電波少年と幽霊マネージャーの迷宮探索裏街道

春池 カイト

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人付き合いレベルMAX

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 期末試験最終日、ここまでは代わり映えのしない日が続いていた。
 エリスも勉強中はテレビを見るときもヘッドフォンを使って邪魔にならないようにしてくれたし、ちゃんと勉強できて試験の結果も良いはずだ。

 わが校の方針なのか、期末テストはかなりギリギリ遅くに開催される。
 これは授業期間を長く確保するという目的なのかわからないが、僕は通信教育にさらに特例を重ねているので、学校の制度に疑問や不平は無い。
 早めに試験を終わらせる学校ではそのあと数日休日があるという話を聞いたことがあるが、僕には関係ないのだ。

 さて、勉強の息抜きにはゲーム……ではなくスキルの研究を続けている。
 そちらの方の成果も、それなりに形になりそうで、僕としては後顧の憂いなく、両親と過ごす年末年始を迎えることができる。

 今回も食材その他は持ち込んでくれるそうなので、僕の方ではすることがない。
 せいぜいこまごました掃除と……ああ、そうだ、エリスの痕跡消しの必要がある。

 最近はすっかり遠慮が無くなった彼女は、今では自分用の食器や座布団を(僕が)通販で買い求めており、この家に入り浸っていたミノリの痕跡も含めて証拠隠滅しないといけない。
 一応、ミノリや神社のことは知り合いになったと伝えており、初詣は一家で山返神社に行くことになっていた。

「カナメってさあ……」

 今はせんべいをかじりながら猫女姿で実体化しているエリスが、不意に話しかけてくる。

「なに?」
「一生懸命勉強しているけど大学に行く予定ってあるの?」
「そりゃ、もちろん」

 即答する。
 もちろんダンジョンの攻略は趣味と実益を兼ねているが、自分の将来としては本業にするつもりは全くない。

 身近に、というか父さんがそれであるのだが、あの人はいわば、そう規格外というやつだ。
 もともと体を動かすのが得意だったこともあって、高校卒業後すぐ自衛隊に、そしてその中でも身体能力の優れた隊員に与えられる表彰を何度も受けた。
 惜しまれながら退職した後は、知り合いに誘われて世界中の秘境探索に同行し、その過程で母さんと出会い結婚したのだ。
 今ダンジョン探索を本業にできているのは本人が元から強かったからだと思う。

 自分は体力的には標準で、ダンジョン探索で生活が成り立つ人たちとの間には差があると思っている。
 無理をして怪我をして続けられなくなることも考えると、ちゃんと大学に行って別に本業を持った方が現実的に思えるのだ。

「あ、もちろんエリスの手伝いは続けるよ。そこは大学に行っても、たとえ社会人になるまで解決していなくてもできるだけのことはする」
「そう、ありがとうね」

 例えば、僕がここを出て実家に戻るのは、予定では来年の夏だが、それまでにエリスの問題が解決するようには思えない。
 なにせ人知を超える女神同士の問題なのだから、それなりに複雑だろう。
 果たして、僕ごときが役立つのかもわからない。

「今のところは学校の授業についていけていればいいと思っている。本格的に受験を意識するのは3年に上がる前ぐらいでいいかな」
「今年は大変だったものね……」

 ちょうど一年か……
 確かに、新しい生活、一人暮らしに慣れるのに苦労し、スキルの欠点解消に苦労し、そしてダンジョン探索が加わり、この一年は忙しかった。
 通学や買い物がすべて自宅で完結していなければ破綻していたかもしれない。

「それはそれとして、試験終わったんだよね」
「うん、だからしばらくは時間があるよ。なに? 次のダンジョン?」
「違うわよ。ほら、前に頼んだあれ、お疲れさまってことでもう一度頼みましょうよ」
「お疲れさまって……結局お金出すの僕じゃないか……ピザだね? 何がいいの?」

 エリスは気に入ったらしい。
 あの時も歌っていたし、今回もうれしそうにメニューを選んでいる。

 そういえば、彼女は殺される前に食べたことが無かったのだろうか?
 今、姿を現している女神を見ても、言われなければそうとはわからない姿のはずだ。
 人間に交じって生活していても目立たないだろう。
 ピザぐらい……
 それとも、あえて人とは離れて生活していたのだろうか?
 神の食卓にピザ……無いな……
 イタリア人だって神前にピザをお供えしないだろうし……

 結局今回はシーフードピザとなった。
 山奥に、魚介類のピザを宅配、か……現代日本の発展に感謝しよう。


*****


 やってきたピザ屋の宅配の人は、前と同じ日焼けした青年だった。
 そして余計な人も付いてきた。

「どうしたんですか!」
「ああ……ちょっとやられてしまって……詳しくは……」

 彼女はピザ屋の人にちらっと視線をやって、この場ではまずいと僕にほのめかす。

「なあ、あんた大丈夫か? 救急車とか呼んだ方がいいんじゃないか?」

 心配そうにしているのは彼女をここまで後ろに乗せて来たピザ屋の人だ。
 配達のバイクは私物なのか原付ではなく、二人乗りもできるようだ。
 今は彼女の体を支えている。

 ボロボロの状態、いつもの白衣は汚れ、破れ、本人もつらそうにしている。
 足も裸足で、傷だらけになっている。
 時々訪ねてくる女神のマリアだ。

「とにかく、中へ入ってもらえますか? お仕事の邪魔して悪いですけど……」
「ああ、そりゃ困っている人は見捨てられねえよ」

 僕はバイクを庭に入れてもらい、二人がかりでマリアを家に連れていく。
 縁側から直接和室に入ろうとしたところで気づく。

「あれ? そっちから? ピザ~」

 飛び出してきたのは猫耳を生やし、2本の尻尾をぶんぶん振っているエリスだった。
 見慣れない人がいるのに気づいて、慌てて尻尾を隠し、耳を手で押さえるが、もう手遅れだ。

「ネコミミ、ネコシッポ……お客さん、若いのに……」
「誤解です!」

 どうも、ピザ屋の青年は僕が恋人にコスプレさせて楽しむ趣味を持っていると思ったらしい。
 誤解を解くのも大変だが、それよりまずはマリアだ。

「エリス、マリアが……」
「ええ、とりあえず寝かせましょうか」

 僕たちは、座布団を並べてその上にマリアを寝かせる。
 マリアは安心したのか力を抜き、そしてこう告げる。

「すまないが少し休ませてくれないか、話はあと……で……」

 そして瞳を閉じ、寝息を立て始める。

「疲れているだけのようね。外傷は擦り傷程度よ」

 エリスが確かめて、安心するように僕に言う。

「何か穏やかじゃない様子だな? 警察に言った方がいいか?」

 ピザを持ってきた店員の人が話しかけてくるが、店員モードはここまでということだろう。ため口で話しかけてくる。

「それが……詳しく話すと長くなるんですが、ダンジョン関係なんですよ」

 僕はポケットに入っていたちょうどの代金を渡しながら返す。

「そうか、そりゃ大変だな……」

 ダンジョン周りは警察の管轄外になっている。
 管轄外にしたからこそ、警察は元のままの体制、装備で問題ないのだ。
 もしダンジョン前の隔離施設や専用の警備員が居なければ、今頃は町中でスキルを使った犯罪が多発して警察は対応に追われていたことだろう。

 どう説明したものか……
 彼にはマリアを助けて連れてきてくれた恩もあるし、エリスの猫又姿も見られている。
 このまま何も見なかったことにして返すのも違う気がするし、だといって巻き込んでいいものかもわからない。

 僕が悩んでいると、そこにさらなる混乱の種がやってきた。

「あ、どうしたんですか? 庭にあるの『ピザ・ダイソン』のバイクですよね? あそこのミートミックスは私も大好き……で……何事ですか?」

 それは、学校帰りであろう制服姿のミノリだった。
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