両親の愛を諦めたら、婚約者が溺愛してくるようになりました

ボタニカルseven

文字の大きさ
46 / 74

帰ってこい


 ダリア様が放った言葉に私は驚きを隠せなかった。てっきり私が家に帰るまであの人たちは私に連絡もよこさないと思っていたから。まぁ連絡しないのは私もだけれど。でも、フロライン家であれば全然警戒する対象でもないはず。なのになんで二人は先に手紙を見たのだろうか。

「公爵家、からですか…でもなぜダリア様は先に手紙を読んだのですか?公爵家であれば全くもって警戒する必要がないと思うのですが」
「確かに何も知らなければ私たちはそうしたわ。でも私たちは知っているの。あなたがあの家でどんな目に遭ってきたのかをね。それに8歳の子供を侍女一人と御者だけに全て任せてこんな辺境の地まで送るほど子供に無関心な親が、わざわざ手紙を寄越すなんて。何があるか分からなかったから」
 
 ダリア様が両手をギュッと握りしめながらそう語る。今にもその爪がダリア様の肌を突き破ってしまいそうなぐらいに力を込めている。それを見たら私は思わず身を乗り出してその手を触った。

「力、こもりすぎです」
「――そうね、ありがとう」

 一瞬ビクッとして、私の方をダリア様は見る。私は笑ってそう言えば、ダリア様も笑ってくれた。私は安心してソファに座り直す。ダリア様の手を見れば、もう力はこもってない。それにしても、ダリア様がこんなにも私を心配してくれるだなんて思ってなかった。すごく嬉しいな。

「公爵家でしたら、他の方に見られる心配がある手紙で大層なことは書いてこないですよ。あの人は他の目があるところでは優しい父親を演じていますから」

 そう言いながら、私は過去のことを思い出した。そういえばリリアが生まれてからは人の目があるところでも冷たくあしらい始めたんだっけ。なら、手紙にもそういうことが書かれていてもおかしくないかな。

「なので手紙を読ませていただいてもいいでしょうか?」
「それはダメ」

 ダリア様は食い気味に否定する。

「この手紙がリュシエンヌ宛なのはわかってるし、私が口を挟んでいい問題ではないのもわかってる。けどこの手紙は読んで欲しくない」
「――それは私が傷つくから?」

 私の問いかけにまっすぐこちらを見てダリア様は頷いた。この一年間ではダリア様のこんな表情見たことがない。それほどまでに、ダリア様は真剣なのだろう。

「わかりました。手紙はダリア様たちに預けます。その代わり内容を教えていただいてもいいですか?」
「――単刀直入にいうと帰ってこいとのことだったわ」

 え?帰ってこい?私はダリア様の言葉を聞いて頭が真っ白になってしまった。嘘であることを信じたかったけれど、こんな表情をしているダリア様が嘘をつくはずがない。だけれど、とてもじゃないが信じられない。あの人たちが私に帰ってこいなんて。心臓の鼓動が少し早く脈打つのを感じながら、ダリア様に聞いた。

「理由は、理由は書いてありましたか?」
「そう、ね。リリアって子は、妹さん?」

 唾を飲んでその理由を聞こうとしていたのだが、急な質問に拍子抜けしてしまった。

「はい、去年生まれたばかりの子です」
「その子があなたの名前を呼び続けるそうよ。だから、何をしたってだいぶご乱心だわ」

 私はその理由を聞いて落胆してしまった。少しだけ少しだけでも、閣下に期待してしまったのだ。閣下が私のことを必要としてくれていた、とそう思ってしまったのだ。やっぱりそんなことはなかったのだけれど。それよりも私の名前をなぜ、リリアが知っているの?あの人たちが私の名前をリリアに教えるはずがないし。
 
「あなたが行きたくなければ行かなくていいと思っているの。手紙から伝わってくるほどの怒り。きっとリュシエンヌがあちらへ行ってしまったらきっと」

 ダリア様はずっと私の心配をしてくれている。ダリア様は公爵邸に戻って欲しくなさそうだけど、私は行かなきゃいけないだろう。だって、ダリア様は手紙の内容を見てご乱心だといった。なら私が今帰ることを選ばなければ、余計に閣下は心を乱すだろう。きっと、騎士たちを動かして子爵家まで来るだろう。そうしたら、ダリア様に、ダグラス様。それに優しい子爵家の皆にまでも被害が及んでしまう。なら、ここで大人しく私が向かったほうがいい。

「ダリア様、私は明日此処を立ちます」
「――!リュシエンヌ……」
「ダリア様が私の身を案じてくれているのはわかっていますが、匿ってもらうことで子爵家の皆に迷惑をかけたくありません」

 そう宣言する私の手はかすかに震えた。私はそれを隠すように手を後ろへ持っていった。私は笑顔で心配させないようにダリア様と向き合う。ダリア様は、承諾することを渋っているようだった。その表情すらも私の心を温かくさせてくれる。私は立ち上がって、ダリア様の隣へ行く。驚いた表情のダリア様の手に私の手を合わせる。

「大丈夫です。私は強いんです。魔法の腕だって剣の腕だって、子爵邸の方には負けません。公爵邸の方にも負けません。大丈夫です」

 この一年間、ただただ養われていただけではない。専属の講師だってつけてもらえて、剣も魔法の腕もどんどん磨いていった。剣は一年だけだったが才があったおかげで、すぐに講師に追いつくことができた。魔法はダグラス様のツテで現役の賢者に教えてもらっているおかげでだいぶ扱い方が上手くなってきている。だから、言うなれば向かうところ敵なしなのだ。

「それでも、あなたは子供だわ。いくら魔法をうまく使えたって、いくら剣の才能があったって。私の前ではただの子供、親に守られるべき子供なの」

 ダリア様はそう私を諭す。そのダリア様の目を私は黙って見つめれば、ため息をダリア様がついた。

「わかったわ、元より意地の強い子だとは思っていたけれどここまでとはねぇ。ダグラスのところへ行くわ。ついてきて」

 

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。 そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました! レジーナブックス様から書籍が4月下旬に発売されます!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

姉の忘れ形見を育てたいだけなのに、公爵閣下の執着が重いんですが!?~まっすぐ突き進み系令嬢の公爵家再建計画

及川えり
ファンタジー
突然届いた双子の姉からの手紙。 【これをあなたが読んでいるころにはわたしはもう死んでいることでしょう。わたしのことは探さないでね。双子を引き取ってもらえないかしら?】 姉の遺言通り双子を育てようと姉の嫁ぎ先へと突入する。 双子を顧みなかったという元夫のウィルバート公爵に何とか双子を引き取れるよう掛け合うが、話の流れからそのまま公爵家に滞在して双子を育てる羽目に。 だが、この公爵家、何かおかしい? 異常に気付いたハンナは公爵家に巣くう膿をとりのぞくべく、奮闘しはじめる。 一方ハンナを最初は適当にあしらっていたウィルバートだったが、ハンナの魅力に気付き始め……。 一日、二、三回更新しています。 本日より第四章入ります。 エンディングに向かって進みます。 ブックマーク登録、いいね❤️、エール📣、感想などたくさんいただきありがとうございます。 本当に嬉しく思っています。 とてもとてもとても励みになります。 なろう、カクヨムにも掲載しています。