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最終章:女神への願い。
第43話:はくじょうものどもめ……!
しおりを挟む「とにかくとりあえずこれで細工は流々ってやつだね♪」
「誰かさんが余計な事をしたせいでヒヤヒヤしたけどな」
クラマはやれやれと肩をすくめる。
「ふん、結果的には効果あったと思うがな」
相変わらずクラマとラスカルは睨みあってる。ほんとに仲いいぁこの二人。
「でもさ、人間側はこれでいいとして魔物側は大丈夫なの?」
「それなら心配は要らない。既に魔物達に通達してあるからな……それはもう大騒ぎだったが」
だろうねぇ。魔物の王が聖女のしもべになった、なんて簡単に受け入れられる話じゃないだろうし。
でも、ラスカルってやっぱり人望があるみたいで、魔王様が本気で想いを寄せる相手が出来たのならば喜ばしい事だ、という方向で落ち着いたんだって。
魔物って意外と能天気なんだなぁと思ったけど、ラスカルにそれを言ったら「少し違うぞ」と訂正されてしまった。。
自分達の主が決めた事には基本忠実っていう思想が人間よりも強いみたい。
縦の主従関係みたいなのが全てなんだろう。
そして魔王が聖女のしもべになり、聖女が大魔王になったという事も魔物達は理解したらしい。
でも僕は魔物達の管理とかを全部ラスカルに一任した。
条件はただ一つで、人間を襲わない事。
ラスカル曰く、もともと襲い襲われる関係だったから敵対関係が成立していただけで、人間を食べないと死ぬような食糧難でもないから大丈夫だろうとの事。
そりゃ助かるけど魔物の食料ってなんだろね。
野生動物とか? まさか共食いはしてないと思いたいけど。
「残念ながら私の支配から逸れた魔物も居るには居る。そういう奴等は魔物から見ても敵みたいなものだからな。改めて人間にも説明が必要かもしれん。そんな奴等のせいで魔物が敵だとひとくくりにされるのは納得がいかんからな」
へぇ……魔物にもいろいろあるんだねぇ。
リーナ姫が何やらササっとラスカルの背後に移動し、小声で何か言ってる。
その後、何故か二人はがっちりと握手を交わすのだった。
あんたらどういう関係だよ……。大体想像つくけどさ。
姫と魔王が握手を交わしているのをリィルがそわそわしながら眺めていて、そんなリィルの肩をエイムさんがぽんぽんと叩いてなだめている。
さすがエイムさんは心が広いというか大人の余裕というか。
そう言えばリィルって何歳なんだろ? エルフだから実際は百歳越えてるとかあったりするのかな?
ふとリィルと目が合って、彼がこちらに歩み寄ってきた。
「どしたの?」
「いえ、ユキナには驚かされてばかりです。いつも阿呆……奇抜な事ばかりするかと思えば先ほどのように聖女らしく振舞ったり……」
「今阿呆って言った? ねぇ、阿呆って……」
「そんな事はどうでもよろしい」
えぇ……? 僕にとっては全然よろしくないんだけど……。
「それより、よく頑張りましたね。とても聖女らしい演説だったと思いますよ」
「ほんと? やったー♪ リィルに褒められるのは特別嬉しいなぁ♪」
「……特別、ですか?」
「うんっ♪」
だって滅多に褒めてくれないし。
厳しい人がふいに見せるやさしさってのは刺さるもんなんだよね。
「ありがとうございます♪」
「な、なんですか急に改まって……」
リィルが身体の前で指を合わせてうにうにやってるのがなんだか微笑ましい。
エイムさんも僕と同じ気持ちなのか背後でニコニコしていた。
クラマとラスカルは睨み合うのをやめていつの間にかこっちに冷ややかな視線を送っている。
「な、なに……?」
「お前はまたそうやって……」
「ユキナ、被害者をむやみに増やすものではないぞ」
なんだかひどい言われようである。
別に僕はなんも悪い事してないじゃん。
「さて、そろそろ出発するぞ?」
「繰り返すが私は戦力としてカウントするなよ。行き帰りだけでもほぼ魔力を使い切るだろうからな」
「俺とユキナに任せておけ」
「おいらの事を忘れてもらっちゃこまるぜーっ!」
足元でもっごがぴょんぴょん飛び跳ねてアピールしていた。
「そうだな。お前は聖女のしもべ一号なのだから私の分まで活躍してくるのだぞ?」
「ま、魔王様……! おうよ! おいら頑張るぜ!」
もっごは大きな瞳にうっすらと涙を浮かべて感激していた。魔王に褒められるっていうのがよっぽど嬉しかったみたい。
「お嬢ちゃんはおいらが守るからな! この命にかえても!」
命にかえられちゃ困るんだけどね……でも期待しておこうかな。
「よろしくねもっご♪」
「では転移魔法を展開する。準備はいいか?」
「もっちろん!」
リーナ姫、リィル、エイムさんに見送られながらラスカルの転移魔法の光に包まれる。
あっ、大事な事忘れてた……。僕って、ここに転移してきた時大変な事になったんだった。
海のど真ん中ってめちゃくちゃ遠いんだろうしそんな所まで転移したら僕はどうなっちゃうんだろう。
と、いう心配は想像以上に大当たりで、頭がぐっちゃぐちゃにかき回されたようになってのた打ち回る事になった。
「うぼあぁぁぁぁっ!!」
「お、お嬢ちゃんがぁぁぁっ!」
「ユキナ、ユキナぁぁぁっ!!」
「しっかりしろ! ユキナ!」
みんなの声が聞こえた気がするけど僕はもうそれどころじゃなくて地面をごろごろと転げまわりながら木にぶち当たって止まり、胃液を大量にぶちまけた。
そして、やっと落ち着いて周りを見渡すと……みんなは僕から距離を取って見ていた。
この薄情者どもめ……!
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