音楽なんかで世界は救えない

春永チセ

文字の大きさ
8 / 64
[-00:25:24]消せない春で染めてくれ

7

しおりを挟む

『もー、意見がまとまらなさ過ぎて最悪だったの!』
「あはは、それは災難だったね」

 友人である佐都子さとこから電話がかかってきたのは、透花がお風呂から上がって髪を乾かし終わるころだった。電話口からでも分かるほど怒り心頭のようだ。透花は冷蔵庫から水のペットボトルを取り出して、2階にある自室へ。

『それに先輩もいなかったし』
「先輩?」
『そそ。その先輩目当てに委員会入った女子がちらほらいて、今日出席してないと知るや否やよ。表立って人気ってわけじゃないけど、水面下で人気あるの』
「さすが共学。バチバチしてるわ」
『当ったり前よ。こちとら血気盛んな青少年少女やってんの。で、そっちはどう?』
「まあ、あんまり変わんないよ。学校行ってアリスの家往復の毎日かな」

 作業机のPCの電源を押して、イスに腰掛ける。鞄からスケッチブックを取り出し、今日書いた下書きの一ページを抜き取った。その一ページをスキャナーで下書きをスキャンし、PCにデータを取り込む。

『ほーん? 纏から聞いた話となーんか違うな』
「……纏くんから?」
『なんか急にやる気になった、連日連夜まで作業してるって。どうしたの? 急にスイッチが入った理由は?』

 どきりと透花の心臓が跳ねた。今まさに透花の手にペンが握られていることもお見通しなのか、と疑わざるおえない鋭い突っ込みだ。
 素直にその理由を答えてもよかったはずだ。しかし、透花の口からあの曲のことを言うのはどうしてか憚られた。心の奥底では誰かにあの曲を教えたくないと思っていたのだ。

「んー、まあ、なんとなくだよ」
『なんとなく? 透花がぁ?』
「……あーまって、なんかメッセ来たみたい!」

 誤魔化すには絶妙なタイミングで透花のスマホにメッセージが入る。スマホのロック画面に見慣れないアカウントからメッセージが一件入っていた。どうやらDMで送られたものらしい。スパムか何かだろうか、と思いながらその表示をタップし、メッセージを読む。

「あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
『へっ、な何!?』

 透花の大絶叫は、いまだ通話をつないだままの佐都子に大打撃を与えた。が、透花にとってはそのメッセージの方が重要だった。

 ───未読メッセージが一件あります。───
『あの絵は、俺の曲ですか?』

 あの絵とは、透花の思い浮かべている通りなら、あの曲を描いたイラストのことだろうか? それを俺の曲、というのなら。このメッセージを送ってきたのはまさしくあの曲を作った本人ということだ。……見つけてくれたんだ、この人は。私の絵を見つけてくれた。
 透花は胸がいっぱいになって、頭の中が混乱していく。酸素が足りない。電話口から自分を呼ぶ声すら遠のいて聞こえるくらいだ。

『……とーか? おーい、透花? 大丈夫?』
「ご、ごめん、佐都子! もう寝るから切るね!」
『へっ? せめて状況の説明を、』

 透花は通話終了ボタンを押し、無理やり通話を打ち切った。しんと静まり返った部屋で大きく息を吐きながら天井を見上げる。早鐘を打っていた心臓が落ち着きを取り戻し始めていた。透花はスマホに向き合い、文字を打つ。指先がほんの少し震えた。そうしてたった一言あの人にメッセージを送った。

 メッセージが送信されたのを確認して、机の上にスマホを置く。無意識に緊張で力が入っていたのか、頭を使いすぎたのか、急に瞼が重くなるのを感じた。机に突っ伏して、夢の淵を微睡むうち透花の意識はだんだんと沈んでいった。
 メッセージの着信音が再び鳴り響いたのにも気が付かずに。


 *

 紙吹雪が舞っている。
 息を吹き込まれるはずだった物語たちは切り裂かれ、黒く塗りつぶされ、無残に床に落下していった。───まるで地獄だ。耳を塞ぎたくなるような咆哮が鼓膜を突き刺す。
 二本の足がその無残に散った物語の死体の上で立ち尽くしている。真っ黒な水溜まりが裸足に滲んでいく。足から徐々に視線が上がっていくほど、胸を激しく打ち付けるような鼓動が身体を支配する。

「なあ」

 息が苦しい。酸素が奪われていく。暗闇より深い奥底を映したような二つの眼がこちらをじっと見つめていいる。それは、呪いの言葉だ。一生染みついてとれない呪いの言葉。

「お前は俺に───死ねっていうのか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

地味男はイケメン元総長

緋村燐
青春
高校一年になったばかりの灯里は、メイクオタクである事を秘密にしながら地味子として過ごしていた。 GW前に、校外学習の班の親交を深めようという事で遊園地に行くことになった灯里達。 お化け屋敷に地味男の陸斗と入るとハプニングが! 「なぁ、オレの秘密知っちゃった?」 「誰にも言わないからっ! だから代わりに……」 ヒミツの関係はじめよう? *野いちごに掲載しているものを改稿した作品です。 野いちご様 ベリーズカフェ様 エブリスタ様 カクヨム様 にも掲載しています。

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

処理中です...