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第3章 アデレードの挑戦

第55話 夜会にてー対決ー

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 陽気に踊っていた人々が怯んだように脇へと退いていく。サウザー公爵と5人ほどの柄の悪いその取り巻きの男達は、そんな人々を脅かしたりちょっかいを出したり、使用人から無遠慮にワインの入ったグラスを奪い取り、我が物顔で会場を物色し始めた。
 人々は不安そうに彼らから離れて、遠巻きに様子を見ている。サウザー公爵は目当ての人物を見つけ、にやつきながらカールのもとへ近づいてくる。

「フラウ・シュミット、下がって」

 カールはシュミット夫人に離れるように言い、彼女は彼の身を案じるような視線を向けてから、近くの柱に身を潜める。

「サウザー公爵……」

 サウザー公爵ウルリッヒは、歳はカールとほぼ同じくらいだが、醸し出す雰囲気は正反対であった。癖の強い茶髪に落ち窪んだたれ目がちな目が特徴的で、痩せていながらもだらしなさと軽薄さが着こなしや表情から感じられた。

「御機嫌よう、リーフェンシュタール伯。この前は家臣が世話になったな」
「いえ、大してお役に立てずに申し訳ない」

 鼻につく強烈な香水の香りの中に、微かに覚えのある甘い匂い。カールは思わず顔をしかめる。

「まぁ、未開の田舎では何が出るか分からぬもの」

 サウザー公爵がふん、と鼻で嗤うと、周りの者もそれに合わせて下品に嗤い立てる。

「しかし、片田舎であろうが、公爵ともあろう御方が勝手に家来の者をうろつかせるのは感心しませんね」

 あからさまな嘲りにカールが冷ややかに応じると、取り巻きがいきり立つ。

「なんだとっ」
「公爵に向かって無礼であろう!」
「この山賊風情がっ」
「その顔の傷は、大方略奪にでも失敗してついたのだろうよ」

 好き勝手言う連中に、カールは内心溜め息を吐く。正直、相手にするのも馬鹿馬鹿しい。

「ご友人達は冗談がお好きなようですな」
「おや、無粋で野蛮な貴殿でも諧謔(かいぎゃく)を理解する心がおありとは驚きだ」

 サウザー公爵の落ち窪んだ目が昏く光る。

「では、その野蛮な山賊の証左、その目で確かめられますかな?」

 カールは一歩、公爵達に近づく。険しい顔を作り、凄んでみせる。
 居並ぶ公爵や取り巻き達よりも背が高く、顔の傷も相まって、醸し出す雰囲気は本当に何かしでかしそうだ。
 会場を張りつめた空気が支配し、やりとりを見守る人々もまんじりとも動かない。
 サウザー公爵達は数の上では勝っているにも関わらず、カールに気圧され、じりっと後退した。
 カールはふっと力を抜き、小さく笑みを零す。

「これは、失礼。少し私も冗談とやらを言ってみたくなったので。ですが、サウザー公爵には野蛮過ぎましたな。山賊風情の無粋な諧謔と受け取って下さい。では、私はこれで失礼します、公爵。良い夜を」

 カールは軽く一礼し、男達の横を悠然と通り過ぎていく。会場にいた人々も緊張が融けたのか、それに続き会場から外へ出ていく。サウザー公爵は去っていくカールの後ろ姿を憎々しい顔で睨みつけ、手に持っていたグラスを思い切り叩きつけた。

「くそっ!」

 勝敗は決した。誰の目にもそれは明らかだった。
 カールは憮然とした表情で会場を後にし、馬車へ乗り込む。

 招待してくれた貴族には後で、詫びの手紙でも書かねばならんな。



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