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3章
討伐依頼にパワードスーツ
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病院をあとにした俺たちは、テッサの案内でとある場所に向かった。
その場所へと歩くあいだに、テッサは依頼の詳細を説明する。
「今回の依頼はクリーチャーの討伐よ。討伐対象は森に生息しているオルゴンリザード。ひと言で言えば巨大なトカゲね」
テッサはスマートノートのホログラム機能を使ってオルゴンリザードの姿を見せて来た。彼女の言う通り見た感じはトカゲ。その皮膚はゴツゴツとした黒い突起で覆われているが、ところどころ宝石のようなものが露出していてきれいだった。
「この巨大トカゲは、オドをオルゴナイトと呼ばれる鉱石にして皮膚の表面に貯めておく性質があるの。これが宝石としてものすごく価値があって採取したいから、討伐依頼が出ているというわけね。つまり今回の依頼は、オルゴナイトが無事な状態でオルゴンリザードを倒さなくちゃいけない。
だけど、ここに難点があるわ。
じつはオルゴンリザードは危険が迫ると、身を守るためにオルゴナイトをエネルギー源にして熱を出すの。そして、それが行われるとオルゴナイトは砕けてその輝きを失ってしまう。そうなったら討伐しても無意味。オルゴナイトのないオルゴンリザードに価値はないからね。
つまり討伐するにしても、オルゴンリザードが危険を感じる前に一撃でしとめる必要があるわ。しかも体のオルゴナイトをなるべく傷つけずにね」
「聞く限りかなり難しそうなんだけど……。ちなみにこいつの大きさってどれくらいなんだ?」
「大人だと20メートルくらいね」
「でかっ!」
「人間も丸呑みにするらしいわよ」
「こわっ!」
「それだけの巨体だからやわなブラスターじゃ皮膚すら傷つけられない。かと言って強力なレーザーキャノンだとオルゴナイトが吹き飛んでしまう。必要十分な威力で必要充分な攻撃を、しかも一撃必殺で。そういう武器や技術が要求されるわ」
「ますます実現不可能に思えて来たぞ……?」
「そうかしら? 武器と技術ならすでに解決済みじゃない。なんせこの私がいるんだからね」
そう言ってテッサは腰の光剣を手に取り、俺に見せた。
展開すると光の刃が飛び出す、ライトなセーバーだ。
「ああ、なるほど」俺は納得しつつも念のために訊いた。「やっぱりその光の剣なら何でも切れるのか?」
「そういえばタツルには説明していなかったわね。これはオドの使い手だけが使える光の武器で、名前をレイアームズって言うわ。柄の中に入っている特殊な鉱石にオドを流し込むことで光の刃を展開し、武器として使用するの」
「へぇー。ボタンを押せば刃が出るってものじゃなかったのか」
「そうよ。オドの力は使い手の精神状態と深い関係があるって言ったわよね? だからオドを流し込んで使うレイアームズの光の刃も、使い手の精神が反映されると言われているわ。例えば刃の色も、澄んだ心だと青く、怒りに満ちていると赤く、という具合に変化する。そうだ、試しに私のも見てみましょうか」
テッサはレイアームズにオドを流し込み、光の刃を展開させた。
その色は、紫と金色がぐにゃぐにゃと混ざったマーブル模様だった。
まあ、正直に言えば……、なんか汚い。
「えっと……、これはどういう精神状態?」
しかしテッサは俺の質問を無視し、沈黙のまま静かに刃をしまった。
それから妙に明るい声で話を再開する。
「で、私が言いたかったことだけどね」
「おい。今の光景をなかったことにしてんじゃねえよ」
俺はすかさずツッコミを入れた。
テッサは仕方がなく、目を泳がせながら解説をする。
「ま、まあね。精神が反映されるとは言われているけれど、どの色だからどういう状態だって完璧に分かるわけじゃないからね。ぶっちゃけ占いみたいなもんだし。ああ、そうそう。それで思い出した。アーカル養成学校でレイアームズ色占いって言うのが女子のあいだで流行っていたわ。光の色でこれからの運勢とかを占うの。あまり当たらなかったけど、面白いから友達同士でよく占って遊んでいたわね。まあつまり、色と言ってもそれくらいのものだから、あまりこだわる必要はないわ」
「説明が必死すぎて逆に何かあるとしか思えないんだが……」
「女の子にはいろいろあるの! それを聞こうとするなんてデリカシーがないわよ!」
「……」
その誤摩化し方はなんかずるくね?
まあでも、人の精神状態を無理に探るのは確かにデリカシーがないよな。
本当に言いたくないことなのかもしれないし、これ以上追求しないでおこう。
「で、なんの話だったっけ?」俺は話を振り直した。
「私のレイアームズの色についてならノーコメントよ」
「その話をうやむやにしてやろうという振りだったのに、見事に無駄にしてくれたなあ? そんなに追求して欲しいか?」
「えっ、そうだったの? オドの流れは見えていたけど、話の流れは見えていなかったわ」
「そのヘタクソなギャグは流してやるから、はよ話を戻して」
「分かったわよ、もう」
テッサはムスッとした様子でヤケ気味に話を再開した。
「レイアームズはオドを使った強力な武器で、大抵のものならばっさり切れちゃうわ。しかも一点集中で触れた部分だけにダメージを与える。つまりオルゴンリザード討伐にはもってこいの武器というわけ」
「しかもその使い手であるテッサには、急所を的確に攻撃する技術があると」
「だからオルゴンリザードを一撃で倒すことは余裕でできるわ」
「ふむ」俺は少し考えてから言った。「それじゃあ、あとはバレずに近づければいいってことか?」
「そうよ。そしてそのための作戦もちゃんと考えてあるわ」
「そういえばそんなこと言っていたな」
「この作戦にはタツルの協力が不可欠。むしろタツルが肝だと言っていいわ」
「俺にそんな大役が? 分かっていると思うけど俺に戦闘力なんてないぞ?」
「大丈夫。準備さえちゃんとすればね。と言うわけで、ここよ!」
そのセリフとともにテッサは足を止め、目の前にある建物を指差した。
この建物こそテッサが向かっていた場所らしい。
例によって文字が読めないので正確には分からないが、その外観からしてお店のようだった。
でもいったい何のお店?
その疑問に答えるかのようにテッサが言った。
「この店でパワードスーツをレンタルするわ!」
「え?」
耳を疑いつつ店内に入った俺は、その光景に目を輝かせた。
「おお!」
パワードスーツ。
着用することでその人の能力を増幅させる機械装置。
足や腕などの一部の筋力を増強させるものから、全身を包み込むタイプまで。
人間が本来持っている力を補助するものから、空を飛べたり手のひらからビームを出せたりするものまで。
用途もサイズも見た目も異なる様々なパワードスーツが、店内にはずらりと並べられていた。
「すげー! これ全部パワードスーツかよ!」
「ここはパワードスーツ専門店だからね。ニッチなものまで何でも揃っているわ」
「ほほー」
俺はSFオタクでも機械オタクでもないが、これだけのガジェットを目の当たりにしたらさすがにテンションが上がって来た。思わずじろじろと見て回ってしまう。
「って、さっきレンタルするって言っていたよな? それってもしかして……」
「そう、タツルが着るパワードスーツよ」
「マジか!」
パワードスーツ着ていいんですか?
もしかしてアイアンな男になれちゃうんですか?
そしたら俺でも、空を飛べちゃったりして……。
そんな風に妄想しているうちに、俺はある考えに至った。
そうだよ、ここはSF世界。
ファンタジー世界のような魔法やスキルなんてものはない。
だけど、この発達した科学がある。
体を鍛えなくとも車を使えば誰でも時速60キロメートルで走れる。
自動運転が実現すれば運転技術さえも関係なくなる。
科学の前では、身体的な才能や努力は必要ないのだ。
そうすると頭を使っていかにツールを使いこなすかが重要になってくる。
このSF世界ではそれがもっと顕著だろう。
つまりだ……。
技術や特技がない俺でも、科学の力を駆使すればスペースランナーとして活躍できるはずだ!
十分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。
このSF世界では誰もが平等に魔法を使える。
チート能力は、誰にでも開かれているのだ。
「じゃあ、俺はパワードスーツを着てオルゴンリザード討伐に参加するんだな?」俺は興奮気味にテッサに訊ねた。
「ええ、もちろん。パワードスーツは私が選んであげるわね」
するとテッサは「すみませーん」と店員を呼んだ。
店の奥から店員の男がやって来て、テッサの呼びかけに応じた。
「はい、なんでしょう?」
「彼が着るパワードスーツをレンタルしたいの」
「どういったものをお望みで?」
「とびっきり頑丈で全身を守れるものがいいわ」
「かしこまりました。こちらなんていかがです? これを着ていればタングスゾウに踏みつぶされても無傷でいられますぞ」
「十分な強度ね。これにするわ。ああそうそう、支払いは後払いでお願いね」
「えっ……。お客様、当店は先払いのみ可能なのですが……」
「今はお金がないの。だけどこれを返す頃には大金を手に入れているわ。だから通常料金の2倍払ってあげる。それでどう?」
「いや、しかし……」
「しょうがないわね……。これを見なさい」
テッサはポケットからカードのようなものを取り出して店員に見せた。
店員は初め疑念の目でそれを見ていたが、内容を確認して目を丸くした。
「こ、これはアーカル養成学校の学生証!?」
「その通りよ。私ね、今アーカルの訓練を受けているんだけど、緊急でパワードスーツが必要になったの。それであなたを頼っているのだけど……。でも困ったわね。アーカルに協力してくれないなんて……」
「し、失礼しました。アーカルの方だとは思わなくて! このパワードスーツはもちろんお貸しします。どうぞ、お使いください!」
「本当? どうもありがとう」テッサは微笑んだ。
それから店員は気まずそうに営業スマイルを浮かべながらレンタルの手続きをし、そそくさと店の奥へと消えた。
どうやらパワードスーツのレンタルに成功したらしい。
通常にはない、後払いで。
「なんか今、権力を振りかざす音が聞こえた気がするんだけど、気のせいかな?」俺はボソッと呟いた。
「あっちが勝手に忖度しただけじゃない。私は何もしてないわよ」テッサがボソッと言い返した。
オドの使い手の中でも一部の人だけがなれる誇り高き職業、アーカル。
銀河の守護者として人々から憧れや尊敬の念を抱かれている、アーカル。
それは表の顔で、じつは腐敗しているとか言わないだろうな?
今のテッサの言動を見ていると不安になってくるぞ。
「まあ、何にせよこれでパワードスーツを着られるってわけだ」
全身を包み込むタイプのそのパワードスーツを見て、俺は再びわくわくしながら言った。
実際、そのパワードスーツの性能は素晴らしかった。
俺はパワードスーツを着用し、試しに近くの広場で体を動かしてみたのだが——。
「ひゃっほう!」
俺は軽くジャンプしただけで、10メートル近く空に飛び上がった。
姿勢制御システムが働き、バランスを崩すことなく着地も難なく成功させる。
これはすごい。想像以上に快適だし強力だ。筋肉の動きに合わせてパーツが駆動することで俺の身体能力は大幅にアップ。それだけでなく各種センサーによって視覚や聴覚といった感覚までもが強化されている。それらのサポートは制御システムが自動で行ってくれるため煩わしい操作も必要なし。俺がしたいことを瞬時に読み取って実現してくれる。
まるで覚醒した主人公の気分だ。
もう何も怖くない。
「気に入ったみたいね」俺の様子を見てテッサが言った。
「ああ。これならオルゴンリザードとも戦えそうだぜ!」俺は握り拳を作って意気揚々と言った。「で、俺は何をしたらいいんだ?」
その瞬間、テッサが俺の胸にキスをした。
もちろんパワードスーツ越しでだ。しかしこのパワードスーツには触覚を伝える機能がある。おかげでテッサの唇のやわらかさを俺は感じることになった。
「な、何をするんじゃボケェ!」
「何って、オドを流し込んだだけだけど?」
俺は大いにうろたえたが、テッサは予想外になんてことない顔をしていた。
なんか悔しい。
今更だが、俺も平静を装って訊ねる。
「なんだそりゃ? なんでオドなんて流し込むんだよ?」
「そんなの、作戦のために決まっているじゃない」
「そういえば肝心の作戦を聞いていなかったな。俺はいったい何をすればいいんだ?」
「それはね……」
テッサは、邪悪な笑みを浮かべた。
その場所へと歩くあいだに、テッサは依頼の詳細を説明する。
「今回の依頼はクリーチャーの討伐よ。討伐対象は森に生息しているオルゴンリザード。ひと言で言えば巨大なトカゲね」
テッサはスマートノートのホログラム機能を使ってオルゴンリザードの姿を見せて来た。彼女の言う通り見た感じはトカゲ。その皮膚はゴツゴツとした黒い突起で覆われているが、ところどころ宝石のようなものが露出していてきれいだった。
「この巨大トカゲは、オドをオルゴナイトと呼ばれる鉱石にして皮膚の表面に貯めておく性質があるの。これが宝石としてものすごく価値があって採取したいから、討伐依頼が出ているというわけね。つまり今回の依頼は、オルゴナイトが無事な状態でオルゴンリザードを倒さなくちゃいけない。
だけど、ここに難点があるわ。
じつはオルゴンリザードは危険が迫ると、身を守るためにオルゴナイトをエネルギー源にして熱を出すの。そして、それが行われるとオルゴナイトは砕けてその輝きを失ってしまう。そうなったら討伐しても無意味。オルゴナイトのないオルゴンリザードに価値はないからね。
つまり討伐するにしても、オルゴンリザードが危険を感じる前に一撃でしとめる必要があるわ。しかも体のオルゴナイトをなるべく傷つけずにね」
「聞く限りかなり難しそうなんだけど……。ちなみにこいつの大きさってどれくらいなんだ?」
「大人だと20メートルくらいね」
「でかっ!」
「人間も丸呑みにするらしいわよ」
「こわっ!」
「それだけの巨体だからやわなブラスターじゃ皮膚すら傷つけられない。かと言って強力なレーザーキャノンだとオルゴナイトが吹き飛んでしまう。必要十分な威力で必要充分な攻撃を、しかも一撃必殺で。そういう武器や技術が要求されるわ」
「ますます実現不可能に思えて来たぞ……?」
「そうかしら? 武器と技術ならすでに解決済みじゃない。なんせこの私がいるんだからね」
そう言ってテッサは腰の光剣を手に取り、俺に見せた。
展開すると光の刃が飛び出す、ライトなセーバーだ。
「ああ、なるほど」俺は納得しつつも念のために訊いた。「やっぱりその光の剣なら何でも切れるのか?」
「そういえばタツルには説明していなかったわね。これはオドの使い手だけが使える光の武器で、名前をレイアームズって言うわ。柄の中に入っている特殊な鉱石にオドを流し込むことで光の刃を展開し、武器として使用するの」
「へぇー。ボタンを押せば刃が出るってものじゃなかったのか」
「そうよ。オドの力は使い手の精神状態と深い関係があるって言ったわよね? だからオドを流し込んで使うレイアームズの光の刃も、使い手の精神が反映されると言われているわ。例えば刃の色も、澄んだ心だと青く、怒りに満ちていると赤く、という具合に変化する。そうだ、試しに私のも見てみましょうか」
テッサはレイアームズにオドを流し込み、光の刃を展開させた。
その色は、紫と金色がぐにゃぐにゃと混ざったマーブル模様だった。
まあ、正直に言えば……、なんか汚い。
「えっと……、これはどういう精神状態?」
しかしテッサは俺の質問を無視し、沈黙のまま静かに刃をしまった。
それから妙に明るい声で話を再開する。
「で、私が言いたかったことだけどね」
「おい。今の光景をなかったことにしてんじゃねえよ」
俺はすかさずツッコミを入れた。
テッサは仕方がなく、目を泳がせながら解説をする。
「ま、まあね。精神が反映されるとは言われているけれど、どの色だからどういう状態だって完璧に分かるわけじゃないからね。ぶっちゃけ占いみたいなもんだし。ああ、そうそう。それで思い出した。アーカル養成学校でレイアームズ色占いって言うのが女子のあいだで流行っていたわ。光の色でこれからの運勢とかを占うの。あまり当たらなかったけど、面白いから友達同士でよく占って遊んでいたわね。まあつまり、色と言ってもそれくらいのものだから、あまりこだわる必要はないわ」
「説明が必死すぎて逆に何かあるとしか思えないんだが……」
「女の子にはいろいろあるの! それを聞こうとするなんてデリカシーがないわよ!」
「……」
その誤摩化し方はなんかずるくね?
まあでも、人の精神状態を無理に探るのは確かにデリカシーがないよな。
本当に言いたくないことなのかもしれないし、これ以上追求しないでおこう。
「で、なんの話だったっけ?」俺は話を振り直した。
「私のレイアームズの色についてならノーコメントよ」
「その話をうやむやにしてやろうという振りだったのに、見事に無駄にしてくれたなあ? そんなに追求して欲しいか?」
「えっ、そうだったの? オドの流れは見えていたけど、話の流れは見えていなかったわ」
「そのヘタクソなギャグは流してやるから、はよ話を戻して」
「分かったわよ、もう」
テッサはムスッとした様子でヤケ気味に話を再開した。
「レイアームズはオドを使った強力な武器で、大抵のものならばっさり切れちゃうわ。しかも一点集中で触れた部分だけにダメージを与える。つまりオルゴンリザード討伐にはもってこいの武器というわけ」
「しかもその使い手であるテッサには、急所を的確に攻撃する技術があると」
「だからオルゴンリザードを一撃で倒すことは余裕でできるわ」
「ふむ」俺は少し考えてから言った。「それじゃあ、あとはバレずに近づければいいってことか?」
「そうよ。そしてそのための作戦もちゃんと考えてあるわ」
「そういえばそんなこと言っていたな」
「この作戦にはタツルの協力が不可欠。むしろタツルが肝だと言っていいわ」
「俺にそんな大役が? 分かっていると思うけど俺に戦闘力なんてないぞ?」
「大丈夫。準備さえちゃんとすればね。と言うわけで、ここよ!」
そのセリフとともにテッサは足を止め、目の前にある建物を指差した。
この建物こそテッサが向かっていた場所らしい。
例によって文字が読めないので正確には分からないが、その外観からしてお店のようだった。
でもいったい何のお店?
その疑問に答えるかのようにテッサが言った。
「この店でパワードスーツをレンタルするわ!」
「え?」
耳を疑いつつ店内に入った俺は、その光景に目を輝かせた。
「おお!」
パワードスーツ。
着用することでその人の能力を増幅させる機械装置。
足や腕などの一部の筋力を増強させるものから、全身を包み込むタイプまで。
人間が本来持っている力を補助するものから、空を飛べたり手のひらからビームを出せたりするものまで。
用途もサイズも見た目も異なる様々なパワードスーツが、店内にはずらりと並べられていた。
「すげー! これ全部パワードスーツかよ!」
「ここはパワードスーツ専門店だからね。ニッチなものまで何でも揃っているわ」
「ほほー」
俺はSFオタクでも機械オタクでもないが、これだけのガジェットを目の当たりにしたらさすがにテンションが上がって来た。思わずじろじろと見て回ってしまう。
「って、さっきレンタルするって言っていたよな? それってもしかして……」
「そう、タツルが着るパワードスーツよ」
「マジか!」
パワードスーツ着ていいんですか?
もしかしてアイアンな男になれちゃうんですか?
そしたら俺でも、空を飛べちゃったりして……。
そんな風に妄想しているうちに、俺はある考えに至った。
そうだよ、ここはSF世界。
ファンタジー世界のような魔法やスキルなんてものはない。
だけど、この発達した科学がある。
体を鍛えなくとも車を使えば誰でも時速60キロメートルで走れる。
自動運転が実現すれば運転技術さえも関係なくなる。
科学の前では、身体的な才能や努力は必要ないのだ。
そうすると頭を使っていかにツールを使いこなすかが重要になってくる。
このSF世界ではそれがもっと顕著だろう。
つまりだ……。
技術や特技がない俺でも、科学の力を駆使すればスペースランナーとして活躍できるはずだ!
十分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。
このSF世界では誰もが平等に魔法を使える。
チート能力は、誰にでも開かれているのだ。
「じゃあ、俺はパワードスーツを着てオルゴンリザード討伐に参加するんだな?」俺は興奮気味にテッサに訊ねた。
「ええ、もちろん。パワードスーツは私が選んであげるわね」
するとテッサは「すみませーん」と店員を呼んだ。
店の奥から店員の男がやって来て、テッサの呼びかけに応じた。
「はい、なんでしょう?」
「彼が着るパワードスーツをレンタルしたいの」
「どういったものをお望みで?」
「とびっきり頑丈で全身を守れるものがいいわ」
「かしこまりました。こちらなんていかがです? これを着ていればタングスゾウに踏みつぶされても無傷でいられますぞ」
「十分な強度ね。これにするわ。ああそうそう、支払いは後払いでお願いね」
「えっ……。お客様、当店は先払いのみ可能なのですが……」
「今はお金がないの。だけどこれを返す頃には大金を手に入れているわ。だから通常料金の2倍払ってあげる。それでどう?」
「いや、しかし……」
「しょうがないわね……。これを見なさい」
テッサはポケットからカードのようなものを取り出して店員に見せた。
店員は初め疑念の目でそれを見ていたが、内容を確認して目を丸くした。
「こ、これはアーカル養成学校の学生証!?」
「その通りよ。私ね、今アーカルの訓練を受けているんだけど、緊急でパワードスーツが必要になったの。それであなたを頼っているのだけど……。でも困ったわね。アーカルに協力してくれないなんて……」
「し、失礼しました。アーカルの方だとは思わなくて! このパワードスーツはもちろんお貸しします。どうぞ、お使いください!」
「本当? どうもありがとう」テッサは微笑んだ。
それから店員は気まずそうに営業スマイルを浮かべながらレンタルの手続きをし、そそくさと店の奥へと消えた。
どうやらパワードスーツのレンタルに成功したらしい。
通常にはない、後払いで。
「なんか今、権力を振りかざす音が聞こえた気がするんだけど、気のせいかな?」俺はボソッと呟いた。
「あっちが勝手に忖度しただけじゃない。私は何もしてないわよ」テッサがボソッと言い返した。
オドの使い手の中でも一部の人だけがなれる誇り高き職業、アーカル。
銀河の守護者として人々から憧れや尊敬の念を抱かれている、アーカル。
それは表の顔で、じつは腐敗しているとか言わないだろうな?
今のテッサの言動を見ていると不安になってくるぞ。
「まあ、何にせよこれでパワードスーツを着られるってわけだ」
全身を包み込むタイプのそのパワードスーツを見て、俺は再びわくわくしながら言った。
実際、そのパワードスーツの性能は素晴らしかった。
俺はパワードスーツを着用し、試しに近くの広場で体を動かしてみたのだが——。
「ひゃっほう!」
俺は軽くジャンプしただけで、10メートル近く空に飛び上がった。
姿勢制御システムが働き、バランスを崩すことなく着地も難なく成功させる。
これはすごい。想像以上に快適だし強力だ。筋肉の動きに合わせてパーツが駆動することで俺の身体能力は大幅にアップ。それだけでなく各種センサーによって視覚や聴覚といった感覚までもが強化されている。それらのサポートは制御システムが自動で行ってくれるため煩わしい操作も必要なし。俺がしたいことを瞬時に読み取って実現してくれる。
まるで覚醒した主人公の気分だ。
もう何も怖くない。
「気に入ったみたいね」俺の様子を見てテッサが言った。
「ああ。これならオルゴンリザードとも戦えそうだぜ!」俺は握り拳を作って意気揚々と言った。「で、俺は何をしたらいいんだ?」
その瞬間、テッサが俺の胸にキスをした。
もちろんパワードスーツ越しでだ。しかしこのパワードスーツには触覚を伝える機能がある。おかげでテッサの唇のやわらかさを俺は感じることになった。
「な、何をするんじゃボケェ!」
「何って、オドを流し込んだだけだけど?」
俺は大いにうろたえたが、テッサは予想外になんてことない顔をしていた。
なんか悔しい。
今更だが、俺も平静を装って訊ねる。
「なんだそりゃ? なんでオドなんて流し込むんだよ?」
「そんなの、作戦のために決まっているじゃない」
「そういえば肝心の作戦を聞いていなかったな。俺はいったい何をすればいいんだ?」
「それはね……」
テッサは、邪悪な笑みを浮かべた。
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