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秘密の理由
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あたしは、同級生の尾藤司に片想いしている。だから、話すきっかけが欲しかった。
部に仮入部の形で入ることはできたが、あたしは一週間までに結果を出さなくてはならない。
部の名前は『彼女をつくりたい部』。部活動内容は、名前の通りのそのままで、彼女を作るための部活。これは、学校の正式な部でなく、一部の仲良し男子が勝手に作ってやっている、所謂、ごっこ遊びの様なものだ。
でも、その“ごっこ遊び”は、あたしが思ったようなものではなかった。巫山戯や遊び半分ではなく、彼らは彼らなりに、大真面目で課題に取り組んでいた。
部長の夏樹の熱心な活動話を聞いていたら、自然と興味が湧いてきた。
それと、入部を希望したもう一つの理由ーー……
あたしは横をちらっと盗み見た。
同じ電車で横に座る、彼の姿。
彼、尾藤は部の副部長だ。
あたしは、彼が居るから部に入りたいと言った。
これはチャンスだと思った。
当然のことながら、男子は男子と、女子は女子とで、教室内では自然とグループ分けのようなものができている。その枠を何とも思っていない人もいるが、あたしは変なところで臆病だった。
しかし、部活ということなら、話す内容はたくさんありそうだし、彼らの近くにいても不自然ではない。
「朝宮?」
盗み見ていたはずが、いつの間にか、がっつりと彼の横顔を見てしまっていて、それを気づかれていた。
目が合ってしまい、内心で焦る。
「あ、あのさ!やっぱり、尾藤も彼女がほしいって、思ってるの?」
焦っていたとはいえ、唐突すぎる話題であり、質問であった。
けれど、尾藤は不審に思うことなく、普通に答えてくれた。
「個人的には、別に彼女はほしくないかな」
自分から聞いといて何だが、凄くショックを受けた。
まだ告白もしてないのに、フラレた。そんな気分だ。
「じゃあ、何で部活に?」
「あいつ等が副部長にしてやるからって言われて、それならいいかなって。あと、朝宮と同じ。ちょっとした好奇心みたいなものもあったから、かな」
“同じ”という言葉に、落ち込んでいた気持ちが舞い上がる。我ながら、単純すぎる。
「夏樹が出した課題、どうする?」
尾藤が言った。
部に入ることを、部員の日高に反対され、夏樹があたしに課題を出したのだ。
その課題は、一週間までに部員の誰かに女子友をつくること。それが正式な部員になる為の条件であった。
「俺が、彼女ができたってことにでもしようか?」
あたしは首を横に振った。
優しい申し出ではあるが、振りであったとしても、それだけは嫌だった。
「大丈夫。どんな男女もまずは、きっかけがあればだから。それに、上手くいけるかもっていう目星はついてるの」
「そっか」
まるで、期待してると言われたようで、勝手に嬉しくなる。
ますます、やる気が湧いてきた。
「尾藤は、昔、付き合っていた彼女とかいた?」
それは、ちょっとした興味本位であった。
「いたよ。いつも彼女の気持ちを探って、わかったつもりでいた。だけど、俺は何も、わかってあげれていなかった。それに気がついたのは、別れてからで」
尾藤の言葉に相槌を打ちながら、あたしはその元彼女を羨ましく思っていた。
彼女を思い出す彼の横顔から、本当に大切に思っていたのだと、実感したからだ。
『しなのー、しなの駅ー』
と、あたし達が降りる駅名が、車内にアナウンスされる。
会話の終わりなんて気にせず、電車がホームに流れるように入る。
尾藤がホームに降り、続いてあたしも降りる。
「俺は、東口から出るけど、朝宮は?」
「あたしは西口が近いから」
「じゃあ、明日も学校で」
背中を向けて歩き出す尾藤に、咄嗟に呼び止めそうになった。
「うん。また明日ね」
彼の名前を呑み込んだ代わりに、約束の言葉をかける。
告白は、あたしが正式な部員になれたとき。そう、心に決めた。
『秘密の理由』ー終ー
部に仮入部の形で入ることはできたが、あたしは一週間までに結果を出さなくてはならない。
部の名前は『彼女をつくりたい部』。部活動内容は、名前の通りのそのままで、彼女を作るための部活。これは、学校の正式な部でなく、一部の仲良し男子が勝手に作ってやっている、所謂、ごっこ遊びの様なものだ。
でも、その“ごっこ遊び”は、あたしが思ったようなものではなかった。巫山戯や遊び半分ではなく、彼らは彼らなりに、大真面目で課題に取り組んでいた。
部長の夏樹の熱心な活動話を聞いていたら、自然と興味が湧いてきた。
それと、入部を希望したもう一つの理由ーー……
あたしは横をちらっと盗み見た。
同じ電車で横に座る、彼の姿。
彼、尾藤は部の副部長だ。
あたしは、彼が居るから部に入りたいと言った。
これはチャンスだと思った。
当然のことながら、男子は男子と、女子は女子とで、教室内では自然とグループ分けのようなものができている。その枠を何とも思っていない人もいるが、あたしは変なところで臆病だった。
しかし、部活ということなら、話す内容はたくさんありそうだし、彼らの近くにいても不自然ではない。
「朝宮?」
盗み見ていたはずが、いつの間にか、がっつりと彼の横顔を見てしまっていて、それを気づかれていた。
目が合ってしまい、内心で焦る。
「あ、あのさ!やっぱり、尾藤も彼女がほしいって、思ってるの?」
焦っていたとはいえ、唐突すぎる話題であり、質問であった。
けれど、尾藤は不審に思うことなく、普通に答えてくれた。
「個人的には、別に彼女はほしくないかな」
自分から聞いといて何だが、凄くショックを受けた。
まだ告白もしてないのに、フラレた。そんな気分だ。
「じゃあ、何で部活に?」
「あいつ等が副部長にしてやるからって言われて、それならいいかなって。あと、朝宮と同じ。ちょっとした好奇心みたいなものもあったから、かな」
“同じ”という言葉に、落ち込んでいた気持ちが舞い上がる。我ながら、単純すぎる。
「夏樹が出した課題、どうする?」
尾藤が言った。
部に入ることを、部員の日高に反対され、夏樹があたしに課題を出したのだ。
その課題は、一週間までに部員の誰かに女子友をつくること。それが正式な部員になる為の条件であった。
「俺が、彼女ができたってことにでもしようか?」
あたしは首を横に振った。
優しい申し出ではあるが、振りであったとしても、それだけは嫌だった。
「大丈夫。どんな男女もまずは、きっかけがあればだから。それに、上手くいけるかもっていう目星はついてるの」
「そっか」
まるで、期待してると言われたようで、勝手に嬉しくなる。
ますます、やる気が湧いてきた。
「尾藤は、昔、付き合っていた彼女とかいた?」
それは、ちょっとした興味本位であった。
「いたよ。いつも彼女の気持ちを探って、わかったつもりでいた。だけど、俺は何も、わかってあげれていなかった。それに気がついたのは、別れてからで」
尾藤の言葉に相槌を打ちながら、あたしはその元彼女を羨ましく思っていた。
彼女を思い出す彼の横顔から、本当に大切に思っていたのだと、実感したからだ。
『しなのー、しなの駅ー』
と、あたし達が降りる駅名が、車内にアナウンスされる。
会話の終わりなんて気にせず、電車がホームに流れるように入る。
尾藤がホームに降り、続いてあたしも降りる。
「俺は、東口から出るけど、朝宮は?」
「あたしは西口が近いから」
「じゃあ、明日も学校で」
背中を向けて歩き出す尾藤に、咄嗟に呼び止めそうになった。
「うん。また明日ね」
彼の名前を呑み込んだ代わりに、約束の言葉をかける。
告白は、あたしが正式な部員になれたとき。そう、心に決めた。
『秘密の理由』ー終ー
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