悪役令嬢として断罪された過去がありますが、よろしいですか?~追放されし乙女は、そして静かに歩みだす~

宵森 灯理

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第3章 アデレードの挑戦

第51話 しばしのお別れ

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「フロイライン・アデレードが訪ねてきた?」

 執務室にいたカールは部下の報告に、思わず怪訝な顔になる。

「はい。応接室にお通ししております」
「分かった。会おう」

 カールは立ち上がり部屋を出て、我知らず早足で応接室へ向かう。ドアをノックして中へ入ると、妙齢の執事が彼女に紅茶を出しているところだった。アデレードはカールが入って来るのを見て、立ち上がろうとしたが、彼が手で制し、対面に座った。

「ごゆっくり」

 カールにも紅茶を淹れ、執事は意味ありげな視線を主人に送り微笑んで出て行った。カールはそれを一睨みして見送る。

「伯爵、突然訪ねて来てしまって申し訳ございません」
「いや、しかし何かまた面倒事でも起きたのか?」
「それでは、私がいつも何か問題起こしているみたいではありませんか」

 アデレードが不満顔になる。

「まぁ、そう捉えることも出来るな」
「まぁっ」
「いえ、何があったという訳ではないのですけれど……」

 戸惑いを見せるアデレードにカールは話すまで待つことにした。その間にディマが尻尾を振ってカールの膝に頭を乗せて、上目遣いにカールを見つめる。カールは笑ってその頭を撫でてやる。

「その、伯爵に頼みというか、お願いがありますの」
「お願い?」
「はい。その手紙を届けて頂きたいのです。でも、やはり伯爵にこのような頼み事、おかしいですわね」

 アデレードは視線を外し、辛そうに遠くを見る。

「いや、そんなことはないが、だが誰に?」
「……エーリッヒ王子とその恋人にです」
「!」

 カールの顔に驚きと衝撃が広がり、ディマを撫でていた手が止まった。

「なぜ急に……」

 やはり王子が恋しくなったか、それとも帰りたくなったか……。

 カールの中に不安が渦巻き、アデレードは困ったように笑う。

「急、というわけではないのですが、出す勇気が無かったのです。単なる謝罪の手紙なのですけれど」
「謝罪の?」
「はい。私がしでかしたことへの謝罪の手紙です。ですが、両親に送るものとは訳が違いますもの、なかなか出せなかったのです」
「それは、そうだな」

 カールは手紙の内容を聞いて安堵した。そしてそのことに多少なりとも困惑を覚える。

「それで私に手紙を?」
「はい。伯爵にこんなお願いはご迷惑とは存じておりますが……もし、王子に会う機会が会って、私の名を聞いても気分が悪くなったり、著しく嫌な顔をなさらなかったなら、この手紙をお渡しして頂けませんか?」

 そう言ってアデレードは机に手紙を置く。

「フロイライン……」
「もし、伯爵から見て渡すのを躊躇(ためら)うほど私のことを嫌がっていらっしゃるようなら、この手紙は破るなり燃やすなりして捨てて下さい。謝って楽になりたいのは、私の気持ちであって、王子が許さないと考えておられるなら、それは当然のことですもの」
「……分かった。預かっておこう」
「ありがとうございます、伯爵」

 アデレードはほっとしたように微笑む。

「感謝するのはまだ早いぞ。渡せるかどうかは分からないのだから」
「いえ、そんな。これは私の我儘ですもの……伯爵に本当に何かお返しが出来れば良いのですけれど」
「気にすることはないと言っているだろう。それで、改装の方は進んでいるのか?」

 カールは話題を転じ、再びディマを撫で始める。

「はい! そうですわ、絵を飾ろうと思ってテッドに依頼をしたのですわ。それに……」

 先ほどの痛切な感じから打って変わって、アデレードは楽しそうに話し始める。カールはそれを優しい眼差しで聞く。

 フロイライン・アデレードは生き生きしている今の方がずっと魅力的だ。切ない表情など似合わない。




 その数日後、ついにカールが王都に向けて旅立つときが来た。村人達が伯爵の乗る馬車を見送っている。アデレードをその中に混じっていた。馬車の中からカールの姿が見える。彼の方もアデレードの姿に気付き、小さく頷いた。村の住民達がその様子を見て口々に小声で話し合う。

「伯爵様は、社交界で結婚相手をお探しになるんだろう?」
「探さなくても近くに居るのにねぇ」
「お嬢さんと伯爵様お似合いなのに……」

 そんな風に噂されているとも知らず、カールを乗せた馬車は粛々と王都へ向けて進んでいった。




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