園芸店店長、ゲーム世界で生産にハマる!

緑牙

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1章 冒険の始まり

23話 真っ直ぐな願い※※

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「βテスター? それはゲームをテストする人だろ?」
「そうだ。だからバグを取り除こうとしてんだろ!」

 槍を構えつつ質問をしてみたが、どこかずれていて話が噛み合わない。
 βテスターとは、公開前のゲームをプレイして問題がないか報告したりする役割であって、バグを取り除く役割は運営だろう。


「貴方は運営の人ではないんだよな?」
「てめぇはバカなのか? βテスターって言ってんだろ──」
「βテスターなら、バグ取りの権限はないだろう?」

 あおる気はなかったが、男は真っ赤な顔を更に歪ませた。


「おっさんが、ごちゃごちゃうるせぇんだよ!!」

 男が振りかざしている剣が震えている。
 余計なことを言って、更に怒らせてしまったか……


「タンジー、危険だからもっと後ろに離れてろ!」

「でも……」
「お願いだ、離れていてくれ。あいつの剣が当たったりしたら、大変なことになるから」

 怒鳴りたいわけではないが、後ろを向いて話なんかしたら、いきなり切られそうだしな。


「何を、こそこそ、話してやがる!」

 男は我慢の限界を超えたのか切りかかってきた。
 

「お兄さん、ごめんね……!」

 謝罪と共にタッタッと音がして、タンジーが離れたようだ。


「くたばりやがれっ!!」

 まるで、俺の構えている槍が見えていないかのように目前まで突撃してきた男は、上段に構えていた剣を力任せに振り下ろしてくる。

(猪よりは遅いっ!)

 剣が振り下ろされる直前に、反復横跳びの要領で腰を落として右にステップをした時──

 轟音が鳴り響き、地面が揺れた。


「な……なんだ、この威力は……」

 俺がいた場所は、深々と剣の形にえぐれていた。


「ちっ、避けてんじゃねえよおっさん!!」

 俺が唖然としている間に、男はまた距離を詰めて切りかかってくる。


(落ち着け俺! 見えない動きじゃないんだから、見切って避けるんだ)

 下段から横……いや、斜めに切り上げか──
 バックステップで避けるが、剣が起こした風圧でバランスを崩す。

「もらったあぁ!!」

 切り上げた体勢から、強引に剣を振り下ろしてくる。

(なんていう力業だよ!!)

 崩したバランスのまま右に転がり、すぐ起き上がって後ろに飛び退く。
 力の差がありすぎる……全身鉄装備で重そうなのに、動きもかなり早い。
 これは……一撃食らったら、終わるな。
 ……なら、カウンターを当てるしか。


「ちょこちょこ避けやがって……年寄りは、大人しく、引退しやがれ!」
 
 右肩に剣を担いだ男が淡く光る……
 まさか、攻撃スキルか!?


「うおおぉっ!!」

 大声を上げながら、さっきまでより凄まじい速度で強襲してきた。


(早いっ!! でも、チャンスだ!!)

 攻撃スキルを使うと、決められた動きしか出来ず、細かい調整はできない。
 頭が来る位置を予測して、そこに槍を──
 投げる!!


「くたばれっ!!」
「くらえっ!!」 

 男からの高速斜め切り下ろし。
 俺からは顔面への槍投げ──

 ガキッッ

 槍を投げてからすぐ左に転がったが、硬い物同士がぶつかるような音が聞こえた。
 男が頭に付けていたサークレットにぶつかってしまったか!?
 体勢を立て直して後ろに──


「痛ってぇな、おっさん!!」

 声が聞こえたと同時に、ブンッと言う音が──

「がはっ……!?」

 とてつもない衝撃と共に、視界が霞む。

 ドサッ

  少しして背中に強い衝撃が走る──

 俺は、なにかで、吹っ飛ばされた、のか……?


「はっ、弱っちい癖にしつこいおっさんだったが、これで終わりだなぁ?」

 男の笑い声が聞こえるが、体がバラバラになったような痛みで起き上がることも出来ない。


「ぐ……」
「なんだ、まだHP残ってんのか? 本当にしぶとい……な!」

 呆れたような声を出しながら近付いてきた、かと思ったら、いきなり蹴り上げられた。


「う……ぐ……」
「ははっ、まるで芋虫だな。バグデータなんかを庇うからこうなるんだ」

 視界がぐるぐると回って、また空が見える。
 
 ちくしょう……このままじゃ、タンジーが……
 

「あと何発耐えれるか、試してや──」
「やめて! お兄さんをいじめないで!」


 今の声は──
 少し顔を横に向けると、そこには涙を流し、震えながら両手を広げるタンジーが。


(そんな……ダメだ、タンジー!! 逃げろ!!)

「バグが自分から消されに来るとは、感心なことだ……な!!」
「ぎゃ……」

 男はにやにやと笑いながらタンジーを蹴り飛ばす。


「お兄……さん……ごめ……なさ……」

 タンジーは口から血を吐きながら、俺に謝って…………

「……っ、きさ、ま……!」

 怒りで視界が真っ赤になるほど頭に血が登る……が、体はろくに動かない。

 男は最早俺が眼中にないらしく、タンジーの方へ向かっていく。


 こんな……こんなことが、許されて良いのか!?
 AIだとか、データだとか、そんなのは関係なくて、
 子供が、大人に、踏みにじられる、なんて──

「さあ、バグはバグらしく、消えやがれ!!」

────────

『雑魚は雑魚らしく、やられてればいいんだ!』
『さあ、さっさと俺の前から消えな!』

 ……これは、昔の、記憶……?
 俺が弱くて、友達も、助けられず、ひたすらに暴力を振るわれた……

『やめて! この人をいじめないで!』

 こないだ、迷子だった、子……?
 ……ダメだ、逃げて……! 俺なんかに構わず──

────────

《リョ……ん! リョウ……起きて!》


 ブレン……!? 俺は……そうだ、タンジーは……!?

 慌てて起き上がると、体に激痛が走る。
 歯を食いしばって耐えながら、辺りを見回すと、タンジーを踏みつけようとする男が見える。


「待てっ!! お前の相手は、俺だろ!?」


 思わず大声が出た。
 それだけなのにものすごい痛みが襲ってきたが、逆に意識ははっきりしてきた。


「ああ!? おっさん……マジでいい加減にしろや……!!」


 男はじろりとこちらをにらみつけると、額に青筋を浮かべた。


「屑データをやっと一つ消せるところだってのに……邪魔すんなや!!」


 そう言うと、男はまた右肩に剣を……スキルを使う気か。


《リョウさん! これを使って!!》


 ブレンの声に上を向くと、俺の槍を咥えていた。
 明らかにブレンでは咥えるのが不可能っぽいが……今は黙って槍を受けとる。


《槍と、守りたい人を強く思い浮かべてください!!》

 槍と、守りたい人を……?
 よくわからないが、イメージすればいいのか!?


 ──ビギナースピア、初心者用の槍なのに、酷い使い方してしまってごめんな。
 先端が少し欠けてしまってるが、もう少し耐えてくれ。

 ──タンジー、怖かっただろうに無理をさせてしまってごめんね。
 あとで、いっぱい頭を撫でてやるからな。


 ──俺は弱い。でも、目の前で行われる悪行を見過ごすことは出来ない!
 どうか、今、一瞬だけでいい。
 あいつを退ける力を……タンジーを守れる力が欲しい!!


 急に凄まじいまでの目眩に襲われ、倒れそうになったがぎりぎりで踏みとどまる。
  目眩はあるが、身体中に力が漲っている……!
 だが、握ってるだけの槍からギシギシと音が……


 ──すまない、ビギナースピア。次の攻撃をなんとか耐えてくれ!!


《むちゃをいうひとだなぁ……でも、たよってくれてうれしいよ。さあ、あいつにいっぱつ、あててやろう!》


 どこからか声が聞こえると、槍からきしむ音が消える。

 右手は柄頭ぎりぎり、左手は添えるようにして狙いを定める。


「これで、終わりだ、おっさん! 消え失せろおおぉ!!」


 男の踏み込みに合わせてこちらも地面を蹴る。
 これが今出来る、全身全霊の一撃だ。
 全身を使って右手を引き絞り、打ち出す!!


「ぶち抜けえぇっ!!」


 男の振り下ろす剣と槍の穂先がぶつかり──
 重い音を立てて、剣が砕け散った。


「バカな……がっ、ああぁぁ!!」


 槍の勢いは剣を砕いても止まらず、更に鉄製の防具をひしゃげさせながら男を吹っ飛ばした。

 しかし、ビギナースピアも砕け散った。
 手元には槍の柄が僅かに残っているのみ。

 ──ありがとな、ビギナースピア……


 俺は頭の中でビギナースピアにお礼を言うと同時に、槍を突き出した姿勢のまま意識を失った。
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