音楽なんかで世界は救えない

春永チセ

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[-00:21:11]青以上、春未満

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 纏が『ITSUKA』のメンバーとして加入したその約一週間後、『ITSUKA』のグループラインに招集命令がかかった。もちろん纏からである。
 場所は前回と同じく、某ファミリーレストラン。夕方18時過ぎのことである。

「これに応募します」
 ばばん。効果音が付きそうなほど大仰な態度で、纏は目の前に座る諸突猛進バカコンビの前にスマホを印籠のように掲げた。透花たちがそのスマホを覗き込むと、『集え! 次世代の動画クリエーターたち! 大賞受賞作品には賞金30万円』と描かれたとあるサイトの一ページだった。
「なにこれ」
 最初に反応したのは律だった。透花も同じく首をかしげる。
「毎年やってる動画クリエーター向けの賞。今動画アップしてるサイトが運営してんの。ジャンルは幅広くやってるけど、僕たちが応募するのはこのMV賞ね。この賞を受賞したのがきっかけでメジャーデビューしてる人もいるくらい有名なやつ。毎年激戦区だよ」
 応募することが前提に話が進める纏に透花は慌てて待ったをかけた。
「待って待って。やるの決定事項なの?」
「はあ? 当たり前じゃん」
「当たり前なんだ……」
 地球は丸くて青い、くらいの常識を述べる声音だった。残念ながら透花には纏を到底言い負かせそうになかった。
 そして、すんと表情の抜けた纏が続ける。
「……家に帰って改めて考えたんだけど。お前らには創作する才能以外は期待しないことにした」
「失礼だなお前」
「『ITSUKA』のロゴ作ってない、SNSもやってない、無料サブスクに楽曲アップしてない、サイト開設してない。これを役満と言わずなんと言うつもり?」
「キャーこわーい」
「黙れ。クソ律」
「仲いいねふたり」
 透花の知らない間に随分とふたりが仲良くなったようで、ほっこりする半面ほんの少し羨ましくもあった。まさに男友達の軽口って感じだ。
「透花勘違いしないでね。コイツとはあくまで仕事上の関係だから」
「はは。言ってくれるね中坊」
「ともかく! こんなビッグチャンス逃すわけにはいかないから!!」
 机を叩いて立ち上がった纏は、ぐっと拳を握りしめる。その様は選挙でマイク片手に日本の未来について熱く語る議員のようだ。
「お前らの才能で大賞を搔っ攫い、知名度と賞金30万円を手に入れる! その賞金でサイト開設とグッズ展開に充てればその分お金が入る。今以上にクオリティの高いもん作らせてあげるよ、金でね」
「結局金かい」
「生言ってんな創作バカ。金なしにクリエーターなんて出来るわけないだろ?」
 現金な物言いに透花は思わず苦笑した。久々にこんなにも生き生きとした纏を見たかもしれない。多少の文句を垂れる律もまた同じように目を輝かせている。もちろんそれは、透花も同じである。新しい挑戦に目を輝かせられずにいられないのは、創作するものの性というやつだ。
「いいね、面白い。その話乗った!」
「わたしも!」
「話が早くて助かるよ。そうじゃなくっちゃ」
 座り直した纏が応募する賞についての概要を述べ始める。
「今回はテーマが設定されてる。そのテーマに沿ってMVを作らなくちゃならない」
「そのテーマは?」
 透花が問うと、纏はにんまりと笑って答えた。
「───『青春』」
 青春。青い春。透花は想像しただけで胸が躍った。思わず律の方を向くと、律も同じく透花を見ていた。目がかち合うと、ふたりとも同じような表情をしていることに少し笑ってしまう。
 こほん、と咳払いがひとつ。はっと我に返った透花たちは纏に視線を戻した。神妙な面持ちである。
「けど一つ問題がある」
「問題?」
 一呼吸置いたのち、纏はにっこりと貼り付けた笑みを浮かべ、語尾にハートマークを付けたような口調で言った。

「応募の締め切りが7月28日。あと一か月しかない」

 透花と律は絶句したまま動けなかったのは言うまでもない。
 律を『ITSUKA』に引き入れ、初の大仕事が阿鼻叫喚の地獄と化すことを透花たちはまだ知らない。
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