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第3話 旅に出よう
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次の日の朝、街の真ん中にある大きな騎馬像の前で、リーネは不安な面持ちでフリッツを待っていた。昨日、あの後色々と採取の旅について説明し、今朝9時の鐘が鳴る頃集まる予定になっていた。
本当に来るの? それに、剣の腕は確かなのかしら? 何だか騎士っぽくない人だったし。騎士ってもっと真面目な人だと思ってたけど、昨日のフリッツさんは何だかちょっと軽薄そうだったし。護衛として大丈夫かな? タダより高いものはないって言うし。やっぱり断った方が良かった……かも。
リーネが悶々と考え込んでいると、誰かに肩を叩かれた。
「お待たせしたかな? リーネさん」
「フリッツさんっ」
リーネが振り返るのと同時に、9時を知らせる鐘が鳴った。今日のフリッツは、旅に相応しい革の胸当てや肩当それにブーツなどの動きやすい装備に、剣を佩いている。にっこり笑う顔が憎らしいほど魅力的で、リーネは我知らずどきっとした。
ときめいちゃだめよ。フリッツさんはただの護衛。これが終われば会うこともないんだから。
「フリッツさん、おはようございます」
内心の動揺を抑えて、リーネはフリッツに挨拶する。
「おはよう。その格好も可愛いね」
「は、はぁ……」
リーネも旅に合うように、動きやすいスリットの入った長衣をウェストできゅっと締めて、下に黒色の厚手のタイツをはいている。さらにその上に灰色の外套を纏っていた。しかも鞄を背負っている。色気のある格好とは言い難い。
フリッツさんってやっぱりちょっと変だわ。
二人は連れ立って城郭の門へ向かい歩き出す。商店が並ぶ大通りを進んでいると、フリッツの容貌に街行く女性達が振り返っていく。フリッツ本人もその視線に気付き、軽く手を振ったり笑みを見せたりと、女性達の視線に応える。
……女好き、なのかしら?
一抹の疑念が頭を過ぎるリーネだったが、フリッツは若い女性だけでなく、リーネがよく通うパン屋や花屋のおばちゃん達にも愛想を振りまいていたので、単に女性にちやほやされるのが好きなだけかもしれない、と思い直した。
二人は門を抜け、街道を歩き出す。
「それで、北の森の小さな泉だっけ?」
「はい。そこで今の時期にしかない材料を採りに行きます」
「今の時期にしかないもの? それって何だい?」
「それは見てからのお楽しみです」
リーネは少し悪戯っぽい笑みを見せる。
「とりあえず、今日は森の入口近くの村まで行きましょう」
「了解」
街道沿いは先頃騎士団が掃除をしており、魔物や野盗の類に遭遇することもなく、進んでいく。リーネは道沿いに可憐に咲く花を見つけ、足を止める。
「フリッツさん、少し待ってもらえますか?」
「どうしたの? 疲れた?」
「いえ、花をスケッチしたいんです」
「スケッチを? 私は構わないよ。主は君だからね」
「ありがとうございます。フリッツさんも休憩して下さいね」
リーネは鞄を置いて中から、紙の束を取り出す。そして釣り鐘型の花を咲かせる植物の前に座り込んで、スケッチを始めた。フリッツは隣で真剣なリーネの様子を興味深そうに見守る。
真剣な顔の女の子も素敵だな。
しばらくして、リーネが満足したのか紙を鞄に仕舞い立ち上がった。
「もう良いのかい?」
「はい。お待たせしました」
二人は再び石畳の道を歩き出す。
「そういえば、花のスケッチなんて、絵を描くのが趣味なのかい?」
「いいえ。ランプのデザインの参考にするんです」
「花が参考に?」
「そうですよ。でも、花だけでなく、木々も鳥も水も、自然なら何でも参考になります。自然は常に答えを知っていますから」
リーネはそう言って微笑んだ。正直良く分からないが、その顔が可愛かったのでフリッツは頷くだけにしておいた。その後もリーネは興味の惹くものがあれば花でも木でも鳥でも何でもスケッチした。
その度に歩みが止まったが、別段急ぐ旅でもないのでフリッツも急かさない。彼女を待ちながら、時折すれ違う旅人や商人とフリッツは話をする。リーネが木のスケッチを終えた所で、彼を声を掛けた。
「リーネさん。急かすつもりはないんだけど、精霊祭が近いから商人が増えてきているらしいよ。宿が取れなくなるかも」
「分かりました。急ぎますね」
リーネは頷き、素早くスケッチ道具を片付けると荷物を鞄を背負い、足早に歩き出した。
精霊祭とはこの国で一番大きな祭りで、毎年秋、精霊と恵みに感謝するための盛大な催しである。
街の至るところに花が飾られ、広場や大通りに出店が並ぶ。夜通し旅芸人達の歌や芝居が繰り広げられ、あちこちで食事とビールが振舞われる。飲んで騒いでの楽しい祭りだった。 リーネもこの祭りに店を出すため、ランプの材料を集めているのだ。
本当に来るの? それに、剣の腕は確かなのかしら? 何だか騎士っぽくない人だったし。騎士ってもっと真面目な人だと思ってたけど、昨日のフリッツさんは何だかちょっと軽薄そうだったし。護衛として大丈夫かな? タダより高いものはないって言うし。やっぱり断った方が良かった……かも。
リーネが悶々と考え込んでいると、誰かに肩を叩かれた。
「お待たせしたかな? リーネさん」
「フリッツさんっ」
リーネが振り返るのと同時に、9時を知らせる鐘が鳴った。今日のフリッツは、旅に相応しい革の胸当てや肩当それにブーツなどの動きやすい装備に、剣を佩いている。にっこり笑う顔が憎らしいほど魅力的で、リーネは我知らずどきっとした。
ときめいちゃだめよ。フリッツさんはただの護衛。これが終われば会うこともないんだから。
「フリッツさん、おはようございます」
内心の動揺を抑えて、リーネはフリッツに挨拶する。
「おはよう。その格好も可愛いね」
「は、はぁ……」
リーネも旅に合うように、動きやすいスリットの入った長衣をウェストできゅっと締めて、下に黒色の厚手のタイツをはいている。さらにその上に灰色の外套を纏っていた。しかも鞄を背負っている。色気のある格好とは言い難い。
フリッツさんってやっぱりちょっと変だわ。
二人は連れ立って城郭の門へ向かい歩き出す。商店が並ぶ大通りを進んでいると、フリッツの容貌に街行く女性達が振り返っていく。フリッツ本人もその視線に気付き、軽く手を振ったり笑みを見せたりと、女性達の視線に応える。
……女好き、なのかしら?
一抹の疑念が頭を過ぎるリーネだったが、フリッツは若い女性だけでなく、リーネがよく通うパン屋や花屋のおばちゃん達にも愛想を振りまいていたので、単に女性にちやほやされるのが好きなだけかもしれない、と思い直した。
二人は門を抜け、街道を歩き出す。
「それで、北の森の小さな泉だっけ?」
「はい。そこで今の時期にしかない材料を採りに行きます」
「今の時期にしかないもの? それって何だい?」
「それは見てからのお楽しみです」
リーネは少し悪戯っぽい笑みを見せる。
「とりあえず、今日は森の入口近くの村まで行きましょう」
「了解」
街道沿いは先頃騎士団が掃除をしており、魔物や野盗の類に遭遇することもなく、進んでいく。リーネは道沿いに可憐に咲く花を見つけ、足を止める。
「フリッツさん、少し待ってもらえますか?」
「どうしたの? 疲れた?」
「いえ、花をスケッチしたいんです」
「スケッチを? 私は構わないよ。主は君だからね」
「ありがとうございます。フリッツさんも休憩して下さいね」
リーネは鞄を置いて中から、紙の束を取り出す。そして釣り鐘型の花を咲かせる植物の前に座り込んで、スケッチを始めた。フリッツは隣で真剣なリーネの様子を興味深そうに見守る。
真剣な顔の女の子も素敵だな。
しばらくして、リーネが満足したのか紙を鞄に仕舞い立ち上がった。
「もう良いのかい?」
「はい。お待たせしました」
二人は再び石畳の道を歩き出す。
「そういえば、花のスケッチなんて、絵を描くのが趣味なのかい?」
「いいえ。ランプのデザインの参考にするんです」
「花が参考に?」
「そうですよ。でも、花だけでなく、木々も鳥も水も、自然なら何でも参考になります。自然は常に答えを知っていますから」
リーネはそう言って微笑んだ。正直良く分からないが、その顔が可愛かったのでフリッツは頷くだけにしておいた。その後もリーネは興味の惹くものがあれば花でも木でも鳥でも何でもスケッチした。
その度に歩みが止まったが、別段急ぐ旅でもないのでフリッツも急かさない。彼女を待ちながら、時折すれ違う旅人や商人とフリッツは話をする。リーネが木のスケッチを終えた所で、彼を声を掛けた。
「リーネさん。急かすつもりはないんだけど、精霊祭が近いから商人が増えてきているらしいよ。宿が取れなくなるかも」
「分かりました。急ぎますね」
リーネは頷き、素早くスケッチ道具を片付けると荷物を鞄を背負い、足早に歩き出した。
精霊祭とはこの国で一番大きな祭りで、毎年秋、精霊と恵みに感謝するための盛大な催しである。
街の至るところに花が飾られ、広場や大通りに出店が並ぶ。夜通し旅芸人達の歌や芝居が繰り広げられ、あちこちで食事とビールが振舞われる。飲んで騒いでの楽しい祭りだった。 リーネもこの祭りに店を出すため、ランプの材料を集めているのだ。
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