悪役令嬢として断罪された過去がありますが、よろしいですか?~追放されし乙女は、そして静かに歩みだす~

宵森 灯理

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第4章 ホテルの個性的な客達

第87話 涙

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 まだ暗殺者の仲間が見つかっていないこともあり、アデレードはリーフェンシュタール家の邸宅に泊ることになった。

「あの、それでホテルの方は大丈夫なのでしょうか? メグとクリスにも連絡をしないといけませんし」

 夜、部屋に戻ったアデレードが妙齢の執事に相談する。

「それについては問題ないと思います。警備の兵が周りを取り囲んでいますし。人をやってフロイラインが今日はこちらで泊ることはお知らせしてありますから」
「それなら良かった」

 執事の言葉にアデレードはほっと胸を撫で下ろす。

「それでは、お休みなさいませ。もし何かあれば何なりとお申し付け下さい」
「はい。お休みなさい」

 丁寧に礼をし、執事は部屋を後にした。アデレードはため息を吐いて、窓の側へ立ち、外の様子を見る。外では松明が煌々と焚かれ、人の影がその火の明かりに揺れている。

 結局、伯爵には会えなかったわ。まだ見つかっていないのね……。

 アデレードはカーテンを閉めて、ベッドの側のテーブルに燭台を置いた。ベッドでは既に隅で丸まって、目を閉じているディマを見る。

 ディマも疲れたわよね。

 アデレードは愛犬の横に座り、そのままディマの体に抱きつく。暖かくて毛がふわっとしていて気持ちが良い。

「ディマ、ありがとう守ってくれて。私もあなたが大好きよ」

 そう言うと、ディマもくぅんと甘えるような声を出した。アデレードはディマを一撫でして、ベッドに入った。
 ここに居れば、別に怖いことは何もないはずだが、不安に襲われアデレードは寝付けなくて、何度も寝返りを打つ。目を閉じると何度も斬られそうになった、あの瞬間が脳裏に浮かんでくる。
 アデレードはついに起き上がって、ベッドから降りる。眠っていたディマが頭を上げた。

「大丈夫よ、ディマ」

 アデレードは安心させるように微笑むが、ディマもベッドから飛び降りる。

「ディマ……」

 彼女はディマの頭を撫でる。そして、再び燭台を持って、窓の側に立ちカーテンを開けた。

 伯爵はどうしてらっしゃるのかしら……。今も捜索に参加されているの?

 アデレードはふと昼間にカール達と会った部屋に行ってみたくなった。そこで居ても立っても居られなくなってディマを連れて部屋を出た。すると、暗い廊下に1つ別の燭台の火があった。誰かが廊下に居るようだ。火が近づいてきて、ぼんやりとその姿が露わになる。カールだった。

「伯爵……」
「フロイライン、どうした?」

 アデレードの姿を見て、カールも驚いた顔をしている。

「あ、その、何だか目が冴えてしまって……」
「そうか……」
「えーと、男達は見つかったのですか?」
「いや。だが、夜間に山で動くのは危険だ。明日、陽が昇ったら再開だ」
「では、これからお休みになるのですね」
「あぁ。兵や屋敷の者達に寝てくれと言われてしまってな」

 カールは苦笑いする。

 それなら、ここで引き留めるわけにはいかない、とアデレードは思った。

「それでは……」
「いや、実は私も眠たくないのだ。神経が昂っているのだと思う。少し付き合ってくれないか?」

 彼の言葉にアデレードは驚いたが、こくんと頷いた。

 昼間使っていた部屋に行き、カールは暖炉に火を付ける。そこで暖炉の前に隣り合って2人は座った。ディマもアデレードの横で寝そべる。
 パチパチと燃える薪を無言で見つめていたが、アデレードがついに口を開く。

「1年前にも、こんな風に暖炉の前で火を見つめていましたわね」
「そうだな」
「あの頃から、ずいぶん変わりましたわ。この子もこんなに大きくなってしまって」

 アデレードが横で寝ているディマを見る。

「確かにな」

 カールも小さく笑った。アデレードは再び炎に目を向ける。そして再び沈黙が訪れる。

「……目を閉じると、あの時の、斬られる瞬間のことを思い出してしまうのです」
「フロイライン……」
「変、ですわよね。ここに居れば襲られることなどありませんのに」

 アデレードが自嘲的に笑う。

「いいや。あんなことがあったのだから、不安に襲われて当然だ。怖かったろう」

 労わるようにカールが手を伸ばし、彼女の背を撫でる。

「もっと早く助けられたら良かったのだが。済まない、アデレード」

 アデレードの目から涙が溢れた。カールはそのまま彼女の体を抱き寄せる。

 これじゃっ……1年前と一緒だわっ。

 情けないと思いながらも、流れる涙も体が震えるのも止められなかった。

 怖い、怖い、怖かった……!
 アデレードを抱きしめながら、カールは優しく囁く。

「大丈夫。何も心配いらない。安心して眠ってくれ」
「でもっ……」

 泣きながら、アデレードは首を振る。

「誰かが君に襲い掛かってきたら、助けに行くさ。例え夢の中であっても」

 どうしてそこまでして下さるの? 私なんかの為に。 ここに住んでいるから?

「それは、君を……」

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