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開かずの扉
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突然だが、私はオタクだ。
どれぐらいオタクかと言うと、リアルな知人が、急に家に押しかけてきたら、絶対にチェーンを外さないぐらいにはオタクだ。
本棚には薄い本があるし、なんなら壁には推しのポスターが貼ってある。
さりげなく各所に設置された推しのグッズはオタクではない人は普通に引く案件だろう。
わかってはいる。
一般人とオタクの間には深くて暗い川が流れている。
まあ、でも、それはそれとして、自分の家なんだから、普通に飾るよね。だって、どこを見ても推しと目が合いたいし、思わず話しかけたいし。
だから、リアルな知人が来るときは念入りに隠蔽をして生きてきた。
薄い本の詰まった本棚にはしっかりと布をかけ、めくられることのないよう画鋲で布を固定。
推しのポスターはそっと外し、各所へ散っていた推しグッズもかごに集め、まとめてクローゼットへ避難させていた。
そう。オタクは急に人を部屋へは入れられない。それなりの準備がいるのだ。
なのに、今。知人でもない人が玄関扉を叩き、部屋へ入れろと迫ってきていて――
「てめぇ、こらぁ! 開けろ!」
「ひぃっ無理です無理です」
「うるせぇ! 猫になんかやったんだろうが! わかってんだぞ!」
「違います、誤解です! キジトラで目が金色の子なんて来てないです!」
「ピンポイントにそいつだよ! いいから開けろ!」
ガチャガチャガチャ。ドンドン。バンバァンバアアン。ドゴォォオン!
「やめてくださぁい、ドア蹴るのはやめてぇえ」
「じゃあ開けろ!」
絶え間なく上下に動くレバーハンドル。金属製の扉は今までそんな扱いを受けたことがないだろうに、ボコボコに殴られ、蹴られている。
知ってた? 玄関扉を蹴られると、なんか部屋全体が揺れるんだよ。私は知らなかったし、知りたくもなかった。
「なんや、近所迷惑な人間やなぁ」
玄関で徹底防御をする私の後ろでのんびりとした声が響く。
おかしいよね。不思議だよね。私は一人暮らしで、今日は自宅で一人ごはんして、神絵師様のSNSを巡って、いいねを押すだけの楽しい夜活の予定だから、私に話しかけてくるものは推しグッズだけのはずなのにね。
「ほんまに困るわなぁ」
のんびりとした声にそちらを振りむけばふわふわもふもふの姿。
三角の耳は時折ちょこちょこと動き、金色のアーモンド型の目はかわいらしく私を見ている。
茶色に黒の縞模様のいわゆるキジトラの柄。それは野性的ながらも、いい色だと思う。
まあ、よくいる猫だ。
日本だと結構見る、普通の猫。そう普通の……。
「……なんで、こんなに大きくなったんだろ」
ポツリとこぼせば、その言葉がズンと胸に重く響いた。
そう。この猫。さっきまではちゃんと猫だったのだ。
なのに、今ではライオン級。動物にあまり詳しくない私でもさすがにわかる、猫にはありえないサイズ感。
しかも、私に話しかけている。すごくナチュラルに私に日本語を駆使してくる。なにこれこわい。
「姉ちゃん、どっか遠くを見てる場合ちゃうで。このままだとあの兄ちゃん、本気で扉を壊すつもりなんちゃう?」
そんな巨大な猫(?)に言われ、現実に戻れば、相変わらず玄関扉がボコボコにされている。もちろん部屋も揺れている。なにこれこわい。
背後もこわいし、正面もこわい。
唯一、下駄箱に飾っていた推しのポストカードだけが私の救い。こっちを向いて笑ってる。よし。ずっと眺めとこう。
そうして、推しの笑顔に逃げ込むと、後ろからやれやれとため息が聞こえた。
そして、これまでより大きな声が私を通り過ぎて、玄関扉へとかけられる。
「おーい、兄ちゃん。姉ちゃんが絵を見て動かなくなってるでぇ。なんも話聞いてないみたいやけどぉ」
その声が扉の向こうまで聞こえたのか、今まで鳴っていた扉をボコボコにしていた音がぴたりと止む。
そして、その代わりに地を這うような低い声が響いた。
「……いいか、よく聞け」
祭り太鼓のように叩かれていた扉の音がなくなると、その低い声がしっかりと私へと届く。
怒鳴り散らすわけではないその声に、推しへと逃げていた私の意識も現実へと戻った。
「言葉を話してるってことは――そいつはもう動物じゃない」
怒気を抑えたその声に、なぜだか背筋が寒くなる。
……言っている内容がよくわからない。
動物じゃないってなんだ。それならこの後ろにいる巨大猫は――。
「あやかしだ」
「あやかし……」
低く響く声に思わず私も繰り返す。
だって、それ、知ってる。
オタクだから。オタク的になんとなくピンときちゃうから。
でも、あやかしって言っても、いろいろとパターンがあるよね。
人間と変わらない暮らしをしているようなほのぼの優しいタイプと陰陽師とかに退治されるような悪役タイプと。
「この扉を開けて俺の話を聞くのと、そいつに取り殺されるのと。……どっちがいい?」
あ、これきっと危ないパターンのやつ。
「開けまぁす!」
悟った私は、瞬時に鍵とチェーンを開けた。
どれぐらいオタクかと言うと、リアルな知人が、急に家に押しかけてきたら、絶対にチェーンを外さないぐらいにはオタクだ。
本棚には薄い本があるし、なんなら壁には推しのポスターが貼ってある。
さりげなく各所に設置された推しのグッズはオタクではない人は普通に引く案件だろう。
わかってはいる。
一般人とオタクの間には深くて暗い川が流れている。
まあ、でも、それはそれとして、自分の家なんだから、普通に飾るよね。だって、どこを見ても推しと目が合いたいし、思わず話しかけたいし。
だから、リアルな知人が来るときは念入りに隠蔽をして生きてきた。
薄い本の詰まった本棚にはしっかりと布をかけ、めくられることのないよう画鋲で布を固定。
推しのポスターはそっと外し、各所へ散っていた推しグッズもかごに集め、まとめてクローゼットへ避難させていた。
そう。オタクは急に人を部屋へは入れられない。それなりの準備がいるのだ。
なのに、今。知人でもない人が玄関扉を叩き、部屋へ入れろと迫ってきていて――
「てめぇ、こらぁ! 開けろ!」
「ひぃっ無理です無理です」
「うるせぇ! 猫になんかやったんだろうが! わかってんだぞ!」
「違います、誤解です! キジトラで目が金色の子なんて来てないです!」
「ピンポイントにそいつだよ! いいから開けろ!」
ガチャガチャガチャ。ドンドン。バンバァンバアアン。ドゴォォオン!
「やめてくださぁい、ドア蹴るのはやめてぇえ」
「じゃあ開けろ!」
絶え間なく上下に動くレバーハンドル。金属製の扉は今までそんな扱いを受けたことがないだろうに、ボコボコに殴られ、蹴られている。
知ってた? 玄関扉を蹴られると、なんか部屋全体が揺れるんだよ。私は知らなかったし、知りたくもなかった。
「なんや、近所迷惑な人間やなぁ」
玄関で徹底防御をする私の後ろでのんびりとした声が響く。
おかしいよね。不思議だよね。私は一人暮らしで、今日は自宅で一人ごはんして、神絵師様のSNSを巡って、いいねを押すだけの楽しい夜活の予定だから、私に話しかけてくるものは推しグッズだけのはずなのにね。
「ほんまに困るわなぁ」
のんびりとした声にそちらを振りむけばふわふわもふもふの姿。
三角の耳は時折ちょこちょこと動き、金色のアーモンド型の目はかわいらしく私を見ている。
茶色に黒の縞模様のいわゆるキジトラの柄。それは野性的ながらも、いい色だと思う。
まあ、よくいる猫だ。
日本だと結構見る、普通の猫。そう普通の……。
「……なんで、こんなに大きくなったんだろ」
ポツリとこぼせば、その言葉がズンと胸に重く響いた。
そう。この猫。さっきまではちゃんと猫だったのだ。
なのに、今ではライオン級。動物にあまり詳しくない私でもさすがにわかる、猫にはありえないサイズ感。
しかも、私に話しかけている。すごくナチュラルに私に日本語を駆使してくる。なにこれこわい。
「姉ちゃん、どっか遠くを見てる場合ちゃうで。このままだとあの兄ちゃん、本気で扉を壊すつもりなんちゃう?」
そんな巨大な猫(?)に言われ、現実に戻れば、相変わらず玄関扉がボコボコにされている。もちろん部屋も揺れている。なにこれこわい。
背後もこわいし、正面もこわい。
唯一、下駄箱に飾っていた推しのポストカードだけが私の救い。こっちを向いて笑ってる。よし。ずっと眺めとこう。
そうして、推しの笑顔に逃げ込むと、後ろからやれやれとため息が聞こえた。
そして、これまでより大きな声が私を通り過ぎて、玄関扉へとかけられる。
「おーい、兄ちゃん。姉ちゃんが絵を見て動かなくなってるでぇ。なんも話聞いてないみたいやけどぉ」
その声が扉の向こうまで聞こえたのか、今まで鳴っていた扉をボコボコにしていた音がぴたりと止む。
そして、その代わりに地を這うような低い声が響いた。
「……いいか、よく聞け」
祭り太鼓のように叩かれていた扉の音がなくなると、その低い声がしっかりと私へと届く。
怒鳴り散らすわけではないその声に、推しへと逃げていた私の意識も現実へと戻った。
「言葉を話してるってことは――そいつはもう動物じゃない」
怒気を抑えたその声に、なぜだか背筋が寒くなる。
……言っている内容がよくわからない。
動物じゃないってなんだ。それならこの後ろにいる巨大猫は――。
「あやかしだ」
「あやかし……」
低く響く声に思わず私も繰り返す。
だって、それ、知ってる。
オタクだから。オタク的になんとなくピンときちゃうから。
でも、あやかしって言っても、いろいろとパターンがあるよね。
人間と変わらない暮らしをしているようなほのぼの優しいタイプと陰陽師とかに退治されるような悪役タイプと。
「この扉を開けて俺の話を聞くのと、そいつに取り殺されるのと。……どっちがいい?」
あ、これきっと危ないパターンのやつ。
「開けまぁす!」
悟った私は、瞬時に鍵とチェーンを開けた。
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