22 / 62
第二部 第二章 秘薬安駝駝
秘薬安駝駝2
しおりを挟む
単独でのラジオのゲスト出演を終えた悟空に飛びついてきたのは八戒だった。
「兄貴ぃ!大変だ!玄奘が紅害嗣と二人で練習するってスタジオにこもってる」
「おいどういうことだ?おれが仕事の間、玄奘のそばを離れんじゃないぞってお前と磁路に言っといたよな⁉︎」
八戒が言った放送局内のスタジオに駆け足で向かいながら八戒を問い詰める。胸倉を掴めない分、怒鳴り声で威圧するだけになるのがもどかしい。八戒を殴りつけたいが今は玄奘を助けに行くのが先決だ。
エレベーターを待っていられず階段を駆け上がる。鈍足の八戒は泣き言を言いながら、えっちらおっちらついてくる。
「この前、兄貴たちのキスを見てあいつも諦めたようだったしよぉ。ちょっとだけだから大丈夫って言われてさ」
「殴ってでも止めるか、一緒についていくかぐらいの気概を見せろ。ボディーガードとして何の役にも立たねえな、アホの鈍重豚めが」
「代わりにすぐ兄貴を呼びにきたじゃないかぁ。許してくれよ」
悟空は煮えくりかえる腑を抱えながら、たどりついたスタジオのドアを蹴り開けると、そこはもぬけの空だった。
ピアノの鍵盤蓋も閉まったまま、ドラムセットにもカバーがかかったままである。物音ひとつしない。
玄奘はどこだ。
悟空の臓腑は仁王に握りつぶされたように、ぎゅっと縮んだ。遅れてきた八戒の胸倉を掴んで揺さぶる。
「おい、どういうことだ。誰もいねえぞ」
久しぶりに走ったせいで赤く蒸気していた八戒の顔は急に青ざめた。
「あれ……ここにいろって言っといたんだけど、どういうことだ⁉︎あの卑怯者、さては約束破ったな」
「何の約束だよ、オイ」
「へへへ、なぁんだったかなあ?」
悟空に詰め寄られ、へらへらと笑った八戒の目は泳ぎに泳いでいた。
「オイ、それで磁路はどこだ?」
「磁路と納多は会議。最初は磁路も会議はキャンセルして玄奘の傍にいるって言ってたんだけど、紅害嗣も今となっては滅多な事しないだろうから、会議に行ってこいよって俺が言ったんだ」
「マネージャーが二人とも不在の時に、奴が玄奘と二人きりでの練習だと?……八戒?お前が仕組みやがったな?」
悟空が額に青筋を立てているのを見て、八戒は正直に告白した。
「ごめん兄貴」
「なんてことしてんだよ、玄奘がまた攫われちまったじゃねえか!」
「兄貴と玄奘の仲をより深めようと思って一計を案じてみたんだよぉ。あいつに攫われて絶体絶命のピンチを兄貴がカッコ良く助けにくれば、玄奘だって感激するだろう?そしたら二人は本当につきあっちゃうかなってさ。だから玄奘と二人きりになって本気で口説いてみたらどうだって、意外と心変わりするかもよって、紅害嗣をけしかけてみたんだ」
本当に前世も今世もこの豚は余計なことしかしない。
「ったく、オメーの計画は穴だらけなんだよ、この大まぬけが!あいつが玄奘をどこに連れてったかは知らねえんだな?」
「知ってたらちゃんと言うさ。俺、そこまで薄情者じゃないよ」
役立たずとの会話を打ちきるために、悟空は八戒の頭をためらいなく殴った。
「痛えなぁ」
「これぐらいで済んだことに感謝するんだな」
悟空はスマホで悟浄に連絡した。相変わらず悟浄はすぐに応答する。
「玄奘が攫われた。今どこにいるかわかるか?」
「今PCを立ち上げるゆえ、しばし待て。玉竜、練習は中断しよう、緊急事態だ」
打てば響くように対応を始める悟浄は、玉竜とボイストレーニング中だったようだ。犯罪すれすれのネットハッカーでもある悟浄はすぐに玄奘の居場所を特定した。
「玄奘の場所は今から送る。店内の監視カメラを確認したんだが映っていない。どうやらカメラのないVIPルームにいるようだな」
「またVIPルームかよっ、あいつも好きだなぁ」
スピーカーモードで悟浄の話を聞いていた八戒が、背後でぼやいているが黙殺する。
「カメラがないのをいい事にまたおぞましいエロ同人誌のようなことを玄奘に致しておるやもしれぬ。悟空、急いだ方がいい」
「言われるまでもねえよ、すぐに乗り込んでいって殴り殺してやる」
通話を切ろうとした直前に、電話の向こうの玉竜に呼び止められた。悟浄もスピーカーモードにしており、隣にいた玉竜も通話内容を聞いていたらしい。
「悟空?」
「なんだよ」
「僕さ、初めは紅害嗣のこと嫌いだったんだけど牛家族とも一緒に練習したりしてわかったんだ。紅害嗣ってそんなに悪い奴でもない気がするんだよね。ただ常識を知らなすぎるだけでさ」
「だからなんだよ、玄奘を攫っといて許せるわけねえだろ」
「まあそれはそうだけど」
悟空はスマホをしまい、「行くぞ、豚」と声をかけた。
放送局の出口を出たところ、おりしもひどい雨風で押し戻されそうな勢いだった。エントランスの庇の部分にも雨が打楽器のように容赦なく叩きつけてくる。夏の夕方のゲリラ豪雨だ。庇の内側にいても霧雨のようになった雨が腕を湿らせ、肌寒ささえ感じるほどだ。
「なあ、マネージャーに言って、車借りてこようぜ」
二の腕をさすりながら八戒が言ったが、悟空は靴紐を硬く結び直して走り出す構えだ。のろまな豚はかえって足手まといになる。
「ここからなら走った方が速い。お前はマネージャー連れて後から車で来い」
降りつける風雨をものともせず、悟空は駆けだした。
「兄貴ぃ!大変だ!玄奘が紅害嗣と二人で練習するってスタジオにこもってる」
「おいどういうことだ?おれが仕事の間、玄奘のそばを離れんじゃないぞってお前と磁路に言っといたよな⁉︎」
八戒が言った放送局内のスタジオに駆け足で向かいながら八戒を問い詰める。胸倉を掴めない分、怒鳴り声で威圧するだけになるのがもどかしい。八戒を殴りつけたいが今は玄奘を助けに行くのが先決だ。
エレベーターを待っていられず階段を駆け上がる。鈍足の八戒は泣き言を言いながら、えっちらおっちらついてくる。
「この前、兄貴たちのキスを見てあいつも諦めたようだったしよぉ。ちょっとだけだから大丈夫って言われてさ」
「殴ってでも止めるか、一緒についていくかぐらいの気概を見せろ。ボディーガードとして何の役にも立たねえな、アホの鈍重豚めが」
「代わりにすぐ兄貴を呼びにきたじゃないかぁ。許してくれよ」
悟空は煮えくりかえる腑を抱えながら、たどりついたスタジオのドアを蹴り開けると、そこはもぬけの空だった。
ピアノの鍵盤蓋も閉まったまま、ドラムセットにもカバーがかかったままである。物音ひとつしない。
玄奘はどこだ。
悟空の臓腑は仁王に握りつぶされたように、ぎゅっと縮んだ。遅れてきた八戒の胸倉を掴んで揺さぶる。
「おい、どういうことだ。誰もいねえぞ」
久しぶりに走ったせいで赤く蒸気していた八戒の顔は急に青ざめた。
「あれ……ここにいろって言っといたんだけど、どういうことだ⁉︎あの卑怯者、さては約束破ったな」
「何の約束だよ、オイ」
「へへへ、なぁんだったかなあ?」
悟空に詰め寄られ、へらへらと笑った八戒の目は泳ぎに泳いでいた。
「オイ、それで磁路はどこだ?」
「磁路と納多は会議。最初は磁路も会議はキャンセルして玄奘の傍にいるって言ってたんだけど、紅害嗣も今となっては滅多な事しないだろうから、会議に行ってこいよって俺が言ったんだ」
「マネージャーが二人とも不在の時に、奴が玄奘と二人きりでの練習だと?……八戒?お前が仕組みやがったな?」
悟空が額に青筋を立てているのを見て、八戒は正直に告白した。
「ごめん兄貴」
「なんてことしてんだよ、玄奘がまた攫われちまったじゃねえか!」
「兄貴と玄奘の仲をより深めようと思って一計を案じてみたんだよぉ。あいつに攫われて絶体絶命のピンチを兄貴がカッコ良く助けにくれば、玄奘だって感激するだろう?そしたら二人は本当につきあっちゃうかなってさ。だから玄奘と二人きりになって本気で口説いてみたらどうだって、意外と心変わりするかもよって、紅害嗣をけしかけてみたんだ」
本当に前世も今世もこの豚は余計なことしかしない。
「ったく、オメーの計画は穴だらけなんだよ、この大まぬけが!あいつが玄奘をどこに連れてったかは知らねえんだな?」
「知ってたらちゃんと言うさ。俺、そこまで薄情者じゃないよ」
役立たずとの会話を打ちきるために、悟空は八戒の頭をためらいなく殴った。
「痛えなぁ」
「これぐらいで済んだことに感謝するんだな」
悟空はスマホで悟浄に連絡した。相変わらず悟浄はすぐに応答する。
「玄奘が攫われた。今どこにいるかわかるか?」
「今PCを立ち上げるゆえ、しばし待て。玉竜、練習は中断しよう、緊急事態だ」
打てば響くように対応を始める悟浄は、玉竜とボイストレーニング中だったようだ。犯罪すれすれのネットハッカーでもある悟浄はすぐに玄奘の居場所を特定した。
「玄奘の場所は今から送る。店内の監視カメラを確認したんだが映っていない。どうやらカメラのないVIPルームにいるようだな」
「またVIPルームかよっ、あいつも好きだなぁ」
スピーカーモードで悟浄の話を聞いていた八戒が、背後でぼやいているが黙殺する。
「カメラがないのをいい事にまたおぞましいエロ同人誌のようなことを玄奘に致しておるやもしれぬ。悟空、急いだ方がいい」
「言われるまでもねえよ、すぐに乗り込んでいって殴り殺してやる」
通話を切ろうとした直前に、電話の向こうの玉竜に呼び止められた。悟浄もスピーカーモードにしており、隣にいた玉竜も通話内容を聞いていたらしい。
「悟空?」
「なんだよ」
「僕さ、初めは紅害嗣のこと嫌いだったんだけど牛家族とも一緒に練習したりしてわかったんだ。紅害嗣ってそんなに悪い奴でもない気がするんだよね。ただ常識を知らなすぎるだけでさ」
「だからなんだよ、玄奘を攫っといて許せるわけねえだろ」
「まあそれはそうだけど」
悟空はスマホをしまい、「行くぞ、豚」と声をかけた。
放送局の出口を出たところ、おりしもひどい雨風で押し戻されそうな勢いだった。エントランスの庇の部分にも雨が打楽器のように容赦なく叩きつけてくる。夏の夕方のゲリラ豪雨だ。庇の内側にいても霧雨のようになった雨が腕を湿らせ、肌寒ささえ感じるほどだ。
「なあ、マネージャーに言って、車借りてこようぜ」
二の腕をさすりながら八戒が言ったが、悟空は靴紐を硬く結び直して走り出す構えだ。のろまな豚はかえって足手まといになる。
「ここからなら走った方が速い。お前はマネージャー連れて後から車で来い」
降りつける風雨をものともせず、悟空は駆けだした。
0
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる