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[-00:21:11]青以上、春未満
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「はあっ、はあっ、しっ、締め切りは!?」
勢いあまって開けたドアの先で、PCの前を取り囲んでいた三人が一斉に透花の方を振り返る。透花の足はすでに限界を超えているのか、膝が笑って足に力が入らずドアにしがみ付いた。
イスに座ったまま視線だけ寄こした纏が、はっと鼻で笑う。
「僕を誰だと思ってんの? こんぐらいの修羅場なんて余裕だわ。舐めんな。あと30分もあれば完成するよ」
「内心ちょー焦ってるくせによく言う~。透花の前だからって、カッコつけちゃってさ!」
「うっさい! 余計な事言うな!」
佐都子と纏とのやり取りに押さえて笑いを堪えていた律は、ふと透花の反応が何もないことに気が付いてもう一度振り返る。
透花は目を真ん丸に開け、呆然と立ち竦んでいた。徐々にその瞳の奥に鮮やかさが戻っていく。安堵が足先まで回りきるころには、辛うじて支えていた膝の力がふっと抜けて、透花の身体はそのままぺたんと、床に尻もちをついた。
「……よ、よか、よかった……」
どうにか間に合ったのだ。透花の手の先は未だに震えていた。全部をやり切った、という実感がまだ湧かない。達成感が追いつくにはまだ時間が掛かりそうだった。
「透花」
優しく透花を呼ぶ声が降ってくる。透花の目の前に差し出された手のひらから目線を巡らせた。律と視線が絡み合う。先に口を開いたのは透花の方だった。
「あれがわたしの答えだよ」
律はその言葉に弾かれるように目を瞠り、やがて小さく頷いた。あの夜、律が問いかけた質問に対する返答は、あの青がすべて教えてくれた。透花たちだけが知っていた。
差し出した手のひらに、透花の柔い手が重なる。透花の手を掴んで、律は自分の方へ引き寄せるように、透花の身体ごと引き上げる。そして透花の耳元だけで聞こえるように、囁いた。
「……俺の我儘、聞いてくれてありがとう」
触れた吐息に透花は少しくすぐったそうに目を細め、小さく頷く。そして、桜色の唇が緩やかにカーブを描きながら、薄く開く。
「ラーメン」
「……ラーメン?」
「お礼はラーメンでいいよ」
何でラーメンなのか、いまいち容量の掴めない律は小首を傾げる。すると、透花はよりいっそう花が咲くように「だって、」と、満面の笑みを浮かべた。
「最後までやりきった後に食べるラーメン、美味しいんでしょう?」
「……うん、奢るよ。とびきり美味いのを」
ラーメンのスープを一滴残らず飲み干して、丼の中をすべて空にしたときみたいな幸福感を感じながら、律は頷いた。
✳︎
カチカチ、とダブルクリック音が響く。
LOADINGの文字を囲うように円形がぐるぐると回る。そして、新たなページが開く。
『応募が完了いたしました。』───素っ気ないその12文字が表示された瞬間、透花たちは全員、天井を突き破る勢いで大きく拳を振り上げた。
「「「「終わったぁあああああああああ!!!!」」」」
3曲目のタイトルは、『青以上、春未満』。
そして、その日から約1週間で、18万回再生を達成した。
勢いあまって開けたドアの先で、PCの前を取り囲んでいた三人が一斉に透花の方を振り返る。透花の足はすでに限界を超えているのか、膝が笑って足に力が入らずドアにしがみ付いた。
イスに座ったまま視線だけ寄こした纏が、はっと鼻で笑う。
「僕を誰だと思ってんの? こんぐらいの修羅場なんて余裕だわ。舐めんな。あと30分もあれば完成するよ」
「内心ちょー焦ってるくせによく言う~。透花の前だからって、カッコつけちゃってさ!」
「うっさい! 余計な事言うな!」
佐都子と纏とのやり取りに押さえて笑いを堪えていた律は、ふと透花の反応が何もないことに気が付いてもう一度振り返る。
透花は目を真ん丸に開け、呆然と立ち竦んでいた。徐々にその瞳の奥に鮮やかさが戻っていく。安堵が足先まで回りきるころには、辛うじて支えていた膝の力がふっと抜けて、透花の身体はそのままぺたんと、床に尻もちをついた。
「……よ、よか、よかった……」
どうにか間に合ったのだ。透花の手の先は未だに震えていた。全部をやり切った、という実感がまだ湧かない。達成感が追いつくにはまだ時間が掛かりそうだった。
「透花」
優しく透花を呼ぶ声が降ってくる。透花の目の前に差し出された手のひらから目線を巡らせた。律と視線が絡み合う。先に口を開いたのは透花の方だった。
「あれがわたしの答えだよ」
律はその言葉に弾かれるように目を瞠り、やがて小さく頷いた。あの夜、律が問いかけた質問に対する返答は、あの青がすべて教えてくれた。透花たちだけが知っていた。
差し出した手のひらに、透花の柔い手が重なる。透花の手を掴んで、律は自分の方へ引き寄せるように、透花の身体ごと引き上げる。そして透花の耳元だけで聞こえるように、囁いた。
「……俺の我儘、聞いてくれてありがとう」
触れた吐息に透花は少しくすぐったそうに目を細め、小さく頷く。そして、桜色の唇が緩やかにカーブを描きながら、薄く開く。
「ラーメン」
「……ラーメン?」
「お礼はラーメンでいいよ」
何でラーメンなのか、いまいち容量の掴めない律は小首を傾げる。すると、透花はよりいっそう花が咲くように「だって、」と、満面の笑みを浮かべた。
「最後までやりきった後に食べるラーメン、美味しいんでしょう?」
「……うん、奢るよ。とびきり美味いのを」
ラーメンのスープを一滴残らず飲み干して、丼の中をすべて空にしたときみたいな幸福感を感じながら、律は頷いた。
✳︎
カチカチ、とダブルクリック音が響く。
LOADINGの文字を囲うように円形がぐるぐると回る。そして、新たなページが開く。
『応募が完了いたしました。』───素っ気ないその12文字が表示された瞬間、透花たちは全員、天井を突き破る勢いで大きく拳を振り上げた。
「「「「終わったぁあああああああああ!!!!」」」」
3曲目のタイトルは、『青以上、春未満』。
そして、その日から約1週間で、18万回再生を達成した。
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