」
「じゃ取るか、それか見てれば?」
このポンコツ精霊、なんてこと言うんだ、まったく!いいよいいよ、ぼくだって食べたいし、見てろよ。
「あー、消毒!」
一日一回スキル、使っちゃいました。
「あら?」
みんなが驚いてる。猛毒の瘴気が消えていくんだからね。辺りから毒気も抜けて、沼もきれいな水になっていた。これならガスマスク外して食事もオッケーさ。
「いやああああああっ!」
魔女がなんか騒いでるが、まあ食事してから相手しよう。
「あ、あたしの沼が…あたしの毒が…あたしに力の源が…ゆるさない…ぜったいゆるさない!」
「なんか言ってるわよ?」
「ちょっと、スープぼくにこぼさないでよ」
「あんたの腕が当たってんじゃない」
「いやなんでそんなにくっつくんだって言ってんの、ラフレシア」
「いやリヴァちゃん膝にのせてそれ言う?」
「この子はまだ子供じゃん」
「そういうこと言ってるからあんたは鈍感だって言われるのよ」
「誰にそんなこと言われてんだ。聞いたことないぞ」
「あたしが言ってんだもん、まちがいないわ」
「おまえらうるさいっ!」
おばさん魔女が激おこだった。
「さあ、お夜食も食べたし、本気出そうかな」
「な、なんだと?きさまのような弱っちい人間が、いくら本気を出したところでこの毒の沼の魔女には勝てないよ!」
「もう毒の沼ないじゃん。名前変えないと」
「うーん、そうよね…い、いやそんなことはどうでもいいわ!みんなぶっ殺してやる!」
さあ本気を見せますか。ニートの本気ってやつを!
「じゃあミローネ、ネクロ、鎧の騎士たちで総攻撃だ!」
「あんたがやるんじゃないの?」
「さっき本気出すって言った」
「あのね、ニートの本気って、他人の本気をあてにするってことなの。ぼくが本気出したって勝てるわけないっしょ?」
「意味わからんこと言うんじゃないわよ!」
ラフレシアが今度はブチ切れたみたいだ。まあすでに毒の消えた虫や蛇にいまさら力などない。魔物騎士たちと一緒に次々と倒していく。いやー、ラフレシアってやっぱ強いわー…などと感心している場合ではない。ぼくもなんかしなくっちゃ。
「おいニャンコ、魔女の弱点てなんだっけ?」
「ニャンコではない!クロスだ!」
んなもんどっちでもいいのに。
「じゃクロスちゃん、教えて」
「ほんっともの覚え悪いな、おまえ。いいか、たいていの魔女は明るい陽の光、塩、聖水、それにマグネが弱点だ。あいつにどれが効くかはわからんがな」
「じゃあぜんぶやっちゃえばいいじゃん」
「無茶言うな。そんなもんどう用意する?どこにもそんなものはないぞ」
「それが何とかなるんだなー」
聖水と塩は何とかなる。前にポンコツ大天使が帰り際に祝福していった。荷馬車の蛇口から出るのが聖水だ。精霊ががばがば飲んでたけどね。それに塩はビスケスの袋にいっぱい溜まっている。問題は陽の光とマグネだが…、マグネには心当たりがある。
「ちょっとリヴァちゃん手伝って」
「なあに、パパ」
さすがベビーと言ってもドラゴンなんだなー。ぜんぜん怖気づいていないや。
「この鉄の棒、二つこすり合わせて」
「こう?」
えらい高速で鉄の棒がこすられていく。さすがドラゴンの力、ハンパねえ。
「どれどれ…うおっ!」
剣がひっついた。すごい強力な磁石になっている。そう、鉄をこすり合わせると磁力が生じる。マグネって、マグネットのことなんだろう。
「あとは陽の光だけど」
「おいデリアよ。いまはすでに真夜中だ。日の出までまだあるぞ?それに朝が来ると知れたら魔女は逃げてしまう。どうするのだ?」
「だから本気出すって言ったでしょ?」
「はあ?」
ぼくは真っ暗な空を仰いだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
125
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる