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第3章 アデレードの挑戦
第26話 山の王
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喧騒の中から一人の美しい乙女がこちらへ近づいてくる。綺麗に結い上げられた銀髪(プラチナブロンド)の髪、菫色の瞳、薔薇色の頬。カールの目がその可憐な少女を捉える。
何故だろう、狩りの前のようにとても気分が高揚する。
「あの、お肉……」
「あぁ、そこへ置いてくれ」
カールは側に置いてある丸いテーブルに皿を置くように指示する。アデレードは言われた通りにそこへ置いた。
「ありがとう。楽しんでいるか?」
「はい。でも驚きました。こういう賑やかな席は初めてで」
アデレードの言葉にカールは愉快そうに笑った。その笑い方さえいつもと違う。
「貴族の夜会ではこうはいくまい」
「えぇ、でも活気があって良いと思いますわ」
彼はアデレードをじっと見つめる。何かを探るような視線に彼女は落ち着かない。
「本当にそう思うか?」
「はい。だって皆さん本当に楽しそうですもの。見ていて私も楽しくなってきます」
「そうか……」
カールが目を細める。
「伯爵?」
やはりいつもの伯爵と何か違う気がする。
アデレードの戸惑いを他所にカールは彼女の腕を掴む。そしてぐいっと自分の方へ引き寄せた。アデレードはカールの胸に倒れ込む形となり、その背に彼の手が添えられる。
「えっ、は、はくしゃくっ!?」
驚いて顔を上げれば、カールの顔が異様に近い。頬の傷が、彼の精悍さをより際立たせている。アデレードの心臓が早鐘のように打つ。
「口さがない連中は我らを山賊と蔑むが、君も同じか?」
「いいえ」
アデレードとカールが見つめ合う。彼の夜の様に深い青い瞳に吸い込まれそうになる。目を離すことが出来ない。宴の喧騒が遠のく。まるでこの世界に2人しかいないような、そんな気さえしてしまう。
「私には山の王に見えます。豪胆で快闊(かいかつ)で危険な……」
そうとても危険だ。もう少し近づいたら唇が触れてしまいそうになるくらいに。
「我が一族に嫁いできた女達は皆、拐かされてきただの、奪われてきただの言われてきた。私の母も。そしてきっと君もそう言われることになるだろう」
「あの、伯爵、それはどういう意味で……」
背中に添えられた手から熱さが伝わってくる。アデレードの体も火照りを帯びる。
もし、その手で奪われるなら、それはそれで良い気がする……私、何考えてるのかしら……。
「野蛮な山賊が奪ってしまいたいと思うほど欲している、ということだ、アデレード」
「あの、今アデレードって……」
アデレードの顔に驚きが広がる。いつも敬称を付けて呼んでいたカールから、アデレードと呼び捨てにされたことは初めてだ。彼女は混乱する。嬉しいような恥ずかしいような。いつもと違うカールに戸惑うばかり。鼓動がいやに早く大きく脈打つ。
これ以上、早くなったら死んでしまいそう。
「あ、あの、私そろそろおいとましますねっ」
アデレードは無理やり視線を外し、身を翻してカールの体から離れる。火照った顔を両手で押さえつつ走って宴会場を通り抜けていく。
「お嬢さん?」
友達と話していたメグが驚いて声を掛けるが、アデレードは止まらない。
「メグ、私何だか疲れてしまったから帰りますわね。私のことは気にしなくて良いから楽しんで。ディマ!」
アデレードが早口に言い、最後に愛犬の名を呼ぶ。すると、寝転んで子ども達に撫でられるままになっていたディマが起き上がり、主のもとまで駆ける。アデレードはその勢いのまま伯爵の屋敷を後にした。
顔が、体が熱い。冷たい冬の夜の空気が、逆に有難かった。
何故だろう、狩りの前のようにとても気分が高揚する。
「あの、お肉……」
「あぁ、そこへ置いてくれ」
カールは側に置いてある丸いテーブルに皿を置くように指示する。アデレードは言われた通りにそこへ置いた。
「ありがとう。楽しんでいるか?」
「はい。でも驚きました。こういう賑やかな席は初めてで」
アデレードの言葉にカールは愉快そうに笑った。その笑い方さえいつもと違う。
「貴族の夜会ではこうはいくまい」
「えぇ、でも活気があって良いと思いますわ」
彼はアデレードをじっと見つめる。何かを探るような視線に彼女は落ち着かない。
「本当にそう思うか?」
「はい。だって皆さん本当に楽しそうですもの。見ていて私も楽しくなってきます」
「そうか……」
カールが目を細める。
「伯爵?」
やはりいつもの伯爵と何か違う気がする。
アデレードの戸惑いを他所にカールは彼女の腕を掴む。そしてぐいっと自分の方へ引き寄せた。アデレードはカールの胸に倒れ込む形となり、その背に彼の手が添えられる。
「えっ、は、はくしゃくっ!?」
驚いて顔を上げれば、カールの顔が異様に近い。頬の傷が、彼の精悍さをより際立たせている。アデレードの心臓が早鐘のように打つ。
「口さがない連中は我らを山賊と蔑むが、君も同じか?」
「いいえ」
アデレードとカールが見つめ合う。彼の夜の様に深い青い瞳に吸い込まれそうになる。目を離すことが出来ない。宴の喧騒が遠のく。まるでこの世界に2人しかいないような、そんな気さえしてしまう。
「私には山の王に見えます。豪胆で快闊(かいかつ)で危険な……」
そうとても危険だ。もう少し近づいたら唇が触れてしまいそうになるくらいに。
「我が一族に嫁いできた女達は皆、拐かされてきただの、奪われてきただの言われてきた。私の母も。そしてきっと君もそう言われることになるだろう」
「あの、伯爵、それはどういう意味で……」
背中に添えられた手から熱さが伝わってくる。アデレードの体も火照りを帯びる。
もし、その手で奪われるなら、それはそれで良い気がする……私、何考えてるのかしら……。
「野蛮な山賊が奪ってしまいたいと思うほど欲している、ということだ、アデレード」
「あの、今アデレードって……」
アデレードの顔に驚きが広がる。いつも敬称を付けて呼んでいたカールから、アデレードと呼び捨てにされたことは初めてだ。彼女は混乱する。嬉しいような恥ずかしいような。いつもと違うカールに戸惑うばかり。鼓動がいやに早く大きく脈打つ。
これ以上、早くなったら死んでしまいそう。
「あ、あの、私そろそろおいとましますねっ」
アデレードは無理やり視線を外し、身を翻してカールの体から離れる。火照った顔を両手で押さえつつ走って宴会場を通り抜けていく。
「お嬢さん?」
友達と話していたメグが驚いて声を掛けるが、アデレードは止まらない。
「メグ、私何だか疲れてしまったから帰りますわね。私のことは気にしなくて良いから楽しんで。ディマ!」
アデレードが早口に言い、最後に愛犬の名を呼ぶ。すると、寝転んで子ども達に撫でられるままになっていたディマが起き上がり、主のもとまで駆ける。アデレードはその勢いのまま伯爵の屋敷を後にした。
顔が、体が熱い。冷たい冬の夜の空気が、逆に有難かった。
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