体化傭兵さんの憂鬱〜呪具専門商人に囚われ、人間モルモットにされています〜

猫にも人にもなれないハンバーガー

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ep.8 呪薬〜エルフの血〜

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先ほどまで俺は悪い夢を見ていたと思う。


ぼんやりとした映像だが、俺が女として、男のイチモツを膣に入れられるという内容だった。 場所は、薄暗い娼館のような見かけを取り繕ったベッドと装飾品が置いてある部屋だった。


そこで俺は両腕と足、上と下の口を開いて名も知らない屈強な男を俺自身の元へと迎え入れる。 支配される心地よさが、戦いの中の昂揚感と実に似ていた。


されるがまま、ただ川の流れに身を任せるように。心も膣も——なんの抵抗もせずに俺は男の象徴の、肉棒を体の中へと迎え入れては、喘ぎ声を隠そうとすらしていない。 恥ずかしさなど全て忘れ、快楽だけに身を任せていたような感覚。


段々と激しくなる男の息と腰に合わせるように、身体が動き身体の芯から全身へと突き刺す官能的な快楽が身を焦がす。



——ずっと、こうしていたい。



甘い誘惑で弱まった思考から繰り出された欲求。

男の荒い息が、身体に伸し掛かる肉感が、思考を麻痺させ俺を肯定する。お前は価値のある存在で、この場所に存在してもいいのだという許しを俺は今感じていた。

夢で起きることに、疑問など抱きはしない。だが、段々と夢で起きていることが現実を侵食し始めるような錯覚を覚えた。



「いやはや、嬉しい誤算でしたよ。まさかエルフが直接襲撃してくるとは」



目の前の男の声じゃない。どこか、遠くから聞こえてくる聞き慣れたことのある声。



「情報通のお前はんが予想できなかった事態など、随分と珍しい」



また別の、熟れた女の声がする。そのせいか、先ほどまで俺を抱いていた男が遠くなっていた。心地よさも薄まり、空虚さが増していく。

いかないでくれと、手を伸ばしても男は距離が遠くなるにつれ捻れた視界の中で小さくなっていく一方だった。



「おかげさまで、エルフの生き血がより取れる。商売と研究が繁盛するというものですよ」



針を刺されたような痛みが一瞬した。夢から現実へと引き戻されるのが明確にわかった。 今まで感じていたことの否定と、現実の痛みが俺を起こす。
飛び起き、状況把握に努めようとする。だが、違和感に即座に気がついた。四肢が思うように動かなかったのだ。



「起きてしまいましたかアリサ。できれば首輪の調整を経てから起きて欲しかったのですが......前もって謝罪しておきます、我々の安全のため貴女にこのような仕打ちをしております」

「んっ......なんだこれは?!」



ベッドの四つの柱に、四肢が鎖によって固定されている。いくら動かそうとも、外れそうになかった。しかも衣類は全て脱がされ、裸体とはち切れそうなほどに勃っている乳首と乳首ピアス、腹部には薔薇の蔦の棘が太ももまで伸びつつある紋章が見えた。

ベッドの隣に置かれた小さいテーブルに向かい合うように、ムマクと顔の知らない年増の女がいた。

正常に戻ってきた意識で、身体の異変が起きているのが分かった。全身から汗が噴き出て、熱い。何より身体中から汗と共に湧き出る渇きが段々と強くなっている。腹の奥底も、何かを求めるように伸縮し、空気が触れるだけでも嬌声が溢れた。



「あっ♡ 俺にっ......何をしたっ? 」

「言っても大丈夫かえ?」



ムマクに確認を取る、知らない女。

外見は年を重ねた成熟した雰囲気を持っている。深い緑のローブが体にしなやかに沿い、胸元を大胆に開けたデザインが色気を放った。白髪が緩やかに肩に流れ、しわの少ない顔には鋭い目が光り、年輪を感じさせない妖艶さが漂っている。

首には琥珀色のペンダントが揺れ、指には幾つもの指輪が光っていた。

周囲を見回すと、俺がいたのは夢で見た薄暗い娼館のような部屋だった。ベッドと装飾品が置かれ、リラックスさせるような甘いアロマの香りが空気を満たしている。



「ええ、構いません」

「そう。では、改めてよろしくアリサはん。うちはアンヘル、金と人の上に立つことが大好きな魔術師さね。ムマクはんには贔屓にしてもらっとる」



状況を楽しんでいるような、ムマクと似た空気を感じた。類は友を呼ぶと言うが、本当なのだろう。

足を組み直して、机に置いた腕に顎を置いてアンヘルは話を続ける。



「ほんで、今打ったのはエルフの血を加工した薬さ。身体中の感度を永久的に高める役割と、本能を強くする効果、加えて魔術的な効果の受容体を形成するという優れものさね。ただ、効きすぎて首輪が起動してしまう危険性があったからね、今お前はんはこうなってるわけさ」



言っていることは理解できた、身体に異常が生じているのも感じられる。だが、頭がそれを理解するのを拒んだ。



——エルフの血だと......まさか前見た地下のエルフの女もそのために......?!



最初からこいつらはまともなやつじゃないと分かっていたはずだ。だが、待遇や時折見せる優しさに心を許しそうになってしまっていた自分を恥じた。

だが、怒りの感情よりも色情が強まっているせいでまともに反応できなかった。
アンヘルが、ニヤケ顔を作ると立ち上がり俺の腰近くのベッドに腰をおろす。そして、手をゆっくりと俺の首から胸、腹、太ももと爪で優しくなぞるように触れていく。



「はぁっ♡……やめっ♡」



くすぐったいという感触が、増幅され腹部にまで響く。もっと強い刺激を求め、身体を思わずくねってしまう。



「おおっほ、どエロい身体になっとるねぇ。うちもついつい気分が昂ってしまうさ」

執拗にアンヘルは身体中を両手で羽のように優しく撫で回した。時に乳首や陰部に触れそうになるが、寸前で指を止めて、別の部位へと刺激を続ける。



「......っ♡」



感じてはいるというのに、刺激が足りなく絶妙な感覚に俺は悶える。もっと強く、もっと深いところを突いてくれ——と言いそうになった。
だが、ギリギリのところで俺は口を堰き止めた。



——俺の頭まで、侵食されていると言うのか?



「大分馴染んできとる。これで次首輪を使っても、気絶はしないだろうさ」



手を止めるアンヘル。俺はただ股を濡らし、身体をヒクつかせている。 その様子をじっと見て、彼女は物足りなさそうな表情をした。



「うちが初客じゃ駄目かえ? ムマクはん」

「申し訳ありませんが、無視出来ない代金を出してきた殿方がいまして」

「いくら?」

「金貨10枚です」

「ほえー。初物とはいえ、一夜のために村一つ買えるほどの金出すなんざ、随分な物好きさ」



呆れながら立ち上がり、アンヘルはそのまま部屋の外に出る。


——村一つだと......? それだけの金があれば......リリーも村の皆も救える。

村の情景を頭に浮かべ、心の平穏を保とうとした。木造の建物が点々と並び、のどかな空の下でなんとか農場を営んで日々過ごしている。裕福からは程遠いが、笑顔に満ちあふれていた場所だった。新たな領主が来るまでは......



「じゃあ、アリサはんが空いた時またきたる」



手を振り、ドアから出ていった。ムマクも会釈をし、アンヘルを見送った。



「随分と騒がしい方ですね」

「俺を......はぁ.....売ったのか? それと、さっさと......くっっ。これを外せ」



火照りが収まらない身体のまま、口を開く。



「外したい気持ちは山々ですが、これから貴方には護衛以外の仕事にも慣れていただきたいのです。貴方の夜の充実度が、結果としてワタクシの安全に繋がる。今日のお客様は、見た目は粗野に映るかも知れませんが、女性の扱いが上手いことでも有名です」



椅子から立ち上がり、俺の前に立つムマク。何をするのかと思ったら、強めに乳首のピアスを引っ張った。

痛みを予想し、それに備えたが全く意識の外からの快感に襲われる。片方ではなく、今度は両方をリズミカルに引っ張られた。



「あギャッ♡ 何ぉっ♡!?」



既に身体中に溜まっていた快感が、一気に立ち上る。身体中の感覚が乳首へと集中し、波が重なりその大きさを増していく。どんなに逃げようとしても、身体をわずかに動かすことしかできず、なす術もないまま、俺の意識は飛びかけた。



「んんぁぁぁ♡ぁっっつ♡♡!!」



腰がそり上がり、尿意のような感覚が込み上げる。だが、何かが出ると言う直前でムマクは手をぴたりと止めた。 頂点に上がりきれなかったという、満たされない感覚が全身を包む。



「なっ......なんで止めるぅ?」



なんと、滑稽な声だったことか。



「メインディッシュは、お客様にご用意しましょう。初物の趣味はワタクシにはございませんので、是非とも殿方と今晩を楽しんでください。ワタクシは地下に篭って書類仕事を続けます。それと、叫ばれては良くないので、こちらをお付けになってください」



そう言い、ムマクは俺の口に口枷を詰め込んだ。そして拘束する鎖をそのままに、ムマクも部屋を出た。



「んっんんんっっっ!!!!」



ここから出せと、叫ぼうとしたが、口は機能を果たさず言葉にもならない。ただ涎を垂れ流すだけだった。



ベッドから動けないまま、俺はただその殿方とやらの到着を待つほかない。
なんとも情けない、先程まであんなに戦士らしくあれたと言うのに、今はもはや家畜同然であった。 鎖に繋がれ、ただただ主人の選択に身を委ねる無力な存在。それが今の俺だ。

こんなにも、無力で、虚しく、満たされないという不満不服が積もった経験などなかった。



——くそっくそっ! クソっ。なんで、なんで楽しみだなんて感情が浮かび上がるんだ?



絶望に満たされているはずだというのに、本能がこれから起きるかも知れないことに期待を寄せていた。その事実が何よりも、俺の矜持をチーズを削るかのように軽く、ズタズタにしてくる。


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