悪役令嬢として断罪された過去がありますが、よろしいですか?~追放されし乙女は、そして静かに歩みだす~

宵森 灯理

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最終章 この愛が全て

第91話 手掛かりを追って

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 のどかな田園風景の中を荷馬車は順調に進んでいく。馬車ほど早くは走れないが、ゲアハルトの読みが当たって、誰もアデレード達を不審に思わない。王都に近づくにつれ、人家が増えて、街道も整備されていく。そして、ついに王都の門をくぐった。商店や住宅がひしめき合って、多くの人が忙しく行き交う。その密度は流石、都といった感がある。

「でも何だか、窮屈に感じますわね」
「まぁ、そりゃリーフェンシュタール領から見りゃな」

 アデレードの呟きにゲアハルトが苦笑する。

 懐かしいはずなのに、一年前は戻ってきたくて堪らなかったはずなのに。今は伯爵を連れて早くリーフェンシュタール領に帰りたいと思ってるなんて、おかしなものね。

 アデレードは以前と変わらぬ王都の雑然とした様子を見ながら、一人ごちる。クリスに案内され、サウザー公爵の愛人の家へ向かった。住宅が並ぶ中を進んでいくと、そこに件の屋敷があった。

「何だか、人がいるようには見えないのだけど……」

 入口のドアには板が打ち付けられており、よく見れば窓という窓にも同様の仕打ちがしてある。

「ちょっくら聞いてみるか」

 ゲアハルトは手綱をクリスに任せて、御者席から降りる。ちょうど隣の家から中年のメイドが出てきたところだった。ゲアハルトがそのメイドに声を掛ける。

「ちょっと良いかい?」

 メイドは迷惑そうな顔でゲアハルトを見る。

「いや、時間は取らせねぇよ。隣の家に知り合いの息子が働いてて、その知り合いから王都に行ったついでに、様子を見て来てくれって頼まれたんだが……」
「あぁ。隣ならある日突然、居なくなっちまったよ。夜逃げでもしたのかね。ずいぶん派手な生活してたみたいだけど」
「どこ行ったか、何か聞いてないか?」
「さぁ、知らないね」

 メイドは首を振って、スタスタと歩いて行ってしまった。

「ま、連中もいつまでもグズグズとはしてないわな」

 ゲアハルトが頭を掻いた。この家は危険と判断して、おそらく拠点をどこかに移したのだろう。いきなり手がかりがなくなってしまった。

「どうします、お嬢さん?」

 気まずそうにクリスが問いかける。アデレードは少し考えて答えた。

「何にしても、情報が足りないわ。まずは王都にあるリーフェンシュタール家の邸宅を訪ねてみるのはどうかしら? 伯爵がどこにいるのかも分からないし」
「そうだな」
 
ゲアハルトも頷く。今は他に出来ることはない。リーフェンシュタール家の邸宅の場所は向こうの執事から聞いている。その上、アデレード達に協力して欲しいと一筆書いてもらっている。
 愛人の家からリーフェンシュタール家の邸宅へ向かう。貴族達の住む地区に入る直前、ディマがある人物を見て吠え立てる。

「急にどうしたの、ディマ?」

 アデレードが心配して声を掛けるが、ディマは荷車から飛び降りて道に立っていたその人物のもとへ歩いていく。

「あ、ちょっと! ゲンさん止めて」

 アデレードも降りて、ディマの後を追う。

「すみませんって、貴方はっ……!」

 愛犬が近づいた相手は見目の整った20歳前後の青年で、アデレードはこの人に見覚えがあった。

「シュミット夫人のっ」
「はい、息子です」

 彼はそう言って苦笑いした。アデレードは頭に着けていたスカーフを外す。

「皆さんを、というか伯爵を追ってくるであろう方を待っていました。義母(はは)は貴女が来ると予想していましたが。ですがお恥ずかしながら、その格好では気が付きませんでした。その点この子は賢いですね。彼の方から気が付いてくれました」

 ディマは誇らし気に尻尾を振る。

「どうして待っていたのです?」

 アデレードの質問に彼は真剣な表情になった。

「今リーフェンシュタール家の周辺は憲兵に見張られています。下手に近づくと、屋敷から出られなくなるかもしれません」
「そんな……」

 それでは本当に手詰まりだ。

「義母は貴女方に会いたがってます。どうか着いてきてくれませんか?」

 アデレード達は彼に従い、主に中産階級の住む地区の、とある屋敷に来た。

「ここはシュミット商会の持ち物で、王都にいる間はここをご自由に使って下さい」
「よろしいの?」
「はい。義母からそう言われておりますので。義母は夜には体が空きますから、お会いになると思います」
「ありがとうございます」
「それとこの、荷馬車は商会で預かっておきましょう。この場所に置いておいては却って目立ってしまいますから」
「ええ、お願いします。木箱の中のリンゴは商会の皆さんに差し上げますわ」

 アデレードは彼からの鍵を預かり、中へ入る。人は住んでいないようだが、埃っぽくはないので、定期的に掃除が入っているのだろう。
 とりあえず踊り場に荷物を置いて、ゲアハルトが尋ねる。

「さて、どうするお嬢ちゃん。夜までは時間がある。長旅で来たばかりだし、今日のところは少し休むか?」
「いいえ、休んでなどいられませんわ。国家反逆罪が決まってしまったら、即刻の処刑もありえますもの」
「あのっ。俺、昔の知り合いに会いに行ってみようと思うんです」

 クリスが意を決したように2人に告げた。

「昔の知り合いって不良時代のか?」
「はい。無駄足になるかもしれませんけど、街には詳しいですから。協力を得られれば何か掴めるかもしれないんで」
「よし、行ってみるか。お嬢ちゃんはワン公とここで待っていてくれ」

 その言葉にアデレードは口を尖らせる。

「何故ですの? 私も行きますわ」
「えぇっ! 駄目ですよ、危ないですから。お嬢さんをあんなところに連れていけませんよっ」

 焦るクリスにずいっとアデレードは近づく。

「伯爵の一大事に、ただ大人しく待っているだけなど出来るわけがありませんわ。私も行きます!」

 困ったようにクリスとゲアハルトは顔を見合わせ、どちらともなくため息を吐く。止めても無駄なことは分かった。

「まぁ、そのでっかいワン公連れてりゃ、滅多なことにはならんだろ。俺達もいるし」
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