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これから

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 それからは…毎日、朝起きると着替えて、実家へと行く。人型の愁さまと一緒に。そうして、私はおかあさまと一緒に朝餉の準備をする。愁さまは…ただごろごろとしている時もあれば、居ないなと思ったら雉などの鳥を仕留めてきてくれるので、朝食や夕食の食材としてそれを使って料理したりする。血抜きとかは…おとうさまか弟がやってくれるけど、いつのまにか愁さまも出来るようになった、らしい。

「冬は牡丹鍋もいいなぁ」
「流石にイノシシは捌いた事がないので調理できませんが」
「誰か居るだろう」
「聞いてみますから、それからにしてくださいよ」
「おーいいぞ。もうそろそろ丸々太って旨くなるから、早めにな」

 裏庭で、おとうさまと愁さまの、血抜きしながらの会話が聞こえてきて、くすくすと笑ってしまう。

「おかあさま。今度は牡丹鍋がいいんですって」
「あらまあ…なんだか贅沢に慣れてしまいそうで怖いわ」

 そうなのだ。眷属様という事もあって、狩りに関しては凄腕ともいえる。しかも…どうやら、私への貢ぎ物、という事らしい。これはおとうさまも…妹様の時にあった事だから良く知っていると言っていたけど。

「お稲荷様って肉食なんだな」
「今更それかぁ?」
「だって、いままで握り飯とおあげ、お供えしてたから」
「あ~それは眷属としてつーか、人として在る為に必要なモノだからな。まあ、細かい事は気にすんな」

 毎朝のお供えがそういう物だとは思わなかった。こんな所でこういう風に聞くとは思わなかったけど。おかあさまも聞こえたらしく、目を丸くしてる。おかあさまと顔を見合わせて、くすくすと笑ってしまう。
 今日の朝餉は、ご飯とみそ汁と、日干しした川魚だ。これも…愁さまと、弟が昨日釣りに行って、取って来たもの。愁さまは、流石に道具を使って釣りをしたことがなかったらしく、楽しかったと喜んでたわね。
 弟の口調が気になるけど…愁さまも気にした風でもないし、あれでいいのかしらと不安になる。でも、なんだか…愁さまは、見た目が…なんというか、すらりとしていて背も高いし、細面で目は細目だけど、基本笑っているようなお顔だからか、とっつきやすいのかもしれない。それとも子供受けする顔なのかしら。

「もうできあがるわ。手を洗って、食卓へ着くように言ってきて頂戴」
「はい」

 確かにもう魚も焼きあがりそうで、いい香りがしてる。言われたように、そのまま裏戸から出て、声を掛ける。今日も、にぎやかな日が始まる。
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