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古く悪臭のする召使いの館(1)
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二件の依頼をこなした研吾はやはりどこか気を張っていたのだろう、その顔には疲れの色が見える。隣で歩いていたミルファーにはその様子がまじまじとわかった。
きっと、自分たちでは想像もつかないような気苦労があるのだろうと。そんな研吾のために何かできないかと考えたときに一つの提案をしていた。
「ケンゴ様、このあと時間があるようでしたら私たちの館に来ませんか? 大したことはできませんがおもてなしさせていただきます」
王城のすぐそば、兵たちが訓練に使用している訓練場すぐ近くにあった歴史を感じさせ、なおかつ芸術的な建物がそこに建っていた。
この建物の歴史は古く数百年前、まだこの国に奴隷制度があった時代、奴隷たちの住む家として建てられたものだった。しかし、奴隷制度がなくなった今、王城にて雇われた召使いたちにあてがわれる家として残っている。ここに住む召使いたちは食うものに困り、生きていけなくなったものたちに国王が仕事を与える代わりに衣食住を与えているものたちだ。
しかし、その家にも様々な問題が残されていた。
「な、なんだか歴史の趣を感じさせる家だな……」
この建物を見た研吾の感想はまずそれだった。顔は固まり、頬は小刻みに動いている。きっと今の言葉だって無理して取り繕ったのだろう。
「そんな無理をしなくていいですよ。この建物が建てられたのは数百年前、もうかなり古い建物になります」
「へぇ……、それだけ昔の建物なんだ」
ミルファーの言葉で逆に研吾はその建物に興味を持ったようだ。壁のすぐそばまでよってじっくりと眺めていた。
「この素材はなんだろう? 魔吸石……ではなさそうだし、木造でもない。土……なのか?」
研吾が壁を触ると表面がボロボロとこぼれ落ちる。
「うわっ、ご、ごめんなさい」
思わず手を引っ込めると誰もいないはずの壁に謝る研吾。その様子がおかしくてミルファーは少し笑みを作る。
「大丈夫ですよ。よくあることですから」
微笑みながら玄関の扉に手をかける。
ガタガタッ。
建て付けが悪いこの扉は開けるのに少しコツがいる。扉を軽く持ち上げて上下左右に少し動かす。すると硬いながらも扉が開く。
「な、なんだか開けるのが大変なんだね」
「いえ、慣れたらそうでもないですよ」
「慣れなんだ……」
研吾は少し呆れているようにも見える。
そんな研吾を横目に屋敷の中へと案内する。歴史を感じさせる外見と同様、内装も古くなり、所々隙間風が吹く状態だった。ただ、召使いたちの住む家、掃除は行き届いており埃や虫の巣といったものはついていない。
「意外と綺麗なんだね」
そのことは研吾も褒めてくれる。
「はい、やはり召使いとして掃除はきっちりしてますので」
褒められるとどこか嬉しい。
「ただ、この臭いは?」
どこからともなく漂う悪臭。昔からの設備をそのまま使っているため、トイレやキッチンといった設備機器からはいくら綺麗にしても悪臭が漂っていた。
「申し訳ありません。今換気しますね」
部屋の窓を先ほどと同じように上下左右に動かしながら開ける。
そして、研吾にはテーブルに着くように勧め、ミルファーはお茶の準備を始める。
旧式の魔石コンロでは火をつけるのにも時間がかかり、また、火力も弱いため沸騰するまでに時間がかかる。
そしてやっと沸いたお湯を研吾の分はそれなりに高い茶葉を入れ注ぐ。ミルファーの分には安いものを使用して……。
「おまたせしました」
ミルファーがトレイにカップを乗せて持っていくと研吾の周りには男女の召使いたちが囲っていた。
「ねぇねぇ、どうしてここにきたの?」
「あんた、確か王国の依頼で噂の先生だろ!」
「あっ、ミルファーたちが仕えてるっていうあの?」
「そうそう、もしかしてミルファーに連れてこられたの?」
「あの子、顔に似合わずにやるわね」
「でも、少し華奢だから力仕事には向かないわね」
引きつった笑みを浮かべる研吾に御構い無しに一方的に話しかけている。
「ケンゴ様が困ってますよ!」
ミルファーは口を尖らせて注意する。すると囲っていた召使いたちはバツが悪そうにそそくさと離れていった。
「ごめんなさい。休んでもらおうと思ったのに余計に疲れさせたみたいで」
「いや……、なんていうかみんな仲がいいですね。俺が悪い人じゃないかを品定めしていたみたいで」
「私はこの中でも年下なほうですからみんな心配してくれてるんです。バルドールさんも一緒だから大丈夫なのに」
もう一度彼らが逃げていった先をにらんでみるとまだ陰から見ていたようで慌てて隠れていた。
「ところでここの建物、何だかいびつな形をしているね」
「あっ、そうですね。ここは人数が増えるたびにそれぞれで勝手に増築していましたから。素材もそれぞれで使いやすい物を使っていますからバラバラですね」
「それにこの悪臭……設備からするのか?」
「はい、ここの設備は昔からの物でずっと変えていませんからね。仕方ないと言えば仕方ないですね。直すだけのお金もありませんから」
設備はそれなりに値段がする。すべてを取り替えるとなると金貨数枚は覚悟しないといけない。召使いの給与だとそれなりに時間がかかる。それならお金を貯めて独り立ちしようとする者の方が多かった。
「そうなんだ……」
ゆっくり休んでもらおうと思ったのに逆に研吾は考え悩んでしまっていた。
翌日、いつもならミルファーたちが研吾を迎えに行くのだが今日は研吾がこの館へとやってきた。それも一人ではなく大臣のギルギッシュと一緒にだ。
「あ、あの……ギルギッシュ様。私たちに何か御用でしょうか?」
ミルファーは少し不安げに顔を強張らせギルギッシュの反応を伺う。
「そんな怖い顔をしなくても悪い話題じゃない」
「そうですよ。ここに住んでる人たち全員呼んでもらえますか?」
嬉しそうに話す研吾。彼の表情から本当に悪い話ではないと理解できた。でも、それならどういった話だろう。とにかく言われた通りにここに住んでいる人を全員呼ぶ。男三人、女九人の合計十二人。女性の方が多いのは男性は力仕事をすることでお金を得る手段があるからだ。それでもたちいかなくなったものたちがここで暮らしている。
「全員そろったぞ!」
バルドールが人数を数え、そのことを大臣に報告する。彼はこの館のまとめ役のようなものもしていた。それはここでの暮らしが比較的長い方でみんなからも信頼を得ているということが大きかった。
「わかりました。それではここにいる皆に聞きたい。今回、こちらにおられるケンゴ様のご要望でこの館の改装工事を行おうと思う」
それを聞いた召使いたちから思い思いの歓声が上がる。
「静かに! ただ、それにはお金の問題がある」
確かに今までもここを直すだけのお金を集める者なんかいなかった。今回もそれかと落胆の声が上がり出す。
「静かに! そこでここの改修費に国から金貨二十五枚を与えようと思う。しかし、そのためにある条件を出した。その条件を聞いた上でこの館を改修したいかを聞きたい」
(まさか国からお金が出るとは思わなかった)
半ばあきらめかけていたこの館の設備。それが直せるかもしれないと少しざわつき出す。しかし、そのための条件があるとなるとみんな息をのみ、その条件を黙った聞く。
「その条件とは国外にも誇れる建物にすること。そして、場合によっては人が見に来ることもあると言うことだ。それでもいいならここにいるケンゴに改装を一任しようと思う。数分待つからみんなでよく話し合ってほしい」
大臣がそう言うとみんなが一斉に自分の意見を言い出す。しかし、そのどれもが改装に賛成という言葉だった。当然だ、今でも召使いという職業柄誰が来てもいいようにしてある。なんら変わらないわけだ。それを飲めば研吾が国外にも誇れるような素晴らしい建物にしてくれる。これで断る理由があるだろうか。
しかし、ミルファーには別の不安要素があった。
「ケンゴ様、本当にこの館を国外に誇れるようなものにできるのでしょうか?」
ミルファーの問いに研吾は何も言わずに笑顔で返してくれる。その顔を見たミルファーはなんとかなるんだと安心感を覚え、条件に同意することができた。
最終的に全員が賛成。それを聞くと研吾の顔に安心の色が浮かぶ。自分の要望が聞き入れられたからだろう。
館の改装をすることになった研吾は一人一人にどのような建物にしたいかを聞いていってる。こういうところ律儀だなと思う。一人一人はそれほど無茶な用件を言っているようには聞こえないけど前の人の要望とは違うことをいっているので要望自体は多そうだ。
『設備を新しくしてほしい』
『部屋から廊下までの距離が長いのをどうにかしてほしい』
『個室がほしい』
『今まではシャワーしかなかったのを大浴場付きにしてほしい』
『男女別のトイレがほしい』
『部屋が暗い』
『リビングやダイニングを広くしてほしい』
『丈夫な壁にしてほしい』
『冷暖房完備にしてほしい』
『収納庫がほしい』
要望はこんな感じだ。そして、あとはミルファーとバルドールを残すのみだった。
「遠慮しなくていいよ。どこまで聞けるかはわからないけどいうだけいってみて」
メモ用紙に走り書きしながら研吾は笑いかける。すると、バルドールは安心したように自分の要望を言う。
「今後人が増えた時用に予備の部屋がほしい」
また大変そうな要望を言っていたが、それでも研吾は笑みを崩さなかった。
「それでミルファーは?」
ついに自分の番になった。ろくに考えていなかったミルファーは言葉を詰まらせる。
「ぱっと思いついたことでいいから」
(そう言われても思いついたこと……研吾が来てくれたときになかなか水が沸騰しなかったから)
「最新式の設備がほしい……かな」
頭で考えていただけのつもりが思わず口に出てしまう。そして、慌てて口を紡ぐがばっちりと研吾に聞こえてしまったようだ。
「うん、わかったよ」
そのこともメモに加えていく研吾。その様子に一抹の不安を隠しきれなかった。
きっと、自分たちでは想像もつかないような気苦労があるのだろうと。そんな研吾のために何かできないかと考えたときに一つの提案をしていた。
「ケンゴ様、このあと時間があるようでしたら私たちの館に来ませんか? 大したことはできませんがおもてなしさせていただきます」
王城のすぐそば、兵たちが訓練に使用している訓練場すぐ近くにあった歴史を感じさせ、なおかつ芸術的な建物がそこに建っていた。
この建物の歴史は古く数百年前、まだこの国に奴隷制度があった時代、奴隷たちの住む家として建てられたものだった。しかし、奴隷制度がなくなった今、王城にて雇われた召使いたちにあてがわれる家として残っている。ここに住む召使いたちは食うものに困り、生きていけなくなったものたちに国王が仕事を与える代わりに衣食住を与えているものたちだ。
しかし、その家にも様々な問題が残されていた。
「な、なんだか歴史の趣を感じさせる家だな……」
この建物を見た研吾の感想はまずそれだった。顔は固まり、頬は小刻みに動いている。きっと今の言葉だって無理して取り繕ったのだろう。
「そんな無理をしなくていいですよ。この建物が建てられたのは数百年前、もうかなり古い建物になります」
「へぇ……、それだけ昔の建物なんだ」
ミルファーの言葉で逆に研吾はその建物に興味を持ったようだ。壁のすぐそばまでよってじっくりと眺めていた。
「この素材はなんだろう? 魔吸石……ではなさそうだし、木造でもない。土……なのか?」
研吾が壁を触ると表面がボロボロとこぼれ落ちる。
「うわっ、ご、ごめんなさい」
思わず手を引っ込めると誰もいないはずの壁に謝る研吾。その様子がおかしくてミルファーは少し笑みを作る。
「大丈夫ですよ。よくあることですから」
微笑みながら玄関の扉に手をかける。
ガタガタッ。
建て付けが悪いこの扉は開けるのに少しコツがいる。扉を軽く持ち上げて上下左右に少し動かす。すると硬いながらも扉が開く。
「な、なんだか開けるのが大変なんだね」
「いえ、慣れたらそうでもないですよ」
「慣れなんだ……」
研吾は少し呆れているようにも見える。
そんな研吾を横目に屋敷の中へと案内する。歴史を感じさせる外見と同様、内装も古くなり、所々隙間風が吹く状態だった。ただ、召使いたちの住む家、掃除は行き届いており埃や虫の巣といったものはついていない。
「意外と綺麗なんだね」
そのことは研吾も褒めてくれる。
「はい、やはり召使いとして掃除はきっちりしてますので」
褒められるとどこか嬉しい。
「ただ、この臭いは?」
どこからともなく漂う悪臭。昔からの設備をそのまま使っているため、トイレやキッチンといった設備機器からはいくら綺麗にしても悪臭が漂っていた。
「申し訳ありません。今換気しますね」
部屋の窓を先ほどと同じように上下左右に動かしながら開ける。
そして、研吾にはテーブルに着くように勧め、ミルファーはお茶の準備を始める。
旧式の魔石コンロでは火をつけるのにも時間がかかり、また、火力も弱いため沸騰するまでに時間がかかる。
そしてやっと沸いたお湯を研吾の分はそれなりに高い茶葉を入れ注ぐ。ミルファーの分には安いものを使用して……。
「おまたせしました」
ミルファーがトレイにカップを乗せて持っていくと研吾の周りには男女の召使いたちが囲っていた。
「ねぇねぇ、どうしてここにきたの?」
「あんた、確か王国の依頼で噂の先生だろ!」
「あっ、ミルファーたちが仕えてるっていうあの?」
「そうそう、もしかしてミルファーに連れてこられたの?」
「あの子、顔に似合わずにやるわね」
「でも、少し華奢だから力仕事には向かないわね」
引きつった笑みを浮かべる研吾に御構い無しに一方的に話しかけている。
「ケンゴ様が困ってますよ!」
ミルファーは口を尖らせて注意する。すると囲っていた召使いたちはバツが悪そうにそそくさと離れていった。
「ごめんなさい。休んでもらおうと思ったのに余計に疲れさせたみたいで」
「いや……、なんていうかみんな仲がいいですね。俺が悪い人じゃないかを品定めしていたみたいで」
「私はこの中でも年下なほうですからみんな心配してくれてるんです。バルドールさんも一緒だから大丈夫なのに」
もう一度彼らが逃げていった先をにらんでみるとまだ陰から見ていたようで慌てて隠れていた。
「ところでここの建物、何だかいびつな形をしているね」
「あっ、そうですね。ここは人数が増えるたびにそれぞれで勝手に増築していましたから。素材もそれぞれで使いやすい物を使っていますからバラバラですね」
「それにこの悪臭……設備からするのか?」
「はい、ここの設備は昔からの物でずっと変えていませんからね。仕方ないと言えば仕方ないですね。直すだけのお金もありませんから」
設備はそれなりに値段がする。すべてを取り替えるとなると金貨数枚は覚悟しないといけない。召使いの給与だとそれなりに時間がかかる。それならお金を貯めて独り立ちしようとする者の方が多かった。
「そうなんだ……」
ゆっくり休んでもらおうと思ったのに逆に研吾は考え悩んでしまっていた。
翌日、いつもならミルファーたちが研吾を迎えに行くのだが今日は研吾がこの館へとやってきた。それも一人ではなく大臣のギルギッシュと一緒にだ。
「あ、あの……ギルギッシュ様。私たちに何か御用でしょうか?」
ミルファーは少し不安げに顔を強張らせギルギッシュの反応を伺う。
「そんな怖い顔をしなくても悪い話題じゃない」
「そうですよ。ここに住んでる人たち全員呼んでもらえますか?」
嬉しそうに話す研吾。彼の表情から本当に悪い話ではないと理解できた。でも、それならどういった話だろう。とにかく言われた通りにここに住んでいる人を全員呼ぶ。男三人、女九人の合計十二人。女性の方が多いのは男性は力仕事をすることでお金を得る手段があるからだ。それでもたちいかなくなったものたちがここで暮らしている。
「全員そろったぞ!」
バルドールが人数を数え、そのことを大臣に報告する。彼はこの館のまとめ役のようなものもしていた。それはここでの暮らしが比較的長い方でみんなからも信頼を得ているということが大きかった。
「わかりました。それではここにいる皆に聞きたい。今回、こちらにおられるケンゴ様のご要望でこの館の改装工事を行おうと思う」
それを聞いた召使いたちから思い思いの歓声が上がる。
「静かに! ただ、それにはお金の問題がある」
確かに今までもここを直すだけのお金を集める者なんかいなかった。今回もそれかと落胆の声が上がり出す。
「静かに! そこでここの改修費に国から金貨二十五枚を与えようと思う。しかし、そのためにある条件を出した。その条件を聞いた上でこの館を改修したいかを聞きたい」
(まさか国からお金が出るとは思わなかった)
半ばあきらめかけていたこの館の設備。それが直せるかもしれないと少しざわつき出す。しかし、そのための条件があるとなるとみんな息をのみ、その条件を黙った聞く。
「その条件とは国外にも誇れる建物にすること。そして、場合によっては人が見に来ることもあると言うことだ。それでもいいならここにいるケンゴに改装を一任しようと思う。数分待つからみんなでよく話し合ってほしい」
大臣がそう言うとみんなが一斉に自分の意見を言い出す。しかし、そのどれもが改装に賛成という言葉だった。当然だ、今でも召使いという職業柄誰が来てもいいようにしてある。なんら変わらないわけだ。それを飲めば研吾が国外にも誇れるような素晴らしい建物にしてくれる。これで断る理由があるだろうか。
しかし、ミルファーには別の不安要素があった。
「ケンゴ様、本当にこの館を国外に誇れるようなものにできるのでしょうか?」
ミルファーの問いに研吾は何も言わずに笑顔で返してくれる。その顔を見たミルファーはなんとかなるんだと安心感を覚え、条件に同意することができた。
最終的に全員が賛成。それを聞くと研吾の顔に安心の色が浮かぶ。自分の要望が聞き入れられたからだろう。
館の改装をすることになった研吾は一人一人にどのような建物にしたいかを聞いていってる。こういうところ律儀だなと思う。一人一人はそれほど無茶な用件を言っているようには聞こえないけど前の人の要望とは違うことをいっているので要望自体は多そうだ。
『設備を新しくしてほしい』
『部屋から廊下までの距離が長いのをどうにかしてほしい』
『個室がほしい』
『今まではシャワーしかなかったのを大浴場付きにしてほしい』
『男女別のトイレがほしい』
『部屋が暗い』
『リビングやダイニングを広くしてほしい』
『丈夫な壁にしてほしい』
『冷暖房完備にしてほしい』
『収納庫がほしい』
要望はこんな感じだ。そして、あとはミルファーとバルドールを残すのみだった。
「遠慮しなくていいよ。どこまで聞けるかはわからないけどいうだけいってみて」
メモ用紙に走り書きしながら研吾は笑いかける。すると、バルドールは安心したように自分の要望を言う。
「今後人が増えた時用に予備の部屋がほしい」
また大変そうな要望を言っていたが、それでも研吾は笑みを崩さなかった。
「それでミルファーは?」
ついに自分の番になった。ろくに考えていなかったミルファーは言葉を詰まらせる。
「ぱっと思いついたことでいいから」
(そう言われても思いついたこと……研吾が来てくれたときになかなか水が沸騰しなかったから)
「最新式の設備がほしい……かな」
頭で考えていただけのつもりが思わず口に出てしまう。そして、慌てて口を紡ぐがばっちりと研吾に聞こえてしまったようだ。
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