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十一月二日(水)大伯父の代わりに
しおりを挟むフクのベッドは一番窓側だった。
ヒサ江がカーテンからのぞいて様子を見ている。
そしてこっちに向かって手招きした。
「起きてるから、平気だよ」
「は、はい。今行きます」
白井が返事をした時だ。
「あさと、さん」
はっきりと振り絞るような声で、そう聞こえた。
病室の外にいた三人も、にわかにドア口に殺到する。
「あさとさん」
どくん、と胸が揺さぶられた。
無意識に口が開く。
「……はい」
「あさとさん」
白井はようやく理解した。
フクは、#声_・__#に反応している。
「あさと、さん」
絶え絶えになる呼びかけ、白井は何かに導かれるようにベッドに近づいた。
――何を勘違いしている。
白井は、両手に抱えた歌の数々を見つめた。
――僕は、彼の代わりなのに。
この想いを携えた、ただの従者だ。
ヒサ江は、放心したような顔でそのままベッドから離れた。
宇佐見も、藤石も、京子も、ただじっと白井を見つめている。
「あさとさん」
繰り返される苦しそうな呼び声。
八十年以上もの間、繰り返された届かない呼び声。
白井はカーテンの隙間から、小さな老婆を見つけた。
顔のしわも、薄くなった頭髪も、何もかもが、初めて会った時と一緒だ。
ただ、違うのは眼差しだった。
真っ直ぐ、強い力で宙を見ている。
――ああ、生きている。
ずっと、こうして待っていてくれた相手にかける言葉は何だ。
――八十年前の……少女が僕の帰りを待っていたんだ。
白井は、近くの椅子に腰をかけると、小さな老婆の耳元に口を寄せた。
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