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最終章:女神への願い。

最終話:この時を待ってた。

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「ここのところしばらく騒がしくなってしまって申し訳ありませんでした」

 あれから数日、城や街はお祭り騒ぎで大変だったけれどやっと落ち着いてきた。
 いつまでも騒いでいても……という事でそろそろやめとけ、ってなったらしい。
 その報告にリーナ姫が僕らの部屋を訪ねてきた。

「僕は大丈夫だよ。賑やかなのは好きだから楽しかったし♪」

 あれからいろんな事があった。
 まずみんなで夜な夜な街に繰り出し屋台で食べ歩いたり飲み歩いたり。
 お酒飲むと僕はちょっとおかしくなるのでクラマに止められてたけど。

 まぁそれはいいや。
 そんな事より、魔物達の方。
 もう各街の隔離障壁は解除されていて、流通とか街同士の行き来が再開されている。

 魔物は人間を襲う事をやめ、人間もまた魔物との共存にとても前向きに取り組んでいる。

 僕としては最初それがとても不思議というか、そんなうまくいくか……? って疑問だったんだけど、それについてはラスカルが教えてくれた。

「ユキナが大陸中の人々に向けて魔物は敵じゃないと言ったからな」

 との事。
 なんのこっちゃと思ったけど、簡単な話だった。
 つまりこの大陸の人々の認識を僕が捻じ曲げてしまったのだそうだ。

 例の言霊。
 まるで洗脳でもしてしまったかのようで申し訳ないけど……結果的にそれで人間と魔物がうまくやっていけるのならそれはそれでいいかなって。

 ちなみにラスカルは僕の声を人間の街だけじゃなく魔物達にまで届けていたおかげで、魔物側にも人間は敵ではない、という認識が生まれてしまったらしい。

 僕が強く願った事で、その願いの強さが強制力として働いてしまったんだろう。

 今後僕はラスカルと協力してさらに人間と魔物の関係を深めていく事に尽力しようと思っている。
 人語を喋れる魔物ならば人間に混ざって生活する事だって出来ると思うし、急にそれが難しいようなら手始めに魔物の街を作ってみるのもいい。

 僕は聖女であると同時に大魔王なんだから双方の得になるようにお互いの事を考えていかなきゃね。



「クラマ、姫が来てるよ?」

 クラマのベッドを見ると……案の定まったく動かない。

「お加減が悪いのでしょうか……?」

「あー、クラマは朝がとにかく弱いだけだから。あと二時間もすれば動き出すと思うんだよね」

「そうでしたか。少し時間が早すぎたかもしれませんね。私はこれで失礼しますのでお気になさらず」

 姫は丁寧に挨拶すると深く頭を下げて部屋を後にした。

「おーいクラマー? そろそろ起きれる?」

「……」

 ダメだこりゃ。じゃあちょっと散歩でもしてこようかな。

 ささっと着替えて部屋の外に出ると、

「お、お嬢ちゃんどこか出かけるのかい?」
「うわびっくりした!」

 ドアのすぐ外にもっごが居た。

「え、もっごずっとそんな所にいたの?」

「いや、早く起きたからいつお嬢ちゃんが起きてもいいようにここに居ただけだよ」

 もっごってば出来る子だなぁ。

「じゃあお願いしよっかな♪」

「おうよ」

 もっごの上に座ってその頭を軽くぺしぺし叩く。

「じゃーれっつごー♪」


 もっごに乗って城の中、中庭、裏庭、そして街の中……あちこち散歩して、リィルやエイムさん、それにいろんな人達と会話して思った事がある。

 やっぱり僕はこの街が……ううん、この世界が好きだ。






 僕は自分の意思でこの世界に残る事を選んだ。

 シャドウを倒して帰ってきた翌日、僕とクラマの部屋に女神様が降臨した。

 姿はぼやっとしか見えなかったけど、多分とても綺麗なんだろうなって分かる。

「君達よくやったわーっ! これでこの世界は私の物っ!」

「とっても悪役っぽい台詞だけど大丈夫なのかな……」

 僕が不安そうに呟いたのを聞いて、女神は手をぶんぶん振って否定した。

「違う違う、私は別にこの世界に強く干渉とかはできないわよ? 何か悪さしようとは思ってないから安心して♪ 管理してる世界が正しく平和であるなら管理者の能力が認められるのよ。その点君達はほんとよくやってくれたわ!」

 神様達の中でも序列とか身分の違いとか役職とかいろいろあるのかなぁ。どこの世界も世知辛い。

「で、約束を守ってくれた君達には私も約束を守ってあげないとよね。なんでも一つ望みを叶えてあげるわ。さぁ、何がいいかしら?」


「それならユキナを……」
「僕はこの世界に居たい!」

 ほとんど同時だったように思う。
 クラマの願いと僕の願いはまったく別の物だっただろう。

 普段だったらクラマに譲っていたと思う。
 でもこれは、どうしても叶えたかった。

「僕はこの世界が好き。これで元の世界に戻るなんて嫌だよ……。ずっとこの世界で生きていきたい」
「……」

 クラマは、何も言わなかった。

「それでいい? なかなかの願いね……おーけー? ふぁいなるあんさー?」

 なんでそんな言葉知ってるのこの神様は……。

「じゃあ君達の望みは【ずっとこの世界で生きていく】ね? その望み、確かに受理致したわよっ! それじゃ私はアフタヌーンティーの時間だからさよなら~♪」

 スゥっと女神の姿がぼやけて消えていく。

「……まったく、騒がしい神も居たものだな」

 呆れたように言うクラマに、僕は謝った。

「クラマごめん、勝手に……クラマは元の世界に戻れば将来が約束されてたのに……」

「なんだ、そんな事はどうでもいい。俺はユキナと一緒に居たいからな。お前がここで暮らすというのなら俺は傍にいるだけだ」

 ……ほんと、こういう時だけ妙に男らしいんだよなぁ。
 そんな所が好きで、ずっと胸の鼓動が高まってる。

「お前の身体が元に戻せればもっと良かったんだが……仕方ない。プランBでいくか」

 なんだそのプランBって。神様に身体を治させるのがプランAなのかな?

「ユキナ、魔王に変化の魔法を教えてもらえ。俺の望みはそれで十分だ」

 やっぱりクラマが女神に頼もうとしていたのは僕の身体を男性に戻す事だったらしい。
 これに関しては叶わなくて良かったと思う。

 クラマには悪いけれど僕はこの身体が気に入っているし、もう自分は女の子だと思い込んでる部分が……。
 今更男に戻ったら多分気持ち悪い事になっちゃうしみんなも混乱しちゃうもんね。

 だから僕は今の僕、聖女で大魔王な僕として勇者クラマを落としてみせるのだ!





 ……なんて事があった。

「これからどうするよお嬢ちゃん」

「そろそろクラマも起きると思うから部屋に戻ろうかな。朝からありがとねもっご♪」

「お、おう……俺はお嬢ちゃんの一の子分だからな!」

「違うよ」

 ピタっともごの足が止まり、不安そうに視線を頑張って真上に向けようとしてる。

「もっごは僕の一番の眷属で、大事な友達。しもべでも子分でもないよ」

「お、お嬢ちゃん……おいら、おいら……一生お嬢ちゃんについてくぜ」

 もっごが大きな瞳を潤ませながら僕を部屋まで送り、「なんかあったらすぐ呼んでくれよな」と言って数部屋隣に戻っていった。

 そこはラスカルともっごに割り振られた来客部屋だが、今ラスカルはこの城に居ない。

 昨日の魔王の城に戻って何かしてたみたいだなーって思ってたら、夜には裏庭に【魔王城ジャバル支店】という看板が掲げられた一軒家を建築し始めた。

「私とユキナの愛の巣を作ろうと思ってな! 姫には許可を取ってある。案ずることは無い! いつでもあの男の部屋を抜け出し会いに来ていいのだぞ!」

 だってさ。
 ほんとラスカルの行動力は凄いなって思うよ。そんなふうにまで想って貰えるのは幸せだけど、どうにも彼は独占したいって感じじゃないみたいなのが気になってる。

 魔物特有なのかなぁ? 多分魔王ともなると本来一夫多妻制なんだろうし、そういう倫理がガバいのかもしれない。

 で、裏庭にそんな家が建てられる事にリィルは激怒した。

「私とユキナの訓練場になんという事を……! これは明らかな挑戦と受け取ってよろしいので!?」

「ふん、エルフの分際でユキナの愛人に名乗り出る気か貴様」

「なっ、あ、あああ愛人!? わ、私は、別に……そ、そんな事は……」

 テンパるリィルが面白くてじーっと見てたら目が合っちゃって、

「や、やめて下さい違うんですそんな目で見ないで下さいーっ!!」

 リィルは顔を真っ赤にして涙目でどこかに走ってっちゃった。
 ああいう所すごく可愛いよね。
 もっと虐めたくなっちゃう。あの人ドSの癖に虐められる素質あるんだよなぁ。

 そんなリィルを遠目にニヤニヤ見ていたのはエイムさん。

 相変わらず大人の余裕で素敵。
 クラマもああいう歳の取り方をしてほしいものだ。


「……ふぅ」

 ドアの前に立ったままいろいろ回想するのもこのくらいにしておこう。
 いつまでも現実逃避してないで一歩踏み出さないと……。

 こんな時の為に覚えたんだから……。
 深呼吸。
 大丈夫、大丈夫……。

 僕はラスカルに教えてもらっていた魔法を使って自分の見た目を懐かしい自分に変化させる。
 元の身長をよく覚えていないせいか、身長は今と同じくらいになっちゃった。別にそれは問題ないはず……。

 静かにドアを開け、中に入ると……。

「ユキナか、どこか出かけてたのか? ……お、お前……その姿は……!」

「え、へへ……どう、かな? これならクラマでも大丈夫?」

 部屋の中にある鏡に映った自分の顔。
 とても懐かしい気もするし、なんだか他人みたいに思えて個人的にはあまりいい気分じゃなかった。

 あぁ、僕って本当に男の自分に未練も興味も無かったんだなぁ……。

「……ユキナ、その姿で俺の前に来たって事は……そういう事でいいんだよな?」

「……う、うん。覚悟はできてるよ」

 そう。部屋に入る前に現実逃避してた理由。
 それはこの一線を越える為の覚悟をするのに時間が必要だったから。

「あの日の……続き、する?」

 僕はもう、どうにでもなる覚悟は、できてる。
 ずっと、この時を待ってたんだから。

「そんな事言われたら……止まれねぇだろうが」

 クラマが僕に優しくキスをして、そのままベッドに押し倒してきた。

 本当にあの時みたいだ。
 あの日の、続き……ほ、ほんとに……。

 クラマの手が僕の腰あたりに触れ、それが徐々に上へとスライドし、服の中に……。

 クラマの体温が掌から伝わって、僕はビクっとしてしまったけれど、大丈夫。

 ゆっくりとクラマの手が僕の胸に触れて……。

 触れて……。

「……クラマ?」

 ぎゅっと目を閉じてたら、一向に何もしてこなくなったので、うっすら目を開けてみると……。

 僕に馬乗りになって服の中に手を突っ込んだ状態のままで白目を剥いて泡吹いて気を失っていた。

「く、クラマーっ!?」

 なんで? どうして?
 何がどうなってこうなった……?

 とりあえずクラマを上からどかして横に寝かせ、自分の身体を確認する。

「……ッ!?」

 慌てて鏡を見る。

 そこには間違いなく男の姿の僕がいた。
 ちゃんと出来てる。なのに、なのに……。


 よく考えたら当然だった。
 至極簡単な理由。

 だって、ラスカルが教えてくれた変化の魔法は、自分の姿を自在に変異させる物ではなく、そう見えるようにする魔法だった。

 ラスカルはもしかしてこれを見越して肉体変化じゃなくて外見変化の魔法を教えたの?

 それとも、もともとラスカルが使ってたのもこの魔法?

 それは本人を問い詰めないと分からないけど、こんな状態を説明できる訳もないしなんて言えばいいんだろう。

「ゆ、ユキナ……うーん……」

 そりゃ男の身体に戻ってると思っていきなりおっぱい鷲掴みにしちゃったらこうなるよね……。

 はぁ、願い事……失敗したかなぁ?

 もう変化に意味はないので解除すると、やっぱり自分にとっては今の姿が一番しっくりくる。なにせ僕可愛い♪

 僕らの異世界生活は前途多難で、
 僕らの異世界恋愛も前途は多難そうである。


 クラマの手を取って軽く胸に当てる。

「ほーらクラマー、おっぱいですよー」

「……」

 ……さすがのクラマも意識が無ければ平気なのにね。

「やれやれ、これじゃあの日の続きは当分お預けだなぁ」

 世界を救っても、僕達の戦いはまだまだこれからだ! って気分。
 こればっかりは気長に行くしかないかぁ。

「うぅ……ユキナ……」

 そんなうめき声をあげているクラマが無性に愛おしい。


「早く慣れてよねー? まったく。今日はこれくらいで勘弁してやるとするかー」

 クラマにそっとキスをして、おでこに一発でこぴん。

「えへへ、ばーっか♪」




 END







 ……女神に願った僕の願い。

【ずっとこの世界で生きていきたい】





【ずっと】この世界で【生きていきたい】

 この願いの本当の意味に気付くには、まだしばらく時間が必要だった。








――――――――――――――――――――――――――――――


☆★☆★あとがき☆★☆★

このようなニッチな作品を最後までお読み頂きありがとうございます!! 感謝してもしきれません。
今作は作者的にもいろいろ冒険した作品でしたがいかがでしたか? 少しでも楽しんでもらえたならいいのですが。

本編最後の一文について、ですが……【】の場所に注意して読んでみると、どういう願いの叶え方をされたのかがなんとなくわかるかもしれません。

せっかくここまでお読み頂けたので、よろしければ「読んだよ!」だけでも構いませんので感想など頂けると作者は小躍りして喜びます。なにとぞよろしくお願いします☆

一応いくらでも続きを書けるように布石は打ってあるので、御支持次第では続編もあるかもです♪

それでは最後に、作者が毎日更新している【転生はもう結構です!】というTSファンタジーもよろしくね♪ では他の作品でまたお会いできる事を願っております☆

完結までお付き合い頂きありがとうございました!
monaka.
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