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9話 泉と暴力
4.気まずい思い
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セノンとカイオは討伐対象となる、大型鬼人の目撃情報があった地点を目指し森の中に立ち入っていた。
重量級の魔獣が居た森と比べれば、幾らか木々や枝葉の密集具合は低く明るさを損なうこともないが、木々の密集具合からあまり大型種が住みやすい環境とは言えない。
そのため、目的地まではまだしばらくありそうだとセノンは感じた。
地図を持つカイオのナビゲーションに従いながら進んでいると、急に視界が開けてくる。
訝しみながらもそのまま進むと、眼前には泉が広がっていた。
直径十メートルちょっとの、小さな泉だ。
「おや、きれいな泉がありますね」
カイオは水を軽くすくい、水質を確かめる。
セノンにはよく分からないがしっかりとした水の流れがあるようで、変な臭い等もない。
カイオの言葉通りきれいな泉だ。
「…本当だ。地図には載ってなかったの?」
「まあ、この小ささですからね。安物の地図ですし」
カイオは泉のほとりから立ち上がり、セノンを振り返る。
「セノン様、ちょっとお時間をいただいてもよろしいですか?」
「…時間、大丈夫なの?」
「今の進行具合から見れば、大丈夫でしょう。手早く済ませますので」
カイオの返事に、セノンは複雑な表情をする。
だとすれば、特に許可を出さない理由もない。
セノンとしてはちょっと気まずいのだが。
「…なら、いいよ」
「ありがとうございます」
「変な物音もしないし、あんまり警戒しなくてもよさそう」
「分かりました」
セノンの許可を得て、カイオは装備を外し始める。
これから、水浴びをするためだ。
カイオは普段性別を偽っているため、町にある大衆浴場を利用することができない。
個別に風呂がついているような高級な宿に泊まることもほぼない。
普段は身清めの薬剤もあるためあまり気にしていないようだが、こうして水浴びができそうな場所を見つけるとカイオは積極的に水浴びをしたがる。
今日なんて天気もよく比較的温かいので最適だ。
「じゃあ、僕はちょっと離れたとこで警戒してるから…」
「ちょっと待って下さい」
その場から背を向けて離れようとするセノンを、カイオが引き止めた。
「な、なに?」
「この泉、地形的にどの方向からでも襲撃が可能です。念のため、あまり離れず全方向の警戒をして頂きたいのですが」
今まで水浴びをしてきたところは、奥まった滝つぼだったりかなり大きな湖であったり、地形的に特定の方向だけ警戒しておけばいいところばかりだった。
なのでセノンは毎回警戒の必要な方向に向かってカイオから離れ、終わるまで一切近づかないようにしていた。
ただ今回は平地の真ん中に小さな泉があるだけなので、言われてみればその通りだ。
「出来れば泉のほとりに居てください」
「いやでも、それ…」
下手すると見えちゃうよ、とはさすがに口に出来なかった。
「私も出来るだけ離れますし、なるべくお目汚ししないようにしますので」
「いや、別にそこまでしなくても…今聞く限り大丈夫だし、ちょっとくらい僕が離れたって…」
「なぜそこまで頑なに拒むのですか?」
不思議そうにカイオは疑問を呈する。
むしろ、カイオが全く気にしていない様子なのがセノンには不思議でならないのだが。
「なぜって…」
「別に全部脱ぐわけでもないんですし、そんなに気にしなくても。第一、セノン様に脱げだとか一緒に入れと言っているわけではないんですから、いいじゃないですか」
「…ああもう、分かったよ!」
カイオの言葉に、セノンは反論を諦める。
これ以上渋ると、それこそ一緒に入れとか言われそうだ。
「ああ、それとも隠れて陰から見たかったですか?だとしたら、気付かずに申し訳ありません」
「…絶対見たりなんかするもんか!!」
セノンは言葉を荒げるとカイオから少し離れた泉のほとりに行き、背中を向けて座り込んだ。
ついでに体を休めるため、背負っていた背嚢を足元に下ろす。
その様子をカイオはくすくす笑いながら見送り、同じよう少し離れると水浴びの準備を始めた。
やがてセノンの後方で水をかき分ける音と、水で体を清める音が聞こえてくる。
少しドキドキしつつ、その音をなるべく耳に入れないようにしながら周囲の音に意識を集中する。
今のところ、不審な物音はしていない。
(…ん?)
警戒を続けること数分、ふと奇妙な音を聞きつける。
かなり遠く、聞き取れるギリギリの距離だ。
(魔獣の足音…か?)
生き物の足音には間違いないだろうが、遠すぎるため細かな判別がつかない。
今回は僅かな情報しか聞き取れないが、少なくともこの音からはこちらを害そうとする敵意は感じ取れない。
それどころか、こちらに近づこうという意思すら感じ取れなかった。
そもそも、木々があるため向こうからこちらは視認できず、気付かれてもいないはずだ。
(でも、なんか気になるな…魔獣だったら討伐しておいたほうがいいし…)
離れていっているのか、聞こえたり聞こえなかったりする足音に対し、再度耳を澄ませる。
それでも聞こえなくなりつつある音を追いかけようと、セノンはその場から立ち上がった。
だがその瞬間、足元の岩がぐらつき、大きくバランスを崩した。
重量級の魔獣が居た森と比べれば、幾らか木々や枝葉の密集具合は低く明るさを損なうこともないが、木々の密集具合からあまり大型種が住みやすい環境とは言えない。
そのため、目的地まではまだしばらくありそうだとセノンは感じた。
地図を持つカイオのナビゲーションに従いながら進んでいると、急に視界が開けてくる。
訝しみながらもそのまま進むと、眼前には泉が広がっていた。
直径十メートルちょっとの、小さな泉だ。
「おや、きれいな泉がありますね」
カイオは水を軽くすくい、水質を確かめる。
セノンにはよく分からないがしっかりとした水の流れがあるようで、変な臭い等もない。
カイオの言葉通りきれいな泉だ。
「…本当だ。地図には載ってなかったの?」
「まあ、この小ささですからね。安物の地図ですし」
カイオは泉のほとりから立ち上がり、セノンを振り返る。
「セノン様、ちょっとお時間をいただいてもよろしいですか?」
「…時間、大丈夫なの?」
「今の進行具合から見れば、大丈夫でしょう。手早く済ませますので」
カイオの返事に、セノンは複雑な表情をする。
だとすれば、特に許可を出さない理由もない。
セノンとしてはちょっと気まずいのだが。
「…なら、いいよ」
「ありがとうございます」
「変な物音もしないし、あんまり警戒しなくてもよさそう」
「分かりました」
セノンの許可を得て、カイオは装備を外し始める。
これから、水浴びをするためだ。
カイオは普段性別を偽っているため、町にある大衆浴場を利用することができない。
個別に風呂がついているような高級な宿に泊まることもほぼない。
普段は身清めの薬剤もあるためあまり気にしていないようだが、こうして水浴びができそうな場所を見つけるとカイオは積極的に水浴びをしたがる。
今日なんて天気もよく比較的温かいので最適だ。
「じゃあ、僕はちょっと離れたとこで警戒してるから…」
「ちょっと待って下さい」
その場から背を向けて離れようとするセノンを、カイオが引き止めた。
「な、なに?」
「この泉、地形的にどの方向からでも襲撃が可能です。念のため、あまり離れず全方向の警戒をして頂きたいのですが」
今まで水浴びをしてきたところは、奥まった滝つぼだったりかなり大きな湖であったり、地形的に特定の方向だけ警戒しておけばいいところばかりだった。
なのでセノンは毎回警戒の必要な方向に向かってカイオから離れ、終わるまで一切近づかないようにしていた。
ただ今回は平地の真ん中に小さな泉があるだけなので、言われてみればその通りだ。
「出来れば泉のほとりに居てください」
「いやでも、それ…」
下手すると見えちゃうよ、とはさすがに口に出来なかった。
「私も出来るだけ離れますし、なるべくお目汚ししないようにしますので」
「いや、別にそこまでしなくても…今聞く限り大丈夫だし、ちょっとくらい僕が離れたって…」
「なぜそこまで頑なに拒むのですか?」
不思議そうにカイオは疑問を呈する。
むしろ、カイオが全く気にしていない様子なのがセノンには不思議でならないのだが。
「なぜって…」
「別に全部脱ぐわけでもないんですし、そんなに気にしなくても。第一、セノン様に脱げだとか一緒に入れと言っているわけではないんですから、いいじゃないですか」
「…ああもう、分かったよ!」
カイオの言葉に、セノンは反論を諦める。
これ以上渋ると、それこそ一緒に入れとか言われそうだ。
「ああ、それとも隠れて陰から見たかったですか?だとしたら、気付かずに申し訳ありません」
「…絶対見たりなんかするもんか!!」
セノンは言葉を荒げるとカイオから少し離れた泉のほとりに行き、背中を向けて座り込んだ。
ついでに体を休めるため、背負っていた背嚢を足元に下ろす。
その様子をカイオはくすくす笑いながら見送り、同じよう少し離れると水浴びの準備を始めた。
やがてセノンの後方で水をかき分ける音と、水で体を清める音が聞こえてくる。
少しドキドキしつつ、その音をなるべく耳に入れないようにしながら周囲の音に意識を集中する。
今のところ、不審な物音はしていない。
(…ん?)
警戒を続けること数分、ふと奇妙な音を聞きつける。
かなり遠く、聞き取れるギリギリの距離だ。
(魔獣の足音…か?)
生き物の足音には間違いないだろうが、遠すぎるため細かな判別がつかない。
今回は僅かな情報しか聞き取れないが、少なくともこの音からはこちらを害そうとする敵意は感じ取れない。
それどころか、こちらに近づこうという意思すら感じ取れなかった。
そもそも、木々があるため向こうからこちらは視認できず、気付かれてもいないはずだ。
(でも、なんか気になるな…魔獣だったら討伐しておいたほうがいいし…)
離れていっているのか、聞こえたり聞こえなかったりする足音に対し、再度耳を澄ませる。
それでも聞こえなくなりつつある音を追いかけようと、セノンはその場から立ち上がった。
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