強引に婚約させられそうになったので、ちょっと冒険に出てきます~騎士とランプ屋が煌めきを探す旅をした話~

宵森 灯理

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第4話 探り合う二人

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 歩き通して夕方着いた宿では何とか部屋を取ることが出来たが、生憎と一部屋しか空いていなくて、リーネとフリッツは相部屋になってしまった。

 仕方ないわ。泊まれないよりマシだもの。それに一緒のベッドに寝るわけではないんだし。

 リーネとフリッツは荷物を置いて、夕食を取るべく階下の食堂へ向かう。

「リーネさん、お酒はいけるクチ?」
「少しなら……」

 フリッツに問われてリーネは控えめに頷く。席に着いたフリッツは店の女の子ににこやかに手を振り、食事とビールを注文する。ざわつく食堂内でもフリッツの美貌は有効なのか、女の子はすぐに来てくれた。
 そつのない人だわ、とリーネは感心するのと同時に呆れた。
 しばらくして運ばれてきたじゃがいも料理とビールを楽しみながら、フリッツがリーネに尋ねる。

「こんな風に材料を調達しに行くのは、よくあるのかい?」
「えぇ。そんなに頻繁ではないですけど」
「意外だな。ランプを作るのにわざわざ危険なところに材料調達しに行かないといけないなんて」
「そうですね。少し変わってるかもしれません」

 フリッツの言葉にリーネが苦笑する。

「でも、そういう変わったランプを気に入ってくれるお客さんがいて。だから、やめられないんですよね、ランプ作り」

 嬉しそうに自分の作ったランプを買ってくれる客の顔を思い出し、リーネは頬が緩んだ。

「良い顔してるね。実に魅力的だ」
「えぇっ……」
 
 フリッツの唐突な褒め言葉にリーネは顔が赤くなった。

「もう……揶揄わないで下さい、フリッツさん」
「揶揄ってなんかないさ。打ち込めるものがあるって素敵なことだと思うよ」

 道中のリーネの真剣な横顔を思いだし、フリッツが微笑む。

「は、はぁ……」

 こういうことさらっと言うからちょっと軽薄な人に見えちゃうんだわ、この人。

「でも、どうしてランプ屋になろうなんて思ったんだい?」
「そうですね……幼い頃、一度だけ両親に精霊祭に連れて行ってもらったことがあって。そこでとっても素敵なランプを売っているのをみたからでしょうか。その時は買えませんでしたけど」

 いつか自分でも作ってみたいと憧れるようになったのよね。

「なるほど」
「フリッツさんはどうして騎士に?」

 リーネの問いに、フリッツはうーんと少し腕を組んで考える素振りを見せる。

「私は貴族の三男坊だからねぇ。ちょっと刺激のあることしてみたかったっていうのかな。まぁ、家を継ぐわけじゃないし、好きにやらせてもらってるよ」
「貴族の三男坊……」

 リーネは改めて目の前の男が自分とは本来混じり合わない人物なのだと思い出す。

「おっと。別に私の身分のことは気にしないでくれたまえ。騎士団には貴族じゃないのも大勢いるしね。私は爵位を継がないから、ただ貴族の家に生まれたってだけだよ」
「はぁ……」
「今は君に雇われているただの護衛ってことで……あっ」

 そこまで言ってフリッツは何かに気が付いたように、声を上げた。

「どうしたんですか?」
「男と二人旅なんて、嫉妬する奴がいるんじゃないかい?」
「そんな人いませんっ」

 年がら年中工房に籠ってランプを作ってるか、材料探しに冒険に出ている女なんか、異性に好かれるわけないのだ、とリーネは思っていた。

「そうなの? 勿体ないなぁ」
「そういうフリッツさんはどうなんです?」

 さぞかし、おもてになるでしょうから、とリーネは心の中で皮肉る。

「私? 私もそういう心配はいらないな。だから、この身は君の自由にして良いよ」
「語弊のある言い方しないで下さいっ……フリッツさん、変な人って言われません?」
「うーん、調子の良い人、とは言われるかな?」
「っでしょうね」

 思わず、リーネは彼の言葉に深々と頷いてしまった。
 




 夜、リーネはベッドに入りながら、いつの間にか隣のベッドで寝ているフリッツのことを考えていた。

 フリッツさんは今まで頼んできた、どんな冒険者よりも一緒に旅しやすい人だわ。スケッチしていても決して急かしたりしないし、人当たりも良いし。

 冒険者の中には極端に愛想がなかったり、プロだからとリーネの意見を無視して勝手に日程を変えたり、スケッチの度に足を止めるとあからさまに舌打ちしたりする人もいる。しかし、フリッツはちょっと女性に対して口が上手いが、あくまで紳士的だ。
 リーネの脳裏に微笑むフリッツの姿が浮かんでくる。大きく心臓が跳ねたので、慌ててリーネは首を振った。

 ダメダメ、何を考えてるの。確かに物腰柔らかで付き合いやすい人だけど、今だけの人よ。材料を調達し終えたら、もう会うこともないのだから。
 あと、気になるのは剣の腕前だけ。でも、振るう機会がない方が良いけど。
 ……色んな意味で何事もありませんように。


一方、フリッツもリーネとこの旅のことを考えていた。

 今までこんな風に仕事をしたことはなかったけど、悪くないな。要人の警護はしたことあるけど、楽しいものではなかったしな。リーネさんは一緒に居て興味深い人だし、話をするのも面白い。そういえば、市井の女性とじっくり話すのは初めてかもしれない。

 フリッツが普段会う女性と言えば、社交界に出入りする上流階級の令嬢か、騎士仲間と連れ立って行くちょっといかがわしい酒場で働く女性くらいなものである。

 自分の力で稼いで街で生きる女性と過ごすのは初めてだ。新鮮だな、リーネさんも可愛いし。
 ……この冒険、意外に面白いかも。
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