悪役令嬢として断罪された過去がありますが、よろしいですか?~追放されし乙女は、そして静かに歩みだす~

宵森 灯理

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第3章 アデレードの挑戦

第53話 狐の恩返し?

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 狐を助けたことなどすっかり忘れた頃、アデレードはディマを連れていつものように山に散歩へ出かけた。ディマは元気いっぱいにどんどん先へ進んでいく。

「もうディマったら」

 アデレードは苦笑いしてディマを追いかけるが、すぐに姿が見えなくなった。森の中で一人残される。何だか急に森が深くなった気がした彼女は、不安になり愛犬を呼ぶ。

「ディマ!」

 愛犬は戻ってこない。

「アデレード……」

 誰かが自分の名を呼ぶ声がして、アデレードは相手を探すように周囲を見回す。

「アデレード……」
「誰? どこにいるの?」
「ここだ」

 木の影からカールが現れる。

「は、はくしゃくっ? どうして……王都にいらっしゃるのでは?」
「君に会いに戻ってきた」
「えっ……」

 カールの言葉にアデレードは目を丸くする。カールは優しく微笑み、近づいてくる。そして当惑するアデレードの右手を取ると、手の甲に口づけした。そこからまるで熱でも伝わるようにアデレードの体が赤くなる。今の状況が理解しがたくて目を白黒させた。

「あのっ……」
「嫌か?」
「そんなっ」

 いつもと違うカールにアデレードはただただ驚き固まる。

 一体王都で何があったのかしら……。今日の伯爵はまるで、あの冬狩りの夜のような強引さですわ。

 とはいえ、それが不快かと言えばそういうわけではないのが、アデレードの弱みだ。カールは彼女の背に手を回し、体を引き寄せ密着させた。そして顔を近づけてる。彼の濃紺の瞳がアデレードを捉える。

「きゃっ」

 じっと見つめられる恥ずかしさに、思わずアデレードは顔を背けると、その頬に唇が軽く触れる。体が甘く疼く。

 これは、なに……? 伯爵は私のこと、愛してくれているの?

 どこからか音楽が流れてくる。美しい調べが響くワルツ。気が付けば、2人は輝くシャンデリアの下、着飾って舞踏会の中にいた。青いドレスが翻り、カールにリードされ優雅にステップを踏む。見つめ合って、あたかも愛し合い恋人同士のようであった。お互いの顔が再び近づく。

「今度は避けないでくれ」
「はい……」

 アデレードがうっとりと目を閉じる。2人の唇が触れ合いそうになるその瞬間ー。

 わんわん、と吠える声が森に響き、がさがさと草を揺らす音がする。アデレードがはっと我に返ると、いつもの山の中に一人立っていた。

「えっ……伯爵は?」

 ディマがアデレードの側に走り寄ってくる。

「幻……だったのかしら……」

 呆然と呟いてから、アデレードの顔がぼっと赤くなった。

 私何でこんな幻想なんか……。

 密かに望んでいることを見透かされたような気がして、まるで心の中を丸裸にされた気分だ。

「恥ずかしいわっ」

 アデレードは照れを隠すようにディマに抱きついた。愛犬はされるがまま大人しくしている。
 心を落ち着かせてから、家に戻るとメグが紅茶を淹れてくれた。

「お嬢さん何かありました?」
「えっ? なにってなにっ……」

 先ほどのことをメグに知られてしまったのかと、アデレードが焦る。

「何か狐に騙されたみたいな顔してますよ」
「き、狐?」
「はい。狐に騙された人は皆、そんな風にぼんやりしたり不可解な感じの顔をして戻って来るんです」
「そ、そうなの……て、どういうこと?」
「狐ってときどき悪戯するんですよ。変な幻を見せて、気が付いたら川の中に誘いこまれていたり、普通なら到底登れないような大きな岩の上に立たされたり……」
「まぁ……」

 では、あの幻はこの前助けた狐の仕業ということかしら? 

 悪戯なのか、それとも助けたお礼に彼女の願望を叶えようとしたのか。アデレードは紅茶を飲みながら、渋い顔になった。



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