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第9話 ランプが灯す恋
しおりを挟む「何かフクザツ……」
リーネは両手で自分の頬を包む。その表情はやや不満気味だ。ランプが全部売れたのは嬉しいが、ランプが気に入られたのか、フリッツの美貌が効果的だったのか分からないからだ。
「君のランプが良いからさ。お客さんの顔を見ただろう? 皆満足そうに君のランプを見ていたよ」
フリッツは励ますように彼女の肩を軽く叩くいた後、おどけたような表情を見せる。
「それに私も楽しかったよ。騎士止めてランプの売り子でもやろうかな?」
「また、そんなこと。その気もないのに。騎士の仕事がお好きなんでしょう?」
調子の良いことを言うフリッツに、リーネは呆れた表情で睨む。
「まぁね。でも、君の素敵なランプを売り込む仕事も悪くないと思ってね」
「はいはい」
リーネは彼の軽口を受け流し、出店の天幕を降ろす。売り物もないので開けておいてもしょうがない。
天幕の中でリーネとフリッツはほっと一息吐くと、とりとめのないことを話し出した。
「そういえば、あのご令嬢の件はどうなったんですか?」
「私よりも条件の良い相手が見つかったみたいだから、その人婚約するんじゃないかな。なかなか優秀な人らしいから。私も彼女が幸せになるのを切に願うよ」
フリッツはさしたる興味も無さそうに告げた。
「それより君は? 今までずっとランプ作ってたの?」
「えぇ。この三週間はほぼずっと工房に籠ってました。フリッツさんは?」
「私? 私はずっと騎士団長からお説教だよ」
フリッツはそれを思い出してうんざりした気分になった。
「お説教?」
「そう。まぁ、ほとんど事後承諾的に冒険しに行っちゃったからねぇ……騎士の品格とか格式とかについて毎日長々講釈されたよ」
そう宣って肩を竦めるフリッツに、リーネは唖然とした。
全然堪えてなさそうなところが凄いわ。勿論悪い意味で。
「でも、ちゃんと好きな女性を助けたかったって言ったら、最終的には納得してくれたよ」
「ちょっ……何でそう変な出まかせをっ……というか、よくそれで納得してくれましたね」
リーネが顔を赤くしながら怒る。
「何度も言うけど、私は別に嘘は吐いてないよ。君のこともっと知りたいし、もっと一緒にいたいのは事実だし」
フリッツの思わぬ告白にリーネは耳まで赤くし、口をぱくぱくさせた。
「ダメかな?」
フリッツの紫色の瞳に射貫かれて、リーネはとうとう観念することになった。
身分が違うし、フリッツさんは魅力的な人で、きっといつか彼に相応しい令嬢が現れるかもしれないし、この恋の向かう先は分からないけれど……。
「ダメじゃないです……」
消え入りそうな声でリーネはそう答えた。
「そうこなくっちゃ。嬉しいよ」
フリッツは満面の笑みを浮かべると、リーネの頬に軽く己の唇を押し当てた。
「ひゃっ!?」
思わずリーネは叫んで、キスされた頬を手で覆う。
「な、なにするんですかっ、フリッツさん!」
「いけなかった?」
悪戯っぽく尋ねてくるフリッツに、動揺が収まらないリーネは二の句が継げなくなる。
そんな二人の様子を七色の羽根を持つ乙女のランプだけがほんのり照らしていた。
そして数か月後。
「ひどいじゃないか、リーネ。私に黙って冒険に行くなんて。しかも、私以外の護衛を雇って!」
フリッツは広場のベンチでリーネの隣に座り、嫉妬混じりの不満を述べた。
「貴方は騎士なんだから、雇えるわけないでしょう? また騎士団長に絞られますよ。それに今回の護衛は女性です。大体どうしてそんなこと知ってるんです?」
「パン屋の麗しい女性から聞いたんだ」
「……最近情報漏洩が激しすぎるわ」
リーネは思い切りため息を吐いた。フリッツとリーネが忙しい合間を縫って会っているのは近所の人達には知られていて、フリッツはその持ち前の美貌と人当たりの良さで、近所のおば様方に気に入られていたのだった。
「団長に何言われても別に気にしないけど。君が何も言わずに冒険を楽しんだのが気に食わない」
「そんな楽しいものじゃなかったですよ。隣に住んでる魔女が新しい魔法を試したいって一緒についてきたけど、危うく森半分消失させかけたんだから」
「何それ。すごく聞きたい。やっぱり君は面白い人だね」
不満顔だったフリッツは、リーネの言葉に俄然興味が湧いてきたようで、紫色の目を輝かせている。
こうして昼下がり、恋人達は一時の逢瀬を楽しむのだった。
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