あやかしの生贄

新条 カイ

文字の大きさ
上 下
5 / 7
序章

5

しおりを挟む
 生気が食料替わりと言われて…生贄と言われていたことも思い出して、愕然とした。
 
「たべ、られる…」

 思わずこぼれたその呟きを、その生き物…斎は、違うと言う。

「でも、食料って」
「食べるっていうとちょっと違うんだ。人…特に生娘は、強い…なんて言えばわかるかな。気とか、オーラとか、そういうモノを、生きてるだけで発しているんだ。それを吸収しているだけだから、ただここにいてくれればいい」

 と、それを聞いて安心した。ほっと溜息をつくと、私が理解したと分かったのか、斎はまた話を続ける。

「一応、この祭場は、その気とかオーラを出さないように、また強化する効果があるんだ。この建物は、いろんな神様が知恵を出し合って作った物なんだけど…その生娘を用意する為に、その時の神様がたまたま選んでしまったのが、君の村、というわけさ」
「…たまたま、ですか」
「そう。たまたま。偶然。ただ、一応その恩恵はあるんだ。よそでは不作で飢饉になっても、村ではそこまで酷い状況にはならない、とか。日照りや暴風にやられない、とか…そういう恩恵」

 不作…って、なんだろう?日照り?暴風?限られた人としか…それも、極力話さないようにしていた私では、意味が理解出来ない。家の外から聞こえてくる噂話でも、そういった話は聞かなかったから。
 そうやって、首をかしげていると、わからなくてもいいと言われた。

「そういう訳でね…娘一人差し出すだけで、生活に困らない様にと言われれば、遠くに嫁にやるようなもんだと言って、こうやって生贄が用意されるという訳。君にとっては、災難以外の何物でもないけど」
「………」

 災難。確かにそうだ。世話をやいてくれる人が小さい時はいたけれど、自分で色々できるようになってからは村でも一人で過ごしていたし…ほかの子と一緒に遊ぶことも出来なかった。もちろん…親も分からない。
 ただ…不幸か、と言われると…?いや、ここには…死にに行くようなものだと、寂しいとは思っていたし…

「それから…外に行く事も出来ると言ったけれど、それは食事を取る為、と考えて欲しい」
「食事…」

 そう言えば…食事を朝届けるとは言っていたけれど、それはあの…村からの、鳥居の所に、だ。それを毎朝、今までと同じようにとりに行かなければならない。その為だけ、ということ?
 疑問を言えば、食材をある程度の頻度で届けてもらう、というのも、初期にはやっていたけれど、死んだ時に察知しにくいという問題から、今の様になったそうで。

「さっきも言ったけど、外が楽しくて、この祭場を開けがちになると困るから…だから、そうだね。僕は、君のお助けキャラでもあるけれど、逃げ出さない為のお目付け役ともいうね」
「…逃げても、どう生きていけばいいのか分からないもの」

 一瞬、どきっとした。何度も、村では逃げ出したいと…もっと、他の子と話したり、遊んだりしたいと思った。でも…勇気が出なかった。かわいそうだという声もあったけど、ありがたいという声もあったから。なんだか、あの家から出るのも怖かったし。

「まあ、人によって様々だけど、ここでの生活も悪くないと思うよ」
しおりを挟む

処理中です...