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第365話:失ったものと残ったもの。
しおりを挟む「……起きたかミナト。気分はどうだね?」
目を開けると、眼前にシルヴァの顔。
あまりに至近距離にあったので見るのも嫌で再び目を閉じた。
「……おや、この状況で目を閉じると言う事は口付けされても文句は言えないね?」
「頭に蛆でもわいてんのかお前は……」
「はは、それだけ悪態がつけるのならもう大丈夫だね。皆を呼んでこよう」
そう言って立ち上がり、部屋を出ていこうと背を向けたシルヴァの服を掴む。
「……ミナト、これはいろいろ誤解してしまうよ?」
「馬鹿野郎。皆を呼ばれたってどんな顔していいか分からねーんだよ。せめてネコだけにしてくれ」
それ以外の奴等に弱った所を見せられない。
『それだけネコちゃんの事は信頼してるのね』
ちげーよ。あいつにはもうこれでもかってくらい弱った所見られてるから今更って事だ。
そんな事より……ママドラ、悪かったな。
『別にいいわよ。怒りたくなる気持ちも絶望する気持ちも分かるもの』
……イリスに続いてネコが狙われて今度はティアが……それも完全に消えちまったなんてなったらもう歯止めがきかなくなっちまったんだよ。
『分かってるってば』
「ふむ……ではユイシスに声をかけておこう。他の者にはしばらく近付かないように言っておく」
「悪いけど頼むわ……」
シルヴァが部屋を出ていったのを見送ってから、布団を頭まで被って、ティアの事を想う。
あの時、いつまでティアはそこに居たのだろうか。
俺が、必ず守ると言った時……彼女は俺を背後から抱きしめた。
きっとその時にはもう既にティアはティアで無くなっていたのだろう。
だとしたら、やっぱりあの時だ。
「みなと……嫌……わた、し……た、すけ……て……」
あの時、ティアは俺のすぐ背後で……自分の身体をキララに浸食されていく恐怖に震えていたんだ。
助けてと、俺にそう言ったんだ。
あいつが潰されようとしているのを俺は気付いてやる事が出来なかった。
そのくせにいっちょ前に守るだなんて、馬鹿にも程がある。
そりゃギャルンも腹抱えて笑うだろうさ。
なんて滑稽なんだ。
なんで無力なんだ。
必死に助けを求めていたティアに何もしてやれなかった。
あいつは俺のすぐ側で、助けを求めながらじわじわと存在を削り潰された。
俺は何をしていた?
もう何も失わないように、何も奪われないように……。
そう決意したじゃないか。
イリスを奪われた時に誓ったくせにこのザマはなんだ?
イリスをギャルンに奪われ、ネコをイヴリンに奪われ、ティアをキララに奪われた。
何をやってるんだ俺は。
イリスとネコは運良く取り戻す事が出来たが、ティアは……もう、居ないのだ。
俺が不甲斐ないばかりにとうとう本当に犠牲者が出てしまった。
よりによって、どうしてティアなんだ。
いや、誰だったとしても俺は苦しむ事になっただろうが、認めざるを得ない。
それだけティアが俺の中で大きな存在になっていた。
それこそ、あいつと同じくらいに。
「ごしゅじん……入ってもいいですか?」
控えめなノックと共にネコの優しい声がスゥっと耳に、身体に入り込んでくる。
俺は返事が出来なかった。
今、何を喋ろうとしても口を開いた瞬間に泣き出してしまいそうだったから。
「……入りますね?」
ネコは静かに室内に入り、それを無視している俺のベッドに腰かけた。
「ごしゅじん、大変でしたね……話しはラムちゃんから聞きましたよ」
そう言ってネコが俺の頭を撫でてくる。
今更その顔を見る事も出来ず、俺は寝たふりを続けた。
起きている事はバレバレだと思うけれど、情けない事に今ネコの顔を見たら我慢できる気がしない。
「……ティアさん、あの時の魔王さんだったんですね……」
違う。
そう言ってやりたかった。
でも俺にとってのジュディア達のように、キララにとってティアは自分と同じだったらしい。
どうしてティアが生まれ変わってキララみたいなもんが出来上がっちまったのか理解できないが、それは認めるしかない。
すくなくとも、俺と一緒に居たティアはキララの身体を間借りしていた過去の記憶だった。
キララが弱っていたから療養の為に過去の自分であるティアを呼び出す事で体の試運転をしていたんだろう。
以前キララは言っていた。
まだ上手く力が使えないと……。
あの身体は神による特別製で、だからこそ使いこなすのに時間がかかっていた。
自分が動けない間にティアを使って体を馴染ませておいて、後からその記憶ごと自分に取り込む。
勇者の知識、経験ごと自分の力に変えてしまった。
イヴリンの力すらその身に取り込み、それを利用する事で完全復活を遂げた。
今のキララは以前対峙したキララではない。
俺の【復讐】込みの一撃すらキララにはまともなダメージを与える事が出来なかった。
どうしろっていうんだ。
これ以上、俺に何ができるっていうんだよ。
ママドラも気を使ってあれ以降だんまりだし。
それは彼女にも打開策が無い事を意味している。
つまり、やはりティアはもういない。
もう、消えてしまった。
死んでしまったのだ。
どうする事も出来ない。
キララに勝てる気もしない。
俺に何かを守れるとも思えない。
いっそ俺がキララに全てを委ねてしまう事こそが、それ以外の全てを守る唯一の方法なんじゃないだろうか。
「ごしゅじん、私ちょっと思ったんですけどぉ……ティアさんって本当にもう居ないんですかねぇ?」
……なんだって?
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