悪役令嬢として断罪された過去がありますが、よろしいですか?~追放されし乙女は、そして静かに歩みだす~

宵森 灯理

文字の大きさ
54 / 109
第3章 アデレードの挑戦

第55話 夜会にてー対決ー

しおりを挟む
 陽気に踊っていた人々が怯んだように脇へと退いていく。サウザー公爵と5人ほどの柄の悪いその取り巻きの男達は、そんな人々を脅かしたりちょっかいを出したり、使用人から無遠慮にワインの入ったグラスを奪い取り、我が物顔で会場を物色し始めた。
 人々は不安そうに彼らから離れて、遠巻きに様子を見ている。サウザー公爵は目当ての人物を見つけ、にやつきながらカールのもとへ近づいてくる。

「フラウ・シュミット、下がって」

 カールはシュミット夫人に離れるように言い、彼女は彼の身を案じるような視線を向けてから、近くの柱に身を潜める。

「サウザー公爵……」

 サウザー公爵ウルリッヒは、歳はカールとほぼ同じくらいだが、醸し出す雰囲気は正反対であった。癖の強い茶髪に落ち窪んだたれ目がちな目が特徴的で、痩せていながらもだらしなさと軽薄さが着こなしや表情から感じられた。

「御機嫌よう、リーフェンシュタール伯。この前は家臣が世話になったな」
「いえ、大してお役に立てずに申し訳ない」

 鼻につく強烈な香水の香りの中に、微かに覚えのある甘い匂い。カールは思わず顔をしかめる。

「まぁ、未開の田舎では何が出るか分からぬもの」

 サウザー公爵がふん、と鼻で嗤うと、周りの者もそれに合わせて下品に嗤い立てる。

「しかし、片田舎であろうが、公爵ともあろう御方が勝手に家来の者をうろつかせるのは感心しませんね」

 あからさまな嘲りにカールが冷ややかに応じると、取り巻きがいきり立つ。

「なんだとっ」
「公爵に向かって無礼であろう!」
「この山賊風情がっ」
「その顔の傷は、大方略奪にでも失敗してついたのだろうよ」

 好き勝手言う連中に、カールは内心溜め息を吐く。正直、相手にするのも馬鹿馬鹿しい。

「ご友人達は冗談がお好きなようですな」
「おや、無粋で野蛮な貴殿でも諧謔(かいぎゃく)を理解する心がおありとは驚きだ」

 サウザー公爵の落ち窪んだ目が昏く光る。

「では、その野蛮な山賊の証左、その目で確かめられますかな?」

 カールは一歩、公爵達に近づく。険しい顔を作り、凄んでみせる。
 居並ぶ公爵や取り巻き達よりも背が高く、顔の傷も相まって、醸し出す雰囲気は本当に何かしでかしそうだ。
 会場を張りつめた空気が支配し、やりとりを見守る人々もまんじりとも動かない。
 サウザー公爵達は数の上では勝っているにも関わらず、カールに気圧され、じりっと後退した。
 カールはふっと力を抜き、小さく笑みを零す。

「これは、失礼。少し私も冗談とやらを言ってみたくなったので。ですが、サウザー公爵には野蛮過ぎましたな。山賊風情の無粋な諧謔と受け取って下さい。では、私はこれで失礼します、公爵。良い夜を」

 カールは軽く一礼し、男達の横を悠然と通り過ぎていく。会場にいた人々も緊張が融けたのか、それに続き会場から外へ出ていく。サウザー公爵は去っていくカールの後ろ姿を憎々しい顔で睨みつけ、手に持っていたグラスを思い切り叩きつけた。

「くそっ!」

 勝敗は決した。誰の目にもそれは明らかだった。
 カールは憮然とした表情で会場を後にし、馬車へ乗り込む。

 招待してくれた貴族には後で、詫びの手紙でも書かねばならんな。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

処理中です...