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第2章:冒険の始まりと新たな仲間。
第26話:たかが十年以上の付き合い。
しおりを挟む「少し気になったんだが何故もっごなんだ?」
僕を乗せて軽快に進むもっごを眺めながらクラマが問いかけてきた。
「木で世界を回る!」
「……まさかもっごの【もっ】の部分は木なのか?」
「なんでそんな呆れた目で見るの……? 勿論木のもくだよ。で、ゴーラウンドのご!」
完璧に冴えた思考によって名付けられた名前なのだ!
「……なるほど。それでもっごか……へぇ……」
何故か心なしかクラマからの視線から冷気が増した気がする。
「なに? 文句あんの?」
「お嬢ちゃんが付けてくれた名前に文句あるのかてめぇ!」
もっごが参戦してくれた。もっと言ってやれ!
「いや、お前は昔からネーミングセンスおかしかったのを思い出したよ。確か中学の頃書いてた小説のキャラに妙な名前つけてたしな」
「そんな恥ずかしい黒歴史を思い出さないでいただこうか!」
中学からの付き合いでクラマはよく家に来て遊んでいたのでそういう恥ずかしい事も結構知ってるのだ。
黒歴史中の黒歴史であるファンタジー小説の事なんて僕すら忘れていたっていうのに!
「確かあの頃は好きなキャラクターの名前をもじって使うのが好きだったよなお前は」
「く、クラマ……この話やめよ?」
クラマが僕を見下ろしてニヤリと笑う。
あ、こいつ今悪い事考えてる時の顔だ!
「リナ・パンパースにカバディ・ゴルバチョフだったか?」
「なんでそんなの覚えてんだよぉぉぉっ!!」
僕の魂の叫びにもっごとシュラがビクっと震えた。
「あのインパクトはなかなか忘れられないと思うが……」
「調子に乗ってクラマに読ませた僕が馬鹿だったよ! ばか! 当時の僕のばか!」
涙目の僕を見てクラマはふっと優しい笑顔に変わる。
「お前はあの頃から何も変わってないな。……見た目以外は」
そう言って僕の頭を撫でまわした。
「乱暴にくしゃくしゃするの辞めてくれますー? 一応レディの髪に触る時は細心の注意をしないと嫌われますよー?」
「うわ……めんどくさい奴になったなぁお前……」
お互い顔を合わせて笑い合う。やっぱりクラマとはこういう軽口を叩き合う関係が一番楽だなぁ。
「お二人さんは昔からの付き合いなのか?」
もっごがそう聞いて来た時、何故かシュラが興味ありげに耳をぴこぴこ動かしていたのがちょっと面白かった。
「まぁねー。十年以上の付き合いかなぁ」
「なんだ、たかが十年か……」
シュラがぼそっと呟いた言葉。クラマには聞き取れなかったみたいだけど、間違いなくそう言った。
たかが十年。
十年ってそんなに短いかなぁ?
それともシュラって長生きの種族とか?
見た感じ人間っぽいけどこの世界にはいろいろな種族がいるみたいだし。
僕はまだ人間とエルフくらいしか見た事ないけど、人間に交じって普通に生活してるってリィルが言ってた。
そんな話をしながら進み続け、やがて目の前に山が見えてくる。
山を越えなきゃいけないのかと思ったけれどそういう訳でもないらしい。トンネルが掘られていて、そこを通過すれば山越えはすぐなんだってさ。
この世界にもちゃんとトンネルとかあるんだね。
「……まずいな」
トンネルの入り口まで来たところでシュラが急に立ち止まり、僕ともっごに少し待ってろと言うと、クラマを連れて二人で先に行ってしまった。
「どうしたんだろ?」
「何か危険でもあったんかもしんねぇぜ」
もっごが大きな目を細めてトンネルの中を見ていた。
十分くらい待ちぼうけしてたら二人が不機嫌そうな顔をして帰ってきたので、何かあったのか聞くと……。
「このトンネルはダメだ。使い物にならん」
「おそらく何者かに崩されているな。明らかに破壊の痕跡があった」
クラマとシュラは二人でそれを確認して来たみたいなんだけど、こんな所に僕達をおいていかなくなっていいじゃん。
「トンネル使えないならどうするの? もしかしてこの山を自力で越えなきゃいけないの?」
「自力ってお前はもっごに乗ってるから自分じゃ歩かないだろうが」
クラマが的確な突っ込みを入れてくるけどそういう事が言いたいんじゃありません!
「山を越えずに済む方法はある。この山は鉱山で、もう使われてはいないが採掘用のトンネルがあった筈だ。それも向こう側に抜けている」
「おーシュラってば物知りだねー♪ じゃあそっちに行こうか」
「しかし、長年放置されているから危険が無い、とは言えない。それでもいいのならそこを通る方が山越えよりは楽だろう」
クラマに視線で「どうする?」と訴えると彼は無言で頷いた。
「おっけ、じゃあその採掘用のトンネル行ってみよー!」
僕らはそこからシュラの案内で十五分くらい山沿いを進む。すると確かにボロボロな木材で補強された入り口が見えてきた。
「うわ、これ予想以上に年月経ってるね。崩れてきたりしないかな?」
「ちょっと待っていろ」
シュラが入り口まで行って掌をトンネル内に向ける。
……何やってるんだろ?
「……道が塞がっているような事はなさそうだ。問題無く通れる」
そう言えばさっきもトンネルに近付いただけで何かに気付いて様子を見に行ってたなぁ。
「どうやって判別してるの? 何かの魔法?」
「ああ、似たような物だ。特殊な音波を出して中の構造を探った。現状目に見えて通行不可な場所はなさそうだぞ」
「すごいじゃん! それってもしかしてダンジョンとか入り組んでる所でも出口までのルートが分かるってこと?」
シュラは僕の勢いに押されて一歩後ずさった。
「あ、あぁ……そうだな。ダンジョン内だと難しいかもしれん。扉で塞がれている場所があればその先に関しては外からじゃ分からないからな」
「あっ、そっか……それもそうだよね。こういう洞窟みたいなタイプの迷路系ダンジョンなら大丈夫って感じかな?」
「その認識で問題無い」
そうなると隠し通路とかがあるようなダンジョンもダメそうだ。
とても便利な能力だけど頼りすぎるとお宝とかを逃しちゃうかも。ふむふむ。
「……おい勇者、こいつは何を一人で唸っているんだ?」
「気にするな。いつもの事だ。それより先を急ごう」
「ちょっと、おいてかないでよーっ! ほらもっご、二人をおいかけて!」
「お、おう、分かったからぺちぺち叩かねぇでくれよ」
あーもっごが便利すぎて自分で歩くという行為を忘れてしまいそう。
応援ありがとうございます!
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