電波少年と幽霊マネージャーの迷宮探索裏街道

春池 カイト

文字の大きさ
29 / 57
3 騒がしく始まり、静かに終わる

夏後半の予定

しおりを挟む
「そうそう、あの話、エリスはどう思う?」
「ああ、ボツスキルとボツアイテムのことね」

 母さんとの話で出てきていた、「ダンジョン探索に役立たないスキルやアイテムは出てこない」ということ。
 先の氷玉は明らかに欠陥だったので、ボツにされるのはわかる。
 だけど、もしかすると有用なスキルでもダンジョン探索観点で無用とされて、ボツにされてしまったものがあるとすると……

「結論から言うと、それらしいものはいくつかあるけど、今のカナメの状況を改善できるようなものは知らないわ」
「そうかあ……」

 残念だ。

「……まあ、でもこのままスキルを鍛えていけば何とか……」
「待って、それって前提があるのを忘れてない?」
「前提……?」
「このままのペースでダンジョンを探索できるの?」
「あ……」

 そうだ、近場のすぐいけるダンジョンはすでに探索済み。

「今まで行ったのをもう一回入るのはだめ?」
「あんまりおすすめはしないわね。リソースが貯まっていてあの程度だから、次はもっとショボくなるわよ。ボスまで敵1匹とか、ボス自体いないとか……」
「それは嫌だね」
「だから他のダンジョンを探していたんだけど……1か所何とかなるかもしれないのと、もう1か所ちょっと遠いけど今後につながるのがあるわ」
「どっちが難しいの?」
「多分同じぐらい……だけど後者はそもそも見つけるのが難しいのよね」
「マネージャーの権限とかっていうのは?」
「近づけば何とかなるけど、移動するダンジョンっていうのは難しいのよね」
「移動……動くの?」

 そんなダンジョンは聞いたこともない。

「当時も……私が封印するときも苦労したのよ。あっちこっちに移動するから……でも、大体の場所はわかるから、その周辺で網を張るしかないのよね」
「今のダンジョンだけでは遠すぎるってことかあ……」
「そのためにももう1つの方を先に支配しておきたいのよ。移動ダンジョンのある場所の方向だし」
「じゃあそれで決まりだね」
「でも今回はちょっと手ごわいわよ。Dランクの中でも上位になるから……正直交通の便が悪くなければCランクとして公開されていたかもしれないぐらい」
「Cランクかあ……」

 世間でいうところの野良。
 確かに、練習でクリアされることもあるが、その場合も一人ではない。
 まだ、ダンジョン探索が1か月にも満たない初心者の僕が挑んでクリアできるとは思えない。

「意外と強いわよ。カナメは……」
「そうなの?」
「弱いとはいえダンジョン4つ攻略済みというのはそれなりに成長しているの。Cランクでも下位だったら充分攻略可能よ」
「そうなんだ……」
「自分でも信じられない?」
「あんまり実感がないから……」

 確かにファーストスキルはそこそこ使えるようになったけど欠点も多いし、せっかく手に入れた2つ目のスキルも役立たずだし、接近戦は体格の点もあって強くない。
 知恵を絞ればなんとかなるかもしれないが、力押しができるとは思えない。
 何か切り札になるものでもあれば……ちょっとあとで考えてみよう。

「氷玉投げればいいじゃない」
「手がしもやけになるよ」
「まあ、それは置いといて、場所はここね」

 PCで地図を表示して見せてくれる。
 ここは……なるほど、ちょっと遠いか。

「貸して」

 僕は別ウインドウで別のページを開く。
 携帯電話会社のサービスエリアの地図だ。僕にとっては外出するための重要な確認事項だ。
 それを見比べ、さらに地図を拡大して民家の位置を確認し、そして地図を縮小して通る予定の道が何かへの通り道になっていないかどうかを確認する。

「夏休みだから、思いもよらない交通があるかもしれないなあ」

 だけど、お盆期間を過ぎれば社会人はいなくなるだろう。
 ダンジョンへの人の流れも考慮して……

「ねえ、Dランク上位って、今までより時間かかるよね?」
「そうね、場合によっては階層があるかもしれない」

 ダンジョンは一般的に階層がある。
 一般ダンジョンでも10層を超えるし、重要ダンジョンはまだ到達していないが100層を超えるといわれている。
 これまではDランクだったので、階層どころか分かれ道もなかったのだが、今後はそうではないだろう。

「……そうか、じゃあ多めに見積もって6時間、休憩も考えると……どう考えても一晩じゃ無理だね」

 昼間は人通りがあるかもしれないのでなるべく出歩きたくない。
 それに移動に時間を使うと、その分休憩や、場合によっては睡眠も必要になるかもしれない。
 ちょっと難しいな……

「ダンジョンを速攻で攻略して、そのあとダンジョンボスのところで休むしかないか……」
「夜に出発、そのままダンジョンに入って、次の日の夜に帰ってくるのね?」
「ダンジョン攻略後って食べ物とか飲み物とか手に入る?」
「水は大丈夫なはず、カップ麺だったら大丈夫だよ。お湯にもできるし……食べ物はちょっと無理ね」
「そうなんだ……」

 僕は準備物をリストアップする。

「じゃあ一週間ぐらい後かな……」
「そう……ところで、宿題とかは大丈夫なの?」
「あんなの最初の3日でやり切ったよ」
「そうかあ、優秀なのね」
「別にいい大学に行きたいとかは無いんだけどね……」

 今のところは……ね。
 僕はダンジョンに深くかかわりすぎている。
 前は進学校を志望していたが、もともと僕は母のような学者の道も、父のようなダンジョン探索者専業の道も魅力に思えていた。
 果たして、問題が解決した後再び進学への熱意が戻るかどうかは……今は何とも言えないな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...