49 / 109
第3章 アデレードの挑戦
第50話 返ってきた手紙
しおりを挟む
雪が融けて、山に白以外の地肌の黒や植物の緑の色が見え始めた頃、アデレードはカールがそろそろ王都に向けて出発することを聞いた。テッドに絵を依頼してから数日が経っていた。
「王都に行かれる前に、伯爵にお会いしたらどうですか?」
「でも、準備で何かとお忙しいでしょう……」
主人の気持ちを察してメグはそう提案したが、アデレードは首を振った。カールに会いたい気持ちは有ったが、会いに行く口実が見当たらない。
「まぁまぁ、何か王都で買ってきてもらいたいものを頼むとか」
「そんな……厚かましいわ。伯爵にお使いの真似事なんて……」
「じゃぁ、ご家族やご友人に伝言をお願いするなんてどうです?」
「たぶん、それ誰も喜ばないと思うわ」
トントンと誰かが玄関のドアを叩く。
「私が出ます」
メグがパタパタと小走りに玄関へ行って、そして手に封筒を持って戻ってきた。どうやら雪で閉ざされていた道も、通れるようになったようだ。
「お嬢さんにお手紙だ、そうです。何だか重いものが入ってるみたいですけど」
メグがアデレードにその分厚い封筒を渡す。受け取ったその封筒の重みと音にアデレードは嫌な予感がした。送り主を確認すると、やはりマイヤール家からだった。
「少し自室に戻るわ」
アデレードはそれだけ言って、階段を上がる。部屋の椅子に座り、机に手紙の中身を広げると、やはり大量の金貨が入っていた。思わず彼女は失笑してしまう。
「あら……」
封筒の中に一枚紙が残っていた。微かな期待を胸に、それを取り出してみる。それは便箋ではなく、アデレードの名が書かれた、この家と周囲の土地の権利書だった。
「これは……どういうことかしら?」
マイヤール公爵家の管轄では無くなったからもう関わるな、ということ? それともすごく遠回りに一人でも頑張れよと励ましてくれているの?
……後者と受け取っておきましょう。
「送った手紙は読まれていないのかしら……それとも読んだ上でこれを送ってきたの? どちらにしろ、まだ謝罪は受け取ってもらえないのね」
アデレードは自嘲的に笑う。
和解の道は遠いわね……それでも、望みだけはは捨てないでおきましょう。
「それにもう一人、いえ二人、謝らなければいけない方がいますわね」
机の引き出しを開けて、中に仕舞ってあった手紙を取り出す。おいそれとは渡せない相手への手紙。
「どうしようかしら……」
アデレードが逡巡していると、伯爵に頼んでみたら、というメグの言葉を思い出す。そこでまた少し悩んだが、意を決して立ち上がる。
「よしっ」
アデレードは手紙を持って、部屋を出る。階段を下りて、食堂の掃除をしていたメグに話し掛ける。
「メグ、少し出かけてくるわね」
「どちらに?」
メグが手を止めて尋ねる。
「伯爵のところよ。おいでディマ」
メグの近くで寝転んでいたディマが起き上がり、アデレードの側にやってくる。
「それじゃ、行ってくるわ」
「はい。いってらっしゃいませ」
アデレードはディマを連れて歩き出す。ディマはカールに会えるのが分かっているのか、嬉しそうにどんどん進んでいく。北へ向かって歩いていくと、リーフェンシュタール伯爵家の邸宅群が見えてきた。その中の一番大きな屋敷の近くまで来て、アデレードは立ち止まった。
「やっぱり、お忙しいわよね。それに、こんなこと伯爵に頼むのもおかしいですし……」
決意を固めてやってきたつもりだったが、いざ目の前にすると迷いが出る。だが、ディマは元気よくワンと吠えたので、衛士に気付かれてしまった。
そして、そのまま中に通され、アデレードとディマは応接室で待つようにと、留め置かれることになった。
「何だか緊張するわ……」
「王都に行かれる前に、伯爵にお会いしたらどうですか?」
「でも、準備で何かとお忙しいでしょう……」
主人の気持ちを察してメグはそう提案したが、アデレードは首を振った。カールに会いたい気持ちは有ったが、会いに行く口実が見当たらない。
「まぁまぁ、何か王都で買ってきてもらいたいものを頼むとか」
「そんな……厚かましいわ。伯爵にお使いの真似事なんて……」
「じゃぁ、ご家族やご友人に伝言をお願いするなんてどうです?」
「たぶん、それ誰も喜ばないと思うわ」
トントンと誰かが玄関のドアを叩く。
「私が出ます」
メグがパタパタと小走りに玄関へ行って、そして手に封筒を持って戻ってきた。どうやら雪で閉ざされていた道も、通れるようになったようだ。
「お嬢さんにお手紙だ、そうです。何だか重いものが入ってるみたいですけど」
メグがアデレードにその分厚い封筒を渡す。受け取ったその封筒の重みと音にアデレードは嫌な予感がした。送り主を確認すると、やはりマイヤール家からだった。
「少し自室に戻るわ」
アデレードはそれだけ言って、階段を上がる。部屋の椅子に座り、机に手紙の中身を広げると、やはり大量の金貨が入っていた。思わず彼女は失笑してしまう。
「あら……」
封筒の中に一枚紙が残っていた。微かな期待を胸に、それを取り出してみる。それは便箋ではなく、アデレードの名が書かれた、この家と周囲の土地の権利書だった。
「これは……どういうことかしら?」
マイヤール公爵家の管轄では無くなったからもう関わるな、ということ? それともすごく遠回りに一人でも頑張れよと励ましてくれているの?
……後者と受け取っておきましょう。
「送った手紙は読まれていないのかしら……それとも読んだ上でこれを送ってきたの? どちらにしろ、まだ謝罪は受け取ってもらえないのね」
アデレードは自嘲的に笑う。
和解の道は遠いわね……それでも、望みだけはは捨てないでおきましょう。
「それにもう一人、いえ二人、謝らなければいけない方がいますわね」
机の引き出しを開けて、中に仕舞ってあった手紙を取り出す。おいそれとは渡せない相手への手紙。
「どうしようかしら……」
アデレードが逡巡していると、伯爵に頼んでみたら、というメグの言葉を思い出す。そこでまた少し悩んだが、意を決して立ち上がる。
「よしっ」
アデレードは手紙を持って、部屋を出る。階段を下りて、食堂の掃除をしていたメグに話し掛ける。
「メグ、少し出かけてくるわね」
「どちらに?」
メグが手を止めて尋ねる。
「伯爵のところよ。おいでディマ」
メグの近くで寝転んでいたディマが起き上がり、アデレードの側にやってくる。
「それじゃ、行ってくるわ」
「はい。いってらっしゃいませ」
アデレードはディマを連れて歩き出す。ディマはカールに会えるのが分かっているのか、嬉しそうにどんどん進んでいく。北へ向かって歩いていくと、リーフェンシュタール伯爵家の邸宅群が見えてきた。その中の一番大きな屋敷の近くまで来て、アデレードは立ち止まった。
「やっぱり、お忙しいわよね。それに、こんなこと伯爵に頼むのもおかしいですし……」
決意を固めてやってきたつもりだったが、いざ目の前にすると迷いが出る。だが、ディマは元気よくワンと吠えたので、衛士に気付かれてしまった。
そして、そのまま中に通され、アデレードとディマは応接室で待つようにと、留め置かれることになった。
「何だか緊張するわ……」
2
あなたにおすすめの小説
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―
鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。
泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。
まだ八歳。
それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。
並ぶのは、かわいい雑貨。
そして、かわいい魔法の雑貨。
お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、
冷めないティーカップ、
時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。
静かに広がる評判の裏で、
かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。
ざまぁは控えめ、日常はやさしく。
かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。
---
この文面は
✔ アルファポリス向け文字数
✔ 女子読者に刺さるワード配置
✔ ネタバレしすぎない
✔ ほのぼの感キープ
を全部満たしています。
次は
👉 タグ案
👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字)
どちらにしますか?
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!
ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。
なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる