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瞬きを繰り返した。見直したかったが、一度目を離すことは許されるのだろうか。
「すみません。もう一度見直すことは出来るでしょうか」
道具を用意していた周りの聖職者たちが見合っているらしい。動揺がティエサの背後で飛び交っているのが分かる。
「水鏡から目を離さずに、理由を述べよ」
前から返答があった。監視役の高位聖職者だろう。
「私が見えるのです」
後ろの聖職者たちが明らかにざわついた。記録担当のペン先が紙を引っ掻いた音も混じった。
「おぬし自身の、どのような姿だ?」
高位聖職者は続けて問う。ティエサは水鏡を見詰めたまま答える。まるで、面を上げることを許されない臣下のように。
「今の私の姿がそのまま、玻璃の鏡のようにはっきりと映し出されています。水面の揺れがあるだけで、他ははっきりと」
「本当に、おぬしの姿そのままか?」
……「そのままの姿」。どちらをそう呼ぶべきか。幸いにして、正面の声が求めている答えがティエサには導き出せた。もちろん教会に入った時から感じている畏怖と、先程の宣誓に背く勇気も理由もなく、答えは決まっていた。
「皆さまから見て、そのままの姿かと存じます」
「ほう」
「私は玻璃の鏡でしか自分の姿を見たことがありませんが、今は玻璃の鏡とは違って、左右が逆になっていません」
「より仔細に述べよ」
「私は今日、左耳の後ろの髪にリボンを着けていますが、リボンは水鏡の中では向かって右手側に映っています」
まさか、急遽家族に飾ってもらった髪が役立つとは。カヤリーの花は抜いてしまったが、店でブーケ用に使うリボンで、母が編み込みの終わりを結んでくれていたのだ。玻璃の鏡と同じならリボンは水鏡の中では向かって左側、右耳に付いて見えるが、今聖水の中のティエサは、向かって右側、水鏡の中でも左耳側にリボンが付いていた。
「なるほど。聖女の水鏡としては正しい像の映り方だ」
「キャンデラ書第三節の通りですね」
背後で、なんとキアレンが口を開いた。この場の聖職者の中で一番若いだろうに、教典の説明を垂れるのか?
「教典の中に、『聖女の水鏡は鏡というよりも寧ろ、真なる聖女に通ずる窓としてはたらく』と書かれているのです」
と思ったら、あくまで教典を知らなさそうな、見知らぬ一般の民に解説をした、という体を取ったらしい。セリソール教会で遊び回りながらキアレンにいくつか教わった教典の中に、あったぞ、キャンデラ書第三節。
「ティエサ・イアンヘン、おぬしの儀式はこれにて一旦終了とする。礼拝堂へ戻りなさい」
「承知しました。失礼いたします」
水盆から一歩下がって、聖水の奥の女神と、聖職者たちに礼を捧げる。水盆持ちの聖職者の腕がついぞ震えなかったのはすごかった。
礼拝堂へと踵を返す瞬間、銀の柄杓を持つキアレンに、「覚えてなさいよ」という念を忍ばせて一瞥をくれてやる。キアレンだけはティエサの視線に気付き、相変わらず淡く笑ったものの、粛々と次の準備を進めていた。
「すみません。もう一度見直すことは出来るでしょうか」
道具を用意していた周りの聖職者たちが見合っているらしい。動揺がティエサの背後で飛び交っているのが分かる。
「水鏡から目を離さずに、理由を述べよ」
前から返答があった。監視役の高位聖職者だろう。
「私が見えるのです」
後ろの聖職者たちが明らかにざわついた。記録担当のペン先が紙を引っ掻いた音も混じった。
「おぬし自身の、どのような姿だ?」
高位聖職者は続けて問う。ティエサは水鏡を見詰めたまま答える。まるで、面を上げることを許されない臣下のように。
「今の私の姿がそのまま、玻璃の鏡のようにはっきりと映し出されています。水面の揺れがあるだけで、他ははっきりと」
「本当に、おぬしの姿そのままか?」
……「そのままの姿」。どちらをそう呼ぶべきか。幸いにして、正面の声が求めている答えがティエサには導き出せた。もちろん教会に入った時から感じている畏怖と、先程の宣誓に背く勇気も理由もなく、答えは決まっていた。
「皆さまから見て、そのままの姿かと存じます」
「ほう」
「私は玻璃の鏡でしか自分の姿を見たことがありませんが、今は玻璃の鏡とは違って、左右が逆になっていません」
「より仔細に述べよ」
「私は今日、左耳の後ろの髪にリボンを着けていますが、リボンは水鏡の中では向かって右手側に映っています」
まさか、急遽家族に飾ってもらった髪が役立つとは。カヤリーの花は抜いてしまったが、店でブーケ用に使うリボンで、母が編み込みの終わりを結んでくれていたのだ。玻璃の鏡と同じならリボンは水鏡の中では向かって左側、右耳に付いて見えるが、今聖水の中のティエサは、向かって右側、水鏡の中でも左耳側にリボンが付いていた。
「なるほど。聖女の水鏡としては正しい像の映り方だ」
「キャンデラ書第三節の通りですね」
背後で、なんとキアレンが口を開いた。この場の聖職者の中で一番若いだろうに、教典の説明を垂れるのか?
「教典の中に、『聖女の水鏡は鏡というよりも寧ろ、真なる聖女に通ずる窓としてはたらく』と書かれているのです」
と思ったら、あくまで教典を知らなさそうな、見知らぬ一般の民に解説をした、という体を取ったらしい。セリソール教会で遊び回りながらキアレンにいくつか教わった教典の中に、あったぞ、キャンデラ書第三節。
「ティエサ・イアンヘン、おぬしの儀式はこれにて一旦終了とする。礼拝堂へ戻りなさい」
「承知しました。失礼いたします」
水盆から一歩下がって、聖水の奥の女神と、聖職者たちに礼を捧げる。水盆持ちの聖職者の腕がついぞ震えなかったのはすごかった。
礼拝堂へと踵を返す瞬間、銀の柄杓を持つキアレンに、「覚えてなさいよ」という念を忍ばせて一瞥をくれてやる。キアレンだけはティエサの視線に気付き、相変わらず淡く笑ったものの、粛々と次の準備を進めていた。
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