強引に婚約させられそうになったので、ちょっと冒険に出てきます~騎士とランプ屋が煌めきを探す旅をした話~

宵森 灯理

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第8話 精霊祭の日

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そして精霊祭の日。その日は朝から市が並び、広場では旅芸人が芸を披露し、楽を奏でる。街中に人々が溢れ、着飾り、老いも若きも、貴族も庶民も銘々に祭りを満喫する。
 リーネも自分に宛がわれた出店のテントの中で出店の準備を進めていた。夕方、あらかたの準備が整い、天幕の開けようとしていたところ、後ろから声を掛けられた。

「リーネさん」

 呼ばれて振り返ると、そこにフリッツが立っていた。刺繍の入った白いチュニックを着たラフな姿もよく似合っていて、道行く女性達の視線を集めている。

「フリッツさん! どうしてここに?」

 リーネが驚いた顔を見せると、フリッツは悪戯っぽく笑う。

「実は気になる女の子がいてね。その人の様子を見に来たんだ」

 彼の言葉にリーネはずきんっと心が痛むが、それをおくびにも出さずにおどけたように返す。

「あらあら。そんな幸運な女の子はどこの誰ですか?」
「それを私の口から言わせるなんて、君はなかなか策士だね」
「えっ?」 
「その人は、金髪の可愛い子で、田舎から出てきて錬金術でランプを作っていて、旅慣れてて毒霧吹くのが好きな女の子なんだけど、心当たりあるかな?」
「……それって私のことですか?」
「大正解」

 フリッツは嬉しそうに破顔した。

「精霊祭楽しみにしてるって言ったじゃないか。忘れてた?」
「あれはてっきり社交辞令かと……」
「嘘じゃなかったろう?」

 嬉しさと戸惑いがリーネの中で綯い交ぜになる。

「まだお店開けてなかったんだ」

 フリッツが周囲を見ながら言った。殆どの出店は幕を開け商売をしている。

「えぇ。だってランプは……」
「宵闇の中で光るもの、だから?」
「そうです」

 どうやらフリッツはリーネがあの夜放った言葉を覚えていたようだ。リーネが思わず微笑んだ。

「でも、そろそろ日が暮れてきましたから開けようと思っていたところです」

 彼女の言う通り、建物の陰に陽が沈みつつあった。リーネが得意そうな顔を見せ、出店の幕を左右に開く。その瞬間、色とりどりの光がフリッツの目の前に飛び込んできた。
 彼女の店には所狭しとランプやランタンが棚に飾られたり、上から吊り下げられたりしている。
 ステンドグラスのように様々な色の組み合わされたキノコ型のランプ、薄紅色の釣り鐘型の花の中にほんのりと光を宿すランプ、澄んだ青の、水の流れを表したような変わった形のものなど、あの旅でリーネがスケッチしていたものと似ている気がした。
 一つ一つのランプはそれほどの光量ではないが、それらが一つの狭い空間に集まっていると、自分がまるで影のない世界に迷い込んでしまったような気持ちになった。フリッツは圧倒されて、しばしの間無言で見つめる。
 
「凄いな……とても綺麗だ」

 ようやく絞りだしたフリッツの呟きに、リーネが満足そうに頷く。こうして素直に感嘆してもらえるのが嬉しい。

「これは……」

 フリッツの目に留まったのは、蝶の羽根を付けた乙女の姿を模したランプであった。乙女の肌は摺り硝子のように白の半透明で、羽根の部分はあの夜見た月煌蝶と同じ七色に輝いている。そしてその羽根の周りに、ふわふわと金色の粉が舞い、ランプの光を受けて煌めいている。それは紛うことなき、月煌蝶の鱗粉である。
 乙女は手と足を思い切り伸ばし、今まさに風を受けて飛び立とうしているような、そんな雰囲気があった。
 一体どういう仕組みになっているのかフリッツには知りようもないが、これが彼女の錬金術なのだろう。
 
「すごく良いよ、これ。私が買っても構わないかい?」
「えぇ。勿論良いですよ。フリッツさんが今夜最初のお客様ですね」
「君は自然は答えを知っている、と言ってたけれど、君が自然の中にその美しさを見出しているんだね。これらのランプは全て君の心の裡から出てきたものなんだ」
「……そんな風に言われると何だか恥ずかしいです」

 まるで心の中を見られているみたいな言い方だわ、とリーネは体が熱くなる。

「いやいや。照れることないよ。本当に素晴らしい作品ばかりだから」

 フリッツが思いの外真剣に頷いたので、リーネは増々恥ずかしくなってくる。そうこうしている内に、ランプの光に興味を惹かれた人々が集まってきた。
 リーネははっとして、やってきた客に笑みを見せる。

「ランプ屋へようこそ!」
「素晴らしいランプばかりですよ」

 フリッツも極上の笑みを見せて客を誘う。その結果、ランプはバカ売れし、想定していたよりもずっと早く完売した。
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