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うまくやれなくても
「ちょっと一回落ち着い――!」
止めようとして力を入れた。そうしたら間違えて足にも力を入れてしまって傷が痛んだ。
「リュシー?」
「リュシエンヌ様、傷が?」
私はルリの問いかけに頷く。傷を二人から隠すために、かけていた毛布を外すと包帯に血が滲んでいるのが見えた。これはすぐに取り替えなければいけないだろう。
「一度、お水を取って参ります」
「ありがとう、ルリ」
ルリが部屋を出ていくと、強い視線を感じた。
「お二人とも、なんでしょうか?」
「何が、あったか。説明してくれる?」
あ、またアルが怒ってる。黙っているけれど、レオン様もそうだろう。どうしよう。説明、はするけれどもう公爵夫人の懐妊の件を言ってもいいのだろうか。いや、もう二人とも知っているんだった。なら、隠す必要はないね。
「公爵夫人が身ごもられまして。その挨拶をした際、私の母を侮辱されましたので言い返したらこの有様です」
「クソ野郎」というレオン様。あの公爵家の方が使う言葉ではないのですが。
「傷、見せてもらってもいい?」
アルが包帯の上から私の足を触りながら言う。もしかして、また魔法を使うつもりだろうか。
「いいけど、気を悪くしてしまうかも」
「それは大丈夫」
私の返事を聞くなり、包帯を巻き取り始める。なんだか恥ずかしいな。こんなこと考えている場合ではないのに。
「だいぶ深い傷だね。僕だと治せないかも」
包帯が全て外し終わり傷が露わになった。一生残ってしまうそうな傷。これが世間に知られれば、傷もの令嬢として蔑まされてしまうほどの。公爵家の評判を落とすためにはそれはそれでいいかもしれない。だが、第三王子の婚約者としてはふさわしくなくなってしまう。それは少し悲しいな。
「リュシエンヌ。俺が治してもいいか?」
レオン様がそういった。レオン様ほどの方が魔法を使ってくだされば、きっとこの傷は簡単に癒えてしまうだろう。でも、そうなると公爵家の評判を落とすっていう企みは潰えてしまう。
「え、ちょっと!」
そんなことを考えている間に、レオン様はもう魔法を使ってしまった。みるみるうちに皮膚は戻っていき、跡形もなく傷は消え去ってしまった。
「何か不都合が?」
勝手に治しておいて、サラッとした表情でレオン様はいう。一言前の「治してもいいか?」はなんだったの?ただきいただけ?私の返事を聞いてからにしてもらいたい!
「不都合ってほどではないけれど、私にも少し考えることがあったんです」
「復讐、だろ?」
私の頭を見透かされたような気がした。レオン様の一言で私は黙り込んでしまった。
「その沈黙は肯定と受け取らせてもらう。復讐したいっていうのは別に構わないが、自分の身を傷つけることはやめてくれ」
「叱らないのですか?」
復讐だなんて企んでいたことを知られてしまえば怒られると思っていた。復讐は人の不幸を願う悪いことだから。レオン様はきっと私のことを怒るだろうと思っていたのに。その言葉をかけられてしまい、拍子抜けしてしまった。
「叱って欲しかったのか?」
「いえ、それは。ただ復讐なんて悪だと思っていたから」
「そんなの別に悪だなんて思ってない。ならリュシエンヌがいない世界が耐えられなくて二人を生贄にした俺はどうなるんだ?」
冗談っぽくレオン様は笑った。なんだか考え込んでいた私がおかしく思えてきた。
「それに俺に言わせれば、リュシエンヌが考えていることは復讐には程遠いよ。俺だったら、公爵夫妻を廃人になる程追い込むし、十数年かけて育ったリリアをあいつらの目の前で殺すんだ」
「いや、私は」
「知ってる。そこまでは望んでない、だろ」
私が思っている以上のことをレオン様はスラスラと口にした。きっとレオン様なら実際にやってしまいそうなこと。知ってると言ったレオン様の表情には少し危なげがあった。だから。
「違います。今回私がうまくやれなくてまたあの人たちによって命を落とすことになっても。レオン様にはそのようなことして欲しくないです。もう一度時戻しもして欲しくないです。もう私は今十分幸せですから」
私はレオン様の手を握りながら、そういった。レオン様は納得が言ってないような表情をしていた。でも、頷いてくれていた。ルリがいてアルがいて、レオン様もいる。きっと前よりいい人生を歩める。いや、もう前よりいい人生を歩んでいる。だから一瞬、復讐なんてしなくていいのかも、って思ってしまった。
それからルリが包帯やら水やらを色々持ってきたけど、傷がなくなっていてすごく驚いていた。そして、その表情を見て私は大笑いしてしまったのだった。
止めようとして力を入れた。そうしたら間違えて足にも力を入れてしまって傷が痛んだ。
「リュシー?」
「リュシエンヌ様、傷が?」
私はルリの問いかけに頷く。傷を二人から隠すために、かけていた毛布を外すと包帯に血が滲んでいるのが見えた。これはすぐに取り替えなければいけないだろう。
「一度、お水を取って参ります」
「ありがとう、ルリ」
ルリが部屋を出ていくと、強い視線を感じた。
「お二人とも、なんでしょうか?」
「何が、あったか。説明してくれる?」
あ、またアルが怒ってる。黙っているけれど、レオン様もそうだろう。どうしよう。説明、はするけれどもう公爵夫人の懐妊の件を言ってもいいのだろうか。いや、もう二人とも知っているんだった。なら、隠す必要はないね。
「公爵夫人が身ごもられまして。その挨拶をした際、私の母を侮辱されましたので言い返したらこの有様です」
「クソ野郎」というレオン様。あの公爵家の方が使う言葉ではないのですが。
「傷、見せてもらってもいい?」
アルが包帯の上から私の足を触りながら言う。もしかして、また魔法を使うつもりだろうか。
「いいけど、気を悪くしてしまうかも」
「それは大丈夫」
私の返事を聞くなり、包帯を巻き取り始める。なんだか恥ずかしいな。こんなこと考えている場合ではないのに。
「だいぶ深い傷だね。僕だと治せないかも」
包帯が全て外し終わり傷が露わになった。一生残ってしまうそうな傷。これが世間に知られれば、傷もの令嬢として蔑まされてしまうほどの。公爵家の評判を落とすためにはそれはそれでいいかもしれない。だが、第三王子の婚約者としてはふさわしくなくなってしまう。それは少し悲しいな。
「リュシエンヌ。俺が治してもいいか?」
レオン様がそういった。レオン様ほどの方が魔法を使ってくだされば、きっとこの傷は簡単に癒えてしまうだろう。でも、そうなると公爵家の評判を落とすっていう企みは潰えてしまう。
「え、ちょっと!」
そんなことを考えている間に、レオン様はもう魔法を使ってしまった。みるみるうちに皮膚は戻っていき、跡形もなく傷は消え去ってしまった。
「何か不都合が?」
勝手に治しておいて、サラッとした表情でレオン様はいう。一言前の「治してもいいか?」はなんだったの?ただきいただけ?私の返事を聞いてからにしてもらいたい!
「不都合ってほどではないけれど、私にも少し考えることがあったんです」
「復讐、だろ?」
私の頭を見透かされたような気がした。レオン様の一言で私は黙り込んでしまった。
「その沈黙は肯定と受け取らせてもらう。復讐したいっていうのは別に構わないが、自分の身を傷つけることはやめてくれ」
「叱らないのですか?」
復讐だなんて企んでいたことを知られてしまえば怒られると思っていた。復讐は人の不幸を願う悪いことだから。レオン様はきっと私のことを怒るだろうと思っていたのに。その言葉をかけられてしまい、拍子抜けしてしまった。
「叱って欲しかったのか?」
「いえ、それは。ただ復讐なんて悪だと思っていたから」
「そんなの別に悪だなんて思ってない。ならリュシエンヌがいない世界が耐えられなくて二人を生贄にした俺はどうなるんだ?」
冗談っぽくレオン様は笑った。なんだか考え込んでいた私がおかしく思えてきた。
「それに俺に言わせれば、リュシエンヌが考えていることは復讐には程遠いよ。俺だったら、公爵夫妻を廃人になる程追い込むし、十数年かけて育ったリリアをあいつらの目の前で殺すんだ」
「いや、私は」
「知ってる。そこまでは望んでない、だろ」
私が思っている以上のことをレオン様はスラスラと口にした。きっとレオン様なら実際にやってしまいそうなこと。知ってると言ったレオン様の表情には少し危なげがあった。だから。
「違います。今回私がうまくやれなくてまたあの人たちによって命を落とすことになっても。レオン様にはそのようなことして欲しくないです。もう一度時戻しもして欲しくないです。もう私は今十分幸せですから」
私はレオン様の手を握りながら、そういった。レオン様は納得が言ってないような表情をしていた。でも、頷いてくれていた。ルリがいてアルがいて、レオン様もいる。きっと前よりいい人生を歩める。いや、もう前よりいい人生を歩んでいる。だから一瞬、復讐なんてしなくていいのかも、って思ってしまった。
それからルリが包帯やら水やらを色々持ってきたけど、傷がなくなっていてすごく驚いていた。そして、その表情を見て私は大笑いしてしまったのだった。
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