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最終章:女神への願い。
第33話:魔王=おかん。
しおりを挟む「街のみんな凄かったね」
「あぁ、別に生活には困ってなさそうだったけどな。本当に自給自足だけで賄える物なんだな」
それはちょっと疑問に思ってた。いくら水があって農産ラインが整ってるからといってその街単体だけでどうにかなるのかな?
リィルの話とはちょっと違う。……それに、これだけ大きな所ならともかく小さな村や街はどうなってるんだろう?
その辺も含めて確認する必要があるかもしれない。
「クラマはさ、魔物と人間の関係ってうまく行くと思う?」
「分からん。いつぞやの魔王に詳しく話を聞かない事には……しかし会った所で素直に目的を話すとは思えないが。やはりねじ伏せてから、だろうな」
……ごめん、僕は今夜その魔王と話しに行ってきます。
「さて、こんな立派な宿も借りられたし腹もいっぱいだ。風呂入って寝ようぜ」
「それもしかして一緒に入ろうって誘ってる?」
「ばっ、馬鹿を言うな! この宿は男女別だ。ちゃんと確認済みだよ!」
顔真っ赤にしちゃって可愛いなぁ。やっぱりクラマはこういう反応してくれないとね♪
「でも最初に確認したって事はちょっとは期待してたんじゃないの?」
「あのなぁ、その身体のお前と入っても俺は楽しくないぞ」
「それだと一緒に入るの自体は嬉しいって聞こえるんだけど」
「そう言ってる」
今度はこちらの顔が赤くなる番だった。
「どうする? お前も行くか?」
「んー、僕はもうちょっとしたらお風呂入りに行くよ。多分クラマの方が早いだろうし先に寝てていいよ」
「……そうか。それならそうさせてもらおう。さすがに俺も疲れたよ」
いろいろあったもんね。お疲れ様。
部屋に用意してあった浴衣を持ってお風呂に向かうクラマを見送って、僕も動き出す。
本当は寝静まってからにしようと思ってたんだけど万が一、起きちゃって「どこへ行くんだ?」って聞かれたらごまかせる自信が無いから。
クラマに秘密を抱えてるのはちょっと心苦しいけど……ごめんね、まだ何も言えないんだ。
宿を出るとお祭り気分は大分収まったのか街の中には人はまばらだった。
クラマと一緒にいろいろ見て回って、屋台の出店みたいなのでいろんな物も食べた。
中高時代に一緒に祭りに行って沢山買い込み、僕の家でたらふく食べたのを思い出す。
クラマはいつから僕と同じ気持ちを抱えてたんだろうなぁ。
あの頃にはもう……? だとしたらずっと両想いだったんだよね。
なんだか今でも信じられない。クラマが僕の事好きでいてくれたなんて……。
しかもここに来る前の最期の日、僕の事押し倒して……。
ダメだダメだ。
思い出すだけで顔が熱くなっちゃう。
不思議な世界に呼び出されて一時はどうなる事かと思ったけれど、僕の気持ちは変わらない。身体は変わっちゃったけど結構気に入ってるし。あとはクラマさえこの状態の僕を受け入れてくれればそれでいいのにな。
魔物や魔王とも戦わなくて済むかもしれないし、今の僕にとって一番高いハードルはクラマの感情だと思う。
彼のトラウマは簡単に消える事はないだろうけれど……。
「おや、まさかもう出発ですか?」
あー、見張りの人がいるの忘れてた。
「ううん、ちょっと用事があって出てくるだけだよ。すぐに戻ると思うから気にしないで」
「そうですか……聖女様と勇者様の来訪に街の皆はとても喜んでおります。いろいろと気負う部分もあるかもしれませんがくれぐれも無理をなさらないように」
……僕らはこの国のみんなの希望を背負ってるんだよね。
僕が魔物と仲良くしようとしてるなんて知ったら軽蔑されるかな……?
「ありがとう。優しい言葉を貰えて元気になったよ♪」
「そ、そんな……私はただ……その……」
顔を赤くしてしどろもどろになる見張りの人の肩を軽くぽんっと叩いて街の外へ向かう。
「お、お気を付けて!」
「うん♪ 行ってきます」
来る時に通った時はとても綺麗だった風景も、夜に街から離れ灯りが届かなくなってくると結構怖い。
静寂の中に風の音だけが響く。
月の光で微かにひかり揺らぐ水面。
それこそこの橋を渡ったら異世界にでも行ってしまうのではないかという錯覚すらしそうだった。
今まさに僕らがいるのが異世界なのにね。
橋を渡り切り、湖のほとりにある小さな小屋へたどり着くと中からわずかな光が漏れていた。
興味本位で窓からちょっと覗いてみる。
「ウッドバック、貴様も少しは手伝え!」
「いやぁ魔王様。無茶言わんで下さいよこんな体で何ができるってんでい」
「貴様、魔王の命令が聞けないと言うのか」
「おいらの主はお嬢ちゃんですぜ。それにおいらの名前はもっごでさぁ。……それはそうと吹きこぼれてますが大丈夫ですかい?」
「うおっ、そういう事は早く言えバカモノ! うわっち!!」
……何やってんだこの人達……なんだか楽しそうだなぁ。
「どもー、こんばんわ」
ノック無しで扉を開けると、もっごは「待ってたぜお嬢ちゃん」と大きな目を細めて枝をちょいちょいと振った。可愛い。
でも魔王はかなりびっくりしたみたいで大慌て。
「ちょ、ちょっと待っていろまだ食事の準備中で……あっちぃっ!!」
吹きこぼれた熱湯が手にかかったらしく必死にぶんぶんと振りながらその場でぴょんぴょん飛び跳ねていた。
「あははは♪ 魔王ってば可愛いじゃん♪」
「ば、バカもん! この魔王ラシュカル様に向かってなんという口のきき方を……あっつ!」
「ほらほら、分かったから早くやる事やっちゃいなよ。ご馳走してくれるんでしょ?」
夕ご飯は食べてきたけれど、せっかく魔王が作ってくれるっていうなら頂かないとね♪
「う、うむ……もう少し待っておれ」
「はーい♪ ごっはんーごっはんー♪ まっだかなー♪」
「せ、急かすでない! すぐできるからおとなしく待ってなさい!」
まるでお母さんのような魔王がご飯の支度を終えるまで、僕ともっごはニッコニコでその後ろ姿を眺めるのであったとさ。
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