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第5話 光
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その光は私と少年を包み込んで、そして弾けた。私は思わず目を開く。見れば、少年の体から黒い穢れが消えていた。
「えっ……消えてる……?」
一体何が起きたの?
「ありがとうございますっ、ありがとうございますっ!」
母親が涙を溢れさせながら、私に何度も頭を下げている。けれど、私には何が起きたのかよく分からなかった。この少年が助かったのも、私がしたことなのか、他の人がしたことなのか。
「ほう……さすがは聖公家、と言ったところでしょうか……」
アンリさんが感心したように腕を組んで呟くが、私には彼を救った、という実感がまるで無かった。戸惑っていると、少年が身動ぎする。力の無かった瞳が輝きを取り戻し、徐々に焦点が定まっていく。
「せい、じょ……さま……」
掠れた声で少年が何か囁いた。
「ティレニ!」
「おかあさん……」
母親が我が子を抱き締める。ティレニと呼ばれた少年は何度か瞬きしてゆっくりと母親の背に腕を回した。
「お母さん、もう大丈夫だよ。聖女様が助けてくれたから。聖女様、ありがとう」
そう言ってティレニ少年は、大きな丸い瞳を私に向ける。
「私?」
ティレニくんはうんと頷いた。
「私は聖女ではないわ。ただの神官の、ソフィーよ」
私は首を振って、そう答えた。聖女を名乗れるような大仰な力は持っていないもの。
「そう、なのかな……でも、僕を救ってくれたあなたは僕にとっては聖女様だよ。光が見えたんだ」
「光?」
「興味深いですね。ティレニくん、もう少し詳しく聞かせてもらえませんか?」
元々研究に打ち込んでいたらしいアンリさんが、興味津々でティレニくんに尋ねる。
「うん。何だかすごく暖かい光が流れて来て……それで、まるで体の芯から力が湧いてくるような感じがしたんだ」
「それはきっと貴方の内側の、生きたいという強い気持ちの表れね。私は何もしていないわ」
「ううん。その光はあなたから流れてきたものだよ」
「私から?」
確かに何かキラキラと光る粒子が見えたけれど……あれが何なのか分からないわ。私の力でないことだけは確かだわ。
「聖女の血脈には何か力があるのか……」
ぽそりとアンリさんが呟いた言葉に私は首を振る。
「いいえ。アンリさん私には聖女のような力はありません。ティレニくんが助かったのも本人の力だと思います」
「ですが……」
「ありがとうございます、聖女様」
ティレニくんのお母さんが何度も私に頭を下げる。
「何度も言いますが、私は聖女ではないんです。ただのソフィーです。さあ、ティレニくんのお母様もどうかゆっくり休んで下さい」
私は労わるように彼女の背を摩ってから、立ち上がった。
「アンリさん、ティレニくんのように穢れに冒された人々は今も多数いらっしゃるのですか?」
「良いですか、ソフィーさん。貴女のしたことは大変なことです」
「どういう意味ですか?」
アンリさんの言葉の意味が分からなくて、私は怪訝な表情を作る。また何か悪いことをしてしまったかしら……。
「ドラゴンの吐いた炎で焼かれたところを触るだけで、ティレニくんのように穢れてしまうのです。彼は逃げる途中に運悪く穢れに触れてしまったようですが。その穢れは普通の火傷のように治癒術を施せば治るものではない」
「ええ。それは知っています」
「さらに言えば、万病を癒すと言われるシルフィスの泉も瘴気で穢され役には立たない。つまり穢れを浄化出来るのは今もってこの国には貴女しかいない、ということです」
「ちょっと待って下さい。それはどういうことですか? 高位の神官ならそのくらいは……」
意外なことを言われて私は戸惑った。
「高位の神官とて、強力なドラゴンの穢れは祓えないでしょう。さすがは聖女の血脈、ということでしょうか。私は貴女のことを見誤っていたようです」
「待って下さい、アンリさん……私にも何が起きたのか分からないのです。ただ光が見えて、祈っただけで……私に穢れを消す力があるなんてとても……」
「では、その”感覚”を掴んで下さい。貴女がそれを確実に掴めば人々を救うことが出来る」
「そんな……」
無茶なことを言う。自分の力がどうかも分からないのに。
「人々を救う為に我々はここにいるのですから」
アンリさんは悔しさを滲ませて言った。そうだ、実際忸怩たる思いをしているのは、苦しむ人々を前に癒してあげられない神官達だわ。
弱音を吐いている場合ではない。
「けれど、私だけではとてもこれほど多くの人々を救うことは出来ません」
「それでもやって頂くしかありません」
アンリさんがそう言って、視線を巡らせる。私もつられて周囲を見ると、確かに防具を身に着けた兵士らしき姿があった。やはり穢れに冒され呻いている。私はその痛ましさに思わず目を閉じた。
再び家と教会上層部に腹が立つ。被害の報告は確実に上がっているはずなのに、穢れを恐れて誰も派遣しないなんて!
我知らず、手を強く握りしめていた。
……けれど私だってそれは同じ。マルバシアスが危機と聞いて心配はしたけれど、何をした? 何もしていないわ。私にとっても所詮他人事だった。そんな人間にはどだい王妃なんて務まらなかったわね。
私は目と掌を開く。
ならばせめて、少しでも人々の傷を癒したい。一人の神官として。アンリさんの言う通り、やってみるしかないわ。現状、他に手立てがないのだもの。
「えっ……消えてる……?」
一体何が起きたの?
「ありがとうございますっ、ありがとうございますっ!」
母親が涙を溢れさせながら、私に何度も頭を下げている。けれど、私には何が起きたのかよく分からなかった。この少年が助かったのも、私がしたことなのか、他の人がしたことなのか。
「ほう……さすがは聖公家、と言ったところでしょうか……」
アンリさんが感心したように腕を組んで呟くが、私には彼を救った、という実感がまるで無かった。戸惑っていると、少年が身動ぎする。力の無かった瞳が輝きを取り戻し、徐々に焦点が定まっていく。
「せい、じょ……さま……」
掠れた声で少年が何か囁いた。
「ティレニ!」
「おかあさん……」
母親が我が子を抱き締める。ティレニと呼ばれた少年は何度か瞬きしてゆっくりと母親の背に腕を回した。
「お母さん、もう大丈夫だよ。聖女様が助けてくれたから。聖女様、ありがとう」
そう言ってティレニ少年は、大きな丸い瞳を私に向ける。
「私?」
ティレニくんはうんと頷いた。
「私は聖女ではないわ。ただの神官の、ソフィーよ」
私は首を振って、そう答えた。聖女を名乗れるような大仰な力は持っていないもの。
「そう、なのかな……でも、僕を救ってくれたあなたは僕にとっては聖女様だよ。光が見えたんだ」
「光?」
「興味深いですね。ティレニくん、もう少し詳しく聞かせてもらえませんか?」
元々研究に打ち込んでいたらしいアンリさんが、興味津々でティレニくんに尋ねる。
「うん。何だかすごく暖かい光が流れて来て……それで、まるで体の芯から力が湧いてくるような感じがしたんだ」
「それはきっと貴方の内側の、生きたいという強い気持ちの表れね。私は何もしていないわ」
「ううん。その光はあなたから流れてきたものだよ」
「私から?」
確かに何かキラキラと光る粒子が見えたけれど……あれが何なのか分からないわ。私の力でないことだけは確かだわ。
「聖女の血脈には何か力があるのか……」
ぽそりとアンリさんが呟いた言葉に私は首を振る。
「いいえ。アンリさん私には聖女のような力はありません。ティレニくんが助かったのも本人の力だと思います」
「ですが……」
「ありがとうございます、聖女様」
ティレニくんのお母さんが何度も私に頭を下げる。
「何度も言いますが、私は聖女ではないんです。ただのソフィーです。さあ、ティレニくんのお母様もどうかゆっくり休んで下さい」
私は労わるように彼女の背を摩ってから、立ち上がった。
「アンリさん、ティレニくんのように穢れに冒された人々は今も多数いらっしゃるのですか?」
「良いですか、ソフィーさん。貴女のしたことは大変なことです」
「どういう意味ですか?」
アンリさんの言葉の意味が分からなくて、私は怪訝な表情を作る。また何か悪いことをしてしまったかしら……。
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「ええ。それは知っています」
「さらに言えば、万病を癒すと言われるシルフィスの泉も瘴気で穢され役には立たない。つまり穢れを浄化出来るのは今もってこの国には貴女しかいない、ということです」
「ちょっと待って下さい。それはどういうことですか? 高位の神官ならそのくらいは……」
意外なことを言われて私は戸惑った。
「高位の神官とて、強力なドラゴンの穢れは祓えないでしょう。さすがは聖女の血脈、ということでしょうか。私は貴女のことを見誤っていたようです」
「待って下さい、アンリさん……私にも何が起きたのか分からないのです。ただ光が見えて、祈っただけで……私に穢れを消す力があるなんてとても……」
「では、その”感覚”を掴んで下さい。貴女がそれを確実に掴めば人々を救うことが出来る」
「そんな……」
無茶なことを言う。自分の力がどうかも分からないのに。
「人々を救う為に我々はここにいるのですから」
アンリさんは悔しさを滲ませて言った。そうだ、実際忸怩たる思いをしているのは、苦しむ人々を前に癒してあげられない神官達だわ。
弱音を吐いている場合ではない。
「けれど、私だけではとてもこれほど多くの人々を救うことは出来ません」
「それでもやって頂くしかありません」
アンリさんがそう言って、視線を巡らせる。私もつられて周囲を見ると、確かに防具を身に着けた兵士らしき姿があった。やはり穢れに冒され呻いている。私はその痛ましさに思わず目を閉じた。
再び家と教会上層部に腹が立つ。被害の報告は確実に上がっているはずなのに、穢れを恐れて誰も派遣しないなんて!
我知らず、手を強く握りしめていた。
……けれど私だってそれは同じ。マルバシアスが危機と聞いて心配はしたけれど、何をした? 何もしていないわ。私にとっても所詮他人事だった。そんな人間にはどだい王妃なんて務まらなかったわね。
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