61 / 109
第4章 ホテルの個性的な客達
第62話 アデレード、怪談話を収集する
しおりを挟む
今日は生憎の雨だった。マックスはホテルに滞在中して数日経つが、毎日あちこち歩いて、登山し易いルート選定している際中だ。
先日は知り合った猟師達と一緒にフュンフドラーヒェン岳にある熱い水が出るところに連れていってもらっていた。
いやー、大地が白かったり黄色かったり、そこから熱い水や煙がそこら中から噴出してて、何かこの世のものとは思えない光景でしたよ、とはマックスの言である。
さらにその近くで、ゲアハルトが穴を掘って簡易的に作った湯船に浸かってきたらしく、ホテルに帰ってきた時には、何だか顔がツヤツヤしていて、血色も良くなっていた。
「いやー最高でしたよ、温泉は。何といっても大自然の中でお風呂を堪能出来るなんて感動です」
マックスの話を聞きながら、ゲンさんは本当に温泉が好きなのね、とアデレードは思った。
「でもこれでは、今日は行けませんわね」
朝食を出しながらアデレードが、申し訳なさそう言うと、マックスは苦笑いした。
「まぁ、こういう日もありますよ。今日は部屋で筋トレでもします」
「筋トレ?」
「えぇ。山に登るのには、体力も筋力も必要ですからね。常に鍛えますよ」
彼は爽やかな笑顔で、パンを頬張る。
マックスが部屋に戻った後、アデレードはディマを撫でながら、談話室で窓から雨の降る外を眺める。
「確かに雨が降ると、やることがありませんわね。何か天気の悪い日にも楽しめるものがあると良いのですけれど……」
何も置いていない棚を眺める。
「本でもあれば、少しは楽しめるかしら?」
問題は、その本がここでは手に入らないことだ。
「それにどうせならば、ここでしか読めないような本を揃えたいですわね。リーフェンシュタール領の歴史や民間伝承が読めるような、ここのことを知ってもらえるような本を置きたいわ」
リーフェンシュタール家のお屋敷にそういったものがあるかしら。でも、それを持ってくる訳にもいきませんし……。
うーん、と悩んでいると、アデレードは以前狐に騙されるという不思議な体験をしたことを思い出した。
「あの話を残すのは恥ずかしいけれど、メグはその後言っていたわ。狐に騙される人はたくさんいるって。私が自分でそういう話を収集してみることから始めましょう」
そう思い立ちアデレードは自分の部屋から紙とペンを持ってくる。
「メグ!」
こうして彼女の民話収集が始まった。仕事の合間に村を回っては話を聞いて、記録を取っていく。
雪山で熊よりももっとずっと大きい生き物の足跡を見たとか、大男に遭遇したとか、山の中で知り合いに偶然会って話込んでいたら、持ってきたパンをいつの間にか盗られていたとか、山で急に道が分からなくなって彷徨っていたら、どんでもなく大きな屋敷に辿り着いたとか、川のヌシを釣った釣り好きな翁の話などである。
基本的に話を聞かせてくれるのは、老人達だ。大人は家事や仕事に、子どもは親の手伝いや遊びで忙しく、自分達の話を聞いてくれない。そんな中でアデレードが話を聞きに来ると嬉々として昔話をしてくれた。
「お嬢ちゃん、何か怪談話集めてるんだって?」
お年寄りから農作業の休憩中に話を聞いていたら、ゲアハルトが猟の獲ってきた野ウサギをぶら下げて、アデレードのところへやってきた。
「怪談話ではありませんわ。民話や言い伝えなどを集めて本にしようと思ってますの」
「なるほどなぁ。じゃ、俺が一発面白い話をしてやるよ」
「……それって、酔っ払いの与太話ではなくて?」
アデレードは胡散臭そうな視線をゲアハルトに向ける。
「なかなか言うようになったな、お嬢ちゃん。身の毛もよだつ人喰い熊の話があるんだよ」
「その話、リーフェンシュタール領で起きたことですの?」
「まぁまぁ、細けぇことは気にすんなよ。あれは、暑苦しい夏のこと……」
そんな感じで集めた話を寝る前に清書する。
「あとは本として、形にするだけなのだけれど……」
ここにそんなことが出来る技術はないので、王都やどこかの都市で製本屋に仕上げてもらうしかない。
「困ったわね」
アデレードが頭を悩ませていると、メグが嬉しい報せを教えてくれた。
「お嬢さん、伯爵様がお戻りになるそうですよ!」
先日は知り合った猟師達と一緒にフュンフドラーヒェン岳にある熱い水が出るところに連れていってもらっていた。
いやー、大地が白かったり黄色かったり、そこから熱い水や煙がそこら中から噴出してて、何かこの世のものとは思えない光景でしたよ、とはマックスの言である。
さらにその近くで、ゲアハルトが穴を掘って簡易的に作った湯船に浸かってきたらしく、ホテルに帰ってきた時には、何だか顔がツヤツヤしていて、血色も良くなっていた。
「いやー最高でしたよ、温泉は。何といっても大自然の中でお風呂を堪能出来るなんて感動です」
マックスの話を聞きながら、ゲンさんは本当に温泉が好きなのね、とアデレードは思った。
「でもこれでは、今日は行けませんわね」
朝食を出しながらアデレードが、申し訳なさそう言うと、マックスは苦笑いした。
「まぁ、こういう日もありますよ。今日は部屋で筋トレでもします」
「筋トレ?」
「えぇ。山に登るのには、体力も筋力も必要ですからね。常に鍛えますよ」
彼は爽やかな笑顔で、パンを頬張る。
マックスが部屋に戻った後、アデレードはディマを撫でながら、談話室で窓から雨の降る外を眺める。
「確かに雨が降ると、やることがありませんわね。何か天気の悪い日にも楽しめるものがあると良いのですけれど……」
何も置いていない棚を眺める。
「本でもあれば、少しは楽しめるかしら?」
問題は、その本がここでは手に入らないことだ。
「それにどうせならば、ここでしか読めないような本を揃えたいですわね。リーフェンシュタール領の歴史や民間伝承が読めるような、ここのことを知ってもらえるような本を置きたいわ」
リーフェンシュタール家のお屋敷にそういったものがあるかしら。でも、それを持ってくる訳にもいきませんし……。
うーん、と悩んでいると、アデレードは以前狐に騙されるという不思議な体験をしたことを思い出した。
「あの話を残すのは恥ずかしいけれど、メグはその後言っていたわ。狐に騙される人はたくさんいるって。私が自分でそういう話を収集してみることから始めましょう」
そう思い立ちアデレードは自分の部屋から紙とペンを持ってくる。
「メグ!」
こうして彼女の民話収集が始まった。仕事の合間に村を回っては話を聞いて、記録を取っていく。
雪山で熊よりももっとずっと大きい生き物の足跡を見たとか、大男に遭遇したとか、山の中で知り合いに偶然会って話込んでいたら、持ってきたパンをいつの間にか盗られていたとか、山で急に道が分からなくなって彷徨っていたら、どんでもなく大きな屋敷に辿り着いたとか、川のヌシを釣った釣り好きな翁の話などである。
基本的に話を聞かせてくれるのは、老人達だ。大人は家事や仕事に、子どもは親の手伝いや遊びで忙しく、自分達の話を聞いてくれない。そんな中でアデレードが話を聞きに来ると嬉々として昔話をしてくれた。
「お嬢ちゃん、何か怪談話集めてるんだって?」
お年寄りから農作業の休憩中に話を聞いていたら、ゲアハルトが猟の獲ってきた野ウサギをぶら下げて、アデレードのところへやってきた。
「怪談話ではありませんわ。民話や言い伝えなどを集めて本にしようと思ってますの」
「なるほどなぁ。じゃ、俺が一発面白い話をしてやるよ」
「……それって、酔っ払いの与太話ではなくて?」
アデレードは胡散臭そうな視線をゲアハルトに向ける。
「なかなか言うようになったな、お嬢ちゃん。身の毛もよだつ人喰い熊の話があるんだよ」
「その話、リーフェンシュタール領で起きたことですの?」
「まぁまぁ、細けぇことは気にすんなよ。あれは、暑苦しい夏のこと……」
そんな感じで集めた話を寝る前に清書する。
「あとは本として、形にするだけなのだけれど……」
ここにそんなことが出来る技術はないので、王都やどこかの都市で製本屋に仕上げてもらうしかない。
「困ったわね」
アデレードが頭を悩ませていると、メグが嬉しい報せを教えてくれた。
「お嬢さん、伯爵様がお戻りになるそうですよ!」
1
あなたにおすすめの小説
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―
鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。
泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。
まだ八歳。
それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。
並ぶのは、かわいい雑貨。
そして、かわいい魔法の雑貨。
お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、
冷めないティーカップ、
時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。
静かに広がる評判の裏で、
かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。
ざまぁは控えめ、日常はやさしく。
かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。
---
この文面は
✔ アルファポリス向け文字数
✔ 女子読者に刺さるワード配置
✔ ネタバレしすぎない
✔ ほのぼの感キープ
を全部満たしています。
次は
👉 タグ案
👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字)
どちらにしますか?
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!
ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。
なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる