勇者の剣を折ったせいで奴隷落ちした僕は、公爵令嬢に買われてひのきの棒で戦うことを提案されました

いとうその

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9.万点の木樵

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第9話

「勝負の前に、ゲームをしませんか?」

「は?」

 ダイヤの提案をガーバは疑問に思う。

「ルールは簡単です」

 そう言って、片足を軸に1回転して、もう1つの足で円を描く。

「僕はこの円から出ません」

「…それこから出せば私の勝ちということかな?舐めてるようだね」

 ダイヤの提案するルールを察してガーバは怒り出す。相手からしたら木樵の少年がそんな無茶苦茶な提案を持ちかけているのだ。だが、ダイヤの言いたいことはそれではないらしい。

「いいえ。僕はここから出ないので、ガーバさんが僕にタッチ出来たらガーバさんの勝ちにしましょう」

 ダイヤはにっこりと笑う。

「は?」

「あら。そんなの無謀以前の問題ですね。今回は負けでよろしいと理解していいですか?」

 アケビが胸を強調するポーズをとりながらドヤ顔で答える。

「いいえ。貴方の騎士くらい。こうしないとフェアじゃないってことよ。天と地なんてレベルじゃない差があるんだから」

 そう言ってサクラは悪い顔をして笑う。完全に煽っている顔である。

「…ガーバ。さっさと終わらせて下さい」

 それを感じで、アケビは多少怒りだし、ガーバに命令する。

「分かっています」

 そう言って再び大剣を構える。

「では、行かせてもらうよ」

 そう言ってガーバが一歩、踏み出す。

 ドテン!

「ふぁ!?」

 すると、急にガーバが転ぶ。驚きのあまり変な声を上げてしまう。

「何をしてるのガーバ!」

「す、すいません。何故か転んでましいました…」

「さっさと立ってあの木樵を懲らしめてやりなさい」

「はい!」

 そう言って立ち上がる。

 ドテン!

「ふぁ!?」

 再び転ぶガーバ。

「ガーバ!?」

 連続での転倒に驚きを隠せないアケビ。

「い、一体何が…」

 ガーバは再び立ち上がる。

 ドテン!

「ふぁ!?」

 ガーバは三度転ぶ。

「え?え?」

 流石におかしな事態にアケビが気づく。その後も、ガーバは立ち上がるたびに転び続ける。もう10回は転んでいる。

「い、一体何が…ふぁ!?」

 情けなく転び続ける。見ている野次馬も何が起きているのか分からず、ざわついている。

「もう降参しませんか?」

「は?」

 ダイヤから提案される。

「連続で転んでるんじゃないんです。僕が転ばしてるんです。それが分からない時点で、貴方は僕に勝てませんよ」

「な!?そんな馬鹿な…そんなことが!」

 そう言って立ち上がる。

 ドテン!

「ふぁ!?」

 もう土だらけになってカッコいい顔が台無しのガーバである。

「ヒントをあげます」

 再びダイヤが喋りだす。そして、振り向く。

「ん?薪が減っているような…」

 ガーバが背負い籠にあるひのきの棒に違和感を感じる。それ以前に、ひのきの棒を薪と勘違いしているらしいが。

「…これはひのきの棒です。これで攻撃してるのです。だから転んでいるのです」

 ダイヤがついに種明かしをする。ダイヤは背負い籠からひのきの棒を取り出し、ガーバの片足に向けて突く。その衝撃波のためガーバは転び続けているのだ。

 最も、あまりの突きのスピードに、ここにいる皆には見えておらず、その上に突いた瞬間にひのきの棒が消滅しているわけだから、ただガーバが転んでいるだけに見えているのである。ダイヤが背負い籠からひのきの棒を取り出し、突くのに実に0.5秒も時間がかかっていない。それほどまでに速攻の突きをガーバに襲っているのだ。

「そ、そんな馬鹿な…」

 立ち上がるが、転ぶ。何度でも転ぶそして、転んだ回数が49回に及んだ。何故49回なんて具体的な数字が分かったのかは、ダイヤの背負っているひのきの棒が残り1本になったからである。

「あ、残り1本…」

 ダイヤはなんだか寂しそうな顔をする。

「ふ、ふふふ。原理は分かりませんが…遂にひのきの棒が尽きたようですね…勝機!」

 すると、ガーバは立ち上がる。遂に転ばなくなる。

「おおー!」

 思わずアケビに拍手される。

「おおー!」

「すごいぞ!」

「がんばったな!」

 周りのギャラリーも、やっと立ったガーバに感動して拍手が送られる。

「ど、どうもどうも」

 何故か照れるガーバ。ただ立っただけなのに。まるで初めてあんよが出来た赤ちゃんのような喜ばれようである。

「ま、まあこれで!やっとあんたに触れるようだな!」

「…はぁ。49回も転んだのに諦めないですか。それだけは称賛に値しますね」

 そう言うと、ダイヤは今度は周りにも見えるように、居合斬りの構えをとり、そして、放つ。

「な!?」

 すると、ガーバはあまりの風圧に吹き飛ぶ。物凄い風圧のため皆目をつぶってしまう。そして、目を開けると、三日月型の大きな跡が、校庭に残っていた。

「僕のひのきの棒は確かに無くなりました。だからこれでゲームは終わりです」

 すると、ダイヤはさっきとは豹変してギラっと殺意を持った目で睨む。

「その三日月を超えたら、本当の勝負を始めます。手加減はしません」

 どんどん殺意を増してガーバを睨む。

「た、立てない…」

 するとガーバは立てなくなっていた。今度は足を突かれて立てなくなっているのではない。そこにある確かな恐怖に立てなくなってしまっているのだ。

「ガーバ!ガーバ!」

 アケビが必死にガーバの名前を呼ぶ。だが、その声は届いてないだろう。

「ま、負けました」

 ガーバは跪いて敗北を宣言する。

「ガーバ!」

 すると、サクラはニヤッと笑ってダイヤに近寄る。

「良かったわねダイヤ。無駄に殺さなくて済んで」

「え?僕は殺そうなんて毛ほども…」

「ひぃぃぃ!」

 「殺さなくて」というワードに反応してその場から急いで逃げるガーバ。

「ちょっと!ガーバったら!」

 アケビもそれを追いかける。

「あ!あんなに怯えて…可哀想に…」

 今回の作戦。全てサクラの考えた作戦でダイヤは実行しただけだった。怯えたガーバを見てなんだか申し訳なく思ってしまったのだ。

 それに反して、サクラは教室から見ていた野次馬共に話しかける。

「ここにいるダイヤの実力はこんなものじゃないわ!試したい奴がいたら命を覚悟して挑むことね!」

 そう宣言したのだ。すると野次馬は急に静かになる。もう、ダイヤを木樵だと言って馬鹿にする奴はいなくなるだろう。

「んじゃ。帰りましょうか。帰りにまたひのきの棒を買わないと」

 そう言ってサクラはその場を後にする。

「ま、待ってくださいよー!」

 ダイヤは急いでサクラの隣に並ぶ。

「……万点の木樵だ」

 とある野次馬の誰かが言った。

「え?」

「言ってただろ?万点って。木樵なのに騎士に負けない圧倒的な力。万点の木樵だよ!」

「…いい名前だな!万点の木樵!万点の木樵!」

 その後、万点の木樵と言う異名が広まったのは、言うまでもない。
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