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6話 雨と隠蔽
3.体温
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盛りつけた器をセノンに渡し、カイオは穏やかに話を続けた。
「あとは最低限の装備点検だけ済ませて、早めに休みましょう。明日で目標を仕留めるか町に戻るかしなくてはいけません」
「分かった」
セノンはカイオの言葉に頷き、手早く食事を済ませる。
そしていつもの装備点検として、濡れた布で濡れた装備を拭き取り汚れを落とす。
水気が取り切れないのは諦める。
一日くらいなら錆びたり腐食したりはしないだろう。
簡単に点検を終わらせると、すぐに体を休めようと座ったまま目を瞑る。
横になろうにも荷物を広げて乾かすスペースも必要なため、当分はこのまま寝るしかない。
「…ダメだ、やっぱり寒い…!雨もうるさいしもう…!」
しかしそれも簡単ではなく、セノンは苛立たしげに目を開く。
暖かい食事をとったお陰で、一旦は体も温まった。
しかし時間が経ち時折吹き付ける雨風に晒されるうちに、再び体が冷え始めていた。
雨に打たれていた時ほどではなく命の危険もないが、地味に堪える寒さだ。
目を瞑ると否が応でも寒さに意識が行く。
直前まで整備に体を動かしていてこれなのだから、動きを止めてしまえばなおさらだ。
ポンチョとして防寒や雨除けに使える大きな布が完全に濡れてしまっているのも痛い。
それに激しい雨音もまたセノンの鋭敏な聴覚を刺激し、常人以上に神経に障る。
眠るには最悪の環境だった。
「着替えか防寒布が乾くまで待つべきかなぁ…」
「そんなに寒いですか?…ああ、確かに冷えてますね」
同じく体を休めるために髪を下ろし服を多少着替えたカイオが、呟きを聞きつける。
そして当然のようにセノン近づき、手に触れ確かめる。
たがそれよりも、セノンは触れてきたカイオの手の温もりに驚いていた。
同じ環境下にいるはずなのに、あまり冷えていない。
「カイオ、なんでそんなに手が暖かいの…?」
「これですか?ちょっとした炎熱魔法の応用です。体内の熱を外に逃がしにくく出来るんですよ」
平然としたカイオの言葉に、セノンは理不尽に怒りを覚えた。
やっかみだと自覚しつつも、思わず口に出す。
「なにそれ、ずるい…!僕にもかけたりできないの!?」
「他者にかけるのは無理ですよ。本格的な魔法でもなく、魔法の余波みたいなものですし」
「ええ…僕の白魔法じゃ、そんなこと出来ないよ…羨ましい…」
「まあ、体が冷えすぎていると無力ですがね。熱を生み出す魔法ではないので」
カイオの説明に、セノンは落胆する。
回復魔法はもとより、強化魔法をかけても体が熱を生み出すよう活性化したり、寒さに強くなったりはしない。
人によっては冷気に耐性を得る防護魔法を使えたりもするらしいが、少なくともセノンの適正ではそんなことは出来ない。
割と本気で気落ちするセノンを、すぐにカイオが慰めた。
「まあまあ。魔法はなくても、こうすれば暖かいですよ」
言葉と共に、カイオはセノンのすぐ傍に座り込む。
そのままセノンの肩に手を回し、自らの方へ引き寄せた。
「…あっ!?」
カイオの言わんとすることを遅まきながら理解し、セノンは慌てた。
ごく簡単なことで、暖かいもの…カイオの体にくっつけば暖まれる、ということだ。
そして繰り返し寒い寒いと騒ぎ、カイオの暖かさを羨んだことを後悔する。
受け取りようによっては、「体で暖めてほしい」とこちらから催促したようなものだ。
セノンは急激に恥ずかしくなり、必死にカイオから遠ざかろうとする。
「あっいや、そういうつもりじゃなくて…!?」
「遠慮なさらずに。セノン様のご要望とあれば一も二もありませんし、今更この程度で恥ずかしがることもないでしょう」
「だから違うって…!」
カイオの飄々としたそんな言葉が無性に恥ずかしい。
思わず離れようとするが、その瞬間冷たい風が吹き付けセノンは身を震わせた。
「…っくしゅ!」
「ほら、無理をしないで下さい。風邪でも引かれては困ります」
「う…」
くしゃみをしたセノンを心配し、カイオはやや強引にセノンの体を引き寄せた。
心配されるとセノンも最早抵抗のしようがない。
そのままカイオは後ろから覆い被さるようにセノンの体を抱え込み、手先は自らの手で握って暖めた。
「まだ寒いですか?」
「…ううん、暖かい。ありがとう…」
セノンは小さな声で、恥ずかしそうに礼を述べた。
(…なんだこれ、なんかすっごい恥ずかしい…!)
だがセノンはカイオの温もりを大層心地よく感じながらも、内心穏やかではなかった。
お互い服が濡れたまま体を寄せ合っているので、肌が触れ合う感触もなんとなくいつもより密に感じる。
恥ずかしさのあまり体温がかなり上がった気がして、そういう意味では非常に有効な寒さ対策かもしれないとセノンは思った。
「アルコールでもあれば体を温めやすかったですね。今度から非常食に加えておきますか」
「いや…お酒は、ちょっと僕は…」
「少しくらいなら大丈夫ですよ」
「でも…」
後ろから話しかけてくるカイオに、セノンはくすぐったさを感じて身じろぎしながら返事をする。
少し前に酩酊してカイオに迷惑をかけて以来、酒に若干の苦手意識ができていた。
まあもともと酒を飲むにしては若すぎる年齢であり、あれ以来酒を飲む機会などなかったのだが。
「あとは最低限の装備点検だけ済ませて、早めに休みましょう。明日で目標を仕留めるか町に戻るかしなくてはいけません」
「分かった」
セノンはカイオの言葉に頷き、手早く食事を済ませる。
そしていつもの装備点検として、濡れた布で濡れた装備を拭き取り汚れを落とす。
水気が取り切れないのは諦める。
一日くらいなら錆びたり腐食したりはしないだろう。
簡単に点検を終わらせると、すぐに体を休めようと座ったまま目を瞑る。
横になろうにも荷物を広げて乾かすスペースも必要なため、当分はこのまま寝るしかない。
「…ダメだ、やっぱり寒い…!雨もうるさいしもう…!」
しかしそれも簡単ではなく、セノンは苛立たしげに目を開く。
暖かい食事をとったお陰で、一旦は体も温まった。
しかし時間が経ち時折吹き付ける雨風に晒されるうちに、再び体が冷え始めていた。
雨に打たれていた時ほどではなく命の危険もないが、地味に堪える寒さだ。
目を瞑ると否が応でも寒さに意識が行く。
直前まで整備に体を動かしていてこれなのだから、動きを止めてしまえばなおさらだ。
ポンチョとして防寒や雨除けに使える大きな布が完全に濡れてしまっているのも痛い。
それに激しい雨音もまたセノンの鋭敏な聴覚を刺激し、常人以上に神経に障る。
眠るには最悪の環境だった。
「着替えか防寒布が乾くまで待つべきかなぁ…」
「そんなに寒いですか?…ああ、確かに冷えてますね」
同じく体を休めるために髪を下ろし服を多少着替えたカイオが、呟きを聞きつける。
そして当然のようにセノン近づき、手に触れ確かめる。
たがそれよりも、セノンは触れてきたカイオの手の温もりに驚いていた。
同じ環境下にいるはずなのに、あまり冷えていない。
「カイオ、なんでそんなに手が暖かいの…?」
「これですか?ちょっとした炎熱魔法の応用です。体内の熱を外に逃がしにくく出来るんですよ」
平然としたカイオの言葉に、セノンは理不尽に怒りを覚えた。
やっかみだと自覚しつつも、思わず口に出す。
「なにそれ、ずるい…!僕にもかけたりできないの!?」
「他者にかけるのは無理ですよ。本格的な魔法でもなく、魔法の余波みたいなものですし」
「ええ…僕の白魔法じゃ、そんなこと出来ないよ…羨ましい…」
「まあ、体が冷えすぎていると無力ですがね。熱を生み出す魔法ではないので」
カイオの説明に、セノンは落胆する。
回復魔法はもとより、強化魔法をかけても体が熱を生み出すよう活性化したり、寒さに強くなったりはしない。
人によっては冷気に耐性を得る防護魔法を使えたりもするらしいが、少なくともセノンの適正ではそんなことは出来ない。
割と本気で気落ちするセノンを、すぐにカイオが慰めた。
「まあまあ。魔法はなくても、こうすれば暖かいですよ」
言葉と共に、カイオはセノンのすぐ傍に座り込む。
そのままセノンの肩に手を回し、自らの方へ引き寄せた。
「…あっ!?」
カイオの言わんとすることを遅まきながら理解し、セノンは慌てた。
ごく簡単なことで、暖かいもの…カイオの体にくっつけば暖まれる、ということだ。
そして繰り返し寒い寒いと騒ぎ、カイオの暖かさを羨んだことを後悔する。
受け取りようによっては、「体で暖めてほしい」とこちらから催促したようなものだ。
セノンは急激に恥ずかしくなり、必死にカイオから遠ざかろうとする。
「あっいや、そういうつもりじゃなくて…!?」
「遠慮なさらずに。セノン様のご要望とあれば一も二もありませんし、今更この程度で恥ずかしがることもないでしょう」
「だから違うって…!」
カイオの飄々としたそんな言葉が無性に恥ずかしい。
思わず離れようとするが、その瞬間冷たい風が吹き付けセノンは身を震わせた。
「…っくしゅ!」
「ほら、無理をしないで下さい。風邪でも引かれては困ります」
「う…」
くしゃみをしたセノンを心配し、カイオはやや強引にセノンの体を引き寄せた。
心配されるとセノンも最早抵抗のしようがない。
そのままカイオは後ろから覆い被さるようにセノンの体を抱え込み、手先は自らの手で握って暖めた。
「まだ寒いですか?」
「…ううん、暖かい。ありがとう…」
セノンは小さな声で、恥ずかしそうに礼を述べた。
(…なんだこれ、なんかすっごい恥ずかしい…!)
だがセノンはカイオの温もりを大層心地よく感じながらも、内心穏やかではなかった。
お互い服が濡れたまま体を寄せ合っているので、肌が触れ合う感触もなんとなくいつもより密に感じる。
恥ずかしさのあまり体温がかなり上がった気がして、そういう意味では非常に有効な寒さ対策かもしれないとセノンは思った。
「アルコールでもあれば体を温めやすかったですね。今度から非常食に加えておきますか」
「いや…お酒は、ちょっと僕は…」
「少しくらいなら大丈夫ですよ」
「でも…」
後ろから話しかけてくるカイオに、セノンはくすぐったさを感じて身じろぎしながら返事をする。
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まあもともと酒を飲むにしては若すぎる年齢であり、あれ以来酒を飲む機会などなかったのだが。
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