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第67話:決着―復讐の果てに―
しおりを挟むおいママドラ、この腕はなんだ!?
急にキモくなったぞ!
『だからキモいって言うな! まったく……私の力をより強くなってるのよ。私も今までよりもっと力を使えるわ』
「ミナト……お前、その姿……まさか本当に六竜イルヴァリースだとでも……」
アドルフはこの腕を見て多少信じる気になったようだ。
同じように、王と騎士もこ腕の変貌に驚いているようだった。
なにせ深い青紫、輝く金色の髪、それが伝説上のイルヴァリースの姿だからだ。
今の俺は六竜イルヴァリースを連想させるには十分だろう。
「見掛け倒しだ! そんな姿になって六竜を味方につけたと思わせるとは姑息な……! 何をやってもダメダメなミナトらしい!」
「どうとでも言えよ。どっちにしてもお前は今日ここで終わりだ」
「貴様ァっ! もういい、分かった。お前は殺す。今殺しておかないとこの先いつまでも俺をイラつかせる! ダメミナトの癖に、いつまで俺の視界でうろつくつもりだァァァッ!」
パンっ。
竜化した腕を振っただけ。
ただそれだけで、俺に向かって振り下ろされたアドルフの剣は粉々に砕け散った。
「っ!? な、ななな……なんだそれは!!」
「言っただろ? 六竜イルヴァリースの力だよ」
「あ、あれ本当だったのか!? 眠ってるって言ったじゃないかぁっ!」
「あー、ごめん。さっき起きたわ」
「ず、ずずずズルいじゃないか! お前だけそんな……!」
こいつ……。今まで思い通りにいかない事なんてない人生を送ってきたんだろうな。
「ズルいズルいズルいズルいぃぃぃっ! 俺も六竜がほしぃぃ!! そ、そうかお前を殺して奪えばいいんだ! 頼むから俺の為に死んでくれぇぇっ!」
「お前だって魔王の力使ってんだろうがよ」
「俺が使えるのは残りかすみたいなもんなんだよ! でもな、六竜の力を手に入れたら俺は、俺はこの世界の神になれるッ!!」
「残念だけど……神様なんてもんはろくなもんじゃねぇよ」
アドルフは俺の言葉を無視してそのシルバーの毛並みの腕を振り回す。
鋭い爪が俺の身体に掠り、ほんの少しだけ肉が削り飛ばされた。
『今までよりも高水準で記憶や力を使えるようになっているはずよ』
あぁ、なんとなくもう分かった。
「エクスヒール」
一瞬で俺の傷が塞がる。
「おいミナトぉ! お前回復も使えるようになったのかぁ?」
「エレメントウォール」
俺の身体の周りに、一定量のダメージを無効化する薄い障壁が張り巡らされる。
「防御、魔法……?」
「エナジーフィスト」
拳が魔力で包まれ、強度、破壊力が増す。
「おい、ミナト……お前何を……」
「闘炎」
身体中の筋肉が燃えるように熱くなり、一時的に身体能力が跳ね上がる。
「何をやってる! いつそんな事が出来るように……それも六竜の力かっ!?」
「アドルフ……もう、終わりにしようぜ」
「ああ、ミナト、お前の死でなっ!」
アドルフが再び鋭い爪を振り下ろし、俺の胸元にそれを突き刺そうとするが、もはや避ける必要すらない。
パキッ。
障壁をほんの少しだけ爪が突き抜けたが、そこで止まって俺の身体までは届かない。
「な、なんなんだお前っ! ミナトの癖にっ! ミナトの癖にミナトの癖にっ!!」
アドルフの、空いている方の腕をがっちりと掴んで引き寄せる。
獣状になった足で俺に蹴りを入れてくるがそれももうどうでもよかった。
両腕と片足が動かせず残りの足で俺を蹴り距離を取ろうとするが、もうそんな蹴り一発では痛くもかゆくもない。
「は、離せミナト! 俺が悪かった! だから、そうだ! お前を俺の子分にしてやってもいいぞ、世界を一緒に牛耳ろうじゃないか!」
「言ったよな? 謝ってももう遅いってさ。お前は笑ってたけどよ」
「ば、馬鹿言うなよ。俺とお前の仲じゃないか、子供のころのようにまた一緒に馬鹿やろうぜ、な?」
「あぁ……俺とお前の仲だもんな」
アドルフが引きつったまま笑う。
「俺達の仲って加害者と被害者で合ってるよな?」
「えっ、ち、ちがっ」
竜化している右腕を思い切りアドルフの腹へぶち込む。
キラキラと艶やかに光る鱗が輝きを増し、アドルフの腹部に拳が触れた瞬間スパーク。
全てがスローモーションになったかのように、ゆっくりと光がアドルフの身体を内部から破壊し、装備品、服、と順番にめくれ上がっていく。
やがて肌が露出し、ぷつっと奴の腹に小さな穴が開いたところで、俺の感覚が元に戻った。
ドパァン!!
腹部を中心にアドルフの身体がはじけ飛んだ。
「……終わった」
『……そうでもないみたいよ?』
「ぎゃぁぁぁっ!! お、俺の身体がっ、あっ、あっ、あ゛あ゛ぁぁぁっ!!」
どんな生命力してるんだこいつ。まるでゴキブリみたいだな……。
アドルフは、頭部だけになって俺の足元に転がってわめいていた。
「やっぱりお前、もう人間やめてたんだな」
「な、なんで俺がっ、こんなめにっ!! おかしい、こんなの絶対おかしいよ……っ。誰か、誰か助け、て……。キララ、エリアル……、誰か居ないのか? ママぁっ!!」
……ここまで来るとさすがに哀れとしか言えない。
俺はアドルフの生首を持ち上げ、切断面に回復魔法をかけてやった。
「み……ミナト……? 信じていた、俺は信じていたぞミナト! ああお前は親友だ! 俺の心の友だっ!」
「何馬鹿な事言ってんだお前」
俺はアドルフの首の近辺にのみ、封印術を用いて結界を張った。
「な、何を……してるんだミナト……お、おい……!」
「おい王様」
「ひっ、……な、なんである?」
王様は震えながら俺の言葉に応える。というかまだ逃げてなかったのか。都合がいいけれど。
「こいつはもう身動き取れないし再生する事も無いから。俺との約束を守ってくれるならこいつを好きに使っていいぞ」
「そ、そんな奴どうでも……」
「いや、王! 待って下さい。この国がここまで魔物に侵攻されたのは由々しき事態であり、我々の不信感に繋がります。ここは彼女の提案を受けてこいつを諸悪の根源として公開処刑しましょう!」
この騎士はなかなか頭が回る。俺の言いたい事が全て伝わっていた。
「ふむ……なるほど、民の怒りをこいつにぶつけさせるのだな」
「……ミナト殿、失礼を承知でお願いしたい。可能ならば……勇者は、そこの男に殺害された事にしてもいいだろうか?」
騎士の提案に一瞬首を捻ったが、なるほど確かにそれが一番王国側には都合がいいだろうな。
「お、おい、お前等なんの話をしているっ!」
「黙れアドルフ。お前に相応しい最期を話し合ってるんだ。それとも参加するか? こう殺してほしいって案出してみろよ」
「……み、ミナト……頼む。俺達友達だろ!?」
「知らね」
「どうであろう? ミナト殿。私からもお願いしたい。恥を承知で……この通りだ」
王が俺に頭を下げる。
「あんたが頭を下げるのは俺にじゃねぇよ。俺は約束さえ守ってくれればそれでいい。あとは好きにしろよ。何度も言うけど約束を破れば俺がこの国を潰すからな」
「わ、分かった……肝に銘じておこう」
俺が騎士に向かってアドルフの頭を投げると、眉間に皺を寄せながらその頭部を受け取る。
「痛いっ! 俺に触れるなっ!! 貴様如き普通の人間がっ、この高貴な俺にげぶぼっ!」
騎士は余程腹が立っていたのかアドルフの顔面に拳を打ち込んだ。
「び、びなどっ! だずげでぐれっ……みなどっ!!」
「じゃあな。お前に相応しい最期だよ。せいぜい苦しんで絶望して死んでいけよな」
「いっ、いやだぁぁぁっ!! ママっ! ママァァァァァッ!! 助けてよっ! ボクは悪くないっ! 悪くないんだっ! 誰かっ、誰かぁぁァっ!!」
騎士はアドルフの髪の毛を掴んでぶら下げながら部屋の外へ消えていった。
「じゃあ王様、あいつの処刑が終わった頃改めて仲間連れてくるから。逃げるなよ」
「わ、分かった……それがイルヴァリースの意思とあらば……」
イルヴァリースの意思、ときたか。
俺に従うのは抵抗があるがイルヴァリースの言う事ならば受け入れる、という意思表示かもしれないが……どちらでもいい。
やるべき事をやればそれでよし、拒むようならこいつも殺す。
今の俺はとても気分が悪いんだ。
『私が帰ってきたのに? 怨みも晴らしたのに? なんで?』
……知らね。
なんだかんだ言って以前仲間として旅をした奴が命乞いをして泣き喚いてるの見たからじゃねぇの。
『あら、意外と君って彼の事好きだったのね』
気持ちわりぃ事言うなよマジで。
……さて、ママドラ。遅くなったけどおかえり。
イリスとネコの所へ帰ろう。
『……ええ、君もお疲れ様♪』
――――――――――――――――――――――――――
因縁のアドルフとの最終決着です。
アドルフの最期はもう数話後に改めて。
応援ありがとうございます!
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