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2章
どん引きする理由
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ロージさんに光の剣で脅されながら、俺はテッサが指定した建物の中に入っていった。
建物はロージさんの言う通り資材置き場だったらしい。何に使うのか分からない様々な資材が整理整頓して並べられ、時には高々と積まれていた。屋内は薄暗く、物陰が多くあり、遮蔽物がたくさんある。体の小さなテッサがこの中に紛れ込んだら、なかなか見つけられそうになかった。
入って少し奥まで歩いたがテッサの姿は見当たらない。
するとロージさんが僕に剣先を向けたまま、呼びかけた。
「聞こえるかい、テッサ? 僕だ。君の親のロージだよ。僕は君と話をするためにここまで来た。だから、出てきて僕と話をしてくれないかい? もしそれができないと言うのなら、タツルくんの無事は保証できないよ?」
しかし返事はない。
屋内は静まり返ったままだ。
「あの、もしかしてテッサはここにいないのでは?」俺は恐る恐るロージさんに言った。
「ううん、いるよ。恥ずかしがって隠れているだけさ」
ロージさんはそう答えると、再び屋内に響くように言った。
「出でこないのなら仕方がない。とりあえず手首を切り落としてみようか、タツルくん?」
「ぶぇ!?」
「大丈夫。レイソードで切られたところは熱で瞬時に塞がるから、失血死することはまずないよ。それに高性能な義手を付ければ生身の時と特に変わらない生活ができる。だから安心していいよ」
「そういう問題じゃないでしょうが!」
「ああ、もしかして痛いのが嫌なのかな? じゃあ手首を切り落としたあとすぐに肘から先を切り落としてあげる。これで手首の痛みはなくなるよ」
「そりゃ手首自体がなくなるからな! そんなことしたらもっと酷いことになるけどな!」
「苦しみから逃げたばかりに別の苦しみに直面してしまう。そうしているうちに、最初の苦しみが何だったのか分からないほどの歪みを生んでしまう。人って言うのはね、そういうことをしてしまう生き物なんだ」
「シンプルに何言ってんのこの人?」
「まあ恨むのなら話に乗ってこないテッサを恨んでよ。ほら、左手を出して」
ロージさんは手のひらを俺に向けながら言った。
すると俺の左腕が地面と水平になるまで勝手に動いた。
「なんだ? 腕が勝手に……?」
俺は自分の意思で左腕を動かそうとした。
しかし、まるで空中で固まってしまったかのようにびくともしない。
これもオドの使い手の超能力ってやつか。
そういや念動力が使えるって言っていたっけ……。
おかげで、俺の左腕は切りやすくなった
それを前にしてロージさんが光の剣を掲げる。
「おいおいおいおい! マジでやるのか? 冗談だろ!?」
「ごめんね、タツルくん。僕はどうしてもテッサと話がしたいんだ」
「こ、こんなことしてもテッサは出てこないんじゃないかな? さっきは俺を置いて逃げたくらいだし」
「そんなことないよ。テッサは素直で優しい子だからね。仲間のピンチを目の前にしたら黙っていられないさ」
そう言うとロージさんは問答無用に微笑んだ。
「それじゃあ、いくね」
「ノオオオオオ!」
光の剣が俺の手首目がけて振り下ろされ、俺は思わず目をつむった。
それと同時に声が響いた。
「待ちなさい!」
俺が目を開けると、左手はまだ俺の体の一部だった。
ロージさんは、振り下ろした光の剣をギリギリのところで止めていた。
俺とロージさんが声のほうを見る。
そこには言わずもがな、テッサが立っていた。
「言う通りにするから、タツルを離して」
テッサは悔しそうに言った。
それに対してロージさんは光の剣をしまい、俺にだけ聞こえる声で小さく呟いた。
「ね? 素直で優しい子でしょう?」
「はあ……」
俺ははっきり言って心臓バクバクで、解放されてもその場に立っているのがやっとだった。
協力するとは言ったがここまでしなくちゃいけないとは……。
この親子、怖すぎる!
「やあ、テッサ。やっと話を聞いてくれる気になったんだね」ロージさんがテッサに語りかけた。「テッサが失踪してからのこのひと月、僕は気が気じゃなかった。もし事件に巻き込まれでもしていたらどうしようって、本気で心配していたんだ。だからテッサが無事なのが分かって、少なくともこうして再会できて、僕は嬉しいよ」
そこでロージさんはテッサの反応を見たが、彼女は気まずそうに黙ったままだった。まるでいたずらが見つかってしまい、叱られるのを怖がっている女の子みたいだ。
それを見たロージさんは、優しげに言う。
「テッサ、こんなことをした理由を教えてくれないか? どうして学校を抜け出したのか、どうして僕から逃げるのか。何かわけがあるのなら話して欲しい。大丈夫、何があっても僕はテッサの味方だよ」
それでもテッサは黙ったままだった。
かと思ったら助けを求めるように俺のことをチラチラと見てきた。
いやいや、俺を頼るな。自分でなんとかしろ。こっちはただでさえ酷い目に遭っているんだぞ! アイコンタクト(眼力)でそうメッセージを送ると、テッサはムスッとしてそっぽを向いた。
「テッサ……」ロージさんが悲しそうにさらに話し続ける。「やっぱり僕は親として失格なのかな。テッサの気持ちが全然分からないよ……。でも、それならそうとはっきり言って欲しい。テッサは僕のことが嫌いなのかい? それでこんなことをしているのかい?」
ロージさんに漂う自虐と濃厚な悲壮感に黙っていられなくなったのか、とうとうテッサは口を開いた。
「はあ? なんでそうなるのよ?」
「だ、だってえ……」
ここでロージさん、再びぽろぽろと泣き始める。
それを見てテッサは驚き、やがて呆れた様子でため息をついた。
ここだけ見るとどっちが親なのか分からないな……。
「あのねえ……、別にあんたのことは嫌いじゃないわよ。親として失格だとも思っていないし、なんなら感謝だってしている。養子として迎えてくれたことも、オドの使い手として育ててくれたこともね。おかげでオドを使ってあんなことやこんなことができるんだもん。まさにチート能力。人生やりたい放題。勝ち組確定。だからまあ……、あんたが親で満足しているわ」
一部よからぬセリフが聞こえた気がするんだけど、テッサなりの照れ隠しだよな? そうだよな?
「じゃ、じゃあどうしてこんなことを? 本当に僕のせいじゃないと言うのならちゃんと理由を教えてよ!」ロージさんがテッサに泣きついた。
「そ、それはー……」テッサの目が泳ぐ。
「い、言わないとタツルくんを殺すよ!」ロージさんが突然脅し始めた、って何をするやめろ!
「ああもう! 分かったから剣をしまって!」これにはさすがのテッサも降参した。
ロージさんが光の剣をしまった。
静まりかけていた俺の心臓は再び高速のビートを刻んだ。
勘弁してくれよ。
こんなふざけたやり取りで死んだらどうしてくれる。
そのうちにテッサは、ボソッと呟いた。
「お金が欲しかったのよ。だから学校を休んでスペースランナーをしていたの」
「お、お金?」ロージさんは不思議そうな顔をした。「で、でも、お金なら毎月ちゃんと送っていたじゃないか。足りないと言われればその都度送金もしていた。それなのにまだ足りなかったのかい?」
「そうよ。私にはもっと必要だったの」
「どうして? 何のために?」
そう、ここが今回の核心部分。
俺は固唾を呑んで聞き耳を立てた。
しかと傾聴せよ。
テッサは何のために、金儲けをしようとしたのか!?
「ガチャを引くためよ!!」
ガチャを引くためよ……。
ガチャを引くためよ…………。
ガチャを引くためよ………………。
テッサの声が、俺の脳内で反響した。
心臓の止まる音が、聞こえた気がした。
美麗グラフィックと個性豊かなキャラクターたちによって紡がれる重厚なストーリー! 全銀河で1000億ダウンロード突破! ソーシャルゲーム『スターライトファンタジー』!
カフェにいた時にテッサが熱く布教してきた、あのソシャゲ。
推しキャラを引こうとして爆死していた、あのソシャゲ。
そのガチャに違いねえ!
そのガチャのために、こいつは……!
こいつはあああああああああああああああああああ!!
「ガ、ガチャ……? カプセルトイのことかい?」ロージさんが訊ねた。
「あ、あのー、ガチャはですねえ……」
分からない様子のロージさんに俺は説明した。
正直に、ありのままに、なるべく正確に、情報を開示した。
そして祈った。
世界が平和でありますように、と。
「そ、そんなことのために、こんなことを……?」
ガチャを理解したロージさんが、足下をふらつかせながら呟いた。
顔面蒼白で今にも倒れそうだが、ロージさんは何とか踏ん張って持ちこたえた。
「そんなこと? 今、そんなことって言った?」ロージさんがそんな状態にも関わらず、テッサは圧のある声で言った。
「だ、だって、たかがゲームじゃないか……。推しキャラだって、所詮ただのデータじゃないか……。そんなもののために、人生を棒に振るような危険を冒すなんて……」
「よろしい、ならば戦争だ」
「やめろテッサ! これ以上立場を悪くするな!」光の剣に手を伸ばしたテッサを俺は止めた。
「離してタツル! こいつはアーニアちゃんをデータ呼ばわりしたのよ! 許してはおけないわ!」
「気持ちは分かるが落ち着け! そんな風にぶち切れるから非オタとの溝が深まるんだぞ!」
「アーニアちゃんは存在する。存在するんだあああ!」
暴走モードのテッサを見てロージさんはさらにおののいた。
しかし、そこは親にして師匠。
引き下がるわけにはいかないと気合いを入れ直し、怯えながらもテッサにガツンと言い放った。
「と、とにかく! そんな理由で学校を休むなんて容認できないよ! これからはちゃんと学校に通うこと! そしてそのガチャとやらはお小遣いの範囲でしなさい! 無茶な課金はダメ、絶対! 分かったね!」
「そんな!」
「口答えをするのならタツルくんを殺すよ?」
「おい」いい加減にして欲しいと思いつつ俺はツッコミを入れた。
「うっ……。わ、分かったわよ……」不機嫌そうにしつつテッサは大人しくなった。
「よろしい」怯えつつロージさんは胸を撫で下ろした。
どうやらこれにて話し合いは終了らしい。
丸くとは言いがたいしだいぶ強引な気もするが、収まるところに収まったらしい。まあテッサがバカをやっていたのだがら、このくらいの強引さは仕方がないだろう。これ以上被害が広がらないための緊急停止だ。
「でもそれじゃあ、テッサはスペースランナーをやめてアーカル養成学校に戻るんですね?」俺は確認の意味でも訊ねた。
「そういうことになるね。タツルくんには申し訳ないけれど」
やっぱりそうなるか。だがここで「はいそうですか」と終わるわけにはいかない。前述の通り、このままじゃ俺は路頭に迷ってしまう。ここは生き残りをかけてアクションを起こさなければ!
しかし俺が何かする前に、テッサが「あっ!」と声を上げた。
その声に俺とロージさんが注目すると、テッサは気まずそうに言った。
「あの、学校に戻るのはいいんだけど……、その……、借金が……」
「しゃ、借金?」
「う、うん。スペースランナーを始めるのにちょっとお金が必要で……」
「なんてことを……」ロージさんはため息をついた。「でも学生の身分だし、大した額じゃないんだろう? そのくらいなら僕が払っておくよ」
「本当?」
「ただし、大人になったら僕に返すんだよ。それが今回のテッサの授業料だ」
「ありがとう、パパ! この恩は一生忘れないわ!」
テッサのパパ呼びの破壊力はなかなかのもので、ロージさんは顔を緩ませた。
「ははは、一生だなんて大げさだなあ」デレデレのご機嫌顔でロージさんが言った。「で、借金はいくらなんだい?」
「10億エンス+利子よ」
「ははは。ごめん、僕も歳なのかな。よく聞こえなかったよ。で、いくらだって?」
「10億エンス+利子よ」
「……本当に?」
さすがに信じられないのか、ロージさんは俺の顔を見た。
その表情は「ウソだと言ってよ、タツルくん」と無言で訴えている。
だから俺は、本当のことを言った。
「はい。我々のクラン『グランオール』には、10億エンスの借金がございます」
その時ロージさんに電流走る。
「じゅ、じゅじゅじゅじゅじゅ、じゅうおっ……。じゅうおっ……!?」
ロージさんはそこまで言って、倒れた。
体をピンと伸ばしたまま少しずつ傾き、背中から床に倒れるという、美しい卒倒だった。
「パパ!?」
「ロージさん!?」
俺とテッサはすぐにロージさんに駆け寄り、声をかけた。
「ロージさん、しっかりして下さい! ロージさん!!」
しかしどんなに声をかけ体を揺すっても、ロージさんの意識が戻ることはなかった。
それは、この一ヶ月の心労のうえに加えられた最後の一撃。
メンタルよわよわなロージさんの精神に止めを刺すのに、10億エンスという借金は十分すぎる額だった。
「ロージさあああああん!」
救急車のサイレンが、遠くから聞こえた。
ロージ、入院エンドである。
建物はロージさんの言う通り資材置き場だったらしい。何に使うのか分からない様々な資材が整理整頓して並べられ、時には高々と積まれていた。屋内は薄暗く、物陰が多くあり、遮蔽物がたくさんある。体の小さなテッサがこの中に紛れ込んだら、なかなか見つけられそうになかった。
入って少し奥まで歩いたがテッサの姿は見当たらない。
するとロージさんが僕に剣先を向けたまま、呼びかけた。
「聞こえるかい、テッサ? 僕だ。君の親のロージだよ。僕は君と話をするためにここまで来た。だから、出てきて僕と話をしてくれないかい? もしそれができないと言うのなら、タツルくんの無事は保証できないよ?」
しかし返事はない。
屋内は静まり返ったままだ。
「あの、もしかしてテッサはここにいないのでは?」俺は恐る恐るロージさんに言った。
「ううん、いるよ。恥ずかしがって隠れているだけさ」
ロージさんはそう答えると、再び屋内に響くように言った。
「出でこないのなら仕方がない。とりあえず手首を切り落としてみようか、タツルくん?」
「ぶぇ!?」
「大丈夫。レイソードで切られたところは熱で瞬時に塞がるから、失血死することはまずないよ。それに高性能な義手を付ければ生身の時と特に変わらない生活ができる。だから安心していいよ」
「そういう問題じゃないでしょうが!」
「ああ、もしかして痛いのが嫌なのかな? じゃあ手首を切り落としたあとすぐに肘から先を切り落としてあげる。これで手首の痛みはなくなるよ」
「そりゃ手首自体がなくなるからな! そんなことしたらもっと酷いことになるけどな!」
「苦しみから逃げたばかりに別の苦しみに直面してしまう。そうしているうちに、最初の苦しみが何だったのか分からないほどの歪みを生んでしまう。人って言うのはね、そういうことをしてしまう生き物なんだ」
「シンプルに何言ってんのこの人?」
「まあ恨むのなら話に乗ってこないテッサを恨んでよ。ほら、左手を出して」
ロージさんは手のひらを俺に向けながら言った。
すると俺の左腕が地面と水平になるまで勝手に動いた。
「なんだ? 腕が勝手に……?」
俺は自分の意思で左腕を動かそうとした。
しかし、まるで空中で固まってしまったかのようにびくともしない。
これもオドの使い手の超能力ってやつか。
そういや念動力が使えるって言っていたっけ……。
おかげで、俺の左腕は切りやすくなった
それを前にしてロージさんが光の剣を掲げる。
「おいおいおいおい! マジでやるのか? 冗談だろ!?」
「ごめんね、タツルくん。僕はどうしてもテッサと話がしたいんだ」
「こ、こんなことしてもテッサは出てこないんじゃないかな? さっきは俺を置いて逃げたくらいだし」
「そんなことないよ。テッサは素直で優しい子だからね。仲間のピンチを目の前にしたら黙っていられないさ」
そう言うとロージさんは問答無用に微笑んだ。
「それじゃあ、いくね」
「ノオオオオオ!」
光の剣が俺の手首目がけて振り下ろされ、俺は思わず目をつむった。
それと同時に声が響いた。
「待ちなさい!」
俺が目を開けると、左手はまだ俺の体の一部だった。
ロージさんは、振り下ろした光の剣をギリギリのところで止めていた。
俺とロージさんが声のほうを見る。
そこには言わずもがな、テッサが立っていた。
「言う通りにするから、タツルを離して」
テッサは悔しそうに言った。
それに対してロージさんは光の剣をしまい、俺にだけ聞こえる声で小さく呟いた。
「ね? 素直で優しい子でしょう?」
「はあ……」
俺ははっきり言って心臓バクバクで、解放されてもその場に立っているのがやっとだった。
協力するとは言ったがここまでしなくちゃいけないとは……。
この親子、怖すぎる!
「やあ、テッサ。やっと話を聞いてくれる気になったんだね」ロージさんがテッサに語りかけた。「テッサが失踪してからのこのひと月、僕は気が気じゃなかった。もし事件に巻き込まれでもしていたらどうしようって、本気で心配していたんだ。だからテッサが無事なのが分かって、少なくともこうして再会できて、僕は嬉しいよ」
そこでロージさんはテッサの反応を見たが、彼女は気まずそうに黙ったままだった。まるでいたずらが見つかってしまい、叱られるのを怖がっている女の子みたいだ。
それを見たロージさんは、優しげに言う。
「テッサ、こんなことをした理由を教えてくれないか? どうして学校を抜け出したのか、どうして僕から逃げるのか。何かわけがあるのなら話して欲しい。大丈夫、何があっても僕はテッサの味方だよ」
それでもテッサは黙ったままだった。
かと思ったら助けを求めるように俺のことをチラチラと見てきた。
いやいや、俺を頼るな。自分でなんとかしろ。こっちはただでさえ酷い目に遭っているんだぞ! アイコンタクト(眼力)でそうメッセージを送ると、テッサはムスッとしてそっぽを向いた。
「テッサ……」ロージさんが悲しそうにさらに話し続ける。「やっぱり僕は親として失格なのかな。テッサの気持ちが全然分からないよ……。でも、それならそうとはっきり言って欲しい。テッサは僕のことが嫌いなのかい? それでこんなことをしているのかい?」
ロージさんに漂う自虐と濃厚な悲壮感に黙っていられなくなったのか、とうとうテッサは口を開いた。
「はあ? なんでそうなるのよ?」
「だ、だってえ……」
ここでロージさん、再びぽろぽろと泣き始める。
それを見てテッサは驚き、やがて呆れた様子でため息をついた。
ここだけ見るとどっちが親なのか分からないな……。
「あのねえ……、別にあんたのことは嫌いじゃないわよ。親として失格だとも思っていないし、なんなら感謝だってしている。養子として迎えてくれたことも、オドの使い手として育ててくれたこともね。おかげでオドを使ってあんなことやこんなことができるんだもん。まさにチート能力。人生やりたい放題。勝ち組確定。だからまあ……、あんたが親で満足しているわ」
一部よからぬセリフが聞こえた気がするんだけど、テッサなりの照れ隠しだよな? そうだよな?
「じゃ、じゃあどうしてこんなことを? 本当に僕のせいじゃないと言うのならちゃんと理由を教えてよ!」ロージさんがテッサに泣きついた。
「そ、それはー……」テッサの目が泳ぐ。
「い、言わないとタツルくんを殺すよ!」ロージさんが突然脅し始めた、って何をするやめろ!
「ああもう! 分かったから剣をしまって!」これにはさすがのテッサも降参した。
ロージさんが光の剣をしまった。
静まりかけていた俺の心臓は再び高速のビートを刻んだ。
勘弁してくれよ。
こんなふざけたやり取りで死んだらどうしてくれる。
そのうちにテッサは、ボソッと呟いた。
「お金が欲しかったのよ。だから学校を休んでスペースランナーをしていたの」
「お、お金?」ロージさんは不思議そうな顔をした。「で、でも、お金なら毎月ちゃんと送っていたじゃないか。足りないと言われればその都度送金もしていた。それなのにまだ足りなかったのかい?」
「そうよ。私にはもっと必要だったの」
「どうして? 何のために?」
そう、ここが今回の核心部分。
俺は固唾を呑んで聞き耳を立てた。
しかと傾聴せよ。
テッサは何のために、金儲けをしようとしたのか!?
「ガチャを引くためよ!!」
ガチャを引くためよ……。
ガチャを引くためよ…………。
ガチャを引くためよ………………。
テッサの声が、俺の脳内で反響した。
心臓の止まる音が、聞こえた気がした。
美麗グラフィックと個性豊かなキャラクターたちによって紡がれる重厚なストーリー! 全銀河で1000億ダウンロード突破! ソーシャルゲーム『スターライトファンタジー』!
カフェにいた時にテッサが熱く布教してきた、あのソシャゲ。
推しキャラを引こうとして爆死していた、あのソシャゲ。
そのガチャに違いねえ!
そのガチャのために、こいつは……!
こいつはあああああああああああああああああああ!!
「ガ、ガチャ……? カプセルトイのことかい?」ロージさんが訊ねた。
「あ、あのー、ガチャはですねえ……」
分からない様子のロージさんに俺は説明した。
正直に、ありのままに、なるべく正確に、情報を開示した。
そして祈った。
世界が平和でありますように、と。
「そ、そんなことのために、こんなことを……?」
ガチャを理解したロージさんが、足下をふらつかせながら呟いた。
顔面蒼白で今にも倒れそうだが、ロージさんは何とか踏ん張って持ちこたえた。
「そんなこと? 今、そんなことって言った?」ロージさんがそんな状態にも関わらず、テッサは圧のある声で言った。
「だ、だって、たかがゲームじゃないか……。推しキャラだって、所詮ただのデータじゃないか……。そんなもののために、人生を棒に振るような危険を冒すなんて……」
「よろしい、ならば戦争だ」
「やめろテッサ! これ以上立場を悪くするな!」光の剣に手を伸ばしたテッサを俺は止めた。
「離してタツル! こいつはアーニアちゃんをデータ呼ばわりしたのよ! 許してはおけないわ!」
「気持ちは分かるが落ち着け! そんな風にぶち切れるから非オタとの溝が深まるんだぞ!」
「アーニアちゃんは存在する。存在するんだあああ!」
暴走モードのテッサを見てロージさんはさらにおののいた。
しかし、そこは親にして師匠。
引き下がるわけにはいかないと気合いを入れ直し、怯えながらもテッサにガツンと言い放った。
「と、とにかく! そんな理由で学校を休むなんて容認できないよ! これからはちゃんと学校に通うこと! そしてそのガチャとやらはお小遣いの範囲でしなさい! 無茶な課金はダメ、絶対! 分かったね!」
「そんな!」
「口答えをするのならタツルくんを殺すよ?」
「おい」いい加減にして欲しいと思いつつ俺はツッコミを入れた。
「うっ……。わ、分かったわよ……」不機嫌そうにしつつテッサは大人しくなった。
「よろしい」怯えつつロージさんは胸を撫で下ろした。
どうやらこれにて話し合いは終了らしい。
丸くとは言いがたいしだいぶ強引な気もするが、収まるところに収まったらしい。まあテッサがバカをやっていたのだがら、このくらいの強引さは仕方がないだろう。これ以上被害が広がらないための緊急停止だ。
「でもそれじゃあ、テッサはスペースランナーをやめてアーカル養成学校に戻るんですね?」俺は確認の意味でも訊ねた。
「そういうことになるね。タツルくんには申し訳ないけれど」
やっぱりそうなるか。だがここで「はいそうですか」と終わるわけにはいかない。前述の通り、このままじゃ俺は路頭に迷ってしまう。ここは生き残りをかけてアクションを起こさなければ!
しかし俺が何かする前に、テッサが「あっ!」と声を上げた。
その声に俺とロージさんが注目すると、テッサは気まずそうに言った。
「あの、学校に戻るのはいいんだけど……、その……、借金が……」
「しゃ、借金?」
「う、うん。スペースランナーを始めるのにちょっとお金が必要で……」
「なんてことを……」ロージさんはため息をついた。「でも学生の身分だし、大した額じゃないんだろう? そのくらいなら僕が払っておくよ」
「本当?」
「ただし、大人になったら僕に返すんだよ。それが今回のテッサの授業料だ」
「ありがとう、パパ! この恩は一生忘れないわ!」
テッサのパパ呼びの破壊力はなかなかのもので、ロージさんは顔を緩ませた。
「ははは、一生だなんて大げさだなあ」デレデレのご機嫌顔でロージさんが言った。「で、借金はいくらなんだい?」
「10億エンス+利子よ」
「ははは。ごめん、僕も歳なのかな。よく聞こえなかったよ。で、いくらだって?」
「10億エンス+利子よ」
「……本当に?」
さすがに信じられないのか、ロージさんは俺の顔を見た。
その表情は「ウソだと言ってよ、タツルくん」と無言で訴えている。
だから俺は、本当のことを言った。
「はい。我々のクラン『グランオール』には、10億エンスの借金がございます」
その時ロージさんに電流走る。
「じゅ、じゅじゅじゅじゅじゅ、じゅうおっ……。じゅうおっ……!?」
ロージさんはそこまで言って、倒れた。
体をピンと伸ばしたまま少しずつ傾き、背中から床に倒れるという、美しい卒倒だった。
「パパ!?」
「ロージさん!?」
俺とテッサはすぐにロージさんに駆け寄り、声をかけた。
「ロージさん、しっかりして下さい! ロージさん!!」
しかしどんなに声をかけ体を揺すっても、ロージさんの意識が戻ることはなかった。
それは、この一ヶ月の心労のうえに加えられた最後の一撃。
メンタルよわよわなロージさんの精神に止めを刺すのに、10億エンスという借金は十分すぎる額だった。
「ロージさあああああん!」
救急車のサイレンが、遠くから聞こえた。
ロージ、入院エンドである。
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「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。
だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった!
経営者は魔族、同僚はガチの魔物。
魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活!
やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。
笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。
現代×異世界×職場コメディ、開園!
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