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第303話:英雄とシスター。
しおりを挟む「そう言えば自己紹介がまだだったわね? 私の名前はグレア。表に教会があったでしょう? そこのシスターをやりながら身寄りの無い子供たちと一緒にここで暮らしているのよ」
シスターは俺達に紅茶を差し出しながら名を名乗る。
……やはり孤児院みたいなものだろうか?
丁寧に自己紹介されてしまったのでこちらも全員簡単にだが自己紹介を済ませる。
「ミナトちゃんに、ティアちゃん。それとラムちゃんね? ラムちゃんは足が悪いのかしら? 私ったら何も考えずにこんな家の中に招いてしまって……大変だったでしょう? ごめんなさいね」
「大丈夫なのじゃ。儂は魔法で車椅子ごと浮かぶ事が出来るからのう」
「あら、あらあらあらラムちゃんは凄いのねぇ。小さいのにこんな凄い魔法が使えるなんて素敵だわ」
「ぐ、グレア……ばあちゃんは、ここで子供の面倒をみておるのか?」
ラムはなんだか少し恥ずかしそうにソワソワしながらグレアに問う。
もしかしたら自分の祖母やら家族やらの事を思い出してしまったのかもしれない。
「いえいえ、面倒をみるなんてとんでもない。私は何もできませんもの……むしろ私がみんなから元気を分けてもらっているのよ」
……そう、そうだよこれだ。
聖職者たるものこうでなくてはならない。ネコには絶対的にこういうのが足りない。
やっぱり連れて来るべきだった。シスターの爪の赤でも煎じて飲ませた方がいい。
「でもさぁ、結構厳しそうだけどちゃんと食べていけてるの? 家も教会もかなりボロボロだゾ?」
ティアが空気を読まずに思ったことをぶち込んでいく。
こいつのこういう所が苦手で、それと同時に尊敬できる部分でもある。
聞かなきゃいけない事でも俺の場合どうしようか悩んで時間だけ費やした上で結局最後には聞いたりするんだ。
ティアはその辺しっかり割り切っている。
別に人情に薄いとかそういう事じゃない。すべき事、聞くべき事、その辺をきっちり整理してやるべき事はささっと片付けていく。
「ええ、正直ギリギリの生活ではあるけれど……それでもね、ここから巣立っていった子供達が毎月少しずつ寄付をしてくれるの。そのおかげで私達は今日も生きていけるのよ」
「ふぅん……それはその人達がそれだけシスターの事好きだって事なんだゾ♪ むしろここ出身で大金持ちにでもなった人が居れば話が早かったのにね」
「今までにここを出た子供は……そうね、全員で二十人くらいいるけれど、そのみんながこの街にとどまる訳でもないから仕方ないのよ。むしろ援助してもらえるだけありがたい話だわ」
そう語るシスターの表情は本当に柔らかく、温かみに満ちていて心からそう言っているのが分かる。
魂の色も陽だまりのような明るいオレンジ。
この人が何かしら関わっているという事は無いだろう。
そうなるとやっぱり……ゲイリーがここに関係あると思った方がいいか?
それともサイガ……?
どちらでもいい。とりあえず話の中で何か手がかりを探そう。
「シスター、ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「はいはい、私で良ければなんでも聞いてちょうだいね。こんなに若い女の子達とお話するのは久しぶりだから楽しいわ」
本当に楽しそうに笑う彼女を妙な質問攻めにするのは気が引けるが、こればかりは仕方ない。俺達もあまりのんびりはしていられないからな。
「あんまり楽しい話題じゃなくて申し訳ないんだけど、ゲイリーって男を知ってるかい?」
「ゲイリー? ミナトちゃんはゲイリーに会った事があるの?」
ビンゴだな。
「実はゲイリーに頼まれてここの様子を見てくるように言われてね。奴はこことどういう関係なんだ?」
シスターは少しだけ遠い目をしながら語り出した。
「ゲイリーは……それはもうやんちゃな子供でね、家の中を飛び回ってはいろんな物を壊していたわね。ふふ、懐かしいわ……」
ゲイリーはここ出身……想像はしていたが、だとしたら何故ここを潰そうとした?
理由が分らん。
「ゲイリーの奴はなんだかここに戻りにくそうな感じだったんだけど、喧嘩別れでもしたのか?」
もし何かが原因でこのシスターを死ぬほど恨むような事があったとしたら、俺を利用して殺そうとする事もある……のか?
そもそもこんな天使みたいなシスターを殺したい程憎む事なんてあるだろうか?
「いいえ、ゲイリーはとっても優しい子だったわ。大きくなってここを出てからもしばらくは寄付をしてくれていたの。ここ数年姿を現さないから心配していたのだけれど……そう、無事だったらそれでいいわ。彼は元気にしているかしら?」
「あ、ああ。元気だよ」
「そう、それなら何よりだわ。あの子が今元気で、幸せにしてるのならば私達の事なんて気にせずに生きてくれていい。私なんかがあの子の枷になりたくないもの」
……当のゲイリーがシスターや子供達を纏めて殺そうとしたんだけどな。
あいつの言う事を間に受けてこの家を吹き飛ばさなくて本当によかった。
後からこの事実を知ったらさすがの俺でもトラウマもんだっての。
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